闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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対黒いゴライアス後半戦、始まります。


第36話

「くそっ──!」

 

巨人に吹き飛ばされ、転がるベルを俺は抱え、戦域外に離脱。階層の南部にある中央樹と補給拠点である丘の中間の草原にベルを下ろす。

 

「クラネルさん、クラネルさんっ!返事をなさい!」

 

仰向けに寝かされたベルにリューさんは呼びかけ、俺は傷の具合を確かめる。

両手足、肋の骨数本が折れている。牙の破片で全身は裂傷まみれ。胸甲(ブレストプレート)を始めとした軽装も半壊状態。

 

「『太陽の光の癒やし』」

 

俺は『太陽のタリスマン』を握り、ベルの傷を癒やす。体への負担が軽い『ぬくもりの火』で治したいところだが、時間がない。それに、治る反動で目を覚ますかもしれない。

 

「ベル君!」

「ヘスティア様」

「グレイ君、エルフ君、ベル君の状態は!?」

「傷は俺の『奇跡』で治療しました。息もあります。けど、意識が戻ってません」

 

『奇跡』と聞いた瞬間、リューさんの耳がピクリと動き、何か俺に尋ねようとするが──

 

「リオン、早く戻ってきなさい!」

 

遠方からのアスフィの叫び声に遮られた。

 

「……エルフ君、グレイ君、行ってくれ。少しでも長く、時間を稼いでくれ。ベル君は絶対に起きる。起きて、あのモンスターを倒す」

 

「ベル君ならそれができる」そう瞳で訴えるヘスティア様を見つめ返し、俺達は戦場へ赴いた。

 

 

 

 

ゴライアスが猛り狂う中央地帯の主戦場から南東、大草原と森の境界線。

暴虐の限りをつくし、誰にも止められない巨人。倒せども倒せども押し寄せてくるモンスター。

光の見えない暗澹極まる戦況に、1人、また1人と声を上げ、持ち場を離れようとする。

 

「……この程度か」

 

不意に、声がした。

声の主である鎧を纏った男はモンスターを叩き潰し、冒険者達を見渡す。そしてその男は、肩を落とし首を横に振った。

 

18階層(ここ)に来るだけの実力があるからと期待していたが……揃いも揃って玉無しの腰抜けとはね」

 

その一言が、彼等のプライドを刺激した。

 

「尻尾を巻いて逃げるがよいよ、荒くれ共。戦場に臆病者は不似合いだ」

 

煽るようなその口調に、彼等の怒りが爆発した。

 

「上等だあああああ!」

「新米がナマ言ってんじゃねえぞゴラアアア!」

 

怒号とともに冒険者達は立ち上がり、襲い来るモンスターを迎撃する。

モンスターの群れを殲滅し、次に備えて身構えると──鐘の音が、鳴り響いてきた。

高く、遥か頭上にまで昇る、壮大な大鐘楼(グランドベル)の音色。

全ての者の耳と胸に響く力強い響きに、冒険者達は誰もが時を止め、目を見開く。

振り向いた南の方角、1人の冒険者と、構えた漆黒の大剣に収束される眩い光。彼等の瞳にもその白髪の少年が映り込む。

言葉は要らなかった。

培われた冒険者の直感が、そこに秘められた一筋の希望(ひかり)を見出す。

 

「行くぞてめえらああああああ!突っ込め、突っ込めええええええ!」

 

モルドの咆哮とともに、全冒険者が突貫する。

脅威に気づいたゴライアスの叫びに呼応するモンスターを、彼に近づけさせまいと、雄叫びを上げた怪物達に斬りかかった。

 

 

 

 

『オオオオオオオオッ!!』

 

鳴り響く大鐘楼(グランドベル)の音に、ゴライアスもまた前進を開始した。

唸り声でモンスターの群れを呼び寄せ、たった1人の少年目掛けて行軍を始めた。

 

「ゴライアスが、クラネルさんを『敵』と認めたようですね」

「死守します。彼のもとには近づけさせない」

 

強い声音と意志をあらわにし、リューは疾走した。

こちらを見向きもせず、跳ねるように走るゴライアス。凄まじい音と風を伴う巨人の猛走に臆することなく突っ込み、足が地面に設置する瞬間、躊躇なく膝を叩いた。

姿勢が不安定な走行中への奇襲──巨体ゆえに重心がぶれやすい体を支えていた短足(あし)はあっさりと均衡を失い、ゴライアスは驚愕しながら草原に倒れた。

千載一遇の好機を逃さないとばかりに、アスフィの短剣とリューの木刀が高速で打ち込まれる。

ゴライアスが当初の目的を忘れ、煩わしい虫を撃ち落とそうと『咆哮(ハウル)』をしたその時。

 

「『暗月の矢雨』」

「「っ!?」」

 

アスフィとリューは、直感から後退した。

次の瞬間、無数の青紫色の矢が巨人の体に突き刺さった。

振り向いてみれば、いつの間にかすぐ近くに来ていたグレイが左手に六角形の盾を握り、立っていた。

 

「すまない、遅れた」

「いいえ。グレイさんはそのまま援護をお願いします」

「わかった」

 

首肯し、グレイが右手に巨大なメイスを握ると、リューは詠唱を始めた。

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」

 

高速戦闘下における『平行詠唱』

 

「【愚かな我が声に応じ、今一度の星火の加護を。汝を見捨てし我に光の慈悲を】」

 

『魔法』の発動に求められる高い集中力と正確な詠唱。出力に比例して詠唱文は長くなり、高度な制御が求められる。故に魔道士と呼ばれる者は例外なく足を止め、詠唱のみに専念し、強力な魔法を準備する。

しかし、リューは詠唱と戦闘を両立させていた。集中を乱せば魔力暴発(イグニス・ファトゥス)が起こり得る中、階層主を相手に攻撃・移動・回避・詠唱を高速で同時に展開させていた。

 

「【掛けまくも畏き──】」

己を律する強靭な精神と胆気。そしてそれに伴う白兵戦と詠唱の技量に命は遥かな高みを見、己も負けじと詠唱を始める。

 

「【いかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ、尊き天の導きよ。卑小のこの身に巍然たる御身の神力を】」

 

命、そしてリューの詠唱が進められていく最中。

地に膝をついたゴライアスが、その重い腰を上げる。

 

「『雷の杭』!」

「あと少しくらい大人しくしなさい!」

 

頭が冷えたのか、ベルのことを思い出したのか、再び進軍を開始しようとする巨人の足の甲に、グレイは雷撃とメイスを叩きつける。

 

「衆目の前では使いたくなかったのですが……」

 

覚悟をきめたのか、アスフィは履いている(サンダル)をそっと撫でる。

 

「──『タラリア』」

 

(サンダル)に巻き付くように備わっていた金の翼の装飾が命を吹き込まれたように解け、二翼一対、計4枚の翼を左右の足に広げ、アスフィは飛翔した。

純白のマントを翻し、鳥のように大きく弧を描いた彼女は、ゴライアスの顔面と肉薄した。

左逆手の短剣を振り鳴らし一閃。

 

『アアアアアアッ!?』

 

赤眼に吸い込まれた斬撃に、巨人が絶叫をあげる。

 

「【──(きた)れ、さすらう風、流浪の旅人(ともがら)。空を渡り荒野を駆け、何者よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】!」

「グレイ!離れなさい!」

 

アスフィの指示を受け、グレイは巨人の足元から全速力で離脱する。

 

「【ルミノス・ウィンド】!」

 

緑風を纏った無数の大光玉。リューの周囲から生まれ、一斉砲火された星屑の魔法がゴライアスに次々と叩き込まれる。その黒い体皮を破り、夥しい閃光を連鎖させた。

 

「【天より(いた)り、地を統べよ──神武闘征】【フツノミタマ】!!」

 

畳み掛けるように、命が魔法を完成させた。

ゴライアスの直上、一振りの光剣が出現し、直下する。

同時に、地上に発生する複数の同心円。

そして深紫の光剣が巨人の体を通り抜け、円中心に突き刺さった瞬間、重力の檻が発生した。

しかし、ゴライアスはその怪力を以て、重力の檻を突破しようと身を持ち上げていく。

 

「お前らぁ!死にたくなかったらそこをどけええええええ!!」

 

巨人(ゴライアス)が檻を破ろうと両手を結界の壁に突き入れた瞬間、真紅の長剣を背負ったヴェルフが先頭に進み出た。

相対するゴライアスに、両手で握った長剣を大上段に構える。

そして、その1撃の為につけた真名()を、ヴェルフは叫んだ。

 

「火月ぃいいいいいい!!」

 

その瞬間、巨大な炎流が迸り、ゴライアスを飲み込んだ。

 

『────ッ!?』

 

喉を焼かれ、肺を焼かれ、声にならない悲鳴を上げながら、ゴライアスの体が焼かれる。

自己再生など追いつかない。治癒された端から炎が焼き尽くし、魔力を奪う。

かつて海を焼き払ったと言われた伝説の魔剣(いちげき)は、役目を終えたと告げるように砕け散った。

 

「──みんな、道を開けろぉおおおおお!!」

 

ヘスティアの号令が戦いの終幕(フィナーレ)を告げ、それとともにベルが地を蹴り、大草原を駆け抜ける。

白い光を帯びる黒大剣を構え、大鐘楼(グランドベル)の音色を高らかに響かせながら、視線の先の光景へ、赤く燃える巨人の怪物に向かって疾駆する。

 

「あああああああああああああッッ!!」

『オオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

巨人の豪腕と、少年の光剣が交差し、純白の極光を放つ。

ゴライアスの雄叫びをかき消すベルの咆哮、そして凄まじい轟音。

光が視覚を、音が聴覚を数瞬奪った後、辺りに残っていたのは、……決着の静けさだった。

視覚を回復した誰かから目を開けると、そこには、右腕と上半身を失った敗者(ゴライアス)の体が立っていた。

地面に落ちた左腕と下半身が、彫像のようにその場で静止している。

消失した剣身の断面から白煙を巻き上げる黒大剣。それを振り抜いた姿勢で固まっているのは、勝者(ベル)だった。

その光景に、誰もが何も言わず、しばし立ち尽くしていた。

 

「……消し飛ばし、やがった」

 

呆然と零れ落ちたヴェルフの呟きを契機に、全ての時の流れが動き出す。

固まっていたベルは片膝をつき、剣身のない大剣を杖のように草原に突き刺す。そして、ゴライアスの下半身と左腕が灰へと変わっていく。

上半身ごと魔石を失った体は時間をかけて大量の灰となり、その上にドロップアイテム『ゴライアスの硬皮』が残された。

 

 

 

 

「ああ……ああ、嗚呼!素晴らしいっ!」

 

ヘスティア達が飛び出していった南の草原。

1人取り残されていたヘルメスは、大歓声の中心にいるベルを真っ直ぐ見つめ、その橙黄色の瞳を爛々と輝かせた。

 

「見たぞ!このヘルメスが(しか)と見たぞ!貴方の孫を!貴方の置き土産を!」

 

ここにいない誰かに声を飛ばすように、興奮に身を委ねる。

曰く、意気地と根気はある。しかし、素質がない。およそ大成する器ではないと。

 

「馬鹿なことを言うな、貴方の目もとうとう腐ったか!?それともあの人の言葉を忘れたか!?」

 

曰く、戦いこそが人類(にんげん)の可能性であると。

大仰に手を振り、それを体現した眼の前の光景を示す。

 

「喜べ大神(ゼウス)!貴方の義孫(まご)は本物だ!貴方の【ファミリア】が遺した、最後の英雄(ラスト・ヒーロー)だ!」

 

少年の示した可能性──英雄になる素質にヘルメスは歓喜し、興奮のままに告げる。

 

「動く!動くぞ!10年後か、5年後か、それとも1年後か……否!明日かもしれない!この場所で、このオラリオの地で、時代を揺るがす何かが起きる!」

 

それは、神である彼の直感。

 

「見守る、見守るぞ!必ずやこの眼で見届けてみせる!歴史に名を刻むであろう大事を、英雄達の行く末を、彼等の生と死を!──神愛(しんあい)なる彼等が紡ぐ、【眷属の物語(ファミリア・ミィス)】を!」




次回、原作6巻突入します。
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