境界知能と知的障害の「線引き」
概して知的障害は「IQ:70未満」とされていますが、IQ値には誤差(米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアルDSM-5-TRによると±5)も含まれており、知的障害の判定については「IQ:70もしくは75以下」と定義されることもあります。実際に国内の多くの自治体では「IQ:75」までを知的障害の範疇に含め療育手帳の交付基準としています。
以下は東京都心身障害者福祉センターのホームページにある「愛の手帳Q&A」の記載です。
Q「4度(軽度)というのは、どのような状態ですか?」
A「以下の説明は18歳以上の場合です。児童については年齢に応じて異なった基準で度数を決定しますので、同じ度数でも年齢により異なった状態になります。
軽度とは、知能指数(IQ)がおおむね50から75で、簡単な社会生活の決まりに従って行動することが可能です。
例えば、日常生活に差し支えない程度に身辺の事柄を理解できますが、新しい事態や時や場所に応じた対応は不十分です。
また、日常会話はできますが、抽象的な思考が不得手で、こみいった話は難しいです。
上は判定基準の一部分について例示したものであり、最終的には総合判定により障害の程度が決められます。」
「推し活」のために性風俗でバイト
これに当てはめますと、「IQ:74」のK被告は福祉とつながっていれば軽度知的障害であると判定される可能性がありました。もし、K被告が精神鑑定で境界知能でなく、軽度知的障害と診断されていたとしたら、状況によっては懲役5年の実刑判決が変わっていた可能性があるのです。そうであれば、量刑不当に相当することさえあるのです。
K被告は、小学生の頃から授業についていけないことがあり、母親から叱責を受けて育ちました。それでも目立つトラブルもなく、どちらかというとおとなしい子どもでした。
大学に進学すると、アイドルグループの追っかけをするために性風俗店でアルバイトをしていたようです。大学4年生になるとキャビンアテンダントになることを夢見て就職活動のためにたびたび上京し、航空業界やホテル業界を中心に就職試験を受けます。しかし、企業に提出するエントリーシートの質問の意味が分からず、空欄ばかりになることがあったそうです。