闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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第32話

うっすらと、森の内部が暗くなり、ダンジョンに『夜』が始まった。

食事の用意ができたという連絡を聞いた俺達4人はアイズ・ヴァレンシュタインの後ろに従い、野営地の中心に到着した。

開けた中心地には、沢山の人が輪になって座り込んでいた。真ん中に数個設置された携行用の魔石灯は眩く、焚き火のようにも見える、営火(キャンプファイア)というやつだ。

アイズがベルの右隣に座り、左隣にはリリが、その更に隣にヴェルフが座り、最後に俺が座った。

全員が座ったことを確認したところで、フィンさんが立ち上がって俺達の紹介をしてくれた。更に、揉め事を防ぐ為に冒険者の自尊心に訴えるような口上を述べていた。

 

「……また、鎧を纏っている彼とアイズがゴライアスを倒してくれたおかげで、地上への帰還にかかる時間が短縮された。皆、感謝と敬意をもって接してくれ」

「えぇっ!?」

「本当ですか!?」

「マジでか!?」

「いや、ほとんど【剣姫】の独壇場で俺は何もできていないぞ?」

「……いえ、グレイさんが魔法で的確な支援攻撃をしながらゴライアスの注意をひきつけてくれたから、私も攻撃に専念できました」

 

フィンさんが投下した超弩級の爆弾発言に何とかアドリブで対処する。ちらりと当の本人に視線を送ると、笑顔が帰ってきた。

そして、フィンが話を終えて座ると何人かの冒険者が俺のところに来て礼を述べてきた。

やっと落ち着いてきたところで、食事に手をつける。18階層で採れるという果物、雲菓子(ハニークラウド)──名前からして凄く甘そうなそれを1口食べてみる。

 

「(これは……ッ!)」

 

甘い。甘過ぎる。昔、大陸東部で格闘技の修行をしていた時に大量の砂糖が入った水を飲んだことがあるが……ここまで甘くはなかったな。

 

「(そういえば、ベルは甘いものが苦手だと言っていたな……)」

 

大丈夫だろうか、とベルのほうを見ると……案の定胸焼けに苦しんでいた。

 

「ベル様、ベル様?もしお口に合わないのでしたら、リリがいただきましょうか?」

「う、うん、あげる……」

「でっ、ではっ──あーんっ」

「ああ、ベル。任せろ、俺が食ってやる……ん、こりゃ確かに甘過ぎるな」

 

ベルの正面にわざわざリリが移動し、口を開けたリリにベルが食わせる前に、ヴェルフがそれを横から取って、綺麗に処理した。

真っ赤になり涙目でキーッキーッと言いながらヴェルフをポカポカ殴るリリ。ヴェルフはヴェルフで胸焼けに苦しそうに喉を押さえ、リリのパンチなど、どこ吹く風だった。

 

「(しかし……)」

 

さっきからエルフ達が俺のことをちらちら見ている気がするんだが……何故だ。レフィーヤに至ってはガッツリこっちを見ている。

 

「(……エルフ、エルフか……昔エルフの里がモンスターの群れに襲われていたところを助けたことがあるんだが……それぐらいしかエルフに関する昔の記憶はないな……)」

『──ぬおあぁっ!?』

 

エルフ達からの視線の理由をあれこれ考えていたところだ。

聞き覚えのある、けれどここでは聞こえる筈のない声が届いてきたのは。

ばっとベル、リリと顔を見合わせる。目を見張っている2人も俺の思考を肯定するように頷いた。

駆けていく俺とベルをリリが追いかけ、遅れてヴェルフも走り出した。

声の方角に進むと野営地を抜け、森を抜け、口を開けた洞窟が見えた。

洞窟前には既に【ロキ・ファミリア】の見張り番達が集まっていた。

 

「痛たたた……」

「おいおい、大丈夫かい?ヘスティア」

 

頭と尻を打ったのか、涙目でさするヘスティア様の姿があった。

隣には屈んでヘスティア様の顔を見る男神様がおり、それ以外に冒険者達もいた。あの眼鏡をかけた女性の冒険者、どっかで会った気が……。

 

「……ベル君!!グレイ君!!」

 

人垣が割れて、道が開き。一直線に飛び込んできたヘスティア様がベルの顔に抱きついた。

棒立ちだったベルが倒れそうになったので、俺はベルの後ろに立って支えた。

 

「ベル君!グレイ君!本物かい!?」

「か、かみひゃま……ッ!?」

「本物ですよ」

 

ヘスティア様はベルに抱きついた体勢のまま、器用に俺とベルの顔を見比べる。

 

「……良かったぁ」

 

ベルに抱きつくヘスティア様の体は幼い子供のように震えていた。

俺達のことを心配して、体裁なんて投げ捨てて、ここまで探しに来てくれたんだ。特に、俺の場合は【スキル】の効果を知っているから気が気ではなかったのだろう。……俺が万が一亡者(かいぶつ)になり他の冒険者を襲い、冒険者の手で殺されてしまうんじゃないかと。

 

「皆さん、ご無事でしたか」

「リューさん?なぜ貴女まで?」

 

俺達が無事であると認識したヘスティア様がベルの顔から離れるのと入れ替わりに、近づいてきた覆面の冒険者が耳元で囁く。

フードの奥からこちらを見る空色の瞳と聞き覚えのある声は間違いなく、『豊穣の女主人』の店員であるリューさんのものであった。

 

「とある神に、冒険者依頼(クエスト)を申し込まれました。貴方方の捜索隊に加わってほしい、と」

 

フードの奥の瞳が、視点をずらす。

彼女の目の動きを追えば、先程の男神様が【ロキ・ファミリア】の見張り番と話をしていた。

 

「ありがとう、状況が把握できた」

 

男神様は得心の笑みを浮かべ、礼を述べた。

そうして、こちらの視線に気づいた男神様は笑みを纏ったまま、こちらに近づいてきた。

 

「君がベル・クラネルで、君がグレイ・モナークかい?」

「はっ、はい」

「ええ」

「そうか君がか。いやー、会いたかったよ。おっと、自己紹介がまだだったね。オレの名はヘルメス。どうかお見知りおきを」

「ヘルメス、様……?」

「よろしくお願いします」

 

手を差し出され、ベルと俺は握手で応える。

 

「ヘ、ヘルメス様?それで、あの……」

「ああ、見ず知らずのオレが、君達を助けに来た理由かい?」

「は、はい」

「なぁに、オレはヘスティアの心友(マブダチ)だから協力したまでさ。君達を助けたいと言っていた、彼女の望みにね」

 

「それに」とヘルメス様の視線が俺に移る。

 

「グレイ君。君には24階層でオレの眷属()達が世話になったからね、そのお礼が言いたかったんだ。なぁ、アスフィ?」

 

アスフィと呼ばれた水色(アクアブルー)の髪と眼鏡をかけた女性冒険者は、俺に近づいてきた。

 

「その節は、ありがとうございました」

「……あぁ、あの時の!いや、わざわざありがとうございます」

 

なるほど、あの時の冒険者パーティーは全員ヘルメス様の眷属だったのか。

 

「それに、感謝ならオレ以外の子達にしてやってくれ。そこの覆面の冒険者にアスフィ、そして彼等のおかげで、ここまで来れたからね」

 

ヘルメス様の視線を辿ると、洞窟から出てきた冒険者達と目が合った。

配色や様式を揃えた防具と戦闘衣(バトル・クロス)を纏う、恐らく同じ【ファミリア】の3人の冒険者だ。

 

「……ベル、旦那」

 

後ろからヴェルフに言われる前に、俺達も気づいた。

見覚えのある青紫の瞳。当時、涙ぐんでいたあの少女とすれ違ったのは、13階層。

この18階層へ来るに至った最初の誘因……モンスターの大群を運んできた冒険者達だ。

 

 

 

 

「まずは、ベル君達を助けてくれてありがとう」

 

【ロキ・ファミリア】の野営地の奥にある幕屋。そこにはフィン・ディムナを始めとした【ロキ・ファミリア】の幹部と、【ヘスティア・ファミリア】の主神ヘスティアがいた。

神ロキと神ヘスティアが犬猿の仲であることは、オラリオの住人の間では有名な話だ。特に【ロキ・ファミリア】の構成員は喧嘩に負けて自棄酒を呷り、べろんべろんに酔った主神から延々と愚痴を聞かされることも多々あるという。だが、今は主神同士の仲の悪さは置いておこうと判断したヘスティアは、先ほどの礼を述べた。

 

「いえ、こちらも貴女の眷属に助けていただきました。ありがとうございます」

「……グレイ君が何かしたのかい?」

「自分は彼の名を口にはしていないのですが……何故、彼だと?」

「う~ん……勘、かな。で、グレイ君は何をしたんだい?」

「それがですね……彼がゴライアスを倒してくれたんですよ」

『!?』

「マジで!?」

「はい。そうだよね、アイズ?」

「……私が17階層に着くのと、あの人がゴライアスを倒したのは、ほぼ同時だった」

 

下界の人類(こどもたち)の嘘は神に通じない。つまり、アイズの言っていることは本当のことである。

彼の異常(イレギュラー)ぶりはとどまるところを知らないのか。ヘスティアは不意に頭痛を感じ、頭を抱える。

 

「無用な混乱を避けるために、他の団員達には『アイズと彼が共闘してゴライアスを倒した』と伝えてあります。と言っても、普段から彼の名は【ファミリア】内でも話題に挙がっているので大して効果はないかもしれないですが」

「そうなの?」

「はい。実は、彼の使う魔法というのは嘗てエルフ達が研究していた古の魔法なんです」

「ゑ!?」

 

ヘスティアは目が飛び出るほどに驚いた。まさか自分の眷属の使う魔法がそんなとんでもないものであったことを、今の今まで知らなかったのだから。

 

「ご存知ないのですか?」

「うん。ボクって下界に降りてきた神でも新参だからね。それに、天界にいた頃も基本的に屋内でぐーたら過ごしていたから下界の情報に疎いし。……良かったら教えてくれないかい?主神として知らないのは恥ずかしいから」

 

何より、「嘗て」という過去形を用いたことが頭に引っかかった。

 

「わかりました。リヴェリア、君に頼んでも良いかな?」

「任せろ……と、言いたいところだが私以上の適任者がいる。連れてくるから、少し待ってほしい」

 

そう言ってリヴェリアが幕屋を出て少し待つと、彼女が連れてきたのはレフィーヤであった。

 

「あの、リヴェリア様?少し頼みたいことがあると言われて付いてきたのはいいのですが、私は具体的に何をすれば……」

「神ヘスティアが、嘗て我らエルフが研究していた古の魔法について知りたいとおっしゃったのでな。お前に任せようと思う」

 

瞬間、レフィーヤは目を輝かせ、リヴェリアにぐっと近づく。

 

「良いんですかっ!?」

「ああ、存分に語れ」

 

レフィーヤの両肩に手を置き、頷くリヴェリア。だが、レフィーヤのあまりの眩しさに彼女は眉をしかめていた。

 

「では……神ヘスティア、貴女は『火の物語(テイルズオブフレイム)』『呪いの物語(テイルズオブカース)』『灰の物語(テイルズオブアッシュ)』をご存知ですか?」

「うん。最古の物語(オールドテイル)のことだね?知っているよ」

 

火の物語(テイルズオブフレイム)』、『呪いの物語(テイルズオブカース)』、『灰の物語(テイルズオブアッシュ)』。この3つをひっくるめて、下界では最古の物語(オールドテイル)と呼称している。

その物語は暗く、陰鬱で血生臭い、救いのない物語ばかりである。だが、絶望(やみ)に抗い、希望(ひかり)を掴もうとする彼等の姿は、今なお人々の心を惹きつけてやまない。中には救済をもたらそうと、彼等がハッピーエンドを迎えた2次創作本を出版した作家が少なからず存在するほどだ。

 

「そうです。古代よりも更に古い時代──物語での呼称にならい、『火の時代』と称される時代より伝わる物語。一説には、太陽の女神グウィネヴィア、月の神グウィンドリン、火の神イザリス、死の神ニトなど1000年前に神々が降臨するまで信仰されていた神は、その物語が原典になっているともされています」

「ふーん。でも、それがどうかしたのかい?」

「物語というものは、原典となる事実が存在します。ここオラリオで紡がれた『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』が、様々な童話・英雄譚の原典になったように。ですが、最古の物語(オールドテイル)は原典となった時代があまりにも古すぎる、或いは時代そのものが不明であるため、証明するのが困難なのです」

「そうだね」

「そこで私達エルフは、物語に登場する魔法に目をつけたのです。古の魔法を現代に蘇らせることで、物語の原典となった時代、つまり『火の時代』が存在したことを証明しようと試みました」

 

ふむふむ、とヘスティアは頷く。

 

「まずは『ソウル』『信仰』『混沌の炎』『深淵の闇』これらを始めとした魔法体系における概念の定義づけから始めたのですが、0からのスタートでしたので研究は困難を極めました」

 

「ですが」と言い、レフィーヤは続ける。

 

「そんなある日、1人のヒューマンの旅人がエルフの里をモンスターの群れによる襲撃から救いました。当時の状況、旅人の風貌や強さのほどはこのように伝わっています」

 

『空を満月の蒼い光が照らす夜。黒き衣を身に纏い、背には灰色の杖。腰に竜を象った鈴。そして、手に炎を握りしめた仮面の旅人現る。彼の者、灰色の杖より生命(いのち)の輝きを放つ剣を振るいて小鬼を薙ぎ払い。深淵の闇で蟲を押し潰し。竜を象った鈴より信仰の雷を投じて竜を打ち倒し。畏敬の念を込めた炎を纏いし手で獣を焼き尽くす』

 

「その旅人の用いた魔法こそ、私達エルフが日夜研究を重ねている古の魔法だったのです!」

「何だって!?それは本当かい!?」

「ええ!目撃者の1人である私の何代も前の祖母、ロザリィ・ウィリディスの日記にそう書かれていたのですから!」

 

そう言うとレフィーヤは誇らしげに胸を張る。

 

「当時のエルフ達は里を救ったことへの感謝を述べて丁重にもてなし、彼はその礼に古の魔法に関する助言を授けました。その旅人は数日里に滞在し、去り際にこのような言葉を残しました」

 

生命(いのち)の根源を探求せよ。深淵の闇に潜り、呑み込め。神への信仰を深めよ。火を畏れ、敬いたまえ。さすれば、魔法への道は開かれるだろう』

 

「襲い来るモンスターの群れを容易く打ち倒した古の魔法。そして、それを扱う彼に対する恐怖と尊敬、嫉妬と羨望をこめて、私達エルフは彼を『黒い鳥』と呼んでいます。その身に纏う黒い装束と、世界を自由に旅して回る姿から渡り鳥を連想して。それからエルフ達の研究は飛躍し、ようやく芽が出始めてきたのですが……軍神アレス率いるラキア軍の魔剣によって私達エルフの里が焼き払われたことはご存知ですよね?」

「うん。神友(ヘファイストス)から聞いたよ」

「焼き払われたのが里だけなら何とか私達の手で再生できたのですが……その際に魔法の研究資料も所蔵している施設もろとも灰になってしまったんです。紙片の1欠片も残さず、全て。そして、研究に携わっていたものは資料を守ろうと火の海に飛び込んで焼死。或いはその光景を見て心の均衡を失って廃人となるか、自害し果ててしまい、研究は終わりを告げてしまいました」

「ごめんね。ボクの天界馴染みのせいで、君達の研究を消滅させてしまって」

「いえ、神ヘスティアが謝る必要はありません。それに、私達エルフも弱っていたラキアを囲んで袋叩きにして、領土の凡そ4割を焦土に変えましたから」

「……」

 

エルフの怒りの凄まじさに、ヘスティアは身震いした。

 

「さて、以上が私達エルフと古の魔法の関係です。ここからは、その魔法がいかなるものであったかについてお話します」

「うん」

 

手を合わせ、レフィーヤが話題を変えると、ヘスティアも意識を切り替える。

 

「私達冒険者が現在使っている魔法と古の魔法の違い。それは、連射性と汎用性です。現在使われている魔法というのは、大抵どんなに短くても詠唱を必要とし、詠唱文が長いほど強力になります。加えて、冒険者によって発現する魔法が千差万別です。発現させる手段も『ランクアップ』を重ねるか、使い捨ての貴重な魔導書(グリモア)を読むかの2択です」

「(あれ?ベル君の【ファイアボルト】は詠唱文がなかったけど……このことは黙っておこう。あの子の【ステイタス】に関する情報だからね)」

 

ベルの【ファイアボルト】の説明文に書かれていた、『速攻魔法』という1文が頭を過ったが、口にするのをこらえる。

 

「ですが古の魔法は詠唱を必要とせず、ただ魔法の名を口するだけで良いのです。更に、古の魔法は種族や性別などを問わず必要な力──『理力』と『信仰』を満たしていれば、誰でも扱えるのです。しかも、魔法の記されたスクロールは何度でも使用可能なのです」

 

「もちろん、スロットが空いていることが前提なのはどちらも同じですが」とレフィーヤは付け加える。

 

「以上が、現在使われている魔法と古の魔法の違いですが……他に質問などはございますか?」

「ううん、それだけわかれば十分だよ。でも驚いたよ、まさかグレイ君の魔法がそんな凄い代物だったなんてね」

 

腕を組み、幕屋の天井を見上げるヘスティア。

 

「……ありがとう。それじゃあ、ボクはベル君達のいるテントに行くね」

 

ヘスティアは立ち上がって幕屋を出ると、ベル達のいるテントへ向かっていった。




レフィーヤの何代も前の祖母の名前はフランにしようと思ったのですが、V主人公のもう1人の相棒であるロザリィ姐さんのほうを採用しました。
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