「自覚のない加害者」という誤解─パワハラ・モラハラ加害者の脳内で何が起きているのか
「うちの上司、自分がパワハラしてる自覚がないんです」
カウンセリングの現場で、被害者の方からこうした言葉を何度も聞いてきました。確かに、加害者本人に「あなたの行為はハラスメントです」と伝えても、彼ら・彼女ら(以後「彼ら」と表記)は決まって「そんなつもりはなかった」「誤解だ」と否定します。この反応を見て、多くの人は「加害者は自覚がないのだ」と理解します。
しかし、カウンセラーとして様々なハラスメント事例に向き合ってきた経験から、私はこう断言します。彼らは「自覚できない」のではなく、「自覚を拒絶する」のです。
そして、その拒絶は意志や選択の問題ですらありません。彼らの認知機能そのものが、自分の非を認識することを根本的に不可能にしているのです。これは性格の問題でも、教育の問題でもありません。彼らの脳内で起きている認知プロセスの問題なのです。
自覚を促す行為は、彼らにとって「攻撃」でしかない
パワハラやモラハラの加害者に、その行為を指摘するとどうなるか。あなたも経験があるかもしれません。
「あなたの言い方は、相手を傷つけていますよ」
この一言が、彼らにはどう聞こえるのか。私たちが想像するような「気づき」や「反省」のきっかけとして受け取られることは、まずありません。彼らの脳内では、この言葉は瞬時に「自分への攻撃」として処理されます。
あなたが善意で伝えた指摘も、人事部からの公式な注意も、同僚からの心配の声も、全て同じです。彼らにとって、自分の行為に疑問を投げかけるあらゆる声は、自分という存在そのものを否定する攻撃として認識されるのです。
だから彼らは反撃します。「自分は正しい」を証明するために、あらゆる言い訳を並べ立てます。論点をずらし、責任を転嫁し、時には逆に相手を攻撃します。それは自分を守るための、必死の防衛反応なのです。
しかしここで理解すべき重要な点があります。これは意図的な嘘や演技ではありません。彼らの認知システムが、本当にそう解釈しているのです。彼らにとって、それは「攻撃から身を守る正当な反応」であり、「誤解を解くための説明」なのです。
「もしかして自分も?」という発想が、脳の機能として存在しない
健全な自己認識を持つ人間は、誰でも時々こう考えます。
「もしかしたら、自分の言い方がきつかったかな」
「あの対応は、相手を傷つけたかもしれない」
「自分にも非があったかもしれない」
この「もしかして」という思考は、自己を客観視する能力の表れです。自分の行動を一歩引いた位置から眺め、他者の視点を想像し、自分の非を想定する。これは人間が社会の中で生きていくために不可欠な、高度な認知機能です。
しかし、パワハラ・モラハラの加害者には、この「もしかして」が存在しません。より正確に言えば、その思考回路が機能していないのです。
彼らの思考プロセスは、常に「自分は正しい」という結論が最初に確定しています。そこから逆算して、なぜ自分が正しいのかを説明する理由を探すのです。結論ありきの思考です。
だから、どんなに周囲が指摘しても、どんなに証拠を突きつけても、彼らの中では「自分は正しい」という前提が揺らぐことはありません。揺らぎようがないのです。それは彼らの認知システムの根幹に組み込まれた、変更不可能な設定なのですから。
これは頑固さや自信過剰とは本質的に異なります。頑固な人でも、十分な証拠や説得があれば考えを変えることはあります。しかし加害者は違います。彼らにとって「自分が間違っている可能性」という概念そのものが、脳内に存在しないのです。
「自分は違う」からしか、思考が始まらない
ここで、加害者の思考パターンを具体的に見ていきましょう。
例えば、部下のAさんが上司Bに「課長の言い方が厳しすぎて、辛いです」と訴えたとします。
健全な思考を持つ上司なら、まずこう考えます。「そうか、Aさんはそう感じているのか。自分の言い方に問題があったかもしれない。どの部分が厳しすぎたのだろう」。ここから対話が始まります。
しかし、パワハラ・モラハラ加害者の思考は全く異なります。
Aさんの訴えを聞いた瞬間、彼らの脳内では「自分は悪くない」という結論が0.1秒で確定します。そこから思考が始まるのです。
「自分は悪くない。ではなぜAは文句を言っているのか。Aが弱すぎるからだ」
「自分は悪くない。ではなぜAは傷ついたと言うのか。Aが被害者意識を持ちすぎているからだ」
「自分は悪くない。では自分の言い方の何が問題なのか。いや、問題はない。Aの受け取り方が間違っているのだ」
このように、彼らの思考は常に「自分は違う」「自分は悪くない」という固定された前提から出発します。そして、その前提を正当化するための理由を後付けで探していくのです。
これは意識的な操作ではありません。彼らの脳は本当にそのように機能しているのです。自動的に、無意識に、瞬時に。だからこそ、彼らの反応は驚くほど速く、一貫しています。
全ての言い訳は「自分は正しい」を証明するためだけに存在する
加害者と対峙したことがある人なら、彼らの言い訳のパターンに気づいているかもしれません。
「あのときは忙しかったから」
「相手が先に失礼な態度を取ったから」
「みんなそうやって育ってきたから」
「業界的にそれが普通だから」
「結果を出すために必要だったから」
「本人のためを思って言ったのに」
「誤解されただけで、そんなつもりはなかった」
これらの言い訳に共通しているのは、全て「だから自分は悪くない」という結論に直結している点です。彼らの言い分の大半は、この一点のみに集中しています。
注目すべきは、彼らが決して「では、どうすればよかったのか」を考えないことです。建設的な改善案を提示することはありません。なぜなら、改善が必要だということは、現状に問題があったことを認めることになるからです。
彼らが費やす膨大なエネルギーは、全て「自分は間違っていない」を立証することだけに使われます。論理的整合性も、事実関係も、相手の気持ちも、関係ありません。ただ「自分は正しい」という結論を守ることが、彼らの最優先事項なのです。
そしてこれは、彼らにとって生存戦略なのです。「自分が悪い」を認めることは、彼らにとって自己の崩壊を意味します。だから、どんな矛盾があろうと、どんなに不合理であろうと、彼らは「自分は正しい」にしがみつき続けるしかないのです。
指摘への反応パターンは、驚くほど画一的
ハラスメント加害者への指摘に対する反応は、個人差があるように見えて、実は驚くほどパターン化されています。彼らの脳の防衛システムが自動的に発動させる、定型的な反応なのです。
否定型:「そんなことは言っていない」「そんなつもりはなかった」「誤解だ」
これは最も基本的な反応です。事実そのものを否定することで、自分の正当性を守ろうとします。たとえ複数の証人がいても、録音があっても、彼らは「そうは言っていない」と言い張ることがあります。彼らの記憶は、都合よく書き換えられているのです。
状況依存型:「あのときは特別な事情があった」「忙しかったから」「ストレスが溜まっていた」
状況を言い訳にすることで、自分の行為を正当化しようとします。しかし重要なのは、彼らが同じ状況下で他者が同じ行為をした場合は決して許さないということです。ルールは他者に厳しく、自分に甘い。それが彼らの一貫したスタンスです。
相手帰責型:「相手の態度が悪かったから」「相手が先に失礼なことをした」「あいつが悪い」
自分の行為の原因を相手に押し付けることで、自分の正当性を主張します。「相手がこうしたから、自分はこうせざるを得なかった」という論理です。しかしそこには、自分の行動を自分でコントロールするという発想がありません。
社会規範型:「これが普通だ」「みんなやっている」「昔からこうだ」「業界の常識だ」
社会や集団の規範を持ち出すことで、自分の行為を正当化します。しかし彼らが言う「普通」は、往々にして彼らの都合のいい解釈でしかありません。本当の社会規範とは乖離していることがほとんどです。
善意強調型:「本人のためを思って」「成長してほしいから」「愛情があるから」
最も悪質なパターンです。自分の行為を「相手への配慮」にすり替えることで、完全に正当化しようとします。これにより、被害者は「自分のために言ってくれているのに」と罪悪感すら抱かされることになります。
これらの反応に共通しているのは、全て「だから自分は悪くない」という結論に収束していることです。彼らの言い訳は、論理的に筋が通っている必要はありません。ただ「自分は違う」を主張できれば、それでいいのです。
彼らとの対話が不毛な理由
ここまで読んで、あなたは気づいたかもしれません。パワハラ・モラハラ加害者との建設的な対話は、原理的に不可能だということに。
なぜなら、対話の前提となる「自分にも非があるかもしれない」という姿勢が、彼らには存在しないからです。彼らとの「話し合い」は、常に彼らの正当性を確認する場にしかなりません。
あなたがどんなに丁寧に説明しても、どんなに具体的に指摘しても、彼らの反応は同じです。「◯◯だったから」「◯◯だから違う」。そんな返事しか返ってきません。
これは彼らが話を聞いていないのではありません。彼らの脳が、あなたの言葉を「自分への攻撃」として処理し、自動的に防衛反応を起動させているのです。だから、あなたが何を言おうと、彼らの耳には「自分を攻撃する不当な言いがかり」としてしか届かないのです。
これを理解することは、被害者にとって極めて重要です。なぜなら、多くの被害者は「もっとうまく説明すれば、わかってもらえるはず」と考えて、加害者との対話を試み続けるからです。
しかし、それは無駄です。あなたの説明力の問題ではありません。彼らの認知システムが、理解を拒否しているのです。
被害者が知るべき、最も重要なこと
ここまで、加害者の認知システムについて詳しく説明してきました。では、被害者であるあなたは、この事実をどう受け止めればいいのでしょうか。
まず理解してほしいのは、加害者が変わることを期待してはいけないということです。
「いつか気づいてくれるはず」「いつかわかってくれるはず」「話せば通じるはず」。そうした期待は、あなたをさらなる苦しみに追い込むだけです。
彼らの認知システムは、あなたがどんなに努力しても変わりません。それは性格や価値観の問題ではなく、脳の機能の問題だからです。専門的な治療を受けない限り、彼らが自発的に変わることはないと考えてください。
そして、彼らが変わらないということは、あなたが彼らと関わり続ける限り、被害は続くということです。
だからこそ、あなたが取るべき行動は明確です。彼らを変えようとするのではなく、あなた自身がその環境から離れることです。
物理的に離れることが最善です。異動、転職、退職。可能ならば、それが最も確実な解決策です。
しかし、すぐには離れられない事情もあるでしょう。そんな時は、心理的な距離を取ってください。彼らの言葉を真に受けない。彼らの評価を気にしない。彼らの理解を求めない。彼らとの対話を諦める。
これは冷たい態度ではありません。あなた自身を守るための、必要な防衛です。
あなたは悪くない
最後に、もう一度はっきりと伝えます。
加害者が自分の行為を認めないのは、あなたの説明が下手だからではありません。あなたの対応が悪かったからではありません。あなたが弱いからではありません。
それは、加害者の認知システムの問題です。あなたには、一切の責任がありません。
彼らは「自分は違う」からしか思考を始められない人間です。あなたがどんなに正しくても、どんなに丁寧に説明しても、彼らの脳はそれを「攻撃」としか認識できません。
だから、もう彼らに理解を求めなくていいのです。もう対話を試みなくていいのです。もう「どう言えば伝わるか」を考えなくていいのです。
あなたがすべきことは、あなた自身を守ることです。あなたの心を守り、あなたの体を守り、あなたの未来を守ることです。
加害者は変わりません。でも、あなたは変われます。あなたは選べます。その環境から離れることを。その関係を断つことを。あなた自身を大切にすることを。
それが、あなたにできる最善の選択です。



本当に。 証拠があっても自分のこと疑わず 書き換えられた記憶の中で生きて攻撃していて怖いです。
いちご 様 本当にそうですよね。 たちが悪すぎます。