闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
『あー、あー!コホン。皆さん、おはようございます、こんにちは。今回の
『──俺が、ガネーシャだ!』
『はいっ、ありがとうございましたー!』
迎えた
「もう終わりかー!?賭けを締め切るぞ!」
街の数多くの酒場では、商人と結託した冒険者主導の賭博が行われていた。
「ベル・クラネルとは別れを済ませてきたかい?」
「……」
バベル30階。開催を待ちわびていた神々の多くが、この部屋に赴いていた。代理戦争を行う両主神アポロンとヘスティアも、この場に待機していた。
正午を目前に控えたところで、オラリオ中に無数の円形の鏡──『
『
そして、号令のもと、開始を告げる大楼の音と歓声が響いた。
同時刻、古城跡地。
開始を告げる銅鑼の音が、遠方の丘の上から響き渡った頃。
「まったくっ、何でオイラが見張りをしなきゃならないんだ……」
「それぐらいしか取り柄がないからだろ」
北方の城壁。ぶつぶつ文句を言う
城壁は奥行きがあり、分厚い。生半可な魔法を何発叩き込まれようと、崩れることはない。それだけの破壊力を持つ魔法というものは、大抵詠唱が長い。遠距離からそれを放とうものなら、特注の弓と矢で狙撃すればいい。そう豪語する仲間にルアンが「けっ」とグレた、その時だ。
北側、城砦正面、荒野の中心を静かに歩いてくる……片や全身をマントで覆い、片や
「おい、誰か来てるぞ」
「詠唱とかもせず黙々と歩いてるな……陽動か?」
ルアン達が狼狽えるなか、城壁から約100Mまで接近を許した瞬間。
鎧の人物が、その装備を変えた。
鋼の鎧から一転して黒装束になり、フードを深々と被り、顔を隠す。右手に灰色の杖、左手に赤く揺らめく炎を握りしめ、腰に鈴を下げていた。
黒ずくめになった人物が体を捻り、拳を溜めると炎が収束した。
そして、覆面の人物も両手を振り上げ、隠れていた全身を晒す。
細い両手に握られていたのは、無骨で紅と紫の刀身を持つ2振りの長剣──否、『魔剣』。
「「「は?」」」
ルアン達が目を丸くした瞬間、長剣が同時に振り下ろされ、左手がこちらに向けられた。
城壁の上にいた者達の目の前で、凄まじい砲撃が炸裂した。
「何だ!?何が起きている!?」
「状況を報告しろぉ!?」
凄まじい震動に揺られ、爆音が鳴り響く場内は、怒号と悲鳴が飛び交っていた。無茶苦茶な連続砲火を行う相手に、誰もが当惑し判断に窮する。
「ヒュアキントスから命令だ!50人出撃して、相手を倒しに行け!」
「50ぅ!?」
城の奥から大急ぎで戻ってきたルアンの指示に、団員がオウム返しをする。城を守る味方の約半数をつぎ込むなど、正気の沙汰ではない。
「半端な数じゃあ近寄る前に吹き飛ばされちまう!?敵は10人もいないんだ、倒してさっさと戻ってくればいいだろ!」
的確な指摘に誰もが口を噤む。そうこうしている間も爆撃は続き、砦は揺れていた。
「止むをえん、出るぞ!」
50名の団員が掻き集められる。エルフの
「固まるな!」というリッソスの声に従い、10組の隊に分かれ襲撃者に直進する。
「なっ!?」
門を出た先鋒の部隊が、青い光に飲み込まれ、吹き飛んだ。
まさか、と
光の根本にいたのは、全身黒装束の人物。右手に灰色の杖、左手に炎を握りしめ、腰に竜を象った鈴。その出で立ちは、幼い頃から耳にした伝承の通りであった。
「『黒い』……『鳥』……!?」
伝説の存在を目の当たりにした喜び、伝説の存在と戦うという歓喜に打ち震え、足を止めてしまったのが命取りとなった。
次の瞬間、炎と紫電に飲まれた彼は意識を手放した。
『これはすごーい!?【ヘスティア・ファミリア】、まさかの短期決戦でしょうかー!?』
オラリオでは早くも驚愕と興奮が人々に伝播していた。
宙に浮かぶ『鏡』の中では北と東の城壁を粉砕され、砦の所々にも損害を受ける古城と、大勢の冒険者を砲撃で蹂躙する2人の人物が映っている。
『それにしてもガネーシャ様、あの凄まじい『魔剣』と『魔法』は一体何なんでしょう!?』
『うむ!──あれはガネーシャだ!』
『解説する気がないなら帰ってくれませんかねぇガネーシャ様ァ!』
ギルド前の実況と解説の熱気が絶好調に達し、拡声された声が都市中に響き渡る中。
「ちょっとエイナ!あの人って、エイナが担当している冒険者さんだよね!?ねえ!?」
『鏡』から目を離し、隣にいる
「……しゅごい……」
「エイナァー!?戻ってきてぇー!」
当の本人は、壊れたように同じ言葉を口にするだけだった。いつもの知性と理性に溢れる彼女に戻すため、ミィシャは手を振り上げた。
同時刻、【ロキ・ファミリア】
「アイズさんっ!見てください!あれです!あれが
『鏡』をビシッと指差し、肩をむんずと掴み、興奮した様子でアイズに顔を近づけるレフィーヤ。そんな彼女に対し、アイズは……
「……う、うん……凄いね」
「でしょう!」
普段の様子とのギャップにたじろぎながら、何とか頷く。
その反応に満足したのか、顔を再び『鏡』に向け、今度は大きな黄色い声をあげる。
「ここまで嬉しそうなレフィーヤを見るのは初めてかな」
「実際嬉しいんじゃろう。自分たちの伝説の存在が、目の前でこうして戦っておるのだからな?リヴェリア」
「ああ」
レフィーヤの興奮ぶりを見ながら、フィン、ガレス、リヴェリアの3人は落ち着いた様子で『鏡』に目を向ける。そこでは、蒼い光が、黄金の雷が、燃え盛る炎が敵を蹂躙していた。
「しかし凄まじいのう。蒼い光に雷、火炎をほぼ詠唱なしで放ってあの威力か」
「リヴェリア。もしもの話だけど……エルフの里がラキアの戦火に巻き込まれず研究が続けば、今頃どうなっていた?」
「そうだな……
「そう、だからこそ君達の研究が失われたことはとても惜しい一方で、とても嬉しいんだ」
かの魔法の長所は、必要な【ステイタス】さえ満たしていれば誰でも扱える。そう、
フィンの言葉の意味は、オラリオ暗黒期を知る者だけが理解できた。
「グレイさん。先程『魔剣』にヒビの入る音がしました」
「了解。『修理』」
シュリーム古城跡地を臨む平野。
俺とリューさんは、ひたすら砲撃を繰り返していた。
城壁は尽く粉砕され、砦も所々が消し飛び、城砦はボロボロになっていた。
そんな城砦の中庭に、深紫のドームが展開された。
「命さんの『魔法』が発動しましたか。これで残るは、
「そうだな」
俺は装備をいつもの鎧に変え、『重厚な聖堂騎士の大剣』と『聖堂騎士の大盾』を装備する。
リューさんと背中合わせで相手が復活しないか警戒しつつ、城砦に近づいていく。
そして城壁内部に足を踏み入れた瞬間、炎雷が空へと昇った。
「行きましょう、グレイさん」
「ああ。ベルの戦いを見届けないとな」
崩れた塔の瓦礫の上で、ベルとヒュアキントスの得物がぶつかり、火花があがる。
「──誰だっ、お前はっ!?」
別人のような動きで攻めてくるベルに、ヒュアキントスが吠える。
「私は、Lv.3だぞ!?」
次の瞬間、ベルの短剣──ヴェルフ入魂の一振り、《牛若丸弐式》が駆け抜け、ヒュアキントスの
ほぅ、Lv.3か。残念だが、ベルの
「うおおおおおおッ!?」
「っ!?」
ヒュアキントスは咆哮とともに足元へ短剣を振り下ろし、土煙を巻き起こす。ベルが素早く飛び退く中、ヒュアキントスも全力で後方へ下がった。
「──【我が名は愛、光の寵児。我が太陽に、この身を捧ぐ】!」
ベルとの距離を大きく離しながら、詠唱を開始した。
「【我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ】!」
させないとばかりにベルは《牛若丸》を鞘に戻し、左手を突き出した。
「【放つ火輪の一投──】!」
「【ファイアボルト】!」
速射性に秀でた速攻魔法がヒュアキントスに炸裂する。
しかし、ヒュアキントスはこれを耐え抜き、『魔法』制御の手綱を離さなかった。
「【──
瞠目し、直ぐに眦を吊り上げるベル。
速攻魔法の真骨頂で押し切ろうとする、が。
「やぁー!?」
瓦礫から飛び出してきた長髪の少女の体当たりを受け、射撃が阻害された。
「ベル様!」
今度は小柄な人影──リリが少女の体をはね飛ばし、そのままごろごろと地面にもつれあう。
「【アロ・ゼフュロス】!!」
「【ファイアボルト】!!」
そして、太陽の如く輝く大円盤がヒュアキントスの右手より放たれ、1歩遅れてベルの速攻魔法も放たれる。
2人の魔法が互いにぶつかりあい、円盤が炎雷を蹴散らした。速攻魔法の欠点である単発の威力の低さは、覆すことができなかった。
ベルはぎりぎりのところで円盤を回避するが、意思を持っているように円盤は大きな弧を描き、ベルのもとに進路を転ずる。
「【
ベルが再び躱そうとした瞬間、ヒュアキントスの呪文に呼応し、円盤が大爆発を起こした。
「ベル様!?」
爆煙を身に纏いながら瓦礫の上を何度も跳ね、血の粒を散らしながら転がっていく。
ベルは何とか勢いを止めて立ち上がるが、鎧を失った右肩がぴくりとも動かなかった。さっきの爆発で脱臼したようだ。
「もらったぞ!!」
鞘に収めていた短剣を再装備し、ヒュアキントスが突撃する。
そして剣尖が繰り出された瞬間、ベルは背中から地面に倒れ込んだ。
更に、その反動で両足を振り上げて短剣を弾き飛ばす。
ヒュアキントスが呆然とする中、ベルは後転の勢いに逆らわず立ち上がり、踵を地面に埋め──疾駆した。
「──ふッッ!!」
左手を握りしめ、突貫。
「うあああああああッッ!!」
「があっ!?」
突きの体勢により前のめりになったヒュアキントスの頬に、ベルの拳が振り抜かれた。
弾けるような拳打音とともに青年の体は地面を大きく跳ね、マントを巻き込みながら転がって行く。
30Mもの距離を行ったところで、ヒュアキントスは大の字になり、大空と太陽を仰いだ。
頬に殴打の跡を残し、白目を剝く体が、立ち上がることはなかった。
『戦闘終了~~~~~っ!?まさに、まさに
「じゃーん!どーだ、これが今日からボク達の
『おお~~~っ』
ヘスティア様が示す屋敷を見て、俺達は感嘆する。
見上げるほどの、3階建ての大きな邸宅。ヘスティア様曰く、中庭と回廊までも備えているらしい。敷地は背の高い鉄柵に囲まれており、花や庭木が植えられた広い前庭も備わっている。
早速命とヴェルフが興奮気味に懇願するが、ヘスティア様は手のひらを向けて「まあ待て待て」と鷹揚に頷いた。
「ようやく胸を張って【ファミリア】を名乗れるようになったんだ、先にエンブレムを決めようじゃないか」
ヘスティア様は画材と画板を取り出して絵を描き始める。
「じゃん!これが【ファミリア】のエンブレムだ!」
羊皮紙に描かれていたのは、重なり合う炎と鐘。それを囲むように、円が描かれていた。
炎は炉の女神であるヘスティア様、鐘はベルのことをそれぞれ表しているのだろう。じゃあ、この円は……?
「ヘスティア様、この円は一体……?」
「これかい?これは
え?俺?
「確かに、グレイさんってダンジョンに潜る時は必ず盾を持ってきますね」
「グレイ様と言ったら『鎧と盾』というイメージが強いですね」
「だな」
「言われてみれば」
ベルとリリの言葉に、ヴェルフと命が賛同する。
「ヘスティア様、これは……」
俺が羊皮紙から目を移すと、ヘスティア様は嬉しそうに微笑む。
「さぁ、皆。今日が本当の意味で、ボク達の【ファミリア】の門出だ」
グレイが序盤で使用した呪術について補足
・混沌の濁流:呪術版ソウルの奔流。イメージはデーモンの王子(うろ底)の熱線