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Science Report
サイエンス リポート

数百万人が暮らす宇宙島「スペース・コロニー」実現の条件とは

文/鳥嶋 真也
取材協力/東京都立大学
システムデザイン学部 航空宇宙システム工学科
システムデザイン研究科 航空宇宙システム工学域
佐原 宏典 教授
2025.12.03
数百万人が暮らす宇宙島「スペース・コロニー」、実現の条件とは

©NASA/Ames Research Center/Rick Guidice

そう遠くない未来東の空地平線から月がのぼるその4時間前には光の点の集まりが現れ4時間後には同じ群れがあとを追う

やがて点は形を結ぶその一つひとつは長大な円筒形の構造物でソーセージのような外形をもつ各円筒の基部からは大きな鏡が花びらのように開き先端部ではリングトラスが構造を取り巻く2つの円筒が間をあけて直列に並び向きを保ちいつも太陽を正面に置くそれぞれは穏やかに回転しその回転が内部に人工重力を生む内部には広大な陸地と空が広がり多くの人々が住み動植物が生きる反射鏡から入ってきた太陽光は生命が生きるのに必要なエネルギーとなり水や食料空気などあらゆる資源は循環するここは「スペース・コロニー」人類が宇宙に創り出した人工島である

スペース・コロニーとは

大空のはるか彼方無限に広がる宇宙に人間が住める人工の島を造ろうという発想はいまから100年以上前に生まれた

世界で初めてロケットの原理を理論づけ「ロケットの父」と呼ばれるロシアの科学者コンスタンチン・ツィオルコフスキー18571935長期の宇宙居住についても研究した彼は宇宙に行くための原理だけでなく宇宙に行ったあとに人が暮らすための理論も生み出した

1929年には英国の科学者JD・バナール19011971「バナール球」を提案した(図1)厚い外殻で放射線を遮蔽し内部を回転させて遠心力で人工重力を得るという基本設計を示し居住区・農地・採光の考え方まで盛り込んだとくにコロニー内部環境を能動的に制御するという発想がここで明確になった

バナール球の想像図
[図1]バナール球の想像図
©NASA/Ames Research Center/Rick Guidice

宇宙飛行が現実のものとなった1950年代から60年代にかけてはロケット科学者ヴェルナー・フォン・ブラウン19121977SF作家アーサー・C・クラーク19172008が詳細な検討を重ねたその過程で技術と物語が相互に影響し合い宇宙居住は絵空事からより現実的な検討課題へ近づいた

大きな転機となったのは1970年代である米国の物理学者ジェラード・K・オニール19271992は学生との議論を起点に検討を深め1974年にThe Colonization of Space(宇宙の植民地化)』という論文を発表したこの中で巨大な円筒形の回転居住区で人工重力を確保し地球-月系のラグランジュ点L4L5(詳しくは後述)に配置し月や小惑星の資源を電磁カタパルトで軌道へ送り建材として利用するという「オニール・シリンダー」もしくは「島3号(Island 3)」と呼ばれる構想を打ち出した(図2

日本においてオニール・シリンダーが一躍有名になったのが1979年から放送されたテレビアニメ『機動戦士ガンダム』だった「人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになってすでに半世紀が過ぎていた――」という口上から始まる同作では地球周辺に建設された多数のオニール・シリンダー型コロニーに住む人々と地球側の人々との衝突が描かれた

2025年放送の最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuXでもオニール・シリンダーの基本的な設計を踏まえつつ居住区の環境制御や資源循環ラグランジュ点間の交通対放射線対策や生活インフラの細部などが緻密な考証をもとに現代的に描写されている

オニール・シリンダーの想像図
[図2]オニール・シリンダーの想像図
©NASA/Ames Research Center/Rick Guidice

直径6.4km113.5秒に1回回転し人工重力を生成

スペース・コロニーの設置場所として最も有力視されるのが地球と月の系におけるラグランジュ点である(図3

ラグランジュ点とは2つの天体の重力とその軌道運動に基づく慣性力がつり合う場所のことでここに物体を配置するとそれぞれの天体に引きずられることなくまた弾き飛ばされることもなく留まることができる

ラグランジュ点は5つ存在するそのうちL4L5は地球と月とで正三角形をつくる位置にあり月の進行方向に対して約60度先行する点がL460度後行する点がL5であるL4L5は他の点と比べて安定性が高くそれらの近傍にコロニーを置くと姿勢や位置の調整が少なくて済む利点がある

地球からは月の通り道に沿ってL4は月より約60度だけ先にL5は約60度だけ後ろに見える時間に換算するとL4は月より約4時間早くL5は約4時間遅れて見える

ちなみに『機動戦士Gundam GQuuuuuuXの主人公アマテ・ユズリハが暮らしているイズマ・コロニーはL4のサイド6にあるという設定である

地球と月の系におけるラグランジュ点の概念図
[図3]地球と月の系におけるラグランジュ点の概念図
©NASA

オニール・シリンダーは直径6.4km全長32kmもの長大な円筒形が想定されているシリンダーは回転することで内部に人工重力を生み出している『機動戦士Gundam GQuuuuuuXでは「直径6.4kmのスペース・コロニーは113.5秒に1回回転し1Gの遠心力を生み出している私たちを地面に押し付けているこの力は本物の重力じゃない」という主人公の独白から始まるがこの説明は科学的に正しい

人工重力は1Gに設定するのが望ましい低重力で育った住民が地球に行く際内臓や骨の弱化などの健康リスクを避けるためであるまた低重力で育つと見た目が異なる状態になり差別意識が生じる懸念があることも1G維持の理由のひとつとされている

ただし技術的な観点では1Gより小さい設定にすれば回転速度を下げられ遠心力も小さくなるため構造負荷が軽減され造りやすくなるのも事実である

またオニール・シリンダーは2基を1セットとして機能するこの2基は互いに逆向きに回転しておりジャイロ効果(向きを変えにくい性質)を打ち消し合うことで全体の向きをゆっくり変えたり保ったりしやすい(図4

シリンダー型の最大のメリットは面積効率の高さであるドーナツ型や球形では重力が真下にかかり違和感なく過ごせる領域が限られるのに対しシリンダー型は内面全体に人工重力を生み出せるためより広い領域を居住や活動のために利用できる

シリンダーの構造材には64チタンTi-6Al-4Vが候補のひとつとして想定されるチタンを主成分として6%のアルミニウムと4%のバナジウムからなる合金で比重が小さいことそして靭性(じんせい)に富むことが利点として挙げられる靭性とは何かが衝突した際などに変形してエネルギーを吸収する性質を指し宇宙から飛来するマイクロメテオロイド(微小隕石)ロケットや衛星の破片など軌道上を周回しているスペース・デブリ(宇宙ごみ)からの衝突に耐えることができる

ただ大気の内圧による負荷よりも遠心力による荷重のほうが約10倍大きいと見積もられているしたがってこの荷重に耐える強度を持つ構造を実現する必要があるさらに64チタンを用いても全体は重くなり実現が難しいため構造の軽量化は不可欠である

総質量は使用する素材や構造によって変わるもののおおむね1000tになると予想される

オニール・シリンダーの想像図
[図4]オニール・シリンダーの想像図
©NASA/Ames Research Center

コロニー内の光景と生活

オニール・シリンダーでは人が生きるのに必要な環境制御システムは自然のエネルギーを巧みに利用することを想定している

シリンダーの側面は6等分され陸地3帯とガラスの採光窓3帯が交互に並ぶ各採光窓の外側に可動式の大反射鏡があり角度を変えて太陽光を窓から内部へ導く鏡で反射した太陽光は採光窓を通り対向する陸地に降り注ぐ(図5太陽のエネルギーは大きく夜や悪天候に左右されないため安定して利用できる一方人の生活リズムや生物の光合成には夜も必要であるため夜に設定された時間帯は鏡を閉じて光を遮る

長期的に見ると太陽光や放射線などの影響により鏡やガラスが曇ったり劣化したりするため効率が下がる前に定期的な交換やメンテナンスが必要になるただ人工光を使うよりメンテナンスが多少大変でも太陽光を使う方がエネルギー効率をはじめあらゆる面で優れている

オニール・シリンダー内部の想像図
[図5]オニール・シリンダー内部の想像図
©NASA/Ames Research Center

コロニー内の大気組成は地球環境と同じ組成すなわち窒素が約78%酸素が約21%1気圧を維持するのが最適と考えられている地球の生物と人間に関する知見が蓄積しており地球と同じ条件なら既存のモデルをそのまま使えるため循環系の設計が容易になるからである

また鏡から取り込む太陽エネルギーにより内部には上昇気流と下降気流が生じ対流が形成されるこれにより雲の発生などの気象現象が期待され熱や湿気の輸送を活用した環境制御すなわち水や大気の循環による持続可能な生態系の確立が見込まれる

もっともコロニー内の温度管理は最も難しい技術的課題のひとつである太陽光を取り入れ続けると過熱するため発生した熱を宇宙へ捨てなければならない宇宙は真空でコロニーはいわば巨大な魔法瓶のような状態であり放射だけで熱を逃がす必要があるそこでシリンダー各所でヒートパイプのような装置により熱を集め十分な面積の放熱板(ラジエーター)から宇宙へ放射する設計とするしかし必要な放熱面積の大きさ太陽光を避ける姿勢の維持循環系の信頼性表面劣化やデブリ対策といった課題が山積している

またコロニー内部の大気を地球と同様に維持し汚染から守る環境制御・生命維持システムは実現に向けた最も難しい課題のひとつである自立的な社会を維持するために工業や農業を行うと大気汚染につながる多様な有害ガスが発生する生命維持システムはこれらを効率よく吸収・除去し酸素を供給する必要があるそのうえで多数の人々の生存を支える規模と極めて高い信頼性が求められる

現在の宇宙ステーションでもそれに近い装置ECLSSが稼働しているがコロニーに応用するとなると単なる大型化では対応しきれない現行技術の延長ではないブレイクスルーが必要である

解決策のひとつとして無数の微細孔をもつ多孔性材料である金属有機構造体MOFが挙げられるMOFの開発は2025年のノーベル化学賞の対象となり京都大学の北川進特別教授らが共同受賞したMOFは気体の吸着・貯蔵・分離に加え触媒や伝導性材料など幅広い応用が期待されエネルギーや環境問題の解決にも寄与すると考えられているこの技術をコロニーにも応用できる可能性がある

コロニーを自立した社会として成り立たせるには1基あたり数百万人規模の人口が必要と考えられている

内部はそれだけの人口が暮らせるようタワーマンションのような高密度の居住空間を確保しつつ緑地や水辺も設ける配置が理想とされている(図6緑地や水辺は心理的な豊かさを生み農場などの食料生産にも活用できる何より光合成など自然の働きを生かした環境制御を組み込むことで前述の環境制御・生命維持システムを補完することもできる

こうした地球と変わらない街並みのコロニーは『機動戦士ガンダム』シリーズの各作品でも描かれている

コロニー内部は、地球と変わらない街並みが理想とされている
[図6]コロニー内部は地球と変わらない街並みが理想とされている
©NASA/Ames Research Center/Don Davis

スペース・コロニーでの食生活

スペース・コロニーの食生活は単なる栄養摂取を超え豊かさや健康社会システムと深く結びつく複雑な課題である

現在の宇宙ステーションでは好きなものを好きなときに自由に飲食できないという制約がある宇宙飛行士であれば耐えられるかもしれないが多くの一般人が暮らすスペース・コロニーでは我慢を強いることなく地上の普通の食生活をそのまま維持できることが理想である

効率だけを追えばペースト食や栄養剤で生活する案は実現性が高いかもしれないだが現在の食生活には栄養素以外も含め健康に寄与する成分や構造が存在する可能性があるまた好きなものや美味しいと感じるものを自由に食べることはストレスの緩和にもつながるゆえにそうした要素を不要と判断して除外するとかえって健康を損なうおそれがある

地球と同じ食生活を実現するにはコロニー内に農場や養殖施設を設ける必要がある一方家畜の飼育はメタンなどのガスを発生させて環境制御を複雑化させるうえ飼育に要するエネルギーが大きい結果として養える人口が減少するか肉・動物性たんぱく質のコストが高騰するおそれがある

当初のオニール・シリンダーの設計では対策としてシリンダーを取り巻くリング状の農場専用区画を設け居住区画から独立させる案が示されているまた食料生産専用コロニーを別に造ることも考えられる

食生活のあり方は採用する社会システムにも大きく左右されるたとえば自由競争か完全配給かでも異なる「高価でも食べられればいい」と住民が受け入れるなら食生活の水準を維持できる可能性があるがそうでないなら何らかの妥協や対策が必要だろう

コロニーで地球と同じ食生活を実現するには技術面に加え巨額のコストと社会・経済の設計が必要であり大きな課題のひとつである

建設方法の課題と可能性

スペース・コロニーを建設するにはまず材料などを大量に打ち上げなければならないつまり物量作戦となるが物資輸送の手段が非常に限られることが問題である

当初は地球から物資を輸送する必要があるだろうが現代の宇宙輸送システムでは月遷移軌道へ一度に約100tを投入するのが精いっぱいでありオニール・シリンダー型コロニー建設に必要とされる約1000tの物資量には到底届かないまた現在のロケット技術は効率の限界に近いためこれを超える技術が求められるたとえば月に材料製造工場を建設し月のレゴリス(土砂)極域に存在すると考えられる水(氷)を資源として利用することが望ましいまた主に火星と木星の間にある小惑星を輸送しそこに含まれる金属や水などの資源を利用することも考えられる

もうひとつのブレイクスルーの可能性として「宇宙エレベーター」が挙げられる宇宙から地表へと伸びる長いテザー(紐)を張りそのテザーに沿って荷物や人を上下させる文字どおり宇宙に行けるエレベーターのような仕組みであるロケットほど強い加速や大量の燃料を使わず繰り返し宇宙へ物を運べることに加えて適当な高度から放出するだけで月や火星などに向けて物資を発送できる利点があるただし長くて強いテザーを造る技術はまだ存在せず災害などからどう守るかも課題である

また宇宙エレベーターは力学的に地球の赤道上にしか建設できないこのため地上側の施設を置く国が強い発言権や影響力を持つようになり世界のパワーバランスが変化しうるさらにこうした巨大インフラを国際的に運用するには場所の選定運用ルール権利の分担について各国が合意する必要があるこれらの調整は技術面よりも難しいと考えられている

こうしたことから大規模なコロニーが実現するまでには地球近傍においてさえも最短でも100年は必要と見込まれる100年後には宇宙開発が全般的に進みすでに月に街ができ火星居住も実現しているだろう火星では水や燃料の原料となる二酸化炭素などの現地調達が可能であるためコロニー建設より容易で実現が早いと考えられる

大規模コロニーの実現は困難である一方100人規模のものであれば技術面だけを見ればいまから取りかかっても実現できる見込みがあるまた地球が疫病の大流行や小惑星の衝突などの深刻な危機に直面し人類が宇宙に出る必要に迫られた場合は実現の時期が早まることもありうる

人類が次に目指すべき未来像を考える

技術的な困難やコストの問題は山積しているものの実現に向けた最大の推進力は「人類が宇宙に居住する」という未来像を共有できるかどうかにある

その未来像に向けて「では今何をすべきか」を未来から現在に逆算して考えることが技術的困難を乗り越える大きなモチベーションになる

その中で『機動戦士ガンダム』をはじめとするアニメなどのコンテンツは重要な役割を果たしているフィクションが宇宙での暮らしを現実味をもって描くとき私たちはその未来像を具体的に思い描けるようになる

さらに宇宙開発は工学や科学だけでなく芸術法律文化など多様な分野の人々が関わってこそ進展する宇宙をコンテンツとして捉え各人が「プレイヤー」として盛り上げていく活動が人類が宇宙に出ていく時代を後押しする

たとえば「いつかコロニーでお酒を飲み露天風呂に入る」といったささやかな願いが最初の火種になりその積み重ねがやがて大きな推進力へと育つ

スペース・コロニーについて考えることは単なる技術論ではない人類が次に目指すべき未来像を形にし共に育てていく営みなのである

Writer

鳥嶋 真也(とりしま しんや)

1987年生まれ宇宙開発宇宙科学天文学の分野を中心に取材・執筆活動を行う宇宙開発の歴史を調べることがライフワーク著書に『イーロン・マスク』(共著洋泉社)があるほか月刊『軍事研究』誌など複数の媒体で記事を執筆している新聞やテレビラジオでの解説も多数“軌道”つながりで鉄道も好き

Webサイト: Pale Blue . Space (https://pale-blue.space/)
note: 探検された天の世界 - Celestial Worlds Explorednote (https://note.com/celestial_worlds)
Bluesky: https://bsky.app/profile/luna-astroneering.bsky.social

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