ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
「ん、銀行強盗」
「やめろバカ」
ペチン、と叩かれた頭を抑える少女。
もう寒気は感じないほどの季節感だが、その少女の首にはマフラーが巻かれていて、男性用に見える上着も着用されていた。
「大丈夫。私なら失敗しない」
「ホシノ。砂狼の教育どうなってんの?」
「おじさんも何回も言ってるんだけどねー。メグルに任せるよ〜」
「その一人称気持ち悪いからやめろって言ってんだろ。可愛い顔して何がおじさんだよ」
「……う、うへぇ」
「それはおじさんっぽいな」
「メグル先輩っ。一言余計、ですよ!」
「ぺちぺち叩くな、十六夜」
制服を着た4人の生徒がひとつの部屋に集まる。
小さな部屋には机が並べられ、会議室のような装い。
「ん、1ヶ月あれば億は盗れる」
「1ヶ月かかんのかよ」
「メグルしゃらっぷ。シロコちゃん。気持ちは嬉しいんだけどね〜。手段が良くないよぉ」
校舎に対して、生徒は4人。廃校寸前のここは、アビドス高校。
砂漠地帯と化してしまった過疎地。
「銀行強盗だなんて野蛮ですよシロコちゃん。まあ、楽しそうですけど☆」
「うるさいおっぱい」
「うるさいおっぱい!?」
「……ふっ」
「今私のどこ見て笑ったのかなメグル?」
この中で唯一の男子生徒は、口元に手を添えて笑いを堪える。その姿を見て、ポニーテールの少女はピキっと額に血管を浮かばせて笑いながら問い詰める。
「顔が良すぎたための代償だと思っとけ」
「メグル先輩って、本当にホシノ先輩のこと好きですよね〜」
「え?」
「え?」
「え?」
ホシノと呼ばれた少女は熱くなった顔を冷まそうとパタパタと手で顔を扇ぐ。
そして、メグルと呼ばれた男子生徒は後輩の言葉に首を傾げる。
「好き……まあ顔はめっちゃ好みだな」
「うひっ」
「女の子から出るとは思えない気持ち悪い声が聞こえたんだけど」
「まあまあ。他には無いんですかー?」
「ええ……他は、まあ。キリッとしたところとか」
「おっほ」
「まだまだ行きましょー!」
「あとポニテ」
「ただの好み!!」
「終始そうだっただろ」
ニヤつきが止まらないホシノを他所に、「そんなことより」と話を切るメグル。
「借金返済の資金稼ぎに銀行強盗は無し。分かったか?」
「バレなきゃ犯罪じゃない」
「どうせバレるだろお前」
「そういう問題じゃないんだよなー」
グッと親指を立てるシロコ。
いつの間にか復活したホシノがメグルの隣に座り直して頬杖をつく。
納得がいかないのか、銀行強盗に余程の自信があるのか。シロコは意見を曲げる気は無いと言いたげに堂々としており、二年生二人がどうするかと悩んでいるところを、ノノミが手を挙げて声を出す。
「アイドル! やりましょー☆」
「胸に栄養が行き過ぎた末路か」
「だからホシノは頭がいいんだなー……とでも言いたいのかなぁ?」
「
ガタッと椅子をくっつけて、メグルの頬を横から突くホシノは怒ったような声を出すがその顔は面白そうに笑っている。
二人のやり取りを見て、シロコは首に巻いたマフラーに軽く手を添えた。
「いけますいけます! メグル先輩もソロで歌って踊れるアイドルになりましょう! わたし、プロデュースします!!」
「まじで嫌」
「え〜!! 絶対売れますって!」
あー、と苦笑いを浮かべるホシノはメグルの肩に頭を乗せながらノノミを見る。
「ヒナちゃんは有り金全部吐き出しそうで怖いけど」
「あいつそんなキャラなん?」
「あの子はメグルの大ファンだからさー。罪な男だぜ?」
結局、ノノミの案は没となり項垂れる彼女だったが、半ば分かってはいたのかすぐに立ち直る。
アビドスに課せられた多額の借金。
その返済の手段についての議論は、いつものように案が出ることなく終わりを迎える。
「……んじゃ、行ってくるわ」
「おじさんも行くよ〜」
これにて終了。特に授業などもスケジュールされていないここで……自由な活動といえば聞こえはいいが……各々の時間となったメグルとホシノは立ち上がり、メグルは刀を、ホシノは銃を持って扉へと向かう。
何処に行くの、というシロコからの問いかけ。隣にいるノノミを見るも、彼女も分かってはいない様子。
声を掛けられた二人は扉の前で足を止める。ホシノは顔だけ振り返り、作ったような笑みを見せ、メグルは普段と変わらずそのまま扉に手をかけるとゆっくりと開く。
「────墓参り」
◈◈◈◈◈
「どうせアリウスだろうとは思ったけど」
青春の世界観皆無ですね。どうも■■廻です。
半年近く暮らしたアリウス。というか、今朝もそこに居たんだけど、今日の活動内容が濃すぎて昔みたいな感じだわ。まあ、ベアトリーチェさんの仕事も今日で終わりっぽいからもう行かないだろうけど。また戻ってきたんですけどね。
無駄に豪華で歴史を感じるオンボロ加減なアリウス。
数時間ぶりに辿り着いたそこは、初手からボロボロの崩壊寸前な支柱たち。というか倒れまくってる。
(学校から銃声聞こえてくるの冷静に考えてヤバすぎだろ)
パラパラと聞こえてくる銃声。
よくよく聞けば微妙に違う音が鳴り響き、銃によって音が違ってくるんだな、とこの世界に来て何度思ったことか。
耳を澄ませる。空気の揺れを感じ取る。
「……そこか」
教会か? もう戦闘が始まっているな。行き方知らねぇ。毎度分かれ道が来る度に音の反響で探すの面倒か。
瓦礫が散らばる校舎内を走る。途中ですれ違うアリウス生徒は無視して走る。どうせ仮面を着けてるから俺だって分からないだろうし、銃を向けられても射線からすぐに逃れればいいだけの話。
「退け」
いつぞやの幽霊みたいに発光してる量産型シスター。
大量にいて道を塞いでいたそいつらに一言かければ俺の声に従うように膝を付き一直線に道を開ける。
その先に、ホシノと同じ桃色の髪を伸ばした何とかさんが居た。毎回告白してくるやつだ。マカロンは美味しいです。
状況が掴めなかったので一旦スルー。ベアトリーチェさんの泣き喚く姿を見てからもう一度戻ろうと決め、最速最短でその場所へと向かう。
障害物は斬り、跳び、避けて進む。目的地が目の前に来たために、俺は気配を消して中を覗く。
(バケモンで草)
ベアトリーチェさん(反抗期の姿)と呼ぶべき異形が居た。でっか。何頭身だよ。いや、頭デカイから頭身で見たら小さくなっちゃいそうだな。
あんなポケモン居そうだよなぁ、と呑気に見つつ、敵対している四人を見やる。
兄さん見っけ。あとはサオリ、ヒヨリ、ミサキか。やっぱアツコ取られてそうだよなぁ。
割と苦戦してそう。けど、兄さんの采配で三人の動きは俺と戦っていた時に比べて圧倒的に良いな。長期戦になりそうだ。
「よっと」
R18が付きそうな縛られ方をしているアツコを発見。あれって無料で見ていいやつですか?
何故かピチピチな服を着せられ、仮面のようなマスクのようなものを付けて、茨のような何かに磔にされている彼女。エロ鬱ゲーとかにありそうな展開だな、と思いつつ、気配は消したままアツコの元へ辿り着き、絡みついた茨を断ち切ってアツコを救出。そのまま宙に身を乗り出したアツコを抱えてその支柱のようななにかの陰に隠れて頬をぺちぺちと叩く。
「大丈夫か?」
ベアトリーチェさん達は……気付いてないな。勝利を目前にして気分が舞い上がっているようだ。供給源断ち切ったからそのうち弱体化するだろうけど、即座に出るものじゃないな。あと数分はあのままだろう。兄さん達も手一杯でこっちには気づいてない。いいね。
目を閉じてぐったりとしているアツコを見る。
肌は白い……白すぎんか? 血が足りてないのかもな。あとは、結構汚れてる。風呂ぐらい入れてやれよ。やっぱババアだなぁベアトリーチェさん。価値観が良くねぇよ。
アツコの血液型が分からんから血を分けていいのか分からないし、そればかりは本人に頑張ってもらうしかない。意識が戻るかは半々と言ったところだったが、ゆっくりと目が開かれる。お、起きた。
「────なんで?」
「なにが」
初手で疑問が飛んでくるとは。何についての疑問かは知らないけど、なんかめっちゃ驚いてる、というか有り得ないと思ってたのか。
目を震わせるアツコは、俺の目を見る。
「わたし、は……カイの、『特別』じゃあ、無いのに」
何を言ってるんだこいつ。特別って何? ヒフミが泣かされて八つ当たりしたの根に持ってるのか。それはごめんとしか言えんけど。特別とかじゃないだろ。
特別……特別? 何をもってそんなことを言い出したんだこいつは。
恩人と言えば、黒服さんとユメ先輩だけど。
「次は焼きそば食いたいって言ってただろ」
「……ぇ?」
黒服さんの作り置きも何個かあったけど、送られてきた食材で俺が作った飯をうまいうまい言ってくれるからなこいつらは。オーバーなくらい。
別に料理が好きとかじゃないし、料理人になりたいとかじゃないけど、作りがいはあるよね。
一人で食うより誰かと食った方が味があるし。
「それだけ?」
「それだけ」
「────」
基本、俺が飯を食うのは一人か黒服さんとだからなぁ。アリウスにいた頃は毎日スクワット集団と食ってたからひとり飯辛たんタイム到来かもしれんし。
ヒフミとも飯食ったことないしなぁ。ペロロ布教されそうで怖い。飯は無いけど寝落ち電話はあるのは謎だな。
「……また」
小さく、そして掠れたアツコの声。
銃やら床が碎ける音やらが響く戦場。怪獣大戦もびっくりの爆音が鳴り止まないここで、ズンズンと揺れる床に座り込んだ彼女はその目を閉じることなく俺を見上げる。
「一緒に……居てくれるの……?」
それはちょっと語弊しかないけど。
「予定が合えばいつでも会えるだろ」
「…………うん!」
満面の笑みを浮かべるアツコ。
無表情がデフォで、微笑みもたまに見ることはあったけど、ここまで口角が上がって、目を細める彼女を見たのは初めてだった。
なんでこんなに喜んでるんだこの子。怖。
『────Kyrie Eleison……』
純粋無垢そうな笑顔に戦慄していた頃、まだまだバトルは激しさを増すばかり。至近距離でも会話が難しそうなこの空間に、割って入ってきた綺麗な歌声。
アリウスでは一度として耳にすることのなかった楽器の演奏。一際目立つ歌声が耳にスっと入ってくる。
戦闘の音がピタリと止まる。忌々しそうに歪むベアトリーチェさんの表情。ざまぁ。目が多いからそうなるんだよ。
内心ほくそ笑んでいる俺の頬に、ひんやりとした手が添えられる。思わずそちらを見れば、アツコが微笑んでこちらを見ていた。
「行って、あげて……わたしは、大丈夫だから」
やはり血が足りていないのか、ピクピクと瞼が動き、言葉が途切れ途切れになっているアツコ。
それでも、言葉を止めることなく伝えてくる。
「きっと……あの子も、カイを待ってるから」
そう言われて、気づく。
この歌声が、何故か聞いたことがあると感じてしまった理由。あいつの声だ。
ここに辿り着く前に素通りしてしまった子。何故歌っているのかは分からんが、あのゴースト集団はどうやらあいつの味方ではないらしい。
マカロン美味しかったし。助けに行くか、と。アツコの顔に着いた汚れを手で拭ってから、俺は静かにこの場から出てさっき通った所へと戻る。
移動しながら、ふと思う。あれ、俺仮面外してたっけ? と。
普通にアツコに初見でバレてたけど、出力ってそういうことですか? じゃあ兄さんの前に出たらやべぇじゃん。
『ご安心を。メグルさんが仮面をつけている、ということを知っている人物には効果が薄くなるだけですので、仮面を外す所を見られない限りは正体が露見する心配はありません』
「特売のASMRありがとうございます」
待ってましたと言わんばかりの説明。耳元で囁かれる黒服さんボイスは売ったらいくらになるのだろうか。俺はいらないから転売したい。
それは置いといて、知りたい情報は知れたので納得。じゃあ次は仮面外しとかないと俺って気付かれなくてバトルに発展したらめんどすぎるだろ、ということで十分距離を取ってから仮面を外しポケットにしまう。
見えてきたゴースト集団。明らかに集団リンチでしかない立ち位置なのが見て取れる。まじであいつらなんなの? 自己紹介しろや。
後ろ姿で既にボロボロ。座り込んで瓦礫に体を預ける彼女はもう動く気が無いのか、銃も手から離れている。結構危ない場面だったか。間に合って何より。
「おい」
あのゴースト共はどうやら俺の言葉には従うらしい。理由は知らん。
まあ、使えるのならその特性を使いましょうということで、さっさと退散してもらおうか。
「消えろ────モブ共が」
数十体はいるゴーストシスターズ。
俺の言葉を聞きいれたそいつらは、手に持つ銃口を自身のこめかみへと当てると、同時に発砲して消滅していく。
……一体だけ。
一際オーラを放つ個体が俺の命令を聞き入れることなく、俺に向けて走ってくる。
「ユメ先輩の髪型パクるんじゃねぇよ二番煎じが」
チャキ、と刀を鞘へと収める。
崩れ落ち、バラバラになって霧状に霧散していくそいつを無視して、俺は振り返って目的の人物の元へと向かう。
「大丈夫か?」
ポカン、と俺を見つめる少女。アツコと同じ顔するなよ。さっき見たわ。
激しい戦闘だったのか、上気した頬が赤い。制服もボロボロで、髪もボサボサだ。その髪結構好きなんだけどな。
声を出さないその子の元へと近づき、しゃがみこむ。
(名前なんだっけ)
毎回忘れてるような気がして申し訳なくなってきた。流石に覚えるか、と記憶の奥からこの子の名前をひねりだす。
俺を見つめて動くことの無いその子の髪を指で梳く。
「あー……そうだ」
数秒の思案の末に、思い出した名前を口にする。
「ミカ」
「…………はい」
額が軽く切れているのか、血が流れている。
傷口をそっと指でなぞり、傷跡を消す。
同様に、腕や頬の傷も不自然じゃない程度に傷だけ消して、あとはそのまま。
呼吸が止まったかのように固まるミカの手を取って起き上がる。
「歩けるか?」
「…………え? ぁ、う、うん!!」
コンピュータの特権だと思っていた再起動を生身の人間で見ることができるとは。知見知見。
オロオロと目が泳ぎまくっているミカは大きめの声で元気に返事をする。
様子がおかしいな……いや、会う度に告白してくる時点で狂ってるかこいつ。じゃあ正常だな。
流石にミカは脱出組か。帰り道がわかるかを聞き、俺はまたベアトリーチェさんのあほ面を見に行くために戻ると伝える。戻ることしか伝えてないよ。
だから手を離してくんねぇかな。
「わ、わわ!? ご、ごめんね!?」
「うん、全然良いんだけどさ……早く離して?」
「あ、あれぇ……?」
離すと言ったのに離してくれない。なんだこれは。なんで本人が1番驚いてるんだ。
ごめん、と謝りながら首を傾げるミカは、自分の手と俺を交互に見つめ、俺を見た瞬間にバッと顔を背けるという奇妙な行動を繰り返す。
「離さないとって、分かってるのに……ずっと繋いでいたいって思って、離せないの……ッ」
なんだその理由。俺の事好きすぎるだろ。可愛いかよ。
顔真っ赤だったのってそういう意味ですか。告って来てたのも本気だったのかよ。気まずっ。
好意を向けられ慣れて無かったからちょっと驚いた。とりあえず、なぁなぁにしてこの場は誤魔化そう。ミカとそこまで仲良いと思ってなかったんだけどなぁ。
「また会った時にな」
指を剥がして手を離させて、小さく声を洩らしたミカは自分の手を眺める。
その隙にと、俺は兄さん達がいるホールへと向かおうと振り返った。
「カイくん!」
踏み出した瞬間にかかった声。
身体を止めることなく、声だけは聞こえるようにして駆け出す。
「ありがとう!! 本当に!! 大す……す、すす……ああぁぁぁぁあ!?」
(何やってんだあいつ)
なんか発狂したような声が聞こえた。チラッと振り返ると顔を両手で押さえて悶えている。あまり触れないでおこう。ややこしくなりそうだ。
考えることが増えてしまったけど、とりあえず忘れておこう。思い出さなくてもいいよね。
今は、ベアトリーチェさんの情けない負け面拝みにウキウキでGOだ。