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第四段階。


メチルホスホン酸ジクロリドにフッ化ナトリウムを加える。



メチルホスホン酸ジクロリドの融点は31℃なので、オイルバスで加温する必要があると思われる。


フッ化ナトリウムは常温では固体だが、特に問題なく反応するのだろう。



何度も書いているが、フッ素>塩素なので、メチルホスホン酸ジクロリドから塩素が外れ、フッ化ナトリウムから外れたフッ素と結び付く。


それによって、メチルホスホン酸ジフルオリドが生成される。


メチルホスホン酸ジクロリドから外れた塩素と、フッ化ナトリウムから外れたナトリウムが結び付き、塩化ナトリウムつまり塩が生成される。



ここでの問題は、不純物である塩を取り除くことである。


土谷は必要量の半分のフッ化ナトリウムを入れて途中まで反応させ、いったん蒸留してから残りのフッ化ナトリウムを入れるという、二段階の蒸留でメチルホスホン酸ジフルオリドを精製している。



おそらくだが、反応自体は単純で、小学生レベルなのかもしれない。


しかし、生成されたメチルホスホン酸ジフルオリドは、サリンほどではないまでもすでに毒性を持っており、かなり危険な作業となっている。

第三段階。


メチルホスホン酸ジメチルと五塩化リンを反応させる。



五塩化リンの融点は167℃だが、塩素を完全に分離するためには300℃以上に加熱する必要がある。


ここまで高温になると、もはやオイルバスによる加温では追い付かず、バーナーを使って加熱する。



酸化力の比較では、アルキル基>塩素なので、普通にメチルホスホン酸ジメチルに塩素を加えただけでは反応は起こらない。


ところが、これが五塩化リンだとメチル基が塩素に置き換わる。



もともとリンには3本の手しかない。


なので、三塩化リンが自然な状態であり、安定している。


そこへ、残ったひとつの非共有電子対に無理やり塩素をふたつ結合させたのが、五塩化リンである。



五塩化リンは三塩化リンの安定した状態になろうとして、塩素を二つ手放す。


そこへ上手い具合に、メチルホスホン酸ジメチルが、その塩素を受け止めるための手を二本持っている。


かくして、メチル基は塩素に置き換わり、メチルホスホン酸ジクロリドが出来上がる。



塩素からフッ素、フッ素からアルキル基、そして再びアルキル基から塩素に戻る。


この循環は、化学の専門家から見れば常識なのかもしれないが、素人目には革命的に思える。


なぜなら、この循環を利用すれば、目的の場所に目的の物質を結びつけることが可能になるからだ。



事実、土屋はこの循環を利用して様々な毒ガスを作り上げている。


サリンだけでなくVXも、同じような循環を利用して作り出すことができる。


他にも、タブン、ソマン、シクロサリン、エチルサリンも、全てメチルホスホン酸の基本構造に、この循環を利用して作り出すことが出来るのだ。

亜リン酸トリメチルは、融点-78℃、沸点111℃。


これに対して、ヨウ素は融点が113.7℃。


なのでヨウ素は、粉末(個体)のまま触媒として作用するのだろう。



前に書いたように、酸化力はメチル基>ヨウ素なので、ヨウ素がメチル基と置き換わることはない。


これに対して、前の段階の三塩化リンから亜リン酸トリメチルへの移行は、酸化力がメチル基>塩素なので反応が起きる。


逆に、亜リン酸トリメチルに塩素を加えたところで、三塩化リンが出来るわけではない。



三塩化リンは、多くの化学薬品の製造で使用されているのだと思う。


酸化力が、メチル基>フッ素>塩素なので、塩素を簡単にフッ素やメチル基に置き換えることが出来るからだ。



ヨウ素の酸化力が弱いため、入れ替わることはないのだが、不思議な反応が起きる。


メチル基とリンの間の結合が外れるのではなく、メチル基の酸素と炭素の間の結合が外れる。


酸素は2本の手を持っているため、リンとの間に二重結合が起きる。



残った炭素と水素、つまりメタンから水素が一つ外れた状態では1本の手を持っているので、行き場をなくしてリンの非共有電子対から電子を一つ追い出してそこに結び付く。


この状態がメチルホスホン酸である。



メチルホスホン酸の残った2本の手に、メチル基が結びついたものがメチルホスホン酸・ジ・メチル。


塩素(CL)が結びついたものが、メチルホスホン酸・ジ・クロリド。


フッ素(F)が結びついたものが、メチルホスホン酸・ジ・フルオリド。



前に書いたように、「ジ」は二つという意味。


2本の手に、同じものが結合しているために、頭にジをつける。


名前を分解してみると、意味がとても分かりやすい。



メチル→クロリド→フルオリド→サリンと変化していって、分解された後はヒドロキシ基と結びつき、ただのメチルホスホン酸となる。


メチルホスホン酸は安定した状態であるため、それ以上の反応が起こりにくく、毒性はなくなっている。


サリンは分解されやすいために証拠を見つけることが難しいが、メチルホスホン酸は地中に残るため、メチルホスホン酸が見つかれば、そこにサリンがあった動かぬ証拠となる。

第二段階


亜リン酸トリメチルにヨウ素を加えて反応させる。



松本サリン事件では、この第二段階から製造を始めている。


前に書いたように、三塩化リンと亜リン酸トリメチルは値段が同じと言っていい。


値段が同じなら、一段階進んだところから始めるのが合理的である。



サリン製造の流れを見ていくと、第二段階からでは分からないが、第一段階からだと面白いことに気付く。


第一段階で使用する三塩化リンは、リンに塩素が結びついたものである。


その塩素をメチル基と置き換え、一旦は全部取り除いておきながら、第三段階ではメチル基をもう一度塩素に置き換えている。



なぜこんな作業を行っているのかと言えば、それはおそらく目的とするものが、メチル基を一つだけ二つに切り分け、酸素の二重結合を作り出すことにあるのだと思う。


リンは三本の手を持っている。


つまり、三つの共有電子対と、一つの非共有電子対を持つ。


そのひとつだけある非共有電子対に、酸素の二重結合を作り出しているのだ。



この部分は、サリンもVXも同じ構造をしている。


有機リン系の毒物はいくつかあるが、この部分は、最も恐ろしい毒性を持たせることに成功した、まさに悪魔の発明と言っていいのかもしれない。


本来であれば、リンは三本の手しか持っていない。


それを四本にすることで凄まじいまでの殺傷力を持たせてしまった。


こんな事を考え付くのは、まさしくマッドサイエンティストと言っていいのではないだろうか。

三塩化リンとメタノールを反応させると、酸化力の違いから塩素がメチル基に置き換わる。


三塩化リンから外れた塩素と、メタノールがメチル基になるときに外れた水素が結びつき、塩化水素すなわち塩酸が発生する。



この酸を中和するために塩基を使うのだが、最初は水酸化ナトリウムが使われ、途中からジエチルアニリンに代わった。


米軍ではジエチルアニリンではなく、イソプロピルアミンを使っているそうだが、なぜ土谷はジエチルアニリンを使ったのだろうか?


その答えが、土谷が使っていた分子軌道計算ソフトにある。



土谷はトリエチルアミンも使ってみたそうだが、その場合はサリンを作れなかったそうである。


中川はこの事を不思議がっていたそうだ。



普通に考えるなら、トリエチルアミンを使った場合は、酸がうまく中和できていないということになるのだと思う。


場合によっては、塩基性が強くなりすぎてしまっている可能性もある。


トリエチルアミンをジエチルアニリンと同じ量使用した結果そうなった可能性が考えられる。


要するに、サリンの中和剤として使われる水酸化ナトリウムと同等かそれ以上の、サリンに対する分解能力を持っている場合。



しかし、土谷には職人技がある。(笑)


トリエチルアミンをワンパターンで滴下するのではなく、様々なケースを試しているはずだ。


ということは、トリエチルアミンでは、初めから全く酸が中和されていないということなのではないだろうか。



この事は、また後で検討してみたいと思う。


トゥー先生の講演会に行くことはもうないかもしれないが、この答えを持っていけば、なんだか話が弾みそうな気がする。(笑)