闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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第30話

16階層の通路の一角。洞窟状の道の真ん中で俺達は止まっていた、止めざるをえなかった。

 

「臭い袋が、なくなりました……」

 

リリの逼迫した声音。

モンスターの襲撃から俺達を守っていた異臭は消え、それと入れ替わるように濃厚な殺気が向けられる。

やがて、通路の奥から地響きとともに何かが近づいてくる。

 

「ベル……」

「はい」

 

俺とベルはリリとヴェルフの前に立ち。近づいてくる何かを迎撃せんと構える。

 

『ゥゥゥゥ……』

 

闇の奥から現れたそれは、2Mを超す巨躯を持っていた。

雄々しい角に、膨大な筋肉と岩の如き蹄の牛頭人体。

大戦斧(バトルアックス)と見紛うような特大の天然武器(ネイチャーウェポン)を両手で持ち、こちらを見下ろしている。

 

『ヴォオオオオオオッッ!!』

 

ミノタウロスが咆哮を上げると同時に、ベルは走り出した。

雄叫びを上げるミノタウロスに正面から突貫する。

 

『ヴォッッ!?』

 

すれ違いざまに、ミノタウロスの腱を斬った。

血飛沫を散らすミノタウロスに対し、右手に漆黒のナイフ、左手に紅の短刀を掲げる少年(ベル)は──止まらなかった。

神速をもって、斬り刻む。

 

『────ッ!?』

 

ミノタウロスに一切の反撃を、抵抗を許さず、強靭な体躯へダメージを叩き込んでいった。

最後に横一閃の大振りを胴に打ち込まれたミノタウロスは、ズタズタに斬り裂かれた全身を後退させ、よろめき、断末魔とともに背中から倒れ込み、灰と化していった。

 

「グレイさん!」

「数は!?」

「3匹です!」

「わかった!」

 

俺はベルから追加のミノタウロスの数を聞き、そのまま立ち位置を入れ替える。

『月光』を両手に持って上段の構えを取り、そのまま静止する。すると、『月光』の刀身が蒼い輝きを纏い始める。

 

「──フンッ!」

 

時間にして10秒ほど。俺はそこで『月光』を振り下ろす。

光の斬撃が解放される。

眩い蒼光は敵の突進を呑み込み、通路が月の光で照らされていく。

光はそのまま通路の奥へと突き進んでいき、岩壁を砕く音が遠くから響いてきた。

 

「……さて、行こうか!」

 

モンスターがこれ以上現れないことを確認し、俺達はそのまま通路を進んでいった。

 

 

 

 

激しい爆炎が連鎖する。

強制的に自爆させられたヘルハウンドの群れは、火の粉に巻かれながら地面へと崩れ落ちる。何度目とも知れない光景を前に、対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)を発動したヴェルフは、突き出した右腕をそのままに、ふらりとよろめく。

 

「……おっと」

「大丈夫か?」

「ああ、なんとかな。ただ、これ以上魔法を使うのは無理かもしれねえ」

 

体から力が抜けたヴェルフに肩を貸し、倒れ込むのを防いだ。

度重なる魔法の使用によって精神疲弊(マインドダウン)の一歩手前になったヴェルフの額から玉のような汗が出る。

 

精神回復薬(マジック・ポーション)はいるか?」

「……いや、こっからは大刀(こいつ)でいくからいらねえ」

 

ヴェルフは俺の肩から手を離し、着流しの袖で汗を拭う。

 

「リリ、大丈夫?バックパック持とうか?」

「…………すいません。ベル様、お願いします」

 

リリとベルの方を向くと、ベルがリリのバックパックを受け取っているところだった。

無理もない。『上層』と勝手の違う『中層』の重圧感(プレッシャー)は、パーティーの中で最も【ステイタス】の乏しいリリの心身を蝕んでいた。寧ろ、立って歩いているだけでも大したものだと褒めるべきだろう。

ベルがリリのバックパックを背負ったのを確認し、俺達は再び歩き始める。

 

「あったぞ!」

 

見つけた。

4つ角の右手、10Mも歩けば行き止まりとなる浅い一本道。その1番奥で、岩壁に半ばめり込むように縦穴が開いている。

周囲に目を配ってモンスターがいないことを確認し、吸い寄せられるように穴のもとへ急いだ。

一瞬眼下を覗き込み、穴の縁に足をかけ、一思いに飛び降りる。

 

(やっと17階層に着いた。が、これは……)

 

俺達が降り立った17階層。そこは不自然なほどに静かだった。

まるで、何かの誕生を恐れるかのように。モンスターの気配がまったくしない。

ベル達も違和感を抱いたのか、階層内を見渡す。

 

(……間に合わなかったか)

 

通路を突っ切り、大広間に踏み入れたところで、俺は確信した。

そしてそれを後押しするように、真正面の壁──『嘆きの大壁』の上から下にかけて亀裂が走り始める。

 

「ベル!リリ!ヴェルフ!18階層に着いたら西に行くんだ!『街』は西の湖沼地帯にある!」

「グレイさん!?」

「それはいいです!グレイ様はどうするのですか!?」

「俺はゴライアスを引きつける!」

 

俺は立ち止まり、ひび割れ続ける壁を睨み付ける。

 

「ふざけんな!旦那置いて安全地帯に行くなんてまねできるか!」

「俺達に今できる最善の策はそれぐらいだ!」

「だからって──」

 

ベルが抗議の声をあげようとすると同時に、大壁からそれは姿を現した。

太すぎる輪郭。太い首、肩、腕、そして脚。総身7Mにも届こうかという、巨人。薄闇の中で捉えた体皮は、灰褐色だった。

後頭部からはごわごわした黒い髪が、首元を過ぎる位置まで大量に伸びている。

これが──階層主。

これが──『迷宮の孤王(モンスターレックス)』ゴライアス。

 

『オオオオオオッッ!!』

「早く!」

「……『街』に着いたら応援を呼んできます!グレイさんも、隙を見て逃げてきてください!」

「ああ!」

 

ベル達が洞窟へ再び駆け出したのを確認し、俺は『頭蓋の指輪』を嵌めてゴライアスを見上げる。

 

(この感覚……そうか、こいつも(・・・・)か)

 

ベル達に背を向け、俺のほうを向くゴライアスは、地響きを鳴らしながら近づいてくる。

俺は『ストームルーラー』を取り出し、構えを取る。すると、刀身が風を纏い始める。

ゴライアスが巨大な拳を振り下ろせば、脚による踏み付けを地面に叩きつければそれを回避。その度に再び構えを取る。

刀身が纏う風は時間と共に強風になり、やがて嵐に変わっていった。嵐に変わったところで、俺は大剣を大上段に構える。

 

『ッ!?』

 

すると、ゴライアスの動きが止まる。

 

『グッ……ガアアアアアアッッ!!』

 

巨人はそれをさせまいと拳を振り下ろそうとする。

──だが、俺のほうが早かった。

振り下ろされた大剣は、纏っていた嵐を放ち、巨人の右腕と右脚を一刀両断にした。

 

『ギャアアアアアアッッ!!』

 

ゴライアスは悲鳴を上げると共に、地に倒れ伏す。しかし、痛みにのたうち回っているだけで灰にならないあたり、まだ死んではいないようだ。

 

「意外と頑丈なんだな」

 

軽口を叩きながら、再び風を刀身に纏わせる。それは再び強風となり、そして嵐へと変わる。

 

「……だが、これで終わりだ」

 

2度目の嵐、今度は巨人を上半身と下半身に分断する。

 

『アァァァァァァ……』

 

巨人は断末魔をあげ、灰へと還っていった。降り積もる灰には魔石と武器素材(ドロップアイテム)『ゴライアスの歯牙』。そして、大きな灰褐色の炎が揺らめいていた。

 

「ソウル錬成は……後にしよう。今はベル達と合流するのが優先だ」




本作での巨人の強さですが、上から順に
ヨーム>鷹の目ゴー>巨人の王≧最後の巨人>巨人鍛冶屋>黒いゴライアス>ゴライアス
となっています。巨人近衛兵なども含めると長くなるので省きました。
次回、ソウル錬成とリヴェリアさんからの質問攻め(予定)です。
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