闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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原作6巻始まります


第37話

その背中(こうけい)を覚えている。

生まれて間もない私達は、最初にその背中と、燃え盛る火を目にする。

吸い寄せられるように。惹きつけられるように。1歩、また1歩と私達は足を進めた。

 

──お前達の目には、何が見える?──

 

そしてその背中の主は、私達が近くに来ると口を開いてそう訊ねた。

ある者は答えた。闇を照らし、空を斬り裂く雷が見えると。

ある者は答えた。命ある生物(もの)全てに等しく与えられる、死が見えると。

ある者は答えた。厄災と恩恵を併せ持つ、混沌とした火が見えると。

そして、私は……

 

 

 

 

安全階層(セーフティポイント)──18階層に階層主(ゴライアス)が出現するという異常事態(イレギュラー)

ギルドはこれについて箝口令を敷き、当事者である俺達にも口外するなと命じた。それこそ罰則(ペナルティ)も厭わないとばかりに。

更に、これの原因は『神災(じんさい)』──ヘスティア様とヘルメス様にあると断定され、【ファミリア】の資産の半分が罰金として徴収された。俺達の【ファミリア】は発展途上の零細ということもあって数十万ほどで済んだ(それでも大金には変わらない)。階層主のドロップアイテムを売れば何とか取り戻す目処はある。涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら、金貨の詰まった大袋をギルドに提出するヘスティア様の尊顔がまだ頭から離れない。

一方で、ヘルメス様達は悲惨だった。

派閥の規模が大きい【ヘルメス・ファミリア】は結構な蓄えがあったらしく、俺達とは比べ物にならない額の金が請求された。その額にアスフィさんはため息をつき、ヘルメス様は真っ白に固まった。

あれから3日が経った今日、俺は──

 

「はーい。追加の皿入るよー」

「頑張るニャ~、鎧ゴリラ~」

「……」

 

──『豊穣の女主人』の厨房で、黙々と皿洗いに勤しんでいた。

どうもリューさんはミアさんに無断で、俺達の捜索に来たらしい。

そうとは知らず、店に顔を出しに来た俺は大変ご立腹な様子のミアさんに襟首を掴まれ、1日皿洗いを命じられた。一応賄いは出すし、報酬もちゃんと渡すということで、俺は従わざるをえなかった。……というか、断ったら殺される勢いだった。やはり女は恐ろしい。

 

「大丈夫ですか、グレイさん」

「……何とか頑張ってます」

「無理はよくありません。手伝いましょう」

 

不意に、リューさんが俺の隣に並んだ。

 

「すまない、手を貸してもらって」

「いえ、私も貴方に謝らなければなりません。どうしてもお聞きしたいことがあって、ミア母さんに頼んだのですから」

 

どういうことだ?

リューさんの手は山のように積まれる皿を洗っているが、時折視線がこっちに向けられている。

 

「アンドロメダが、リヴェリア様から聞いたそうです。貴方が、当代の『黒い鳥』だと」

 

『黒い鳥』?カラスの類か?

 

「ご存知ないのですか?」

「ああ」

「『黒い鳥』とは、私達(エルフ)に伝わる伝説です。遥か昔、エルフが研究していた古の魔法を手足のように操り、モンスターの群れを撃退した1人のヒューマン。身に纏う黒装束と、鳥のように世界を自由に旅していることから、私達は彼をそう呼んでいます」

 

なるほど、あの時の【ロキ・ファミリア】のエルフ達の反応はそういうことだったのか。

しかし、何でそういう風に後世に語り継がれてしまったのかね?ただ助けたついでに少し助言をしただけなのに。

 

「貴方の師は、既に故人だと聞いています。そして、貴方は魔法の記されたスクロールと黒装束を師から受け継いだそうですね」

「そうだが、リューさんは何がしたいんだ?」

「私は……かつてオラリオを苦しめた闇派閥(イヴィルス)の残党を、1人残らず殺したい」

 

瞬間、リューさんの目に黒い炎が灯った気がした。

 

「復讐か」

「はい」

 

俺の問いに首肯すると、リューさんは断片的に語り始めた。

自分の所属していた【ファミリア】が、敵対していた【ファミリア】にダンジョンで罠に嵌められ、自分以外の団員は全滅したこと。生き残ってしまった自分は仲間の遺品を掻き集めてお墓を作ったこと。主神に全てを伝え、都市から逃したこと。激情に駆られ、件の【ファミリア】とそれへの関係を疑われるものを鏖殺したこと。その結果ギルドの要注意人物一覧(ブラックリスト)に載ったこと。

 

「ですが、奴等は生き残っていた。手段は不明ですが、このオラリオの何処かに身を潜めていた」

 

ぎり、と歯ぎしりをする。

彼女のその表情は、24階層でフィルヴィスが見せた表情と同じだった。

 

「私は力が欲しい。そして、今度こそ奴等を鏖殺したい。そのために、貴方が受け継いだ『魔法』を──」

「駄目だ」

「……そうですか」

 

俺が断ると、リューさんの耳が悲しそうに下がる。

 

「わかっていました。貴方なら、断るだろうと。復讐の片棒を担ぐようなことを嫌うだろうと。でも私は、誰かに打ち明けたかった。そして……誰かにこの感情を否定してほしかった」

「……違う。俺が否定したのは、復讐の片棒を担ぎたくないからじゃない。俺も似たようなことをしたからだ」

「え……?」

 

昔のことだ。1人の騎士が、1人の女を殺した。

ろくに言葉を交わすことはできなかったが、ヤツが彼女を殺したという事実が、俺は許せなかった。

だから殺した。

生きたまま、つま先から切り刻んでやった。メイスでぐちゃぐちゃに叩き潰し、砕いてやった。炎で骨の一欠片まで炙ってやった。

それを繰り返すうちに、ヤツは死んだ。

 

「復讐をやり遂げた先にあるのは『空虚』だけ。……そんなこと、もっと早く気づいておけば良かったよ」

「……」

「貴女もわかっているはずだ。なら、復讐なんてことを考えたり、実行しないことだ」

「そう、ですね……」

「……ん゛ん゛っ」

「「はっ!?」」

 

いつの間にか俺達の後ろに立っていたミアさんの咳払いに、思わずビクッとした。

 

「ったく、厨房の端っこでなに暗い話をしてんだいあんた達は。まあ、ちゃんと仕事はしているからまだマシだけどね」

 

ミアさんは9割ほど洗い終えて小さくなった皿の山を見て、首の後ろを掻く。

 

「そろそろ時間だから上がんな。残りはあたしらで片付けとくよ」

「わかりました。じゃあ、リューさん。また今度」

「ええ」

 

俺は手を振って厨房を後にし、裏口に出た。

 

「ほれ。これが報酬だよ」

 

そう言ってミアさんが俺に突き出したのは、酒の入った瓶だった。しかも未開封の。

 

「……これは?」

「半年前、試しに仕入れてみた『クワス』って酒なんだけど、誰も注文しなくてね。捨てるのももったいないから、あんたにやるよ」

「いいんですか?」

「あたしがいいって言ったからいいんだよ」

 

ここでは自分が(ルール)だと言うように、ミアさんはニヤリと笑う。

 

「ありがとうございます。それでは」

「ああ。気をつけて帰んな」

 

俺はミアさんに一礼し、【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)に向かった。

 

 

 

 

「ふんふん、なるほど、喧嘩か~」

 

【ヘスティア・ファミリア】の本拠地(ホーム)である教会の隠し部屋。ソファの上に座り、間延びした声を出すヘスティア様と、その隣で顔を真っ赤にして大層お冠な様子のリリ。彼女たちの前でベルとヴェルフは並んで正座し、4人の間では俺が設置した『ぬくもりの火』が光り輝いている。

 

「ベル君が年相応にやんちゃで、ボクは嬉しいような、悲しいような……」

「きっとヴェルフ様の影響です!ヴェルフ様に会ってから、ベル様はどんどん性格が冒険者気質(らんぼう)になっています!」

「おいおい、それは言いがかりだろう」

「お2人はグレイ様の爪の垢を煎じて飲むべきです!」

 

反論するヴェルフに対してリリが吠え、言われたベルとヴェルフが仰け反る。

そのまま小言を言い終えて肩で息をするリリをどうどうと窘め、ヘスティア様も苦笑して話しかけた。

俺が『豊穣の女主人』で皿洗いに勤しんでいる間、ベル達は『焰蜂亭(ひばちてい)』でヴェルフの【ランクアップ】の祝賀会を開いていた。

……開いていたんだが、客の小人族(パルゥム)がヘスティア様を侮辱する言葉を口にしてベルが激怒。そして、ヴェルフの足が滑って小人族(パルゥム)の顔面に直撃。それを皮切りに大乱闘が起きたそうだ。

結果、ベルとヴェルフは【アポロン・ファミリア】の【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】ヒュアキントスからの反撃を受けてこの通りボコボコに。更に、偶然居合わせたベート・ローガとヒュアキントスが睨み合い、興が削がれたとヒュアキントスが酒場を去ったらしい。

 

「でも、やっぱり喧嘩は良くないぜ?サポーター君の言う通り、しっかり怪我までしてるじゃないか」

「だって、あの人達っ、神様を馬鹿にしたんですよ!?」

 

おそらく、ベルがヘスティア様に反抗したのは初めてだろう。ヴェルフとリリもベルに目を向ける。

ベルが言わんとしていることはわかる。

自分を馬鹿にするならいくらでも我慢できる。だが、大切な人を馬鹿にされ、あまつさえ侮辱されるのは黙っていられない。連中は俺達に様々なものを与えてくれたヘスティア様に泥を投げつけてきたのだと。

瞳に力をこめるベルと黙って見つめ合っていたヘスティア様はソファから降り、ベルと目線の高さを合わせ、微笑む。

 

「君がボクのために怒ってくれるのはとても嬉しいよ。でも、それで君が危険な目に遭ってしまうのは、それ以上に悲しいな」

「……」

 

体を揺らすベルに、ヘスティア様は優しく語りかける。

 

「ベル君の気持ちはわかるよ。逆の立場だったら、ボクも火を吐くほど怒る。でもそれでボクが相手と喧嘩をして、ボコボコになって帰ってきたら、ベル君はどう思う?」

「……泣きたくなります」

「だろ?ボクも同じさ。少し不公平かもしれないけど、主神(ボク)を馬鹿にされたって腹を立てないでくれよ。神ってやつは、子の息災を何よりも願っているんだ」

 

そしてヘスティア様は、相好を崩した。

 

「今度は笑い飛ばしてやってくれよ。僕の神様はそんなことで一々怒るセコイやつじゃない、懐が広いんだ、ってね」

 

ヘスティア様の慈愛ある微笑みに、押し黙っていたベルは頷き、謝った。

俯いて約束するベルに、ヘスティア様は優しく微笑み、そっと頭を撫でた。

 

「そういえば、グレイ様のところには来なかったのですか?」

 

ベルの頭を撫でていたヘスティア様が何故か抱きつこうとしたのを後ろからリリが羽交い締めにして引き離すと、別行動だった俺のほうを心配してか、そう口にした。

 

「俺は店の厨房でずっと皿洗いをしていたからわからん。でも、そういうことが起きればミアさんが何か言うはずだから、それがなかったということは来なかったんじゃないかな。ただ……」

「ただ?」

本拠地(ホーム)に帰ってくる途中、誰かに見られてるような感じはしたな」

「そうか……何もせず尾行しただけなのが余計に不気味だな」

「とりあえず、後で面倒なことにならないように主神同士で話をつけておくか。幸い、相手の【ファミリア】もわかっていることだし」

 

相手は太陽神アポロンが主神の【ファミリア】。

……凄く嫌な予感しかしない。

 

 

 

 

翌日。

 

「……さて、グレイ君。18階層でも言ったけど、とても重要な話がある」

 

ソファに座り、何時になく真剣な面持ちでそう言うヘスティア様。

ベルはギルドでエイナさんに現状の報告と今後の打ち合わせに向かい、俺とヘスティア様は本拠地(ホーム)に残っていた。

 

「グレイ君……いや、薪の王(・・・)

「ッ!?」

「それとも、闇の王(・・・)のほうがいいかな?」

「……」

「言っておくけど、惚けるなんて無駄だよ。下界の人類(こどもたち)神々(ボクら)に嘘をつけないからね」

 

隠しても無駄だと悟り、俺は大きく息を吐く。

 

「薪の王でも闇の王でも好きな方で構わん。……何時、どうやって俺の正体に気づいた?」

「18階層で篝火にあたっていただろう?それを見てピンときたのさ。篝火に刺さっていた剣と、その時の君の後ろ姿からね」

「そうか」

 

やってしまった。まさか篝火にあたって寝ていたところを見られてしまったか。

 

「一瞬驚いたけど、よく考えればヒントはあったんだね。異常なまでの【ステイタス】の伸びの遅さ、【残り火】にあった『王の力』……気づけなかった自分が憎いよ」

 

やれやれと肩を竦め、首を横に振る。

 

「さて、問題はこれを他に知っている神がいるかどうかだけど……他には誰がいる?」

「今日もバベルの最上階から都市(オラリオ)を見渡しているよ」

「……フレイヤか」

 

「よりにもよってあの女神(おんな)にバレたか」と、ヘスティアはがっくりと項垂れる。

 

「それで、これからどうする?ヘファイストスやタケミカヅチ、ミアハにこのことを話すか?」

「いや、話すのはもっと【ファミリア】の規模を大きくしてからにするよ。今このことを話したら、間違いなく抗争が起きて袋叩きにあって潰される。特に、昨日一悶着あったアポロンにはいい口実になる」

「……わかった。今の俺はお前の【ファミリア】の構成員だ。お前の判断に任せよう」

「任せたまえ!」

 

ヘスティアは自信に満ちた表情で胸を張り、どんと胸を叩く。……力を入れすぎたのか、打ちどころが悪かったのか、そのまま蹲ってしまった。期待から一転して不安になってきたぞ。

更に不安を後押しするように、バベルから帰ってきたベルの手には、【アポロン・ファミリア】主催の『宴』の招待状が握られていた。




次回、『神の宴』です。オリキャラ(女性)が1人出ます。
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