闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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第44話

「ごちそうさまでした……」

 

翌朝。命は元気のない声で、食事を終えた。

碌に食べ物が喉を通らない、そんな表情で自分の皿を片付け始める足取りも不安定だ。

 

「なぁ、命君、何かあったのかい?」

「昨夜、遅くまで出かけていたようですけど……」

 

顔を寄せてくるヘスティア様に、リリは見聞きしたものを言うに留める。あの様子だと、歓楽街に行き、何かあったのだろう。

命が皿を洗い終えて食堂を出ていくと、ベルとヴェルフが視線を交わして頷き合い、朝食をかき込んで立ち上がった。ヴェルフはベルの分の皿を持ち、ベルは命の後を追った。

 

「ヘスティア様。実は昨日、【イシュタル・ファミリア】についてギルドで聞いてきたんですが、妙な話を耳にしたんです」

「妙な話?」

「ええ。実は……」

 

昨日エイナさんから聞いた、5年前に起きた事をヘスティア様に話す。

 

「……確かに、そのアドバイザー君の言う通り、【イシュタル・ファミリア】に関わるのは止めたほうがいいね」

「リリも賛成です。【イシュタル・ファミリア(あちら)】と【ヘスティア・ファミリア(こちら)】では派閥(ファミリア)の規模や団員の量と質が違いすぎます」

「ですが、俺達が関わるのを止めてもあちらから仕掛けてこないとは言えませんからね。実際、ベルは向こうの『戦闘娼婦(バーベラ)』に目をつけられたわけですし」

「そうなんだよなー……」

 

ヘスティア様は腕を組み、天井を見上げて大きく息を吐く。

俺とリリも【イシュタル・ファミリア】対策について考えていると、不意に、馬車の音が聞こえた。

 

「誰ですかね?」

 

俺が席を立ち、ホームの正門に向かうと、そこには箱馬車と1人の男性があった。

 

「どちら様でしょうか?」

「はじめまして。私、【アルベラ商会】のアディ・グッドラックと申します。神ヘスティアか、団長のベル・クラネル様はいらっしゃいますか?」

「ちょっと待ってください。今呼んできます」

 

俺は居室(リビング)に戻り、ヘスティア様に商会から人が来たことを伝え、正門に戻る。

 

「はじめまして。それで?商会が【ヘスティア・ファミリア(ボクら)】に何の用だい?」

「ええ。つきましては、あなた方に冒険者依頼(クエスト)を発注しようと。こちら、内容と報酬でございます」

 

アディ・グッドラックはヘスティア様に一礼すると、羊皮紙の巻物を差し出してきた。俺はヘスティア様の後ろから羊皮紙に書かれている内容を確認する。

14階層の食料庫(パントリー)石英(クォーツ)の採掘。報酬は……100万ヴァリス!?

遅れてきたヴェルフとリリも覗き込み、同じく驚愕する。

 

「噂によれば、あなた方は多額の負債を背負っておられるとか。それに、今後のダンジョン探索の際には、我々から道具(アイテム)などの探索費用の出資も約束いたします。そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが……いかがでしょうか?」

「……少し相談してから決めるよ」

「かしこまりました。良いお返事を、期待しております」

 

男は再び一礼し、箱馬車に乗って去っていった。そして、それと入れ替わるように命とベルが戻ってきた。

 

「グレイさん、神様、リリ、ヴェルフ、今の馬車は?」

「商会からの冒険者依頼(クエスト)だよ」

「商会から、ですか?」

 

居室(リビング)に戻る道中、ベルと命に依頼書に書かれた冒険者依頼(クエスト)の内容と、報酬の話について話した。

 

「どうしますか、ヘスティア様?」

「んー、あまり商人や商会とは繋がりを持ちたくないなぁ」

 

利益絡みの煩雑な手続きと対応、或いは利害関係を良しとしないのか、ヘスティア様は乗り気ではないようだ。

 

「先方には悪いけど、やっぱりこの依頼は断っ──」

「「やりましょう!?」」

「どわぁ!?」

 

ヘスティア様の言葉をベルと命が同時に懇願して遮る。ヘスティア様も思わず大きく仰け反った。

 

「借りを作るというわけではありませんが、貰えるものは病以外何でも貰っておくというか、いえ浅ましいことは重々承知なのですがとにかく自分達には一刻も早くお金が必要ですッ!!」

「僕もそう思います!!」

 

ベルと命が並んで畳み掛け、身振り手振りを交えてヘスティア様に言い募る。

 

「朝の様子が嘘みたいに活き活きとしているけど、何かあったのかい?」

「はい。実は……」

 

全員が席についたところで、ベルが『身請け』という制度について話し始めた。

 

「……というわけなんです」

「わかった。やっぱり断ろう」

「お待ち下さいヘスティア様!その娼婦というのは、自分の同郷の知り合いのお方なのです!!」

 

ベルの話を聞いてヘスティア様が断ると言ったところで、命が『身請け』する相手について話した。それを聞いたヘスティア様は渋々冒険者依頼(クエスト)を受けることにした。

まあ、穏便に済ませる手段があるなら、そうしたほうが良いだろうな。

 

「自分はタケミカヅチ様のところに行ってまいります!」

 

命は席を立つと、【タケミカヅチ・ファミリア】の本拠地(ホーム)に向かってすっ飛んでいった。

 

「そうだ。神様、『殺生石』って知ってますか?」

「『殺生石』?うーん、聞いたことがないなぁ」

「ヴェルフは?」

「まったく」

「リリも知りません」

「グレイさんは?」

「知っているよ」

「本当ですか!?それで、『殺生石』ってどんな物なんですか?」

 

ずいっ、と顔を寄せてきたベルを始め、ヘスティア様、リリ、ヴェルフの視線が俺に集まる。

 

「確か、魔道具(マジックアイテム)の類だと聞いたことがある。だが、具体的な効果とかは知らない」

「そうですか……」

 

 

 

 

そして2日後、俺達は冒険者依頼(クエスト)のために、ダンジョン14階層の食料庫(パントリー)に向かっていた。

 

「モンスターの叫び声に、足音……」

「ああ、はいはい。いつものやつな」

 

聞こえた異変の音響に命が呟き、ヴェルフはうんざりしたような声を出す。

現在地は一本道だ。おそらく、奥にある食料庫(パントリー)から来たのだろう。

 

「別れ道まで引き返そう!」

 

ベルの指示に俺達はパーティーの向きを回頭させ、もと来た道を逆走する。

後ろの距離を肩越しに確認しつつ、広い十字路に逃げ込んだ──次の瞬間。

俺達を挟む形で、左右の道から別の冒険者と怪物の集団が雪崩込んできた。

 

「2方向!?」

 

まさかの『怪物進呈(パス・パレード)』の鉢合わせに、リリの悲鳴が響き渡る。

間もなく、冒険者達とモンスターの波が俺達を呑み込み、衝突し合った。

 

「くそっ!」

 

俺は『ロスリック騎士の大盾』で一角兎(アルミラージ)の攻撃を防ぎ、『熟練のロスリック騎士の剣』で黒犬(ヘルハウンド)の首を斬り落とす。

殺到するモンスターの群れを捌き、パーティーが離れ離れになるのを防ごうとその場に踏みとどまっていると。

とどめとばかりに、最初の『怪物進呈(パス・パレード)』が十字路に合流した。

 

「3つ目!?」

 

残っていた行列(パレード)が混戦地帯の横っ腹にぶち当たり、四方八方をモンスターの檻に閉じ込められた。

そんな中、『怪物進呈(パス・パレード)』を行った3つのパーティーは、すれ違った側から反転し、俺達に襲いかかってきた。

 

「なんだ、こいつ等!?」

 

大刀を振り回していたヴェルフに曲刀(シミター)が、刀を振るっていた命に棍棒が。色違いの外套(フーデッドローブ)の集団は、争うモンスター達を飛び越え、舞うように攻撃を仕掛けてきた。

まさか、こいつらは俺達を狙って怪物進呈(パス・パレード)を……。

 

「がっ!?」

「ベル様!?」

 

叫び声をあげたリリのほうを向くと、何者かに蹴り飛ばされて放物線を描いて吹き飛ぶベルの姿が見えた。分断されたベルの代わりに俺はリリを守る。

 

「命様!ベル様を追ってください!」

「しかし!?」

「俺とヴェルフで道を開ける!急いでくれ!」

 

俺は盾で攻撃を防ぎながらモンスターを斬り伏せ、襲撃してきた冒険者を迎撃し、命のために道を切り開く。

 

「今だ!」

「早くしろ!」

「……行きます!」

 

モンスターの死骸を飛び越え、命がモンスターの檻を飛び出す。

 

「気合入れろヴェルフ!」

「おう!」

 

ベルと命がいない分を、俺とヴェルフがそれぞれ2倍働くことで埋める。

そしてモンスターの群れをほぼ殲滅したところで、外套(フーデッドローブ)の冒険者集団は何処かへと消え去っていった。

 

「待て!」

 

最後まで残っていた黒犬(ヘルハウンド)を斬り捨てて追跡を試みるが、疲弊した様子のヴェルフとリリを置いていくわけにはいかず、足を止める。

 

「リリ、ヴェルフ。回復薬(ポーション)だ。これを飲んで、ベルと命を探そう」

「ああ」

「はい」

「……ついでだ。食料庫(パントリー)石英(クォーツ)を採掘してこよう。依頼主(アルベラ商会)に聞きたいことが山程できたからな」

「そうだな」

「わかりました」

 

連中はローブで身を隠していたが、全員アマゾネスだろう。そしてあの強さは戦闘娼婦(バーベラ)……つまり【イシュタル・ファミリア】。そして、この襲撃にアルベラ商会は関与しているだろう。そうであれば、あいつ等が14階層(ここ)に来た説明がつく。

問題は、女神イシュタルが何の目的でベルを攫おうとしたのか、だ。

 

「(最悪の事態になる前に、なんとかしないとな)」

 

脳裏に浮かんだ銀髪の女神の顔を浮かべながら、俺達はベルと命の捜索を行ったが……2人の姿は、何処にも見当たらなかった。

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