闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
その
生まれて間もない私達は、最初にその背中と、燃え盛る火を目にする。
吸い寄せられるように。惹きつけられるように。1歩、また1歩と私達は足を進めた。
──お前達の目には、何が見える?──
そしてその背中の主は、私達が近くに来ると口を開いてそう訊ねた。
ある者は答えた。闇を照らし、空を斬り裂く雷が見えると。
ある者は答えた。命ある
ある者は答えた。厄災と恩恵を併せ持つ、混沌とした火が見えると。
そして、私は……
ギルドはこれについて箝口令を敷き、当事者である俺達にも口外するなと命じた。それこそ
更に、これの原因は『
一方で、ヘルメス様達は悲惨だった。
派閥の規模が大きい【ヘルメス・ファミリア】は結構な蓄えがあったらしく、俺達とは比べ物にならない額の金が請求された。その額にアスフィさんはため息をつき、ヘルメス様は真っ白に固まった。
あれから3日が経った今日、俺は──
「はーい。追加の皿入るよー」
「頑張るニャ~、鎧ゴリラ~」
「……」
──『豊穣の女主人』の厨房で、黙々と皿洗いに勤しんでいた。
どうもリューさんはミアさんに無断で、俺達の捜索に来たらしい。
そうとは知らず、店に顔を出しに来た俺は大変ご立腹な様子のミアさんに襟首を掴まれ、1日皿洗いを命じられた。一応賄いは出すし、報酬もちゃんと渡すということで、俺は従わざるをえなかった。……というか、断ったら殺される勢いだった。やはり女は恐ろしい。
「大丈夫ですか、グレイさん」
「……何とか頑張ってます」
「無理はよくありません。手伝いましょう」
不意に、リューさんが俺の隣に並んだ。
「すまない、手を貸してもらって」
「いえ、私も貴方に謝らなければなりません。どうしてもお聞きしたいことがあって、ミア母さんに頼んだのですから」
どういうことだ?
リューさんの手は山のように積まれる皿を洗っているが、時折視線がこっちに向けられている。
「アンドロメダが、リヴェリア様から聞いたそうです。貴方が、当代の『黒い鳥』だと」
『黒い鳥』?カラスの類か?
「ご存知ないのですか?」
「ああ」
「『黒い鳥』とは、
なるほど、あの時の【ロキ・ファミリア】のエルフ達の反応はそういうことだったのか。
しかし、何でそういう風に後世に語り継がれてしまったのかね?ただ助けたついでに少し助言をしただけなのに。
「貴方の師は、既に故人だと聞いています。そして、貴方は魔法の記されたスクロールと黒装束を師から受け継いだそうですね」
「そうだが、リューさんは何がしたいんだ?」
「私は……かつてオラリオを苦しめた
瞬間、リューさんの目に黒い炎が灯った気がした。
「復讐か」
「はい」
俺の問いに首肯すると、リューさんは断片的に語り始めた。
自分の所属していた【ファミリア】が、敵対していた【ファミリア】にダンジョンで罠に嵌められ、自分以外の団員は全滅したこと。生き残ってしまった自分は仲間の遺品を掻き集めてお墓を作ったこと。主神に全てを伝え、都市から逃したこと。激情に駆られ、件の【ファミリア】とそれへの関係を疑われるものを鏖殺したこと。その結果ギルドの
「ですが、奴等は生き残っていた。手段は不明ですが、このオラリオの何処かに身を潜めていた」
ぎり、と歯ぎしりをする。
彼女のその表情は、24階層でフィルヴィスが見せた表情と同じだった。
「私は力が欲しい。そして、今度こそ奴等を鏖殺したい。そのために、貴方が受け継いだ『魔法』を──」
「駄目だ」
「……そうですか」
俺が断ると、リューさんの耳が悲しそうに下がる。
「わかっていました。貴方なら、断るだろうと。復讐の片棒を担ぐようなことを嫌うだろうと。でも私は、誰かに打ち明けたかった。そして……誰かにこの感情を否定してほしかった」
「……違う。俺が否定したのは、復讐の片棒を担ぎたくないからじゃない。俺も似たようなことをしたからだ」
「え……?」
昔のことだ。1人の騎士が、1人の女を殺した。
ろくに言葉を交わすことはできなかったが、ヤツが彼女を殺したという事実が、俺は許せなかった。
だから殺した。
生きたまま、つま先から切り刻んでやった。メイスでぐちゃぐちゃに叩き潰し、砕いてやった。炎で骨の一欠片まで炙ってやった。
それを繰り返すうちに、ヤツは死んだ。
「復讐をやり遂げた先にあるのは『空虚』だけ。……そんなこと、もっと早く気づいておけば良かったよ」
「……」
「貴女もわかっているはずだ。なら、復讐なんてことを考えたり、実行しないことだ」
「そう、ですね……」
「……ん゛ん゛っ」
「「はっ!?」」
いつの間にか俺達の後ろに立っていたミアさんの咳払いに、思わずビクッとした。
「ったく、厨房の端っこでなに暗い話をしてんだいあんた達は。まあ、ちゃんと仕事はしているからまだマシだけどね」
ミアさんは9割ほど洗い終えて小さくなった皿の山を見て、首の後ろを掻く。
「そろそろ時間だから上がんな。残りはあたしらで片付けとくよ」
「わかりました。じゃあ、リューさん。また今度」
「ええ」
俺は手を振って厨房を後にし、裏口に出た。
「ほれ。これが報酬だよ」
そう言ってミアさんが俺に突き出したのは、酒の入った瓶だった。しかも未開封の。
「……これは?」
「半年前、試しに仕入れてみた『クワス』って酒なんだけど、誰も注文しなくてね。捨てるのももったいないから、あんたにやるよ」
「いいんですか?」
「あたしがいいって言ったからいいんだよ」
ここでは自分が
「ありがとうございます。それでは」
「ああ。気をつけて帰んな」
俺はミアさんに一礼し、【ヘスティア・ファミリア】の
「ふんふん、なるほど、喧嘩か~」
【ヘスティア・ファミリア】の
「ベル君が年相応にやんちゃで、ボクは嬉しいような、悲しいような……」
「きっとヴェルフ様の影響です!ヴェルフ様に会ってから、ベル様はどんどん性格が
「おいおい、それは言いがかりだろう」
「お2人はグレイ様の爪の垢を煎じて飲むべきです!」
反論するヴェルフに対してリリが吠え、言われたベルとヴェルフが仰け反る。
そのまま小言を言い終えて肩で息をするリリをどうどうと窘め、ヘスティア様も苦笑して話しかけた。
俺が『豊穣の女主人』で皿洗いに勤しんでいる間、ベル達は『
……開いていたんだが、客の
結果、ベルとヴェルフは【アポロン・ファミリア】の【
「でも、やっぱり喧嘩は良くないぜ?サポーター君の言う通り、しっかり怪我までしてるじゃないか」
「だって、あの人達っ、神様を馬鹿にしたんですよ!?」
おそらく、ベルがヘスティア様に反抗したのは初めてだろう。ヴェルフとリリもベルに目を向ける。
ベルが言わんとしていることはわかる。
自分を馬鹿にするならいくらでも我慢できる。だが、大切な人を馬鹿にされ、あまつさえ侮辱されるのは黙っていられない。連中は俺達に様々なものを与えてくれたヘスティア様に泥を投げつけてきたのだと。
瞳に力をこめるベルと黙って見つめ合っていたヘスティア様はソファから降り、ベルと目線の高さを合わせ、微笑む。
「君がボクのために怒ってくれるのはとても嬉しいよ。でも、それで君が危険な目に遭ってしまうのは、それ以上に悲しいな」
「……」
体を揺らすベルに、ヘスティア様は優しく語りかける。
「ベル君の気持ちはわかるよ。逆の立場だったら、ボクも火を吐くほど怒る。でもそれでボクが相手と喧嘩をして、ボコボコになって帰ってきたら、ベル君はどう思う?」
「……泣きたくなります」
「だろ?ボクも同じさ。少し不公平かもしれないけど、
そしてヘスティア様は、相好を崩した。
「今度は笑い飛ばしてやってくれよ。僕の神様はそんなことで一々怒るセコイやつじゃない、懐が広いんだ、ってね」
ヘスティア様の慈愛ある微笑みに、押し黙っていたベルは頷き、謝った。
俯いて約束するベルに、ヘスティア様は優しく微笑み、そっと頭を撫でた。
「そういえば、グレイ様のところには来なかったのですか?」
ベルの頭を撫でていたヘスティア様が何故か抱きつこうとしたのを後ろからリリが羽交い締めにして引き離すと、別行動だった俺のほうを心配してか、そう口にした。
「俺は店の厨房でずっと皿洗いをしていたからわからん。でも、そういうことが起きればミアさんが何か言うはずだから、それがなかったということは来なかったんじゃないかな。ただ……」
「ただ?」
「
「そうか……何もせず尾行しただけなのが余計に不気味だな」
「とりあえず、後で面倒なことにならないように主神同士で話をつけておくか。幸い、相手の【ファミリア】もわかっていることだし」
相手は太陽神アポロンが主神の【ファミリア】。
……凄く嫌な予感しかしない。
翌日。
「……さて、グレイ君。18階層でも言ったけど、とても重要な話がある」
ソファに座り、何時になく真剣な面持ちでそう言うヘスティア様。
ベルはギルドでエイナさんに現状の報告と今後の打ち合わせに向かい、俺とヘスティア様は
「グレイ君……いや、
「ッ!?」
「それとも、
「……」
「言っておくけど、惚けるなんて無駄だよ。下界の
隠しても無駄だと悟り、俺は大きく息を吐く。
「薪の王でも闇の王でも好きな方で構わん。……何時、どうやって俺の正体に気づいた?」
「18階層で篝火にあたっていただろう?それを見てピンときたのさ。篝火に刺さっていた剣と、その時の君の後ろ姿からね」
「そうか」
やってしまった。まさか篝火にあたって寝ていたところを見られてしまったか。
「一瞬驚いたけど、よく考えればヒントはあったんだね。異常なまでの【ステイタス】の伸びの遅さ、【残り火】にあった『王の力』……気づけなかった自分が憎いよ」
やれやれと肩を竦め、首を横に振る。
「さて、問題はこれを他に知っている神がいるかどうかだけど……他には誰がいる?」
「今日もバベルの最上階から
「……フレイヤか」
「よりにもよってあの
「それで、これからどうする?ヘファイストスやタケミカヅチ、ミアハにこのことを話すか?」
「いや、話すのはもっと【ファミリア】の規模を大きくしてからにするよ。今このことを話したら、間違いなく抗争が起きて袋叩きにあって潰される。特に、昨日一悶着あったアポロンにはいい口実になる」
「……わかった。今の俺はお前の【ファミリア】の構成員だ。お前の判断に任せよう」
「任せたまえ!」
ヘスティアは自信に満ちた表情で胸を張り、どんと胸を叩く。……力を入れすぎたのか、打ちどころが悪かったのか、そのまま蹲ってしまった。期待から一転して不安になってきたぞ。
更に不安を後押しするように、バベルから帰ってきたベルの手には、【アポロン・ファミリア】主催の『宴』の招待状が握られていた。
次回、『神の宴』です。オリキャラ(女性)が1人出ます。