ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
ベアトリーチェは、■■メグルのことを高く評価している。
黒服が連れてきた男。初めこそ怪訝な表情でその男を品定めしていたものの、見えてくる情報がベアトリーチェの中で昇華され、メグルの本質を理解した。
他の追随を許さない、圧倒的な戦闘能力。
殺しても死なない、不死性。
その男がキヴォトス最大の脅威であることを理解してなお。
ベアトリーチェは、その男が自身の計画の邪魔になることは限りなくゼロに近いということも分かっていた。
それは、契約。あるいは制約。
はたまた、人情なのか。メグルはゲマトリアに害ある行動を行わない、と。
それらを加味して、兵器の代わりに送られてきた男を前にして、ベアトリーチェは計画にスパイスを加えることを決断した。
『ロイヤルブレッド? ベアトリーチェさんってパン派なんですね。ねこまんましか食わないかと思ってました』
『肥料にして差し上げましょうか』
秤アツコ……ロイヤルブラッドと■■廻を接触させること。それにより起きる彼女の変化。それを、ベアトリーチェは求めた。
更なる神秘の輝き。あるいは変質。メグルの性質を見抜いたベアトリーチェによる実験。
ロイヤルブラッドに似たモノを秘めた男がアツコに何をもたらすのかを、ベアトリーチェは見たかった。
「ふっ……及第点、と言った所でしょうか」
ギャンブル要素を含んだその実験の成果を見て、ベアトリーチェはネチャッと口角を上げて嗤う。
風はこちらに吹いてきていると、勝利を確信した彼女は慢心する。
「あとは、『先生』を排除するだけ」
磔のように身体を吊られた少女を見上げる。
恐ろしくおぞましい彼女に見つめられ笑われた少女は虚空を覗く瞳で身を任せる。
「……………………カイ」
ただ、一言。
彼の名を口にする。
きっと、自分のところには来てくれないのだろうと。
自分は、選ばれなかったのだと。彼女は、目を瞑って終わりを待つ。
◈◈◈◈
「おいーす。久しぶりですね黒服さん。3年ぶりですか?」
「お久しぶりです、メグルさん。半年も経っていませんよ」
はい、■■廻です。
見慣れた高層ビルの最上階までエレベーターでGOからの扉ガチャり。薄暗い部屋の奥から見えてくるひび割れのような光。うーん、黒服さんですねぇ。
「相変わらず割れてますね顔」
「遠慮の無い言葉選びも懐かしいですね」
やっぱり目は何個もあればいいってもんじゃないんだね。一個で十分よ。俺は2個ほしいです。
いつものソファ席へと座る。目の前に置かれた低めの机には、ちょうど出来たてアツアツの紅茶。今日はレモンティーのようだ。
洋菓子も幾つか置かれていたが、とりあえず紅茶で一息つこうと、俺は美麗な装飾の施されたティーカップを手に取り口に運ぶ。
レモンティーの味がしました。
「どうでしたか?」
じんわりと暖かい喉元に吐息が零れた頃、こちらを見つめる黒服さんから抽象的な質問が飛んでくる。レモンティーについてでは無いだろう。紅茶の感想とか「紅茶でした」しか言えないし。
となれば、黒服さんの聞きたいことはさっきまでいた場所での俺の振る舞いを知ってのもの。
「正体不明の強敵ムーブ、結構楽しかったですよ」
でも、もういいかな。どうせ必要な場面は出てくるんだろうけど。
楽しかったのは本当。そういう願望があった訳じゃないけど、ロールプレイングだと思えば一興だった。
ホシノが少し気がかりだったけど。
「ええ。私の方でも見ていましたがね。中々に容赦の無い言葉選びが素晴らしかったですよ。心のノートを取り寄せましょうか?」
「流し読みして終わりになるんで結構です」
「なるほど。性根から腐っている、と」
なかなか言うねこの人。まあ自分で自分のことカスだと思ってるからいいけど。兄さんが聖人過ぎるんだよなぁ。そういう要素全部あの人に吸われちまったよ。絞りカスなんて言うな!
「それで、用件は?」
「そうですね……では、仮面を」
椅子から立ち上がり、俺に対面するようにソファへと座る黒服さん。最初からそこにいればよかったのでは? というツッコミは置いておき、外してポケットに突っ込んでいた仮面を取り出して黒服さんに手渡す。
ありがとうございます、と言う黒服さんは手に取った仮面をじっくりと観察する。表面や裏面、カツカツと軽く叩いて感触を確かめたり。
そして、それに関連するように質問を投げかけてくる。
「装着具合はどうでしたか?」
「気持ち悪いぐらい違和感なかったですよ」
「装着時、感情の昂りなどは?」
「全く」
「何か精神に異常は……元々ありましたね。失礼しました」
「因数分解しますよ」
「お変わりなさそうで安心しました」
うんうん、と頷く黒服さんに思わずイラッとしてしまうが、紅茶を飲んで落ち着こう。ん〜、中身無くなってたわ。
幾つかの質問を一問一答で飛ばしてくる黒服さんは、質問が終わったあともジッと仮面を観察する。
一分に満たない時間だったが、追加の紅茶を注いで寛いでいると、黒服さんは仮面を机へと置く。
「調整が完了しました」
「どこか壊れてたんですかそれ」
「いえ。強いて言うなら、出力が少しばかり過ぎた程度でしょうか」
よく分からんが、まあいいだろう。実害無さそうだし。
まだまだ外は明るい。けれど、この部屋にはビックリするぐらい日光が入ってこない。あのカーテン凄いな。
久々の甘味。マカロンを手に取り頬張るところを、黒服さんが世間話のように聞いてくる。
「彼女達の様子が心配では?」
「気になりはしますね。どうせ兄さんが動くでしょうけど、あとで俺も行きます」
彼女達、が誰を指すのかは流石にわかる。あの場を見ていて、俺が逃がした四人の行方。
ホシノ? 大丈夫でしょ。今日は動けないだろうけどね。もう一人の白い子もごめんね。襲ったの君たちからだから自業自得サ。
「それに、ベアトリーチェさんの出鼻をへし折りたいじゃないですか」
あの人眼が多いんだよ。デコピンが目潰しになるレベル。ソースは俺。普通にキレられた。
あの人の目的なんて知らないし、何をするのかも知らないけど、まあ本命はアツコか? 他の奴らに比べて扱いが違う。
あの人のせいで友達泣かされてるし、皆傷ついてるし、なんか俺ヘイト買いまくってるし。ああ、最後は俺のせいでした。自重します。
ベアトリーチェさんって、自分が最高って思っちゃってる人だからなぁ。慢心が凄いし、ナルシストって感じ。マッドサイエンティストと言ってもいいかもしれん。それで言えば、黒服さんも含めたゲロゲロの皆さんもマッドだと思うけど。
「ベアトリーチェを直接叩く、と?」
「それは兄さんの役目でしょ。回収する時に首根っこ捕まえて引きずり回すっていうのはいいかもしれませんね」
キー、覚えてなさいよ〜!! と喚き散らすベアトリーチェさんを無視して引きずり回すの楽しそうだな。
とりあえずは、俺が直接あの人に干渉することは無いだろうけど。あるのかね?
「御友人を救うのですか?」
くっくっくと笑う黒服さんがそう問うてくる。友人という言葉にぱちぱちと目を丸くした俺は、うーん、と考える時間を作った。
友人……友人? 友達なのかあいつら。まあアリウスの中では一緒に過ごした時間は長いかもしれん。友達……しっくり来ないかもしれないな。クラス一緒なだけ、みたいな。
『これ美味しい』
紅茶の揺れる水面を眺めながら、変に考えていると、ふと思い出した声。
俺の様子に気が付いたのか、どうされましたか、と声を出す黒服さんに向くことなく、俺は黄色いマカロンを手にとる。
「飯の約束したので」
檸檬の爽やかな香りが鼻から抜け、飲み込んだあとに残った紅茶を一気に呷る。
机の端の方に置かれた仮面を手に取り、顔に着けながら扉の方へと向かった。
「良い報告を期待しておりますよ」
「プロポーズする友人を見送るやつやめてね」
◈◈◈◈
何をやっても、ダメだった。
全てが空回り。そんな自分が、嫌いで、嫌いで、嫌いで。
友達になりたかった。初めは、そんな子供みたいな理由でアリウスに接触して。
そうして、友人を殺しかけた。
勝手に楽しんで、勝手に後悔して、勝手に絶望して、勝手に憎んで、勝手に改心して。
何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も。
何度も立場を変える自分が気持ち悪くて、結局自滅して。
アツコを助けると、そう言ったサオリの邪魔をして、迷惑かけて、とんでもなく強い敵を前に時間稼ぎする、なんてタンカを切って、罪滅ぼしみたいな自己満足。
手も足も、もう動かないし、敵は何人もいて無傷だし。
ああ……死ねるかも、とか思ったり。
『そいつ次第だろ』
久しぶりに流した血が目に入って片目を瞑る。呼吸は荒く、銃も手放してしまった。
閉じた瞳に映ったのは、やっぱりあの人で。
もう何日も会ってないのに、関わった時間は短いのに。どうして、こうも彼が頭に強く残っているのだろう。
きっかけは、本当にたまたま、彼を見ただけ。遠目から、彼を見て、特別なことなんて何もしてない彼を見て。
どうしてか、目を奪われて。
私……聖園ミカは思う。
恋をしたことが無い私は、興味を注げる男性というだけで彼に好意があると錯覚していたのだろうか。
白馬の王子様は私の元に現れてくれるのかな、なんて子供みたいな夢物語を抱えて、何も考えなかった悪い子にそんなものは来るはずがないだろうと自虐して。
だから……そう、だから────
「おい」
だから、わたし、は────
「寄って集って……」
────暖かい香りがした。
お日様の光を一身に浴びたみたいな、安心する香りがした。
その背中は、見るだけで私のマイナスな感情を吹き飛ばすくらい頼もしくて、大きかった。
「消えろ────モブ共が」
彼の言葉に従うかのように、ユスティナ聖徒会が消えていく。
ひときわ強かった個体も、彼の一刀で切り刻まれて消えていく。
瓦礫の壁に体を預ける私は、痛みや疲労とは関係なく、身体が動かない。
「……はぁ」
────ドク、ドク。
彼の息遣いを聞いて、心臓が跳ね上がる。
「大丈夫か?」
────バクッ、バクッ。
瞬きも許さず、素顔を近付けて私の顔を見てくる彼を見て、心臓が爆発しそうになる。
分からない、分からない。この気持ちはなんだろう。
痛い。心臓が痛い。
苦しい。気持ちいい。なんだ、なんだ。
「あー……そうだ」
ボロボロに崩れた髪。
血で汚れて汚い顔。
綺麗な彼の手が私の頭に触れる。
ボサボサになって跳ねている髪をゆっくりと手櫛でとく彼の手の温もりに顔が沸騰しそうで。
「ミカ」
「────────」
……ああ、やばい。これ、やばい。
やばいやつだ……これは。
心臓が内側から身体を叩く。身体は全く動かなくて、それでいいと思える自分がいる。
近い。本当に、近い。
やばい。本当にやばい。
ああ……本当に。
「……はい」
────本当に、単純だ……私は。
聖園ミカ、17歳。トリニティ学園の三年生。
私は、初めて。
運命に、出会った。