第6回 ウクライナ侵攻の伏線、欧米が関与した旧ソ連の「民主化」と「ハイブリッド戦争」
「ロシアにとって、ロシア・ジョージア戦争が、ハイブリッド戦争の最も重要な『練習』になって、クリミア併合で注目されたわけですが、ハイブリッド戦争が何かを変えたかというと、あまり変化はない気がします。クリミア併合を除き、結局最後は全面戦争に至ってしまっているからです。ハイブリッド戦争は、極力『軍事的な全面戦争』に至らないように、非軍事的な戦いや軍事的脅迫で相手にこちらの要求をのませたり、懲罰行為を行ったりすることにメリットがあるわけで、ロシアと欧米の戦いにおいてはうまく機能しているとも言えるかもしれません。しかし、旧ソ連域内ですと、戦闘に至る事例が多いように思います。クリミア併合やロシアの2007年のエストニアに対するサイバー攻撃を使った懲罰行為などは非正規的な戦いで収まったとも言えますが」
さらにその後、2014年4月から5月にかけて、ウクライナ東部のロシア系住民が多い地域で、親ロシア勢力が武装蜂起して、「ドネツク共和国」「ルガンスク共和国」が相次いでウクライナからの独立を宣言したことも、親欧米を志向するウクライナに、ロシアが影響力を行使した騒乱の一部として、「ハイブリッド戦争」の要素を見出すことができるだろう。と同時に、この連載での中心的な話題、未承認国家を創設する動きをロシアがここでも示して、国家ではないけれど国際関係上の「主体」(エンティティ) であることを梃子にして目的を遂げようとしたことは、あらためて強調しておきたい。
「もちろん、その後、国際社会からいろいろな制裁があって、ロシアはすごく大変でしたし、今もその制裁に苦しんでいる部分があるのですが、ただロシアはかなりの部分を克服しちゃったんですよね。経済的な締めつけも、内需を増やすとか、貿易多角化とか、経済の効率化とかで乗り切ってしまったので、どんな制裁を受けてもロシアは乗り越えられるのだ、というような間違った自信をつけてしまった。それも今回の侵攻を行う上での背景になったと思います」
なお、廣瀬さんは2015年、併合後のクリミアでも調査を行っている。はたして、クリミアの人々の「本音」では、ロシアによる併合を歓迎しているのだろうか。
「かなり多くの人がロシア化を歓迎し、こんなにいいことがあったと、いろいろな逸話を話してくれたのも事実です。しかし、完全にロシア化したかと思いきや、そうでもない人もいて、例えば、インタビューをして住民投票はどうでしたかと話すと、『もちろん行きました』と淡々と返事をしてくれた後で、またコソコソッと戻ってきて、『軍人がいっぱいいて脅迫されていたような場面での住民投票に意味があると思うか』みたいなことを言ってきたり。あと、現地で頼んだガイドさんが、わたしはおばあちゃんがウクライナ人でウクライナが大好きだったのに、こうなってしまって悲しい、と言っていたりもしました。クリミアですらそういう空気があって、だから全員が全員、ロシアを手放しで歓迎したわけじゃないですよね」
旧ソ連諸国の「民主化」をめぐる鍔迫り合いが、「ハイブリッド戦争」の要素を折々に散りばめつつ、2022年2月に至る伏線となったことを見た。さらにもう一つだけ、2020年代に入ってから、この文脈において重要な事項がある。前回でもすでに少し触れた、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争の再燃だ。
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