暴走
俺は魔王国の兵士。
下っ端の兵士だが、王都の王城を警備しているのだから、それなりに実力があると誇っている。
まあ、それは俺だけでなく、警備している兵士全員に言えることなんだろうけどな。
仕事時間以外では、あいつより強い、あいつに負けた、あいつに勝ちたい、そんな話ばかりしている。
だが、隊長に挑みたいと言う者はいない。
俺たちの隊長は確実に一回り以上強いからだ。
だから、鍛えてもらいたいはあっても、挑みたいはない。
そんな隊長が、青い顔をして俺たちを集めた。
それだけでわかる。
まずいことが起きたと。
とりあえず、隊長にちょっと待ってもらって、俺たち兵士は相談した。
どうする?
辞める?
辞めるならタイミングはいまだよな?
聞いたら辞められないって。
でも、いままで給料をもらっていた分は働かないと。
そうだな。
隊長には酒を奢ってもらったこともあるし。
うん、辞めるのは違うな。
覚悟を決めた。
お前たちも大丈夫だな?
よし、意見は統一された。
俺が代表で隊長に伝える。
「隊長、休暇を申請したいのですが」
駄目だった。
横暴な職場だ。
俺たちは抵抗したのに、隊長は説明を続けた。
酷いや。
そして、話の内容も酷い。
「王都の東側で、暴走の気配がある」
暴走。
もちろん、元気な人が走り回っていることではない。
魔物や魔獣の大規模移動のことだ。
まあ、暴走自体は珍しいことではない。
魔王国は広大なので、どこかで毎年のように発生している。
それに、先ほども言ったが王城の警備をしているのだ。
魔物や魔獣の大規模移動程度、なんとかしてみせる。
みせるのだが……
問題がある。
それは暴走の原因。
ほとんどの魔物や魔獣は縄張りを持っているので、滅多にその縄張りから出ない。
大規模移動は、縄張りを捨てたということだ。
つまり、縄張りを捨ててまで移動しなければいけない事態があったということ。
暴走の原因の大半は、いろいろとあるけど突き詰めれば二つ。
食料不足と、脅威。
食料不足が原因で起こる暴走は、一般の住人には脅威ではあるが、俺たちが怯えるほどではない。
困るのは、脅威のほう。
魔物や魔獣がこれまでの縄張りを捨てなければいけないほど、強力な魔物か魔獣が出現したということになる。
そうなると、その強力な魔物か魔獣の討伐まで、俺たちの任務になるからだ。
正直、厳しい。
食料不足のほうであってくれ。
そう願う。
だが、暴走の気配がしているのは王都の東側。
王都の東側には、とある地域がある。
そこらの魔物や魔獣が子供の玩具に思えるぐらいに凶悪な魔物や魔獣の巣窟。
生が許されない森。
死の森があるのだ。
一応、死の森からの侵入を阻むように高い山々があるのだが、死の森の魔物や魔獣が山を越えた記録がないわけではない。
一番近い記録では、この王都を含めたこのあたり一帯が人間の国だったころ。
巨大な蛇が山を越えたそうだ。
その巨大な蛇によって人間の国が甚大な被害を負い、さらに魔王国が攻め込んだことでその国は滅んだ。
今回の暴走で、魔王国が滅ぶとは思わないが、人間の国が騒がないか心配だ。
「考えすぎるな。
暴走の気配があるだけだ。
とりあえず、俺たちの隊を含む、二十の部隊に調査が命じられた」
冒険者に協力要請は?
「すでにしている。
また、魔王様も独自に動かれるらしい」
魔王様が?
なぜそんな危険な真似を?
「奥さまと娘さんにいいところをみせたいそうだ」
あ、う、うん。
そうですか。
「では、六人一組で行動開始!
なにかあった場合、一人は生きて帰ってこい」
六人で生きて帰ってきますよ!
王都の東側に、いきなり山があるわけではない。
それなりに広い森が広がっている。
その森の中に、何か所か小さい砦が作られている。
敵が森の中を通ったときに警報を発するための砦だ。
その砦が、暴走の気配を感じ取ったのが第一報。
俺たちが砦に到着し、事情を聞くと暴走の気配ではなく、暴走の予兆になっていた。
暴走はほぼ確実に発生する。
そんな感じだ。
あー、嫌な予感がする。
しかし、ここで仕事の放棄はできない。
頑張って、原因である脅威を探すとするか。
ん?
食料不足の可能性?
わかっているだろ?
この砦に到着するまでに倒した魔物や魔獣は、普通だった。
つまり、ちゃんと食べている。
食料不足の可能性はない。
砦から出て東に進んで十日。
遠目にだが、原因を発見した。
最悪……ではないようだ。
俺たちの視線の先にいるのは、一頭のインフェルノウルフ。
俺たちでは勝ち目がないが、魔王国全体でみればなんとかなるだろう。
被害をどこまで抑えられるかだな。
俺がほかのメンバーに、これからどうするかを相談する。
方針としては、半数が残って見張り。
残り半数が戻って報告だろうな。
クジで決めるか。
「クジね。
そういや知ってるか?」
ん?
魔王様のクジ運がいいことか?
「そうじゃないよ。
王都にインフェルノウルフが出たって噂だ」
ああ、聞いてるよ。
実際はデッドリーウルフだったんだろ?
「そうらしいが……騎士団の連中はインフェルノウルフが出たって言ってる」
それだったら、王都を中心に暴走が起きるだろ?
「起きたそうだぞ」
そうなの?
「ああ。
まあ、小規模だったみたいだけどな。
それで、そのインフェルノウルフを倒したのは魔王様らしいんだ」
おおっ、さすがは我らの魔王様。
「その魔王様が、インフェルノウルフの前にいる」
え?
あ、本当だ。
いつの間に?
そして、戦うのか?
違う、魔王様が手を広げてインフェルノウルフを迎えるかのような姿勢。
おおっ。
魔王様ほどにもなれば、インフェルノウルフすら従えるのか。
凄い。
そう思ってみていたら、魔王様はインフェルノウルフの前足で薙ぎ飛ばされた。
……
魔王様ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
デッドリーウルフ「王都の北の森で大人しくしてます」