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上手くいったと思って喜んでいるところへ村井がやってきた。


時間は夜の12時ごろだったと思うので、村井は遅くまで感心やなみたいな感じで話しかけてきたが、ドラム缶の中にフィルターが入っているのを見て突然怒り出した。


「何を勝手なことをやってるんや。」と言うので、許可はもらいましたよと答えると、「誰が許可したんや。」と言い出す始末。



どうやら僕が会いに行ったことは憶えているのだが、水酸化ナトリウムを使うという話は覚えていないらしい。


まったく困ったものだ。


僕が村井と一緒にワークをしたのはこのときだけだったが、ずっと村井の下でワークをしていたCSIのサマナたちは苦労の連続であっただろうなと思う。



水酸化ナトリウムを使うのはダメだという村井に対して、じゃあどういう方法があるんですかと聞いても村井は答えられない。


そこで村井と言い合いになってしまって、これ以降は僕はボツリヌスのワークから外されてしまう。



実は僕は村井と言い合いになったことが何回かある。


目撃された方も結構いるのではないかと思う。


今から思えばよく無事でいられたものだという気がする。



あるときなど、「お前らが湯水の様に使っている金を、支部活動がどれだけ苦労して集めていると思っているんだ。」と言ってしまった。


これはさすがに言った後にまずかったかなと思った。


これがもし普通の企業であれば、係長が取締役に対してお前呼ばわりして批判していることになる。


ただで済むはずもない。



しかし、このときの村井の対応は驚愕に値するものだった。


彼は怒ることもなく静かにこう言っただけだったのだ。


「救済活動にはそれぞれに役割があります。」


「我々も頑張っているので、支部活動にも頑張っていただきたい。」



これを聞いたときには、さすがはマンジュシュリー正大師、やっぱり聖者だったんだと思ったものだ。

水酸化ナトリウムを使うことを思いついたのはいいけれど、自分で勝手にやるわけにはいかない。


そこで村井の許可をもらいに行った。



村井は遠藤や中川の実験棟と同じ並びにある村井専用の小さなプレハブの中にいた。


村井は例のごとく座ったままグラグラ揺れていたので、大丈夫かなと思いながらも水酸化ナトリウムを使うことを話してみた。


さすがに直ぐに意味が通じて「危ないから気をつけてな。」ということで許可が下りた。



許可が下りたのはいいが、問題はどのくらいの濃度ならいいのかということだった。


水酸化ナトリウムはレストランの厨房でのこびりついた汚れを落とすのに使われることもある。


その場合はほとんど水で薄めることもなくそのまま使う場合が多い。


大抵は金属部分の汚れだから後で大量の水を使って洗い流せば何の問題もない。



しかし、フイルターは大丈夫なのだろうか。


たしかにフイルターを傷つけてしまう危険性はある。


だからといって何もしなければどっちみちフイルターは使えない。


覚悟を決めて濃い目の水溶液を作ることにした。


ドラム缶の中に水酸化ナトリウムを入れて水に溶かす。



十分な量の水を入れてから、いよいよフィルターをつける。


しばらく置いて、水の中でゆすってみる。


カゼインはゆっくりと崩れ落ちていく。


しだいに中のフィルターが見え始めた。


やった、成功だ。


これでもう一度培養液を濃縮できる。


そう思った。

もはやこれ以上どうにもならないように思えた。


ドラム缶から巨大タンクに移した段階で1000倍ほどに薄められたことになる。


その後、水に溶けないカゼインを使ったことで、ボツリヌスは何のエサも与えられずに死滅しただろう。



実はこの後、タンクの中を掃除するということになり、鎌田(石井)がタンクの中へ落ちてしまい大騒ぎになった。


しかし、全く何の症状も出なかったのである。


意図しなかったにもかかわらず、この計画が失敗であることが証明されてしまったのだ。



しかし、まだそうなる前の段階だったので、僕はまだ諦めてはいなかった。


遠心分離機を使えば、チーズフォンデュの水割りからチーズフォンデュを取り除く事が可能だ。


そして、その水をもう一度フィルターに通せば濃縮することが出来る。


フイルターからカゼインを取り除くことが出来れば、まだなんとかなる。


そう考えていた。



ペプトンもカゼインも同じタンパク質。


だからこそ村井は安いカゼインを使えばいいと考えたわけだが、そのカゼインと同じようなタンパク質の塊である肉を人間は溶かすことが出来る。


それが胃酸である。



強烈な酸性か、強烈なアルカリ性のものがあれば、カゼインを溶かすことが出来る。


求めるものは程なくして見つかった。


なぜそんなものがあったのか分からないが、水酸化ナトリウムがあったのである。


これがグルの救済計画だというのなら、必ず成功させてやる!


そう思った。

「Rさんまでは上手くいっていたのに、最後に失敗しちゃいましたね。」


広瀬は申し訳なさそうにそう言った。



チーズフォンデュの水割り状態でもうすでにフィルターに通すのは無理な状態だと分かるはずだ。


それなのになぜ強行したのかを村井に聞いてみると、彼はこう答えた。


「グルに突っ込めと言われたら、突っ込むしかないんや。」



どうやら村井はどうすればいいのかを麻原にお伺いを立てたらしい。


その答えが「突っ込め!」だったということだ。



まさにグルがグルなら弟子も弟子。


グルが狂人なら弟子も狂人。



しかし、よく考えてみれば、これは麻原の村井に対する愛なのではないだろうか。


ペプトンの代わりにカゼインを使った段階ですでに計画は失敗。


その責任は村井にあったのだが、麻原が強引に突っ込ませたことで、フィルターを詰まらせてボツリヌス培養計画に終止符を打たせた責任は麻原のものになってしまった。



これがグルと直弟子との関係なのか。


僕はただ驚嘆するしかなかった。

クイズの正解者はどれだけいるのか分からないが、正解できなかった人たちのためにリベンジのチャンスをあげようと思う。


僕は全く気づかなかったのだが、広瀬がドラム缶の培養段階での遠藤のミスというか勘違いに気づいていた。


それが何かを考えていただきたい。




広瀬というのは本当に優秀な人材だと思う。


このボツリヌス培養プラントでも、村井と遠藤の両方の問題点を的確に指摘している。


見た目は柔和な好青年という感じで、他の幹部たちの様に自分の優秀さをひけらかすようなところがない。


ただ静かに、真実を語るのみ、といった感じである。



村井、遠藤、広瀬の3人の中では広瀬が一番ステージが低いのだが、広瀬が一番優秀に思える。


もしかしたらだけれど、ボツリヌス培養プラントの全体の指揮を広瀬がとっていたのなら、成功してしまっていたのかもしれない。



まあ、オウムではステージの低い方が優秀というのは特に珍しいことではない。


だが、その意見が受け入れられることはほとんどない。


この件に関しては麻原はこう言っている。


「それをやってしまったら、上の連中が言うことを聞かなくなるだろ。」


そして、こう付け加えた。


「救済は、縁の深い者から順番に行わなければならない。」