傍に立つ君は完璧で究極のアイドル 作:カミキヒカラナイ
ご無沙汰ァ……不定期更新で申し訳ありませんね。
勉強したくない……お気に入り登録者数が1000人超えたら推薦貰える私立ハーメルン大学とかこの世にありませんか? ないですかそうですか。
今回ちょっと短いですがキリが良かったので許してヒヤシンス。
「はぁ……」
自室のベッドの上で寝転がりながら
その手に握られているスマートフォンにはツイッターが開かれており、そこには『今ガチ』を観た視聴者の様々な声が表示されている。
『今ガチ』そのものは至って好評だ。番組も終盤近くなった現在、メンバーは各々の立ち位置を確立し、それぞれの個性を生かした立ち回りで番組の盛り上がりに貢献している。
やはり一番人気の組み合わせは
二番人気は
だがその一方、
原因は分かりきっている。あかねが紫音と釣り合っていないからだ……少なくともあかね自身はそう思っていた。
そういう自信のなさが態度に表れてしまっているのだろう。どうにも紫音とのやり取りはギクシャクしたものにならざるを得ず、黒川あかね本来の魅力というものを発揮できずにいたのである。
まさに
「やっぱり無謀だったのかな……」
あのカリスマと恋愛劇をやるなど、どだい無理な話だったのだと。すっかり自信を喪失してしまったあかねの口から弱音が零れる。
視聴者の声がそれを裏付けている。SNS上にはもう見るのも億劫になるほどの批判意見が立ち並び、彼らは口を揃えて「釣り合っていない」と叫んでいた。
実のところ、視聴者の総数に対して批判者の数はほんの僅かである。その中でも悪意を以て声を上げる、俗に言うアンチと呼ばれる者の数は更に少数になる。だが往々にして否定の声というものは目立って見えるものであり、そういう者に限って声ばかりは大きいものだ。
見ていて面白いと思っているかどうかはさて置き、あかねと紫音のやり取りを不快感を持って見ている者などそう多いわけがない。だがそういった一般的な視聴者──
そして目立つからこそ必然あかねの目に触れる機会も多くなる。故にそれこそが視聴者の総意であると勘違いしてしまう。
百人の中のたった数人の否定意見によってクリエイターが殺されるという典型的な事例。あかねは見事にこの典型例に
これを黙らせるには火種が燃え尽きるまで時間を置くか、アンチの声を上回る程の人気を稼ぐしかない。
だが『今ガチ』は既に終盤に差し掛かっており、炎上が自然鎮火するだけの時間を確保することは不可能だ。さりとて後者もあかねが今のままでは難しいだろう。根本的に紫音にオーラ負けしていることが原因にあるのだから、それに負けないオーラをあかねが身につけるか、せめて怖気付かず堂々と接する以外に方法はない。自分に自信のない者が本当の意味で他者を魅了するオーラを纏うことはないのだから。
見ているだけで気が滅入るような否定意見を黙々と目で追うあかね。生真面目もここまで行くと病気の域だが、これをしっかり受け入れることが自分の成長に繋がると彼女は本気で信じていた。
だがその時、独特の着信音と共にLINEの通知を告げるポップアップが画面上部に現れる。
それは『今ガチ』メンバーのグループLINEからのものだった。発言者はMEMちょ。『ちゃんとご飯食べてるー?』という、あかねを心配する旨のメッセージだった。
MEMちょらしい軽さと、細やかな気遣いを感じさせるメッセージだった。「心配かけちゃってるなぁ」という申し訳なさと、少しの嬉しさが心を満たす。
「……そういえば、今日はお母さんいないんだっけ」
エゴサに夢中になって時間を気にしていなかったが、時計を見ればもういい時間だ。それに今日は両親共に仕事や用事で家を空けており、今はあかね一人しか家にいない。自分一人しかいないのに何かを作る気にもなれず、適当にコンビニ弁当で済ませようと黙々と外出の準備を整える。
何やら台風が来ているとかで大雨警報が流れているようだが、すぐ近所のコンビニに行くだけだから構うまい、とあかねは軽い気持ちでフード付きのレインコートを羽織った。
「……少し雨に打たれたい気分だったしね」
グループLINEに『ごはん買いに行ってくるね』とだけメッセージを送り、あかねは玄関の扉を開けた。
「さて、弁明を聞こうか」
『これは……ちゃうねん』
学生寮の自室にて、僕は仁王立ちになって目の前で正座するアイを見下ろしていた。
ダラダラと冷や汗を流す彼女の前に置かれているのは、僕のアカウントを使ってネット注文した藁人形と五寸釘。こんな物をAmaz〇nで注文して何をするつもりだったのか。
『ちょっとした出来心というか……お
「知ってる? それは“お
『あの童貞拗らせてさ迷ってた幽霊君? 何か私のファンのオタの子に雰囲気似てたからちょっとファンサでも……って思って目を合わせたら消えちゃったんだよね』
「消えたんじゃなくて消し飛ばしたって言うんだよあれは。自覚ないようだから言うけど、アイは幽霊って呼ぶのも憚られるレベルの大霊みたいな存在なんだから、そういうオカルト的な行為は自重してもらわないと」
『なんだろう、シオンにそれ言われるのすごく納得がいかない……』
そうは言うが、僕は魂が大きくて存在感が強いらしいのと、肉体的に極めて頑健であること以外はあまり常人と変わりない。アイのように物質を透過することはできないし、念動力で物を動かすことだってできやしないのだ。
霊体への干渉力など、霊的な事象に対する影響力という面では僕よりアイの方が数段上のように感じられる。僕とて触れさえすれば悪霊の類を消滅させるぐらいわけないが、流石に目を合わせただけで消し飛ばすような真似はできないだろう。
「とにかく、本当に効果を発揮されても困るので
『はぁーい』
「誰を対象に使おうとしてたのかは敢えて聞かないけど……いや、まあ大体察しはつくんだけど……そんなにアイの気に触るような子なんていた? 皆クセはあるけど良い子達ばかりじゃない」
『そうなんだけど! みんな良い子達なんだけど! 湧き上がるジェラシーが抑えられなかったのー!』
こういう時、僕はどういう顔をすれば良いのだろうか。むず痒いような不思議な感覚を覚えつつ、それはそれとしてやはり冗談では済まないので丑の刻参りグッズを即刻処分する。手の平で藁人形を潰して燃やし、五寸釘は丸めて固めゴミ箱に放り込んだ。
「さて、罰として今日から三日間Amaz〇nプライムビデオへのログインを禁止します」
『そんなぁ!? 今ジョン・ウィ〇クが良いところなのに! パラベラムなのに!』
僕としても眠らない彼女から娯楽を取り上げるのは非常に心苦しい思いはある。
だがここは心を鬼にしなければ。良い機会だから買ったはいいものの積んだままにしてるゲームを消化しなさい。壺男とかいうやつまだクリアしてなかったでしょ確か。
『いやぁぁぁぁあ! 壺男はもうイヤなの! イヤッ! イヤ、イヤ!!』
「そんな泣き叫ぶようなやつだったのあれ……ん?」
ヴーッ、と机の上に置いてあったスマホが振動する。
とっくに日が落ちたこの時間帯に電話をかけてくるような相手に心当たりがなく、首を傾げながら画面を確認すると、そこに表示されていたのはMEMちょさんの名前だった。
『今ガチ』のメンバーとはお互いに連絡先を交換していたが、仕事の連絡以外でやり取りをすることは稀だった。それにLINEではなく電話ということは緊急性の高い用事だろう。一体何事かと訝しげに思いつつ電話を取る。
『もしもしシオたん!? あかねが大変なの!!』
開口一番の言葉がそれだった。何か良からぬことが起きているのだと察した僕は即座に気を引き締める。
「何があったの?」
『「ごはん買いに行ってくる」ってLINEがあったきりあかねと連絡がつかないの! 何度も電話してるんだけど繋がらなくて……!』
「外出したの? この嵐の中で!?」
急いでグループLINEを確認すれば、確かにそんな発言を最後にあかねからは何も反応がないようだった。
しかし何を考えているのやら。既に外では強い風雨が吹き荒れている。断じて高校生の少女が一人で外出できるような天候ではない。強風に煽られて転倒してなければいいが。
「MEMちょさんは今どこに?」
『あかねの家の近くを探そうと外に……』
「すぐに家に戻って。MEMちょさんまで怪我したら大変だよ」
『でもあかねが……!』
「電話してきたのは僕なら何とかできるかもって思ったからでしょう? 大丈夫、僕ならすぐにあかねさんを見つけられるよ。なんてったって霊能力者だからね」
自称霊能力者の設定をこれ幸いと引き合いに出しMEMちょさんを無理矢理納得させ、通話を切る。
僕の反対側からスマホに耳を当てていたアイも状況は把握したようだ。準備万端といった様子で──幽霊に準備も何もないだろうが──目を輝かせている。
『嵐の中の人命救助! ドラマや映画でよく見るシチュエーションだね!』
「理解が早くて助かるよ。それじゃあ早速、アイが丑の刻参りし損ねた相手を助けに行こうか」
『反省してるからそれはもう言わないで〜……』
急いで雨合羽を羽織り、雨天用の防水靴に履き替える。
他の学生や寮長に見付かると厄介だ。僕は部屋の窓を開け放ち──
「よし、行こうか」
『オッケー!』
迷わず窓から身を踊らせた。
窓枠を蹴って加速する。脚力で壁を壊さないよう手加減するのも慣れたもの。
一瞬で景色が下に流れていく。打ち付ける雨粒を弾き飛ばし、地上を満たす人工の灯を置き去りにする。
次の瞬間、僕の身体は遥か上空にあった。
『こうやって空を飛ぶのも久し振りだね。施設にいた時以来?』
飛ぶ、というよりは跳ぶと表現する方が正しい。別に重力を無視しているわけではなく、蹴りの威力で跳躍しているだけである。
故に、僕が空の上にいられたのはほんの一瞬だった。すぐに身体は重力に従って自由落下を始め、どんどんと地上が近付いてくる。
地面に落下する前に丁度いい足場がないか物色するが、生憎と寮の周囲には手頃な高層建築物がなかった。仕方なく空気を蹴ることで無理矢理再加速し、寮から一キロほど離れた場所に建っていたビルの屋上に着地する。
……少し屋上の床にヒビが入った。加減を間違えたか、もしやまた力が強くなったのか。
『どう、見える? ……なーんて、流石にここからじゃ無理──』
「ちょっと待ってね。あかねさんの家の方角が確かあっちだから……ああ、いたいた。歩道橋の上を歩いてる。ここから三キロぐらい先かな?」
『……本当に見えるんだ……ちょっと引く……』
良かった。見る限りでは強風で歩きづらそうにこそしているが、怪我などをしている様子はない。
ただどうにも心ここに在らずというか、注意散漫な様子でフラフラと歩いているのが気掛かり──あ。
「まずい、転んだ」
『え?』
下りの階段に差し掛かったところで足を滑らせたらしい。体勢を崩し、更に強風に煽られたことで宙を舞った彼女の姿が視界に映る。
このままでは階段の上から地面まで真っ逆さまだ。転げ落ちるどころの騒ぎではない。下手をしなくとも全身強打で病院行き、最悪は頭を打って即死の可能性も──
「時間がない。飛ぶよ」
『ゑ?』
手加減の余裕はない。勢い良く床を蹴りつけ、ビルの屋上を粉砕しながら宙に身を踊らせた。
『えええええぇぇぇぇぇ────!?』
その一蹴りで目的地までの距離の半分を稼ぐ。少し速度が衰えたあたりで更に別のビルの壁をもう一蹴りし再加速。
これで二歩。
『まっ、待ってはやっ、酔うっ、ちょま──』
既に階段の中ほどまで落下しているあかねさんを視線の先に捉える。ただこのままではあかねさんに直撃コースで挽肉待ったなしなので、虚空を蹴りつけることで方向を微調整。
これで三歩。間に合った……!
上手いこと上空から階段と並行に飛び込み、落下するあかねさんを空中で抱え込んだ。
そのまま着地。その拍子にうっかり怪我させないよう、細心の注意を払い衝撃を分散させて外に逃がす。
ズシン、と鈍い音を立ててアスファルトの地面に着地する。路面に亀裂が走ったがそれだけだ。腕の中のあかねさんには怪我一つない。三キロもの距離を数秒でカッ飛んできたことを考えれば上出来であろう。
結果論ではあるが、勢いよく宙を飛んでくれて逆に良かった。お陰で空中でキャッチし、そのまま無傷で着地することができた。これでゴロゴロと階段を転げ落ちていたら無傷とはいかなかっただろう。
「あれ……私、どうして……え、し、シオン君……!?」
「まったく、間一髪助かったから良かったけど……一歩間違えれば大怪我じゃ済まないところだったんだからね? こんな嵐の中を出歩くなんて、何考えてるのやら……」
いつまでも横抱きにしてるのもアレなので、呆然とするあかねさんを腕から下ろし慎重に地面に立たせる。
あかねさんは引っ込み思案であまり自我を表に出さないタイプだが、とても利発で思慮深い子だということはこの数ヶ月の付き合いで分かっている。
そんな彼女が嵐の夜に身一つで出歩くなどという危険を冒す理由など……まあ、心当たりがないわけでもないのだが。だがそこまで思い詰めているとは流石に予想外だった。収録中はそんな素振りなど見せなかったというのに、変なところで役者スキルを発揮しなくとも良いだろうに。
いずれにせよ、少し話を聞く必要があるだろう。ここまで彼女を追い込んだ一因は少なからず僕にあるのだろうし。
『オロロロロ……』
ふと視線を巡らすと、
心做しか恨みがましい視線を向けられているような気がするのを努めてスルーし、僕は呆然とするあかねさんに向き直るのだった。
【
人間の皮を被ったGODZILLA。ゴジラなんだから空ぐらい飛びますよゴジラなんですから。二段ジャンプは標準装備。
今回ビル二棟の屋上と壁に結構な損害を与えたが、普通に考えたらこの程度では済まない。なんか不思議なパゥワーが働いてこの程度の破壊で収まった。ちなみにこれでもかなり手加減しており、本気で加減を考えなければ数秒でゴジラ上陸と同規模の被害を出せる。やはりGODZILLA……
【
対幽霊に対しては無類の強さを発揮する近距離パワー型のスタンド。「サインはB!」の掛け声と同時に自分以下の霊格の霊体を問答無用で消滅させる怪光線を目から放つ。近距離とは。
幽霊なので睡眠を必要としない。本当の意味で二十四時間をフルに使えるため、特に暇な夜中はネットサーフィンや映画視聴などで時間を潰している。お陰でサブカル関係には生前より遥かに詳しくなった。ジョン・ウィ〇クはいいぞ。
紫音から五メートル以上離れられないため、奴が空をカッ飛ぶともれなくアイもカッ飛ぶことになる。彼女には紫音ほどの動体視力がないため暴れまくる視界に反応が追いつかず普通に酔う。そして吐く。
【
自分をゴジラだと思い込んでいる真ゲッターにオーラ負けしていることを気に病んでいるが、若手の登竜門的番組にカチコミかますゲッターの方が99割悪いのは確定的に明らか。大人げないどころの騒ぎではない。
アンチによるネット上の心ない書き込みに心を痛めるが、これでも原作の誹謗中傷よりはマシ。そのため自殺を考えるほど追い込まれていたわけではないものの、気分転換と称して嵐の中に飛び出す程度には精神的に参っていた。
ちなみに歩道橋で転んだ拍子に強風に煽られ、階段を“転げ落ちる”のではなく“真っ逆さまに落下する”事例は過去本当にあったらしい。良い子の皆は大規模な台風が上陸している時に高い所に行くのは避けましょう。