真意
ピリカは、赤面した顔を両手で隠していた。
最初は抵抗していたが、フェアリーナの普段の様子を思い出せと言ったら理解してもらえた。
うん、まあ、恋は盲目と言うが、恋愛がからむと勘違いはよくあることだから。
そう気にせず。
とりあえず、ここで解散とするが、これでうやむやにはしない。
明日、話し合いを再開する。
ガルフの奥さんに謝らないといけないしな。
ピリカはルーとティアに任せ、俺は五村の夜の祭りに参加。
普通の服装だと、誰も振り向かないな。
まあ、楽でいいけど。
そう思っていたら、ガルフとダガが護衛について目立ち始めた。
ガルフもダガも五村では有名人だからな。
仕方がない。
俺は一時間ほど五村の夜の祭りをぶらぶらしたあと、甘味の店“クロトユキ”を訪問。
そこで待っていたリア、アン、ハクレン、ラスティと合流。
あれ?
フローラは一緒じゃないのか?
予定では、ここで合流だと聞いていたが?
途中で強奪された?
誰に?
レギンレイヴ?
五村の夜の祭りで、レギンレイヴは人気だった。
ピリカとガルフの戦いへの乱入騒ぎで知名度を高め、多くの者に腕試しを挑まれている。
本来はこういった役目はピリカやガルフ、ダガなんだが……
まあ、今回はな。
さらに、レギンレイヴは丁寧に相手を打ち倒し、その弱点を告げるので勉強になるとさらに人を集めている。
悪いことではない。
その横で貴重な治癒魔法の使い手が拘束されていることを気にしなければ……
俺は気にするので、問題だな。
ルーかティアに交代してもらおう。
ピリカが立ち直っていれば、両方でもいいぞ。
“クロトユキ”を出て一団でぶらぶらしていると、ガット一家と遭遇。
箱たちの持っていた新しい鉱石に夢中で、鍛冶場に篭りっきりだったガットを、奥さんのナーシィと娘のナートが強引に連れ出したようだ。
「仕事は大事ですが、家庭も大事です」
ナーシィの言うとおり。
ガットも理解しているから、祭りに参加しているのだろう。
村ではお姉さん役になっているナートだが、今日はなんだか子供っぽい。
両親と一緒で、甘えられるからかな?
家では、ナートはいつもこんな感じなのかもしれない。
俺は邪魔はすまいと、軽く挨拶だけに留めて次にと思ったのだが、ナーシィに引き止められた。
ん?
引き止められたが、なにか言いにくそうにしているので……
近くの屋台で席を確保。
俺とナーシィ、ガットだけで話ができるようにした。
俺とナーシィだけにならないように、絶対注意。
ガット、邪魔じゃないから。
それじゃあ、もう一人、リア……リアがアンを推薦したので、アンを席に呼ぶ。
リアはガルフとダガにお使いを頼み、護衛として周辺を警戒している。
あれ?
その行動。
リアはここでなにを話されるか、知っているのかな?
ハクレン、ラスティ、すまないが少し待っててくれ。
「このお茶、飲み終わるまでよー」
「お姉さま、ガルフとダガが食べ物を買いに行っていますから、それを食べ終わるまでのほうが」
「それもそうね。
じゃあ、そんな感じで」
了解。
「僭越ですが、さきほどの武闘会を観ていまして……」
ナーシィの話は、ガルフとピリカの件だった。
一家を守る妻としては、見逃せない案件なのだろう。
ルーやティアが加わったことを謝罪……しようと思ったら、そうじゃなかった。
「今回の件は、ガルフさまの奥さまは承知しています」
……
え?
どういうこと?
ガルフの奥さんが、ガルフとピリカの結婚を進めていたのか?
どうして?
「ガルフさまの奥さまより、ある程度の真意を聞いております。
それをこの場でお話することをお許しください」
聞かせてもらおう。
「単刀直入に言えば、“役目の継承”問題です」
……
役目の継承?
なんだ、それ?
俺は横にいるアンをみる。
「村長。
現在、ガルフさまは村長の護衛を任されております」
うん、任している。
一般人の常識を持ちつつ、強いからね。
地理にもそれなりに詳しいし。
「ですが、ガルフさまのお子さまは、石工として活躍しております」
そうだな。
大樹の村の石畳はもちろん、武闘会の舞台作りなどにも参加してもらっている。
大樹の村には必要な仕事だ。
「はい。
さらに、お子さまは結婚して一家を立ち上げている状態です」
うん、そうだな。
子供も生まれているし。
「そこで問題となるのが、ガルフさまが任されている村長の護衛です」
……?
わからない?
なにが問題になるんだ?
「ガルフさまが健康なうちに、村長の護衛ができる後継者を育てる必要があるのですが、その後継者の候補がいません」
んんん?
待て。
なぜ後継者を育てる必要があるんだ?
「王の子が王になるように、騎士の子が騎士になるためです」
………………
えーっと。
ちょっと落ち着こう。
ん?
ハクレン?
ああ、俺たちのお茶か。
ありがとう。
お茶を飲んで、考える。
……
王の子が王。
騎士の子が騎士。
…………
そうか、封建社会か。
領主が役目と報酬を与え、家臣、領民が役目を果たして報酬を得る社会。
そして、大抵の封建社会では、身分は世襲となる。
魔王国の魔王や四天王は世襲ではないようだが、それは環境というか多種族国家を効率的に運営するための結果だ。
魔王国でも、魔王や四天王以外の大半は、世襲している。
つまり……
ガルフの奥さんは、俺を護衛するという仕事を血縁者に継承させたいということだろうか?
「そうなります」
な、なるほど……
えーっと……
ここで、俺の護衛をする仕事なんて継承するほどじゃないとか言っちゃ駄目なんだろうな。
空気を読む。
俺がある程度、理解したと思ったのかナーシィが話を続けた。
「ガルフさまの奥さまは、本人も頑張るつもりではあるようですが、確率を上げるためにピリカさまに目をつけました。
ガルフさまとピリカさまの子なら、お役目を継承できるのではないかと」
なるほど。
それがガルフの奥さんが、ガルフとピリカがくっつくことを容認した理由か。
なるほど、なるほど。
ガルフの奥さんが、俺の護衛という仕事を大事に思い、重視してくれたことには感謝する。
俺も、なんだかんだとガルフを連れ出していたしな。
その点は反省。
反省した上で、気に入らん!
結婚とか、子作りとかそういうもんじゃないだろう!
そう叫びたい。
叫びたいが……
この不満は、俺が封建社会ではなく、資本主義を背景にした近代国家を知っているからだろう。
その国家でも、五十年、百年遡れば結婚の自由などなかった。
考えれば、ゴールたちの結婚でも、親の承認は大事だった。
それがこの世界の在り方だとするなら、俺が不満を訴えるのはおかしい。
変なのは俺なのだ。
だが、子供には子供の人生を歩んでほしい。
親の役目とかは、本人に継ぐ気があれば継げばいいのだ。
役目を継がせるために産んで、継がせるために育てるのはよろしくない。
このあたりの俺の考えは、俺の奥さんには話をしているはずだが……
俺はアンをみる。
アンが目を逸らした。
うん、アンは息子のトラインを執事にしたいと思っているようだからな。
リアがこの話に加わらなかったのも理解できた。
リアを筆頭に、ハイエルフたちも子供を自分の仕事の後継者にしたいと思っている節がある。
ああ、ルーやティアが協力したのもそれか。
ルーやティアにしては、積極的だなと違和感はあったんだ。
ルーは隠しているが、アルフレートに村長を継がせたい思いがある。
ティアはティアで、ティゼルをアルフレートの補佐にしたいのだろう。
なので、ガルフの奥さんの思いには協力できないと、断われなかったか。
……
ふう。
ナーシィには感謝だな。
本来なら、俺の耳に入らない話だ。
よし、明日は家族会議。
ガルフとピリカには悪いが、後回し。
まずは俺の子供たちに対しての姿勢を、改めて周知させておこう。
そう決めて、俺は祭りに意識を戻した。
今日は祭りを楽しもう。
ああ、フローラがやってきた。
ご苦労さま。
ルーとティアはレギンレイヴのところか。
わかった。
帰りに様子を見に行こう。
ナーシィ「あれで、よかったのですか?」
ヨウコ「大丈夫だ。フォローは任せよ」
獣人族の娘「あの、私の横にガルフさまの娘がいるのですが、この娘の子供に継承を望むのは駄目なのですか?」
セナ(ガットの妹)「村長の子供でもあるから、護衛の継承をさせるのはちょっと……」
ガット「鍛冶場の火は、一度落とすと元に戻すのが大変だから……」
弟子たち「そのための私たちです。鍛冶場は私たちに任せてお祭りに行ってください」
ガット「くっ、そっちの鉱石には手を出すなよ」
弟子たち「……」
ガット「返事。返事はどうしたぁ!」
更新、遅くなってすみません。