闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
リヴィラ観光と水浴び、それとヘスティア様がグレイの正体を察する回です
翌朝。
解毒剤が届くまで暇があるということで、アイズ達にリヴィラの街を案内してもらうことになった。
「はぁっ、はぁっ……」
「大丈夫ですか、ヘスティア様?肩車しましょうか?」
「いや……自分の足で歩く!」
すっかり息の上がっているヘスティア様に肩車を提案するが、前方をすいすい歩くアイズとリリを見て気合を入れて崖道を登る。
「ここが……」
道を登り切ると、『ようこそ同業者、リヴィラの街へ!』と
「見てくれに騙されない方がいいわよ。気持ち良くして、懐を緩めようって腹だから」
ティオネ・ヒリュテの言う通り、この街の商店の店頭に並ぶ品物は地上での金額に比べて桁が1つ2つほど異なる。なにせ彼等の
「バックパックが2万ヴァリスだなんて……法外もいいところです!」
「この大きさの砥石がこの値段はありえねえ……」
購入したばかりのバックパックを背負って怒るリリ。ヴェルフも店の前にある武器整備用の砥石を手に取り、呻き声を上げる。『出費を惜しんで死ぬか、大金をはたいて
「そういえばヘルメス様、肝心の支払いはどうしているんですか?大量の金貨を持ってダンジョンに潜る冒険者はいないと思うんですが」
俺が尋ねると、ヘルメス様はとある店を示す。
「あそこで羊皮紙を取り出して冒険者の直筆を求めているだろう?ああやって
「そうですか。そう言えばヘスティア様、俺達の【ファミリア】のエンブレムってまだ作ってませんよね?」
「エンブレムか~、どんなデザインにしようかな~……」
ヘスティア様は腕を組み、地下の青空を見上げる。
団員を増やすのが先決かもしれないが、自分達だけのエンブレムがあると、より【ファミリア】らしくなる。ヘスティア様が炉の女神であることを考えると火の書かれたエンブレムが浮かぶが、それだけだと物足りない。もう少し何か欲しいところだ。
「あ……す、すいません!?」
俺のいる場所から少し離れたところでベルが誰かに謝罪する声が聞こえた。肩でもぶつかったか?
「お前、あの酒場の時の……!?何でてめえがここに……っ!?」
ベルの目の前にいた冒険者はベルを指差すと、周囲に視線を動かす。そして俺と目が合うなり、そそくさと立ち去っていった。
「グレイ君、君は彼等に一体何をしたんだい?」
「あー、実はですね……」
酒場での1件を説明すると、ヘスティア様はなんとも言えない表情で腕を組んで唸り。ヘルメス様は立ち去った彼等の背中を見つめた。
「……暇だ」
野営地に戻り、18階層に昼が訪れた頃。
ヘスティア様達女性陣は、この階層に来るまでにかいた汗や被った土埃などを洗い流すため水浴びへ向かった。
残された俺達男性陣は何かするわけでもなく、野営地で過ごしていた。
「グレイ君、ちょっと付き合ってくれないか?」
「はい?」
「君とベル君に
ヘルメス様は俺に近づくと、声を潜めてそう言った。
雰囲気は真剣そのものなんだが、誰かに聞かれると不味いような口ぶりで話してくるあたり、よほど重要なのか或いは碌な事ではないかの2択だろう。
「…………遠慮しておきます」
「……わかった。それじゃあ、ベル君にも声をかけてみるよ」
ヘルメス様はそう言うと、ベルのいるほうに向かっていった。ベルはというと緊張した面持ちで頷き、ヘルメス様の後に付いて森の奥に入っていった。
それから数分後……
「グレイ君ー、ベル君はこっちに戻ってきてない?」
「戻ってきてないですけど……何があったんですか?」
ヘスティア様に呼ばれて振り向くと、アスフィさんに襟首を掴まれてずるずると引きずられているヘルメス様が目に止まった。
「実はね……」
女性陣が水浴びをしていたところ、ヘルメス様に唆されて覗きをしていたベルが木の上から落下。お詫びの言葉を大声で叫びながら脱兎の如くその場を去ったらしい。そして元凶であるヘルメス様はアスフィさんに捕まり、今に至るそうだ。
「申し訳ありません!私の主神様が皆様にとんだご迷惑をっ!」
「ぐっ!げふっ!ごふっ!」
正座しながら頭を下げるアスフィと、それに合わせて額を地面に叩きつけられるヘルメス様。
「アスフィさん。ヘルメス様は紳士にあるまじき行いを働き、それに
「ではグレイさん、あなたはこの方に更に何らかの処罰を下すべきだと?」
「ええ。具体的には……とか如何でしょう?」
「良いですね。では、どうぞ」
耳打ちすると、アスフィさんは眼鏡を光らせ、ヘルメス様の上着を剥ぎ取り俺に差し出した。
受け取った俺は荷物の中から裁縫道具を取り出し、背中の部分に
「できました。どうぞ、アスフィさん」
「『私は女子の水浴びを覗いた変神です』……さぁヘルメス様、これを着てください」
「ちょっとグレイ君!?これは流石にやりすぎじゃないかい!?」
「むしろ妥当だと思いますが?」
ヘルメス様の反対意見にそう答えると、覗かれた女性陣がうんうんと頷いてヘルメス様を睨んだ。
「わかった……っ!着るとも……っ!」
ヘルメス様は無言の圧力に屈し、上着に袖を通した。
その後、夕餉の直前にベルが野営地に帰還。神に唆されたということで、被害者を代表してヘスティア様に手厳しい注意を受けることになった。
深夜。ベル達の寝泊まりするテント。
「うー……催した」
もぞもぞと布団から出たヘスティアはポーチの中を探り、ちり紙とハンカチを取り出した。
「ねえ、ちょっとお花摘みに行きたいんだけど……護衛を頼んでもいいかな?」
「ええ」
「ありがとう」
見張りをしていた【ロキ・ファミリア】の女性団員に声をかけ、昼間に水浴びを行った場所に向かう。
~暫くお待ち下さい~
「ふい~、スッキリした」
用を足し終えたヘスティアは泉の水で手を洗っていた。
ハンカチで手を拭き、テントに戻ろうとした時だった。パチリと、火の爆ぜる音を耳にした。
「ん?誰だろう?こんな森の中で……」
記憶を頼りに、音のした場所に足を進める。
「たしかこのあたりから…………っ!」
視線の先では、グレイが火を前に座っていた。寝てしまっているのだろう、頭は船を漕いでいた。
だが、彼女にとって彼がここにいることはさほど重要ではない。問題は、火の中心に突き刺さっている一振りの剣にあった。
全長凡そ80C。十字の鍔に、螺旋を描く刀身と柄。彼女の記憶が正しければ、あの剣を持つ人物は1人しかいない。
「(……待てよ?)」
もしやと思ったヘスティアは、できる限り足音を立てないよう抜き足差し足でグレイの背後に回る。
「(…………そうか!そういうことだったのか!)」
彼女が既視感を抱いていた、グレイの後ろ姿。【残り火】というスキルに書かれた、《王の力》なるもの。異常なまでの【ステイタス】の伸びの遅さ。そして、火の中心に突き刺さる剣。これらが点と線で繋がり、彼女の脳に答えが導き出された。
だが、このことについて問うのは地上にある
ヘスティアは抜き足差し足でその場を去り、待たせている護衛のもとに戻っていった。
グレイの正体については、原作6巻の序盤あたりで触れる予定です。