闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
無名の王が強すぎたせいで、竜狩りの鎧は楽勝でしたね(煎餅にされながら)
中層で椿・コルブランドと会った翌日の夜。『豊穣の女主人』前。
「お!おとーん!こっちこっち!」
テーブル席で俺に向かって声をあげ、こっちに来いと手を振るロキ。隣ではラウル・ノールドががっくりと項垂れていた。
「待たせてすまない。【ファミリア】の説得に少し時間がかかってな」
「えーよえーよ。うちも同行する
ひらひらと手を振るロキの隣で、今日は厄日だという呟きが聞こえた。
遡ること数時間前、偶々遭遇したロキに捕まった俺は、『豊穣の女主人』で飲み比べ勝負を挑むと言われた。【ファミリア】の了承を得たら行くとだけ答え、【
しかし、ネロだけはそうもいかなかった。俺が何を言っても「自分も同行します」の一点張りを貫いていたが、ヘスティアとリリが自ら生に──服を仕立てて欲しいと名乗りでるや否や、掌を返して「いってらっしゃいませ」と俺を送り出した。ヘスティアとリリには何かお礼をしないとな。
「ほんじゃ、始めるで。
「良いだろう」
俺が首肯するとロキがエールを注文した。
そして、俺とロキはジョッキを掲げて重ね合った。
「「勝負!」」
──5杯目──
ロキの顔色が赤味を帯びてきた。
「……意外と酒強いんやな」
「非番の日に若手で集まって飲み比べ勝負をしたことがあるが、最後まで勝ち残る程度には強いぞ」
「やるやん!けど、うちも負けへんで!」
──10杯目──
ロキの顔が左右に揺れ始めた。
「ど、どうや。おとんもそろそろ限界とちゃう?」
「……まだ大丈夫だ」
──14杯目──
ロキの顔が前後左右、ランダムに揺れ始めた。
「……ま、まだいける……?」
「ああ」
「それでこそ漢や!ミア母ちゃーん!おかわ……がふっ」
限界を迎えたロキがテーブルに突っ伏し、空になったジョッキを叩きつける。
隣で静かに飲んでいたラウルが、ようやく終わったと胸を撫でおろした。
「あんたはおかわりしないのかい?」
「……水を2杯ほどください」
「あいよ」
「さて、ラウル・ノールド。結果はこの通りだが……」
「ええ。ですけど……」
「Zzz……」
「「ロキをどうしようか」」
俺とラウルはテーブルに突っ伏し、鼾をかくロキに目線を移し、この後のお互いの行動を思案する。
「ロキを君に任せて、お互い自分の
「まあ、それがベストっすよね。でも、折角だからグレイさんがおんぶして運びませんか?そのほうがロキも喜ぶと思いますし」
苦笑交じりにロキを見るラウル。なんだかんだ慕われているんだな……酔いつぶれている今の姿からは微塵も想像できないが。
「わかった。ただ、お手洗いで着替えてきてもいいかな?鎧姿のままでおんぶしたら『硬かった』だの『ガチャガチャ五月蠅かった』だのと文句を言われそうだ」
「いいですよ。自分は先に会計を済ませて外で待ってますので」
俺はお手洗いで墓守アガドゥランから頂いた装束に着替え、ロキに肩を貸して店の外に移動する。外で待っていたラウルと合流したところで腰を落として脚に腕を回し、立ち上がり、移動した。
「着いたな」
「じゃあ、ここから先は自分が」
そういいながらロキを下ろそうとするが……しがみついていて下ろせそうにない。
ラウルがロキの肩を揺さぶり、引っ張るなど試すが、微動だにしない。例えるなら、食事中のカブト虫のようだ。
「どどど、どうしましょう!?いくらグレイさんでも
良かれと思っての行いが裏目にでて焦っているのか、あたふたと慌て、頭を抱えるラウル。門番の方もどうすべきか小声で話し合っていた。
「お前達、一体どうした?」
しかし、そこに救世主──リヴェリア・リヨス・アールヴが現れた。
「リヴェリア様!実はかくかくしかじかというわけなんです」
「わかった。フィンと話してくるから、もう暫くここで待っていろ」
そうして待つこと数分が経ち。リヴェリアが何かを持って戻ってきた。
「話し合いの結果、貴公にはここで1泊してもらうことになった。但し、機密保持のために部屋までの移動中は耳栓と目隠しの着用。明日の夜明けまではロキの部屋から出てはいけない。この2つを守っていただきたい」
「いいんですか?」
「ああ。今のロキを部屋まで運んでも、そのまましがみついて離さないだろう」
「貴女方が良いなら構わないですが、ヘスティアの方はどうしましょうか?『飲みに行くだけ』という条件で許可を得たので」
「それなら問題ない。貴公を部屋に案内した後、私が【ヘスティア・ファミリア】の
「わざわざすいません」
こうして目隠しと耳栓を着用し、ロキの部屋まで案内された。俺はロキを背負ったままベッドに腰かける。すると、ロキのしがみつく力が緩んだので、ラウルの助力を得て横に寝かせる。これはこのまま帰れる流れではないか。そう思った矢先で。
「んぅ……」
寝返りをうったロキに裾を握りしめられた。
「ロキー?聞こえるかー?起きてるかー?」
「Zzz……」
起きているのではないかと疑い、声をかけるが、返答代わりに鼾が帰ってきた。
しょうがない、今日はここで夜を明かすか。
ロキに裾を掴まれたままベッドに腰かけていると、部屋を出たラウルと入れ替わるように『叡智の杖』と羊皮紙、筆記用具一式を持ったリヴェリアが部屋に入ってきた。というか、あの杖は俺がレフィーヤに渡したはずだ。なぜ彼女が持っている?
「遅くなって申し訳ない。結果から言えば、説得は成功した。だが貴公、あのネロという少女は何者だ?凄まじい殺気じみたものを私に発したのだが」
「俺の熱烈なファンです」
「そうか……貴公も苦労しているのだな」
遠い目で答える俺に、同情の目線が返された。本当に辛い。隠居も兼ねての自分探しの旅も、そうとは知らなかった自分の子供達の手で水泡に帰してしまい、昔の知り合いの末裔が現れて臣下として仕えているんだから。
「まあ、それはそれとして。まずはこの杖を貴公に返却しよう」
「……バレてしまいましたか」
「ああ。レフィーヤをごうも、尋問したら自白した。貴公がレフィーヤとダンジョンで逢瀬を重ねていたと。更にそこに
「すいません。そういう誤解を招く言い回しはやめてください。フレイヤとかイシュタルの耳に届いた後が怖いので」
「冗談だ。だが、2人にはしかるべき処罰を私のほうから下した。でなければ、嫉妬のあまり私刑を執行する者が現れかねないのでな」
というか、拷問とか言いかけていた気がするのだが、彼女達は本当に大丈夫なのだろうか?2人の安否を心配しながら、俺は返却された『叡智の杖』を受け取り、ソウルに変換して収納する。
「さて、貴公とこうして古の魔法について語り合う機会が来たわけだが……眠気のほうはどうだ?無理なら、また後日でも構わないが」
「大丈夫です。ただ、ロキが傍で寝ているので、声は少し控えめで」
うむ、と彼女は頷くと、サイドボードに羊皮紙を広げ、ペンをインクに浸した。
「聞きたいことはいくつかあるが、そうだな……貴公、ウィーシェの森を覚えているだろうか?我らエルフの間では『黒い鳥』の伝承発祥の地として有名なのだが」
「あー……ああ、覚えてますよ。確か、俺が初めて足を踏み入れたエルフの集落ですね。それだけに、他の集落の潔癖ぶりに驚きましたね。森に1歩近づいただけで矢を雨あられの如く放つわ、森の至る所に罠が仕掛けてあるわ」
「ウィーシェの森の住人は、
成程、同じエルフでも地域によって違いがあるのか。
「貴公、古の魔法の記されたスクロールを持っているか?」
「はい」
「では、当時の価格は幾らほどだろうか?ああ、単位は1ソウル=1ヴァリスで頼む」
「そうですね。魔法によって千差万別ですので一概には言えませんが、一番
「ん゛ん゛っ」
瞬間、彼女の走らせていたペンが枯れ枝の如く折れた。
「すまない。ショックのあまり、つい力んでしまった。だが考えてほしい。現代で魔法を修得しようとすれば発現するまで鍛錬を重ねるか、大金を払って
「どうなっていたと言われましても。ただ、今言ったように一番
「そ、そうか。いつの時代も額と威力は比例するものなのだな」
それを覆すのが使い手の技量だなんて、口が裂けても言えない。
その後は20分ほど話し込み、時間も時間ということでお開きになった。
ベッドで横になり、10分ほど経っただろうか。
「ロキ。そろそろ寝たふりを止めたらどうだ」
「バレとったか」
カーテン越しの月明かりに照らされ、ロキのニヤケ顔と目が合う。
目を覚ましたロキは俺の左腕を枕にし、顔をぐりぐりと押し付けてきた。
「これがおとんの上腕二頭筋と三頭筋そして三角筋の感触。ぐふふ、たまりませんな~」
「感触を楽しむのは構わないが、黙って寝ろ。明日の夜明けには出る」
「え~。折角やから朝食も食べてってーや」
「断る。ヘスティアとリリの雷が落とされるのだけは避けたい」
口を尖らせて文句を垂れるロキに頬を抓られ、引っ張られる。俺の頬は餅じゃないんだぞ。
「それはそうとおとん、レフィーヤとデートしたってホンマ?」
「違う」
「そこは嘘でも『そうだ』言うて、うちを驚かすとこやで」
わかってないなと呆れるロキが俺の頬を突かれる。嘘が通じないからそもそも言う必要はないと思うのだが。
「あーあ、おとんに浮いた話の1つもないのはつまらんなー。退屈凌ぎに、うちがおとんにお持ち帰りされたって広めたろかなー」
「それは本気でやめてくれ。発狂したイシュタルとフレイヤがここにカチコミをかけてきたらどうするつもりだ」
「冗談やって、冗談。でも、ホンマに無いのん?男女の関係になった人がおるとか。それに近い関係を築いたけど、やむを得ない事情で諦めた人がおるとか」
「男女の関係にはなっていないが、それに近い関係になりたいと申し出た人は何名かいたな」
「おお!それで?それでどうなったん?」
ロキが目をカッと開き、輝かせて食いついてきた。
「俺の過去を見せて、その上で考えて欲しいと答えて実行したら、皆背を向けて逃げてしまったよ」
「勿体ない、実に勿体ないで。おとんは外見も内面もそこそこ良いんやから、そんなことせんでも2つ返事で了承したげてーや。そしたら、うちらも安心できるのに」
「それを今の俺に言われてもな。ただ、その度に頭の中で声が響くんだよ。『お前の過去を見せてやれ』と」
「……えい」
俺の答えが不服だったのか、体を起こしたロキに鼻先を抓られた。
「離してくれ。これ地味に痛いんだぞ」
「そのうちでええ、『ダイダロス通り』におる
「約束しよう」
「……わかった。ほな、おやすみ~♪」
再びベッドに横になり、俺の腕を枕にしてロキが再び眠りについた。
ロキに続いて俺も目を瞑り、明日に備えて寝ることにした。
翌朝。
「よし、次は──」
次の洗い物に手を伸ばした時、ふと手が止まる。
「確かこれ、ロキのベッドの……もしかしたら、グレイさんの匂いが」
ついているかもしれない。そう思った彼女は、周囲に人影がないことを確認する。
「グレイさんの、残り香……」
謎の期待と興奮に胸が早鐘を打つ音だけが鼓膜を刺激する中、彼女はシーツを掴み、それを鼻に近づけていく。そして、それが鼻先に触れようとした瞬間、レフィーヤは我に返った。
「いけないいけない!いくらリヴェリア様にグレイさんとの直接の接触を禁じられているからって、こんなことをするのは人として駄目!」
頭を振り、浮かんだ雑念ごとシーツの汚れを洗い流すために彼女は洗濯に没頭した。普段ロキが使っているシーツだから、昨日1泊しただけのグレイの匂いがそう簡単に残ることもない。そう己に言い聞かせながら。
レフィーヤとフィルヴィスの処罰
1.リヴェリアの往復ビンタ&拳骨
2.ラキアとの戦争が終わるまでグレイと接触禁止
3.杖を没収(レフィーヤのみ)