闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

42 / 68
原作7巻、始まります。


第42話

「……クソッタレめ」

 

都市の第四区画、その中で最も高い場所にある薄暗い部屋から彼女は巨塔の最上階を、そしてそこにいるだろう女神(おんな)を睨め付ける。

 

「なぜお前がそこにいる?どうして私ではなく、お前がそこで王を気取っている?」

 

ふざけるな。

私を差し置いて美しいなどと、下界の者(こどもたち)の目も、神々の目も節穴か。

呪詛めいた思いを抱く彼女──女神イシュタルの美貌が、怒りで歪む。

 

「つけ上がるなよ、フレイヤ……」

 

腹立たしいことに、相手は女神としての名声も、派閥(ファミリア)の力もイシュタルより上だった。後者に関しては、追随を許さぬほどのものだ。

摩天楼施設(バベル)を睨み続けていたイシュタルはそこで、表情を一転して黒い笑みに変え、大窓から夜空に浮かぶ月を見る。

 

「あと7日だ。あと7日で、お前をそこから引きずり下ろし、私が頂点に立つ。……そして、あの人の愛を私のものにする」

 

イシュタルは禍々しく唇を吊り上げると、腰掛けていた長椅子(ソファー)から立ち上がった。

 

 

 

 

「……やっぱり、6人で住むには広すぎるな。こりゃ」

 

【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)となった屋敷の裏庭に向かう途中で、内部の見回りもしながら率直な感想を述べる。

 

「まあ、今はこの屋敷での生活に慣れるのが優先だな」

 

そして裏庭に到着すると、そこには2軒の石造りの小屋──『工房』があった。

武器の強化などをするたびに『古竜の頂』に行って戻ってくるのは、正直面倒だ。それに、行ってる間になにかあったら困るからな。

工房の中には積み上げられた薪に樽、鉄製の棚に、地下室。細く長く伸びる煙突と特製の大型炉。小屋全体の強度は問題なし。

 

「しっかし、旦那も工房が欲しいって言うとはな」

「本職のヴェルフほどじゃないが、鍛冶の腕前にはそれなりの自信があるぞ」

 

工房に私物の配置を終えたらしいヴェルフが、入り口から声をかけてきた。

 

「それなり、ねぇ……」

「なんだその目は」

「いやな?この間冒険者依頼(クエスト)で13階層に行った時に旦那が使ってた武器、控えめに言って凄かったぞ。あれ、旦那の自作か?」

「自作とまではいかないが、俺なりに手を加えたな」

「ふーん。具体的に何をしたかは……」

「教えない」

「わかってるって。けど、いつかものにしてやるから覚悟しとけよ」

「いいだろう。やれるものなら、な」

 

不敵に笑うヴェルフの宣戦布告を、俺は正面から受け止める。

 

「へっ。……じゃ、そろそろ前庭に行こうぜ。募集した入団希望者が集まってる頃だろ」

「そうだな」

 

小屋から出て屋敷の前庭に向かうと、大勢の亜人(デミヒューマン)が所狭しと集まっていた。50を超えるだろう人数が、本拠地(ホーム)に来ていた。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)に勝利したことで一躍有名になりましたからね。特に、オラリオに来たばかりの新人冒険者の目には魅力的に映ったのでしょう。今、一番勢いがある派閥(ファミリア)だと。それに──」

 

ヘスティア様とは反対側にいたリリの視線が、俺に移る。

 

「エルフの方々は、グレイ様目当てのようですし」

「そのようだな」

 

入団希望者のエルフが俺のことを見ては「『黒い鳥』だ」と口にしながら熱い視線を送ってきてる。

 

「つ、ついに、零細【ファミリア】脱出……!!神様っ、グレイさんっ、やりましたね!?」

「ああ!【ファミリア】発足してから苦節3ヶ月ッ……短いようで長かった!!」

 

「3ヶ月は短いを通り越しておかしいだろ」という野暮なツッコミはやめておこう。喜ぶ2人に水を差すような発言はかけられない。リリも同じ考えなのか、苦笑していた。

 

「しっかし、随分集まったな。まあ、『人が多い=良いこと』ばかりじゃないぞ。逆にしがらみなんかも増える。組織としてもな」

 

多くの団員を抱える上位派閥(ヘファイストス・ファミリア)に所属し、様々なことを経験してきたヴェルフの言葉には、説得力がこもっていた。

 

「安心してくれ、ヴェルフ君。これからボクが1人1人面接して、その子の適性とかを見るさ」

 

ヘスティア様の言う通り、この人数を一気に入団させるとは限らない。それぞれの【ファミリア】は神の好みや司る事象によって、独自の規律や特色がある。人に乱暴するならず者や脛に傷を持つ犯罪者を入団させるのは【ファミリア】の沽券に関わる。

 

「……それに、サポーター君のような子は厳重に取り締まらないといけない。これ以上ベル君に色目を使う泥棒猫(やから)を増やすわけには……」

 

そういうとこですよ、ヘスティア様。あなたのそれが団員の増えない原因の1つだったんですからね。

 

「それじゃあ、そろそろ面接を開始するかな!皆、似顔絵付きの履歴書を持って並んでね!」

 

ヘスティア様が面接開始の刻限を告げ、希望者達が荷物から羊皮紙を取り出した。

 

「ヘ、ヘスティア様ぁー!?」

 

と、そこに命の叫び声が響いた。

玄関扉を開け放つと、大慌てで走ってきた。

 

「どうしたんだい、命君?」

「に、に、荷物の中からっ……!!」

 

血相を変えながら飛び出してきた命は、冷静さを失った表情で、俺達と入団希望者の前に、右手で持っていた用紙を突き出した。

 

「借金2()億ヴァリス(・・・・・)の契約書がぁーーーーーー!?」

 

瞬間、時が止まった。

 

「ぶぅっ!?」

 

眼前に突きつけられた高級紙にヘスティア様が噴き出す。

「は?」とリリは固まり、「に、おく?」とヴェルフは立ち尽くし、大勢の入団希望者は例外なく目を点にし、ベルは凍結した。

一、十、百、千……2億ヴァリス。

0の数を数え終えると、俺は発狂した。

 

「……」

 

無言で駆け出し、バベルに向かった。

俺は発狂した。

ダンジョン第1階層。そこに足を踏み入れると同時に、兜以外全て脱ぎ捨てた。

俺は発狂した。

 

「■■■■■■―ッ!!」

 

雄叫びをあげながら、モンスターの群れに素手で殴りかかった。

 

 

 

 

「どういうことですか」

 

本拠地(ホーム)1階の奥にある広い居室(リビング)。まだ荷物を出し切れていない木箱が乱雑に置かれている広間には、俺とヘスティア様を中心にリリ達が座り込んでいる。

ヘスティア曰く、あの契約書はヘスティア様個神(こじん)のもので、ベルのナイフを作ってもらう代償に途方もない借金(ローン)を組まされたらしい。そして、借金は【ヘファイストス・ファミリア】でのアルバイトの対価で支払っているそうだ。

 

「では……グレイ様、昼間の奇行の説明をしてください」

 

ギロリとリリに睨まれ、体が震えた。

ヘスティア様の借金もだが、あの後の俺の奇行はダンジョンに潜っていた他の冒険者の目に止まったそうだ。それを聞いた神々の手で噂は広まり、『【ヘスティア・ファミリア】には全裸でダンジョンに潜る変態がいる』と認知されてしまった。そのせいで入団するかもしれなかったエルフの冒険者は他の【ファミリア】の本拠地(ホーム)に行ってしまったらしい。

 

「借金のあまりの金額に発狂してしまい、その……いっその事全裸でダンジョンに飛び込んでしまおうかと。今こうして冷静に考えると、お前は何をやっているんだと自分をぶん殴ってやりたい」

「……普段のグレイ様の様子を知っているだけにリリ達も驚きを禁じえません。それでよく今まで正気を保っていられましたね」

「本当に申し訳ない。あそこで俺が冷静にしていれば、こうはならなかった。約束しよう、今後は何が起きようと、冷静に正気を保つと」

 

謝罪の言葉を述べ、深々と頭を下げる。

 

「お金も、ボクが何年かかっても必ず返す。だからベル君達は……こんなボクが倒れないよう支えてほしい」

 

ヘスティア様も、俺に続いて頭を下げる。

 

「わかりました」

「……2人ともこう言ってるんだ。赦さないわけにはいかねえな」

「そうですね」

「もうっ。絶対ですよ?絶対に、今後こういったことはないようにしてくださいねっ」

 

ベルの言葉を皮切りに、皆が立ち上がりながらそう言った。どうやら許してもらえたようだ。

その後はリリ主導で情報を共有し合い、今後の方針を決めた。

 

 

 

 

「……以上が、都市で流れている噂でございます」

「そう……」

 

バベル最上階。

オッタルの報告を受け、フレイヤは【ヘスティア・ファミリア】本拠地(ホーム)のある方角に目を向ける。

2億の借金と、全裸でダンジョンに潜る変態を抱える爆弾【ファミリア】。その汚名を返上するために奮闘する主神(ヘスティア)と眷属達の姿を想像した。

そして、顔を上げると窓枠のあたりをじっと見て鼻にそっと手を当てる。

 

「……オッタル」

「はっ」

「雑巾と水の入ったバケツを持ってきてちょうだい。その後でちり紙と屑籠もお願い」

「かしこまりました」

 

一礼し、オッタルは部屋を出る。

足元のシミは葡萄酒(ワイン)を溢したから。鼻を押さえているのはくしゃみをこらえているから。だから、あれは断じて鼻血などではない。己にそう言い聞かせながら、オッタルはバケツと雑巾を取りに向かった。




今まで書いてて思ったのです、グレイには不死人特有の紳士(変態)みというものが足りないと。
なので、脱がせました☆
グレイの【ステイタス】ですが、グレイの奇行を目撃した冒険者は、あまりの非現実性から【ステイタス】が忘却の彼方に吹き飛んで誰も覚えていないので、安心ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。