闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
18階層南部の森の中に設けられた【ロキ・ファミリア】の野営地の奥。周囲の天幕よりも1回り大きい幕屋で、俺はとある有名人達と面会を行っていた。
「アイズから報告されたときは驚いたよ。まさか、階層主を
「俄には信じ難いが……魔石と
「いやはや、貴公には驚かされてばかりだ」
【ロキ・ファミリア】団長、
何故彼等がこの階層に滞在しているのか聞いたところ、帰路の途中でモンスターから厄介な『毒』をもらったらしい。そこで【ファミリア】の中でも足の速い者に1度地上へ解毒剤を集めに行ってもらい、戻ってくるまでここに滞在するそうだ。
俺が『治癒の涙』を使えば治せるんだが……地上に向かった団員の苦労を無駄にしないためにも、ここは黙っておこう。あと、余計に目立つような行動をするのは控えておきたい。
「ベル・クラネルにも言ったけれど、食料を始めとした物資はもうあまり残っていないんだ。配分できるものには限りがあるから、それだけは理解してほしい」
「いえいえ。恵んで頂けるだけでも十分です」
俺達に貸してくださっているテントも、『毒』で寝込む人が続出し、天幕に余裕がない中から捻出してくれたものだろう。彼等の温情には恐縮するしかない。
「さて、僕からの話は以上だ。リヴェリア、彼に話があるんだろう?」
「正確には質問なのだが……まあいい。グレイ・モナーク。9階層で言った言葉、忘れてはいないだろうな?」
「覚えてますよ。こちらも次の機会があったらどう答えるか考えておきましたし」
「そうか……では、1つ目の問いだ」
ああ言ってはいたものの、想定した問いが必ずくるとは限らない。できる限りこちらの秘密が漏れないように答えよう。
「貴公に古の魔法を授けた師は、健在か?」
「残念ながら、既にお亡くなりになっています」
「……2つ目。師の種族と性別、身なりはどのようなものだった?」
「ヒューマンの男性。黒ずくめで仮面を着けていました」
「……3つ目。古の魔法が記されたスクロールを持っているか?」
「ええ。と言っても、弟子と認めた者以外には決して見せてはならん、と言われましたので。お見せすることはできません」
「…………わかった。私からの問いは以上だ」
彼女の言葉に、俺は少し驚いた。もっと根掘り葉掘り聞きに来ると思っていたんだが。
「いいんですか?」
「ああ。最低限知りたかった情報は得られたのでな」
「そうですか。では、俺はベル達のいるテントに──っと、この魔石と
立ち上がり、幕屋を退出する寸前。魔石と『ゴライアスの歯牙』を指差す。
個人的には、換金した額の何割かを宿代として彼等に支払うつもりなんだが……
3人はそれぞれ目で会話し、頷く。
「それは君がゴライアスを倒して手にしたものだ。だから、君の好きなようにして構わないよ」
「わかりました。それでは、この借りはいつか何らかの形でお返しします」
魔石と『ゴライアスの歯牙』を担ぎ、アイズ・ヴァレンシュタインの案内のもと、ベル達のいるテントに俺は向かっていった。
「いいのかい、リヴェリア?」
グレイが去った後、フィンはリヴェリアに尋ねる。
「嘗て君たちエルフが研究していた古の魔法の使い手がいるんだ。聞きたいことは山程あったんじゃないかい?」
「
「確かに」
「それに、最低限知りたかった情報は得られた。それだけで十分だ」
「あの者に魔法を授けた師匠のことか?」
「ああ。黒ずくめで仮面を着けたヒューマンの男性……伝承の通りだ」
「伝承……それは、遥か昔からお主等エルフに伝わるという『黒い鳥』のことか?」
「そうだ。だが伝承の広まり始めた時代を考慮しても、『黒い鳥』から魔法と装束を継承した者がいるはずだ。それが歴史の表舞台に出ることなく、彼の代まで連綿と続いた……実に興味深い」
嬉しそうに口の端を吊り上げるリヴェリア。彼女の両眼は、好奇心と知識欲で満ち溢れていた。
「……ここが、ベル達のいるテントです」
「わかった。道案内、ありがとう」
ベル達がいるというテントに案内され、俺はアイズ・ヴァレンシュタインに軽く頭を下げる。
「それじゃあ」と言い、彼女は野営地に戻っていった。
「ベル、リリ、ヴェルフ。大丈夫かい?」
「グレイさん!」
テントに入ると、ベルだけがいた。
「リリとヴェルフは?」
「2人なら、さっき【ロキ・ファミリア】の野営地のほうに行きましたよ。何か手伝えることがないか聞いてくるって。あと、グレイさんが来た時のために僕がここで待つことになったんです」
「そうか……」
「とりあえず、2人が戻ってくるまで待ちましょう」
「ああ」
俺は取り敢えずテントの奥の方に座ることにし、待つこと数分。リリがテントの入り口から顔を出した。
「ただいま戻りました」
「おかえり」
「グレイ様!お体のほうは大丈夫ですか?」
「ああ。なんとかね」
「あれ?ヴェルフは?」
「ヴェルフ様なら、『遠征』に同行していた【ヘファイストス・ファミリア】の方々に捕まり、絡まれましたので置いてきました」
「ひどいな……」
「それと、手伝ってもらうような事は特にないから、休んでて良いと言われました」
リリはそう言うと、ベルの隣に座った。
「リリスケ!なんで俺を置いて行きやがった!」
「休んでて良いと言われましたので、さっさとテントに戻っただけです」
「せめて俺を助けるなりしてから行け!この薄情者!」
暫くすると、ヴェルフが肩で息をしながらテントに入ってきた。
「お、旦那も来てたのか」
「ああ。2人が野営地に行っている間に入れ違いでね」
ヴェルフは呼吸を整えると、その場に座りこんだ。
「でも、良かったよ。こうして全員生き残ったんだから」
「そうだな。リリの臭い袋にベルとヴェルフの魔法。そして俺の『月光』」
「これらがあったから、俺達は今こうしていられるわけだな」
「ですね」
それぞれで現状を整理し、生き残れたという事実を噛み締め、仲間に感謝する。
「そういえばベル。あの【剣姫】と顔見知りみたいだが、何かあったのか?」
「う、うん。まあ……色々あってね」
ヴェルフはベルに肩を寄せて尋ねると、ベルは苦笑しながら頬を掻く。リリは満面の笑みでじわじわ近づき、無言の圧力をかけている。
「俺はちょっと用を足してくる」
「あ、グレイさん。僕も──」
俺がテントを出るのに乗じて追及を逃れようと、ベルは立ち上がろうとするが……
「ベル様?【剣姫】とあった色々について、詳しい話を聞かせていただけないでしょうか?」
ベルの腕をがっしりと抑えるリリがそれを許さなかった。
「それじゃあ」
「待ってください、グレイさん!グレイさーん!」
ベルの悲鳴を聞き流し、俺は森の内部を歩いていく。
「人の気配、モンスターの気配共になし……よし、ここでするか」
俺はその場に座り込み、地面に『ソウル錬成炉』を置くと『ゴライアスのソウル』を入れる。すると、灰褐色の炎が更に大きくなった。
その中に両手を入れて目を閉じ、意識をソウルに向ける。
「……よし、掴んだ」
俺はそのまま手を出す。すると、俺の手には持ち手のついた大きな石の大盾が握られていた。ひっくり返って表面を見ると、これまた大きな髑髏のレリーフが彫られていた。
「なるほど、こいつが『ゴライアスのソウル』で錬成できる武具か。さて、名前はどうしようか……」
近くの木に大盾を立てかけ、名前を考える。
「……ウォール。
俺は錬成炉と
『黒い鳥』については、ある程度設定が出来上がっているので次回あたり詳しい話をする予定です。