闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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第45話

──貴女の望みは?

──あの御方(・・・・)に会い、終生仕えること。それだけです

──貴女が生きているうちに会えるという保証はないけれど。それでもいいの?

──この身に流れる血が告げています。私が生きているうちに会えると。あの御方(・・・・)ここ(オラリオ)にいると。

──いいわ。それまでは、私の眷属として貴女を迎え入れましょう

 

 

 

 

「命が攫われたって本当か!?」

 

大きな音を立ててタケミカヅチ様が扉を開けて居室(リビング)に飛び込んでくる。主神の後に続いて桜花や千草達、【ファミリア】の面々も来る。

 

「ああ、本当だよ。ダンジョンでベル君も一緒に……すまない、タケ」

 

リリのバックパック、ヴェルフの大刀を俺が魔法で直す横で、ヘスティア様が事情を話し始めた。

 

「命達を攫ったその冒険者の所属はわからないのか?」

「ローブで姿を隠していたので顔はわかりませんが……リリ達を襲った者達の種族は、全員アマゾネス。加えて、あの実力は間違いなく戦闘娼婦(バーベラ)でした」

「【イシュタル・ファミリア】か……」

「アルベラ商会は?」

「【イシュタル・ファミリア】に頼まれたことはあっさり認めたが、それがこう(・・)なるとは知らなかったの一点張りだ。くそったれ、まんまと大金に釣られて騙された」

「そうか……」

 

ダンジョンから帰還した俺達は、ヘスティア様を連れてアルベラ商会に今回の件について問い詰めた。神に嘘が通じないからと諦めたのか、あっさりと自白した。

商会のほうはギルドに任せるとして、問題は【イシュタル・ファミリア】だ。ギルドがあちらに強く出られないなら、俺達で何とかしなければならない。

 

「だが、どうしてイシュタルが命達を狙う?心当たりはないのか、ヘスティア?」

「う~ん、最近歓楽街に関して色々あったけど……どれもこれもこんな大事になるようなことじゃなかったし」

 

タケミカヅチ様の問いに、ヘスティア様は腕を組んで唸った。

千草は【アポロン・ファミリア】を例に出し、ベルのことを狙ったのではないかと言うが、それはないだろうと両主神は唸った。

そうだ、タケミカヅチ様ならあの道具(アイテム)のことを知っているだろう。そう思ったところで、ヘスティア様がその名を口にした。

 

「タケ、『殺生石』っていう道具(アイテム)をイシュタルが持っているそうなんだけど──」

「何だと!?」

 

タケミカヅチ様は目を見開き、ヘスティア様の両肩を掴んだ。

 

「それは本当か!?イシュタルが、『殺生石』を持っているのか!?」

「タケミカヅチ様!」

「落ち着いてください!」

 

叫び散らす男神に俺とヴェルフ、桜花はヘスティア様を庇うように割って入る。

 

「す、すまない、ヘスティア」

「いや、いいよ……それよりタケ、『殺生石』って何なんだ?」

 

肩から手を離されたヘスティア様は、直ぐに真剣な表情で説明を求める。

タケミカヅチ様も深呼吸で落ち着くと、一歩後ろに下がり、ぐっと歯を噛んだ。

 

「『殺生石』は、狐人(ルナール)専用の道具(アイテム)だ」

 

『殺生石』。それは、『玉藻の石』と『鳥羽の石』を素材に生成される、狐人(ルナール)専用の道具(アイテム)

『玉藻の石』は狐人(ルナール)の遺骨から作り出される道具(アイテム)で、『妖術』と謳われる狐人(ルナール)の魔法の力をはね上げる効果を持つ。

『鳥羽の石』は『月嘆石(ルナティック・ライト)』の別名で、月の光を浴びることで色を変え、光を放ち、魔力も帯びる特殊な鉱石。武器や道具(アイテム)の素材として使うと、月の光に応じて硬度や威力、効果を変える。そして、『鳥羽の石』の効果が最大限に発揮されるのは満月の夜。その時、2つの石が融合した『殺生石』は悪魔の石に変貌する。

満月の夜に使用された『殺生石』は、石の使用者、狐人(ルナール)の『魂』を石に封じ込める。魔力が完璧に封じ込められた『殺生石』は狐人(ルナール)の妖術の力を第三者に与える、『魔剣』にも劣らない魔道具(マジックアイテム)となる。代償として、生贄となった狐人(ルナール)を魂の抜け殻に変える。

 

「魂を奪われた人はどうなるんですか!?」

 

悲鳴のような声音で千草が叫ぶ。

 

「『殺生石』を肉体に注入すれば、魂を奪われた狐人(ルナール)は目を覚ます。肉体さえ無事なら何事もなく生きていけるだろう」

 

だが、とタケミカヅチ様は険しい表情のまま続ける。

 

「『殺生石』は砕ける。砕けた欠片の1つ1つが『妖術』を行使できる魔法の発動装置だ。効果は正式魔法(オリジナル)と変わらず、詠唱を必要としない」

 

万人に狐人(ルナール)の魔法を分け与えることができる、という発言に皆が絶句する。

石の恩恵を受け『妖術』と呼ばれる稀有な魔法を繰り出す軍団。

封じ込められた『妖術』にもよるが、その力は限りなく絶大無比となる。

 

「……砕けた破片が紛失したり、壊れたりした場合、石に魂を移された(こども)はどうなる?」

 

重い表情でヘスティア様が問う。

答えるのを一瞬躊躇ったタケミカヅチ様は、視線を彷徨わせながら語った。

 

「少なくとも、元通りとはいかん。残った破片を掻き集めて魂を戻したとしても、赤子も同然の人形になるか……或いは廃人か」

 

『殺生石』の発動が、『鳥羽の石』の性質に左右されるとすれば、魂を移す儀式が行えるのは満月の夜──つまり今夜。

石に封じ込められた『妖術』を用いて行うことなど、戦争ぐらいなものだろう。そしてその標的は……。

 

「歓楽街に行こう。ベル君と命君、その狐人(ルナール)の子も助けて、『殺生石』を破壊するぞ!」

『はい!』

 

俺達は本拠地(ホーム)を出ると第3区画、【イシュタル・ファミリア】の領域(テリトリー)である歓楽街へと向かった。

 

 

 

 

同じ頃、都市第5区画。

【フレイヤ・ファミリア】本拠地(ホーム)、『戦いの野(ウォールクヴァング)』。建物内にある、女神フレイヤの自室。

 

「フレイヤ様。【イシュタル・ファミリア】に動きがありました」

「詳細は?」

「歓楽街の本拠地(ホーム)周辺にて、娼婦達がいつになく動き回っている模様です」

「監視役は……アレン達だったかしら?」

「はい。オッタル様がダイダロス通り側から監視の指揮を、アレン様やグレール様が歓楽街に潜入しています」

「そう……出来たわ。どうかしら、ネロ?」

 

持っていた筆とパレットを脇に置くと椅子から立ち上がり、報告に来たヒューマンの少女に画架に固定されたキャンバスを見せる。

そこには、煤けた鎧に赤のサーコート、髑髏を思わせる兜の後頭部に異形の王冠を載せた1人の男性と、燃え盛る炎が描かれていた。

 

芸術の神(ブラギ)ほどではないけれど、上手く描けてるでしょう?」

「ええ」

「♪」

 

ネロが首肯すると、フレイヤは嬉しそうに束ねていた銀の長髪を解き、前掛けの紐に手をかける。

 

「貴女も準備をしておきなさい。もしかしたら、()に会えるかもしれないわよ?」

「かしこまりました」




ブラギは北欧神話において詩の神様とされています。しかし、他の芸術関係の神はオーディン(戦争・死・詩文の神)がいますが、詩の部分でお互いに被ってしまうのでブラギを芸術の神に、オーディンを戦争の神という感じで分けました。
次回か次々回あたりでグレイが正体を晒す予定です。
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