闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

41 / 68
さぁ、戦争の時間だ


第41話

『あー、あー!コホン。皆さん、おはようございます、こんにちは。今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)実況を務めさせて頂きます、【ガネーシャ・ファミリア】所属、喋る火炎魔法こと【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】イブリ・アチャーでございます。以後お見知りおきを。解説は我らが主神、ガネーシャ様です!ガネーシャ様、それでは一言!』

『──俺が、ガネーシャだ!』

『はいっ、ありがとうございましたー!』

 

迎えた戦争遊戯(ウォーゲーム)当日。ギルド本部の前庭では仰々しい舞台(ステージ)が設置され、実況を名乗る冒険者の青年と、彼の主神の声が響く。

 

「もう終わりかー!?賭けを締め切るぞ!」

 

街の数多くの酒場では、商人と結託した冒険者主導の賭博が行われていた。

 

「ベル・クラネルとは別れを済ませてきたかい?」

「……」

 

バベル30階。開催を待ちわびていた神々の多くが、この部屋に赴いていた。代理戦争を行う両主神アポロンとヘスティアも、この場に待機していた。

正午を目前に控えたところで、オラリオ中に無数の円形の鏡──『神の力(アルカナム)』の一つ『神の鏡』が戦場である『シュリーム古城跡地』を映し出す。一気に盛り上がっていく都市全体に対して、実況による戦争遊戯(ウォーゲーム)の概要の説明が入る。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)──開幕です!』

 

そして、号令のもと、開始を告げる大楼の音と歓声が響いた。

 

 

 

 

同時刻、古城跡地。

開始を告げる銅鑼の音が、遠方の丘の上から響き渡った頃。

 

「まったくっ、何でオイラが見張りをしなきゃならないんだ……」

「それぐらいしか取り柄がないからだろ」

 

北方の城壁。ぶつぶつ文句を言う小人族(パルゥム)のルアンと、哨戒をしていた2名の弓使い(アーチャー)は平野を見渡す。

城壁は奥行きがあり、分厚い。生半可な魔法を何発叩き込まれようと、崩れることはない。それだけの破壊力を持つ魔法というものは、大抵詠唱が長い。遠距離からそれを放とうものなら、特注の弓と矢で狙撃すればいい。そう豪語する仲間にルアンが「けっ」とグレた、その時だ。

北側、城砦正面、荒野の中心を静かに歩いてくる……片や全身をマントで覆い、片や全身鎧(フルプレートアーマー)に青いサーコートを纏った人物。

 

「おい、誰か来てるぞ」

「詠唱とかもせず黙々と歩いてるな……陽動か?」

 

ルアン達が狼狽えるなか、城壁から約100Mまで接近を許した瞬間。

鎧の人物が、その装備を変えた。

鋼の鎧から一転して黒装束になり、フードを深々と被り、顔を隠す。右手に灰色の杖、左手に赤く揺らめく炎を握りしめ、腰に鈴を下げていた。

黒ずくめになった人物が体を捻り、拳を溜めると炎が収束した。

そして、覆面の人物も両手を振り上げ、隠れていた全身を晒す。

細い両手に握られていたのは、無骨で紅と紫の刀身を持つ2振りの長剣──否、『魔剣』。

 

「「「は?」」」

 

ルアン達が目を丸くした瞬間、長剣が同時に振り下ろされ、左手がこちらに向けられた。

城壁の上にいた者達の目の前で、凄まじい砲撃が炸裂した。

 

 

 

 

「何だ!?何が起きている!?」

「状況を報告しろぉ!?」

 

凄まじい震動に揺られ、爆音が鳴り響く場内は、怒号と悲鳴が飛び交っていた。無茶苦茶な連続砲火を行う相手に、誰もが当惑し判断に窮する。

 

「ヒュアキントスから命令だ!50人出撃して、相手を倒しに行け!」

「50ぅ!?」

 

城の奥から大急ぎで戻ってきたルアンの指示に、団員がオウム返しをする。城を守る味方の約半数をつぎ込むなど、正気の沙汰ではない。

 

「半端な数じゃあ近寄る前に吹き飛ばされちまう!?敵は10人もいないんだ、倒してさっさと戻ってくればいいだろ!」

 

的確な指摘に誰もが口を噤む。そうこうしている間も爆撃は続き、砦は揺れていた。

 

「止むをえん、出るぞ!」

 

50名の団員が掻き集められる。エルフの小隊長(リッソス)に率いられた彼等は城砦の東側に回っている敵に対し、東門を開門させて出撃した。

「固まるな!」というリッソスの声に従い、10組の隊に分かれ襲撃者に直進する。

 

「なっ!?」

 

門を出た先鋒の部隊が、青い光に飲み込まれ、吹き飛んだ。

まさか、と(エルフ)の血が騒いだ。

光の根本にいたのは、全身黒装束の人物。右手に灰色の杖、左手に炎を握りしめ、腰に竜を象った鈴。その出で立ちは、幼い頃から耳にした伝承の通りであった。

 

「『黒い』……『鳥』……!?」

 

伝説の存在を目の当たりにした喜び、伝説の存在と戦うという歓喜に打ち震え、足を止めてしまったのが命取りとなった。

次の瞬間、炎と紫電に飲まれた彼は意識を手放した。

 

 

 

 

『これはすごーい!?【ヘスティア・ファミリア】、まさかの短期決戦でしょうかー!?』

 

オラリオでは早くも驚愕と興奮が人々に伝播していた。

宙に浮かぶ『鏡』の中では北と東の城壁を粉砕され、砦の所々にも損害を受ける古城と、大勢の冒険者を砲撃で蹂躙する2人の人物が映っている。

 

『それにしてもガネーシャ様、あの凄まじい『魔剣』と『魔法』は一体何なんでしょう!?』

『うむ!──あれはガネーシャだ!』

『解説する気がないなら帰ってくれませんかねぇガネーシャ様ァ!』

 

ギルド前の実況と解説の熱気が絶好調に達し、拡声された声が都市中に響き渡る中。

 

「ちょっとエイナ!あの人って、エイナが担当している冒険者さんだよね!?ねえ!?」

 

『鏡』から目を離し、隣にいる同僚(エイナ)に声をかけるミィシャだが……

 

「……しゅごい……」

「エイナァー!?戻ってきてぇー!」

 

当の本人は、壊れたように同じ言葉を口にするだけだった。いつもの知性と理性に溢れる彼女に戻すため、ミィシャは手を振り上げた。

 

 

 

 

同時刻、【ロキ・ファミリア】本拠地(ホーム)

 

「アイズさんっ!見てください!あれです!あれが私達(エルフ)が嘗て研究していた古の魔法と、その使い手『黒い鳥』です!」

 

『鏡』をビシッと指差し、肩をむんずと掴み、興奮した様子でアイズに顔を近づけるレフィーヤ。そんな彼女に対し、アイズは……

 

「……う、うん……凄いね」

「でしょう!」

 

普段の様子とのギャップにたじろぎながら、何とか頷く。

その反応に満足したのか、顔を再び『鏡』に向け、今度は大きな黄色い声をあげる。

 

「ここまで嬉しそうなレフィーヤを見るのは初めてかな」

「実際嬉しいんじゃろう。自分たちの伝説の存在が、目の前でこうして戦っておるのだからな?リヴェリア」

「ああ」

 

レフィーヤの興奮ぶりを見ながら、フィン、ガレス、リヴェリアの3人は落ち着いた様子で『鏡』に目を向ける。そこでは、蒼い光が、黄金の雷が、燃え盛る炎が敵を蹂躙していた。

 

「しかし凄まじいのう。蒼い光に雷、火炎をほぼ詠唱なしで放ってあの威力か」

「リヴェリア。もしもの話だけど……エルフの里がラキアの戦火に巻き込まれず研究が続けば、今頃どうなっていた?」

「そうだな……神の恩恵(ファルナ)による後押しも加味すれば、研究が完成する一歩手前までいっていたかもしれないな。あるいは、初歩的な魔法の幾つかが現代に蘇り、世界中に広まっていただろう」

「そう、だからこそ君達の研究が失われたことはとても惜しい一方で、とても嬉しいんだ」

 

かの魔法の長所は、必要な【ステイタス】さえ満たしていれば誰でも扱える。そう、誰でも(・・・・)だ。これをもし、『闇派閥(イヴィルス)』のような邪悪な者が身につけたらどうなるか。

フィンの言葉の意味は、オラリオ暗黒期を知る者だけが理解できた。

 

 

 

 

「グレイさん。先程『魔剣』にヒビの入る音がしました」

「了解。『修理』」

 

シュリーム古城跡地を臨む平野。

俺とリューさんは、ひたすら砲撃を繰り返していた。

城壁は尽く粉砕され、砦も所々が消し飛び、城砦はボロボロになっていた。

そんな城砦の中庭に、深紫のドームが展開された。

 

「命さんの『魔法』が発動しましたか。これで残るは、敵大将(ヒュアキントス)と護衛だけでしょう」

「そうだな」

 

俺は装備をいつもの鎧に変え、『重厚な聖堂騎士の大剣』と『聖堂騎士の大盾』を装備する。

リューさんと背中合わせで相手が復活しないか警戒しつつ、城砦に近づいていく。

そして城壁内部に足を踏み入れた瞬間、炎雷が空へと昇った。

 

「行きましょう、グレイさん」

「ああ。ベルの戦いを見届けないとな」

 

崩れた塔の瓦礫の上で、ベルとヒュアキントスの得物がぶつかり、火花があがる。

 

「──誰だっ、お前はっ!?」

 

別人のような動きで攻めてくるベルに、ヒュアキントスが吠える。

 

「私は、Lv.3だぞ!?」

 

次の瞬間、ベルの短剣──ヴェルフ入魂の一振り、《牛若丸弐式》が駆け抜け、ヒュアキントスの波状剣(フランベルジェ)を両断した。

ほぅ、Lv.3か。残念だが、ベルの憧憬(あこがれ)は、お前なぞ足元にも及ばないところにいる。そのために、ベルは自分を苛め抜いているんだよ。

 

「うおおおおおおッ!?」

「っ!?」

 

ヒュアキントスは咆哮とともに足元へ短剣を振り下ろし、土煙を巻き起こす。ベルが素早く飛び退く中、ヒュアキントスも全力で後方へ下がった。

 

「──【我が名は愛、光の寵児。我が太陽に、この身を捧ぐ】!」

 

ベルとの距離を大きく離しながら、詠唱を開始した。

 

「【我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ】!」

 

させないとばかりにベルは《牛若丸》を鞘に戻し、左手を突き出した。

 

「【放つ火輪の一投──】!」

「【ファイアボルト】!」

 

速射性に秀でた速攻魔法がヒュアキントスに炸裂する。

しかし、ヒュアキントスはこれを耐え抜き、『魔法』制御の手綱を離さなかった。

 

「【──(きた)れ、西方の風】!」

 

瞠目し、直ぐに眦を吊り上げるベル。

速攻魔法の真骨頂で押し切ろうとする、が。

 

「やぁー!?」

 

瓦礫から飛び出してきた長髪の少女の体当たりを受け、射撃が阻害された。

 

「ベル様!」

 

今度は小柄な人影──リリが少女の体をはね飛ばし、そのままごろごろと地面にもつれあう。

 

「【アロ・ゼフュロス】!!」

「【ファイアボルト】!!」

 

そして、太陽の如く輝く大円盤がヒュアキントスの右手より放たれ、1歩遅れてベルの速攻魔法も放たれる。

2人の魔法が互いにぶつかりあい、円盤が炎雷を蹴散らした。速攻魔法の欠点である単発の威力の低さは、覆すことができなかった。

ベルはぎりぎりのところで円盤を回避するが、意思を持っているように円盤は大きな弧を描き、ベルのもとに進路を転ずる。

 

「【赤華(ルベレ)】!!」

 

ベルが再び躱そうとした瞬間、ヒュアキントスの呪文に呼応し、円盤が大爆発を起こした。

 

「ベル様!?」

 

爆煙を身に纏いながら瓦礫の上を何度も跳ね、血の粒を散らしながら転がっていく。

ベルは何とか勢いを止めて立ち上がるが、鎧を失った右肩がぴくりとも動かなかった。さっきの爆発で脱臼したようだ。

 

「もらったぞ!!」

 

鞘に収めていた短剣を再装備し、ヒュアキントスが突撃する。

そして剣尖が繰り出された瞬間、ベルは背中から地面に倒れ込んだ。

更に、その反動で両足を振り上げて短剣を弾き飛ばす。

ヒュアキントスが呆然とする中、ベルは後転の勢いに逆らわず立ち上がり、踵を地面に埋め──疾駆した。

 

「──ふッッ!!」

 

左手を握りしめ、突貫。

 

「うあああああああッッ!!」

「があっ!?」

 

突きの体勢により前のめりになったヒュアキントスの頬に、ベルの拳が振り抜かれた。

弾けるような拳打音とともに青年の体は地面を大きく跳ね、マントを巻き込みながら転がって行く。

30Mもの距離を行ったところで、ヒュアキントスは大の字になり、大空と太陽を仰いだ。

頬に殴打の跡を残し、白目を剝く体が、立ち上がることはなかった。

 

 

 

 

『戦闘終了~~~~~っ!?まさに、まさに大番狂わせ(ジャイアント・キリング)!!戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝者は、【ヘスティア・ファミリア】―――――!!』

 

 

 

 

「じゃーん!どーだ、これが今日からボク達の本拠地(ホーム)だ!」

『おお~~~っ』

 

ヘスティア様が示す屋敷を見て、俺達は感嘆する。

見上げるほどの、3階建ての大きな邸宅。ヘスティア様曰く、中庭と回廊までも備えているらしい。敷地は背の高い鉄柵に囲まれており、花や庭木が植えられた広い前庭も備わっている。

戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝者の権利として、俺達は【アポロン・ファミリア】の本拠地(ホーム)と多額の賠償金を手に入れた。賠償金(これ)を使って屋敷全体の改装をするらしい。

早速命とヴェルフが興奮気味に懇願するが、ヘスティア様は手のひらを向けて「まあ待て待て」と鷹揚に頷いた。

 

「ようやく胸を張って【ファミリア】を名乗れるようになったんだ、先にエンブレムを決めようじゃないか」

 

ヘスティア様は画材と画板を取り出して絵を描き始める。

 

「じゃん!これが【ファミリア】のエンブレムだ!」

 

羊皮紙に描かれていたのは、重なり合う炎と鐘。それを囲むように、円が描かれていた。

炎は炉の女神であるヘスティア様、鐘はベルのことをそれぞれ表しているのだろう。じゃあ、この円は……?

 

「ヘスティア様、この円は一体……?」

「これかい?これは円盾(ラウンドシールド)。つまりグレイ君のことだよ」

 

え?俺?

 

「確かに、グレイさんってダンジョンに潜る時は必ず盾を持ってきますね」

「グレイ様と言ったら『鎧と盾』というイメージが強いですね」

「だな」

「言われてみれば」

 

ベルとリリの言葉に、ヴェルフと命が賛同する。

 

「ヘスティア様、これは……」

 

俺が羊皮紙から目を移すと、ヘスティア様は嬉しそうに微笑む。

 

「さぁ、皆。今日が本当の意味で、ボク達の【ファミリア】の門出だ」




グレイが序盤で使用した呪術について補足
・混沌の濁流:呪術版ソウルの奔流。イメージはデーモンの王子(うろ底)の熱線
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。