无名
无名

「うはあ。テスト終わったあ」


 ちょっとバカっぽい声が教室内、自分の後ろの席から響いた。

 定期試験が終わり、クラスは弛緩した空気が流れていた。

 先程の「終わった」はテストそのものが終了したの意なのか、それとも結果がまるで期待できないという意なのか……多分後者だと俺は確信していた。

 俺の後ろの席に座る少女──みやこの頭の出来はこれまでの付き合いからしてよく理解している。

 彼女のステータスは美貌に全振りしすぎたせいで、勉強はお世辞にもできるとは言えない。


「たはは……。どうだった咲都は」


 気安い感じで俺の名前を呼び捨てにしてくるみやこに内心苦笑しつつ、手の平でぼちぼちというようなジェスチャーして返した。

 彼女の天真爛漫さは彼女の弱点を補って余りある。

 性格も良くそこにいるだけでみんなを明るくしてくれるムードメーカーだ。

 長い黒髪にぱっちりとした二重。

 整った顔立ちにスタイルもいい。

 そんなハイスペックな彼女は当然モテるのだが、その天然っぷりのせいで恋愛経験は皆無だ。

 俺は彼女に対し好意を寄せているわけだが、なかなか告白できずにいた。

 理由は距離が近すぎることと俺がチキンなせい。


「……お前、ちゃんと勉強したか?」


 今日も今日とて差しさわりのない話題をふる。


「したよう」


 みやこはいつも通り、にへっと笑った。


「嘘つけ。昨日だってうちの居間でずっとテレビ見てたよな」

「だ、だって気になるドラマがあったんだもん!」

「お前のお母さんにお前のことお願いしますって言われてるんだから、追試だけは避けてくれよ?」

「う……うん。分かってるよう」


 みやこはちょっと泣きそうに返してきた。

 彼女の家族と俺の家族は家が隣同士ということもあり、幼い頃から家族ぐるみの付き合いだった。

 だから彼女のお母さんから、みやこのお世話をよろしくね、なんてお願いされたのもなんの不思議もない。

 みやこの両親共に仕事の都合で家を空けるなんてことは日常茶飯事で、放課後は夕食まで一緒に過ごすことも珍しくなかった。

 帰宅しようとみやこに声をかけようと振り返ると、彼女はまだ席から立っておらず、何やらボーッとしていた。


「でもまあ、終わった事だからな。今更ジタバタしても仕方ない。帰って羽を伸ばすか」


 少し元気の無くなったみやこを気遣うつもりで俺は言った。


「うん……」


 それでもみやこはいつもの半分の元気もなかった。


「どうしたんだ?」

「ん? あ、うん……ちょっとねえ」


 俺が声をかけるとようやく我に返ったようで、みやこは曖昧な返事をして席を立った。


 ******


 三日ほど過ぎ、テストが返却されてくる。

 俺はというとまずまずという結果だった。

 多分学年でも上位に近い順位だろう。

 みやこはどうだったのかな?

 どんなものかと振り向くと、


「げぇ、赤点!?」


 と、答案用紙を握りしめてみやこは絶叫してから、俺の目の前でワナワナ震えている。

 顔色がアイスソーダみたいに青くなっていたので、赤点のオンパレードという感じだろう。

 これは追試決定だな、と、肩を竦める。


「ど、どうしよう。咲都。お母さんに怒られる」


 みやこが今にも泣きそうに言った。

 俺も一瞬でみやこの母親の怒った顔が思い浮かんだ。

 みやこの母親が教育熱心なのは承知している。

 娘が赤点と聞いたら、あの人ならそんな反応するよな。

 だから俺も溜息を吐いた。


「だろうな」

「酷いよ。そんな他人事みたく」

「だって他人事だからな」

「薄情者お!」


 みやこの泣き言に苦笑いを返すしかない。

 もっともみやこの気持ちも分からないでもない。

 みやこはテストの結果がわかり次第、現在出張中の母親に電話で報告するように言い付けられているのだ。

 きっと今日の結果を報告したらお説教は避けられないだろう。


「でもなあ、直接怒られるより電話越しの方がまだマシなんじゃないのか?」

「電話するまでが大変なんだよお……」


 ちょっとだけみやこが可哀想に思えて、俺は思いついたことを言ってみることにした。


「そんなに嫌ならうちのお袋から電話してもらうか?」

「え?」

「ほら、うちのお袋からだったらその後お説教ってことも無いだろうし、上手くフォローしてくれると思うぜ」

「おばさんに悪いよお」


 いっちょ前に遠慮する気持ちは持ち合わせているらしい。


「まあ気持ちは分かるけどな。俺もうちの親に言いづらいことをお前のお母さんに言ってもらったこともあったし。子供の頃の話だけどな」

「そうなの?」

「だから遠慮するなって」


 そう自信満々で言った俺は後で発言を後悔することになるのだった。

 帰宅後、俺は母親に今回の経緯を説明し、みやこの母親に電話してもらうことにした。

 面倒ね、とボヤいていたうちの母親だったが「まあ、みやこちゃんのためだからねえ」と、渋々ではあるが了承してくれたのだった。

 そして、夕方頃いつものように俺とみやこが夕ご飯を待っていると、リビングに神妙な顔をした母親がやってきた。


「みやこちゃん……。ちょっとお話があるんだけど」

「ふえ……なんですか?」


 テストの件などすっかり忘れてしまったのか、テレビに映し出されたゲーム画面に夢中になっているみやこがとぼけた声を出した。

 こいつ、呑気なやつだなと思っていると、母親は


「あんたはちょっといいって言うまで二階に行ってなさい」


 と、言ってきた。


「なんで」

「なんでも!」


 雰囲気からして口答えできる感じではない。

 俺は渋々二階に向かうことにして、リビングから出て階段を上がった。

 と、見せかけて階段を上がる足音だけわざとらしく響かせて、こっそり階下に戻りリビングの前の扉から中の様子を伺うことにした。

 みやこも母親も気づいた様子はない。

 俺が二階に行ったと思い込んで、母親は会話を続けていた。


「あのね。今日のテストの件なんだけど」

「ふわあ、そう言えば」


 みやこはまだテレビ画面に目を向けたまま、今その事を思い出したみたいに首を傾げた。

 一体どんだけ呑気なんだと呆れてしまう。


「……みやこちゃん。一回テレビ消して、真剣に聞きなさい」

「ふわい」


 母親に言われて、みやこが素直にテレビを消す。

 ゲームのBGMが消え、部屋には妙な沈黙が落ちた。

 数秒の時間を置いて母親が話し始める。


「さっきね。テストのことみやこちゃんのお母さんに話したんだけどね」

「お母さん怒ってました?」

「……うん。すごくね」

「うわあ……」

「それでね。今日という今日はお説教だけじゃ許さないって言ってて」

「……ええ……」


 みやこがここにきて不安な声を出した。

 嫌な予感を感じているらしく、それはリビングの扉を挟んだ俺も同様だ。


「みやこちゃんに、代わりにわたしがお仕置きするように言われちゃったのよね」


 続いた母親の台詞に俺は、そして恐らくみやこも息を呑んだ。

 それからため息をひとつ吐いて、何か覚悟を決めたように母親が言った。


「だから、可哀想だけど、お夕食前にみやこちゃん……。お仕置きします」


 そう宣言すると再びリビングは沈黙に包まれた。


「昔からみやこちゃんの事を知ってることもあって、わたしもみやこちゃんを本当の娘のように思っているの。だから、今日はわたしがお母さんに代わってお仕置きするからね」


 母親がそう続けてもみやこは無言のままだった。

 それはそうだろう。

 これまでみやこもうちの母親に叱られることはあってもお仕置きされる事なんてなかったのだ。

 いくら家族ぐるみの付き合いだと言っても、あまりに想像のつかない展開だったろう。

 だから、みやこの戸惑いの言葉が続いても無理のない事だった。


「……や。やです。お仕置き……」

「ごめんね。わたし、みやこちゃんのお母さんに約束しちゃったのよね。だから、分かってちょうだい」

「だ、だって咲都くんに聞かれちゃう!」

「大丈夫。あの子は二階に行かせたから。二階までは音は聞こえないはずだから。時間かけないで、すませてしまいましょう?」


 みやこがギュッとスカートの裾を掴んだ。


「……お仕置きって……お尻叩くんですよね?」


 恐る恐るという感じで尋ねる。


「ええ……。みやこちゃんのお母さんから聞いて、みやこちゃんが普段されてる通りにお仕置きするわ」


 この言葉を聞いて、俺は身体中が熱くなるのを感じた。

 みやこが普段お尻を叩かれていると聞いて、その様子を想像してしまったからだ。

 お尻を叩かれるなんてドラマやアニメの話だと思っていたが、こんなに身近に存在していたなんて。

 心臓がバクバクと鳴った。

 これ以上は覗いてはいけない。

 そう警告を発している。

 俺はその警告を無視して、リビングの扉の隙間から、気づかれないように慎重に覗き込んだ。

 母親の手にはなんか鞭のようなものが握られていた。


「さっきね。みやこちゃんのお家からいつも使ってるって言ってた鞭を取ってきたの。これでお尻叩くわね」

「やだ……やだよお……」

「ダメ。50回は叩くように言われてるから。それまではわたしも心を鬼にするからね」


 みやこは可愛い顔を歪めて、鼻をすすり始めた。


「みやこちゃん。お尻出しなさい」


 ゾクリと背筋になにかが走った。

 それは恐らく期待感のようなものだと気づいた。

 自分はこんなサディスティックな感覚を持ち合わせていたのかと心底呆れ果てるが、中の様子を覗き見るのをやめることはできなかった。


「パンツを脱いで、お膝にきなさい。お尻ペンペンします」


 二度目に言われて、みやこはノロノロと立ち上がってスカートを下ろした。

 パンツは縞柄の可愛らしいものだった。

 それから、ゆっくりそのパンツを膝の辺りまで引き下ろす。

 みやこはリビングの扉に背を向けているので、みやこのぷっくりとしたお尻が見えた。

 生まれて初めて見た女の子の桃色の可愛らしいお尻。

 だが、それがみやこのお尻だというのが俺をたまらなくさせ、身体の一部分に血が溜まって固くなるのを感じた。


「おばさん……。お仕置きお願いします……」


 お仕置き前にはお仕置きのお願いをするように躾られているのか、みやこが涙声でそう言った。


「みやこは……テスト勉強サボってしまった悪い子でした。……お尻を鞭で叩いて……いっぱい反省させてください」


 バカ正直に言わなくてもいいのに。

 聞いているこっちのほうが恥ずかしくなってしまう。

 それに対して、「はい。おいで」と、短く返事をすると母親は床に正座して自分の膝をぽんと叩いた。

 あそこに来るように促しているのだろう。

 みやこは膝を折って、母親の膝の上に腹ばいになって身体を預けた。

 膝の高さの分、お尻が上をむく。

 俺は母親が持つ鞭の方に注意を向けた。

 黒っぽいゴムのような素材で、叩けば相当に痛いことが想像できた。

 ひたひたと、鞭がみやこのお尻にあてがわれて「ひ、ひいぃ」とみやこが悲鳴を上げる。

 その瞬間、ぶんと鞭は振り下ろされた。


 バチ──ン!!


 皮膚を鞭が打つ音。

 そして、それに続くように「いたあ!」というみやこの悲鳴が上がった。

 母親は立て続けに、バチンバチンと、鞭を振り下ろした。

 その度にみやこのお尻に赤いみみず腫れが刻まれていった。


「うう……ひっく……ふええん」


 痛みのせいか悲しみのせいか、はたまたお仕置きされる恐怖のせいなのかはわからないが、みやこはしゃくりあげて泣き始めた。

 泣いても叫んでも母親は容赦することなく、みやこのお尻に鞭を振り下ろしていく。

 その凄い勢いに俺は思わず見とれてしまった。

 それにしたって、俺の母親は随分鞭の使い方に手慣れているようだった。

 少なくとも俺は叩かれた事はないから一体どこでそんな経験をしたのだろうと訝しむ。

 鞭は狙ったところに寸分の狂いもなく落とされているようだった。

 お尻の右のほっぺ、左のほっぺ、そして中央と赤いミミズ腫れの花が咲いていく。

 痛そうで可哀そうで仕方ないのに、その光景は美しかった。

 ああ……ダメだ……これ以上見てはいけない気がするのに目が離せない。


バチ──ン! バチ──ン!

「うわああああああんん!!」

バチ──ン!! バチン──!!

「うわああんん!!」


 みやこはボリュームを上げて「ふええん」と泣き出した。

 それでも母親は容赦なく鞭を振り上げては振り下ろしていく。

 俺から見ても、みやこのお尻は限界だと感じた。

 可哀想なほどに真っ赤だ。

 そのお尻に、またも容赦のない鞭の雨が降り注ぐ。


バチ──ン! バチ──ン!

「うわあああん! おばさあん……ッ!! も、もう許してぇ──ッ!!」

バチ──ン! バチ──ン!

「──いい子になります──ッ!! ちゃんと勉強しますからあ──ッ!! ぎゃあああん!」


 飛び切り痛い一撃を受けて、みやこは母親の膝の上から身体を反らして逃げ出した。

 四つん這いで逃げるもんだから、色々見えちゃいけないものが見えるし、無様としか言いようがなかった。

 少なくとも美少女がやってもいい動きじゃない。


「みやこちゃん!?」


 と、母親の叱責が飛ぶ。

 やだやだ、言いながらみやこは最終的にはアルマジロのように丸くなる。

 残念なことにお尻は隠せていないが。

 母親は膝立ちになって、みやこを捕まえる。


「みやこ! まだお尻ペンペン終わってませんよ!」


 そして、みやこを呼び捨てにした。

 普段は呼び捨てになんてしない母親がそうするということは、かなり真剣に怒っているということだ。

 これまで見たこともない母親の姿にみやこは心底ショックをうけているみたいだった。

 それでも、すがるようにみやこは懇願する。

 子供のようにいやいやした。


「も、もう無理! もうお尻痛くて限界! お仕置きはこれで十分だからあっ!」

「ダメです! お膝に戻りなさい!」


 一言で切り捨て、かわりに泣き言に答えるのは鞭だった。

 畳の上に鞭が打ちつけられ、びくんとみやこの肩が跳ねた。


「みやこ、お尻。時間かけてもいいけど、その分回数増えるからね?」


 母親はみやこが自分の膝の上に戻ってくるまで、いつまでも待っているつもりのようだった。

 それに罰の追加まで匂わせる。

 根競べは母親の勝ちだ。

 ぐすぐすと鼻をすすりながら、膝の上まで戻ってくるのにさらに数分かかったものの、みやこは再び母親に捕まえられてしまった。

 再度のお仕置きのスタート。


バチ──ン! バチ──ン!

「ふわあああんっ!!」


 ここからが始まりとでもいうかのような勢いの鞭を食らわされ、みやこが全身をくねらせる。

 バタバタと足を動かしてなんとか母親の膝から逃げ出そうとするが、母親ががっしりと片手でホールドしてしまっていてその願いはかなわない。


ひゅん。 バッチ──ンッ!


 やがて、目をそらしたくなるような、今までで一番強烈な一打が振るわれた。


「ひぎぃいいいいいいいいいいいいいいっ!!」


 一際大きな悲鳴をあげて、みやこは身体を反らせた。

 それが最後の打擲だった。

 お尻は見事なほどに真っ赤に腫れあがっている。

 だが、見とれている場合ではない。

 俺は慌てて身体を戻して階段を駆けあがった。


 二階に上がってから俺の頭はぐるぐる回っていた。

 俺が余計なことを言わなければ、今日の悲劇は避けられたのではないか、という後悔。

 それに、あんな場面を覗き見してしまうなんてなんて俺は最悪なんだ、と、罪悪感。

 それになにより、一体これからどんな顔してみやこに会えばいいんだと、不安に頭を抱えた。

 結論から言うと幸か不幸か、俺の心配は杞憂だった。

 およそ一時間。


「夕ご飯よー。降りていらっしゃいー」


 別に普段と変わりない母親の声が1階廊下から響く。 

 夕食に呼ばれて俺が階下に顔を出すと、家族はいつもどおりで、先程まで厳しいお仕置きが行われていたなんて信じられないくらいだった。

 たっぷり一時間、間を開けたので、その間にみやこも泣き止んだのだろう。

 鞭も脱いだスカートも床にはない。

 目の端に涙の跡が残っているものの、みやこは案外ケロリとしていた。


「ごめんねえ。咲都。わたしのせいで夕ご飯遅くなっちゃった」


 にへっ、とした笑顔を向けてくる。

 さっきまであんなに泣いていた癖に。

 その笑顔が逆にさっきの泣き顔を思い出させて俺を動揺させる。

 さらには、みやこ、泣き顔も可愛かったな、とか、浮かんでくる。

 赤面してしまわないように意識を集中させた。


「別に……構わねえよ。お腹空いてなかったしな」


 俺の声は震えていなかっただろうか。

 心配になったが、みやこは気にした様子もない。


「そうなの?」

「……ああ」


 当たり前だが、今のみやこはスカートもきちんと履いている。

 そのスカートの下、パンツの下には今もお仕置きされて真っ赤になったはずのお尻が隠れているのだろう。

 みやこの顔が見れなかった。

 それにしても、何かあったのか?

 そう聞くのが自然な流れなのだろうが、俺にはどうしてもそれはできない。


「……テストのことでおばさんに叱られてた。にへへ」


 聞いてもいないのに、みやこは状況説明をしてくる有様だ。

 もちろん、お仕置きのことまでは言わなかったが。


「さ! 夕食食べよ」


 俺の母親も湿っぽい雰囲気を変えるためか、妙に明るく言ってくる。

 俺は事情は知らないことになっているのだから、どう反応していいか本当に困った。

 まあ、いつも通り以外の選択肢はないのだが。

 ここで妙なリアクションをすると俺が覗いていたのがバレてしまう。

 それだけは避けなければいけなかった。


「おばさん。今日は何?」

「今日はみやこちゃんの大好物だよ」

「わあい」


 みやこが母親に抱きついた。

 明るくふたりが話している様子を見て、ますます俺は困惑した。

 みやこと母親を眺める。

 こうしているとふたりは本当の家族みたいにも見えた。

 元々ふたりの関係は良好だったが、ますます仲良くなっているような気もする。

 これは……墓場まで持っていかないといけない案件かもな。

 俺はもう一度溜息を吐いてから、リビングの椅子に腰掛けるのであった。


 ******


 その数か月後、俺とみやこは晴れて付き合うことになる。

 告白する原動力はなんだったのか。

 今考えると、みやこのお仕置きをのぞき見してしまったことが大きい。


 「俺と付き合ってくれ」


 散々考えて、思い悩んだ末に俺の口から出たのは在り来りなそんな告白。

 正直なんの芸もない。

 俺自身呆れてしまう単純な言葉。


「……いいの?」


 それに対して同じように素直な返事が返ってきた。

 みやこらしいなんの飾りもない本心からの言葉。

 でも、今日のみやこは少し違っていた。

 後に続くのは自信の無い震えた声。


「わたし……変な子だよ……?」


 気づけば、みやこは俯いていた。

 確かにみやこはそうなのかも知れない。


「そんなの最初っから分かってる。みやこが変なのはな。でも、そんなみやこが好きなんだよ。どうしようもなく」


 俺は言い切る。

 付き合う少し前にみやこ本人からお仕置きの件は、ちゃんと話してもらっている。

 変な子というのはそのあたりを指しているのだろう。


「わたし……面倒くさがりだし、勉強とかサボっちゃうと思うし……。だから、おばさんにお仕置きしてもらって気が付いたんだあ。わたしって、ときどきお仕置きしてもらわないと頑張れない子なんだって」


 あれから、うちの母親に自分からお願いしてお尻を叩いてもらったことが何回かあるらしい。

 不思議な話だがそうすると、また頑張る力が湧いてくるらしい。

 じゃあ、続く俺の言葉は決まっている。


「そうしたら、今度から俺がみやこをお仕置きしてやる。いっぱい泣かせて、ごめんなさいさせて、次から頑張るって言わせてやる」

「変な告白だあ」

「お前が言うな」

「うん。期待してる……。咲都。わたしをいっぱいお仕置きしてねっ」


 みやこはいつも通り、にへっと笑った。