闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
16階層の通路の一角。洞窟状の道の真ん中で俺達は止まっていた、止めざるをえなかった。
「臭い袋が、なくなりました……」
リリの逼迫した声音。
モンスターの襲撃から俺達を守っていた異臭は消え、それと入れ替わるように濃厚な殺気が向けられる。
やがて、通路の奥から地響きとともに何かが近づいてくる。
「ベル……」
「はい」
俺とベルはリリとヴェルフの前に立ち。近づいてくる何かを迎撃せんと構える。
『ゥゥゥゥ……』
闇の奥から現れたそれは、2Mを超す巨躯を持っていた。
雄々しい角に、膨大な筋肉と岩の如き蹄の牛頭人体。
『ヴォオオオオオオッッ!!』
ミノタウロスが咆哮を上げると同時に、ベルは走り出した。
雄叫びを上げるミノタウロスに正面から突貫する。
『ヴォッッ!?』
すれ違いざまに、ミノタウロスの腱を斬った。
血飛沫を散らすミノタウロスに対し、右手に漆黒のナイフ、左手に紅の短刀を掲げる
神速をもって、斬り刻む。
『────ッ!?』
ミノタウロスに一切の反撃を、抵抗を許さず、強靭な体躯へダメージを叩き込んでいった。
最後に横一閃の大振りを胴に打ち込まれたミノタウロスは、ズタズタに斬り裂かれた全身を後退させ、よろめき、断末魔とともに背中から倒れ込み、灰と化していった。
「グレイさん!」
「数は!?」
「3匹です!」
「わかった!」
俺はベルから追加のミノタウロスの数を聞き、そのまま立ち位置を入れ替える。
『月光』を両手に持って上段の構えを取り、そのまま静止する。すると、『月光』の刀身が蒼い輝きを纏い始める。
「──フンッ!」
時間にして10秒ほど。俺はそこで『月光』を振り下ろす。
光の斬撃が解放される。
眩い蒼光は敵の突進を呑み込み、通路が月の光で照らされていく。
光はそのまま通路の奥へと突き進んでいき、岩壁を砕く音が遠くから響いてきた。
「……さて、行こうか!」
モンスターがこれ以上現れないことを確認し、俺達はそのまま通路を進んでいった。
激しい爆炎が連鎖する。
強制的に自爆させられたヘルハウンドの群れは、火の粉に巻かれながら地面へと崩れ落ちる。何度目とも知れない光景を前に、
「……おっと」
「大丈夫か?」
「ああ、なんとかな。ただ、これ以上魔法を使うのは無理かもしれねえ」
体から力が抜けたヴェルフに肩を貸し、倒れ込むのを防いだ。
度重なる魔法の使用によって
「
「……いや、こっからは
ヴェルフは俺の肩から手を離し、着流しの袖で汗を拭う。
「リリ、大丈夫?バックパック持とうか?」
「…………すいません。ベル様、お願いします」
リリとベルの方を向くと、ベルがリリのバックパックを受け取っているところだった。
無理もない。『上層』と勝手の違う『中層』の
ベルがリリのバックパックを背負ったのを確認し、俺達は再び歩き始める。
「あったぞ!」
見つけた。
4つ角の右手、10Mも歩けば行き止まりとなる浅い一本道。その1番奥で、岩壁に半ばめり込むように縦穴が開いている。
周囲に目を配ってモンスターがいないことを確認し、吸い寄せられるように穴のもとへ急いだ。
一瞬眼下を覗き込み、穴の縁に足をかけ、一思いに飛び降りる。
(やっと17階層に着いた。が、これは……)
俺達が降り立った17階層。そこは不自然なほどに静かだった。
まるで、何かの誕生を恐れるかのように。モンスターの気配がまったくしない。
ベル達も違和感を抱いたのか、階層内を見渡す。
(……間に合わなかったか)
通路を突っ切り、大広間に踏み入れたところで、俺は確信した。
そしてそれを後押しするように、真正面の壁──『嘆きの大壁』の上から下にかけて亀裂が走り始める。
「ベル!リリ!ヴェルフ!18階層に着いたら西に行くんだ!『街』は西の湖沼地帯にある!」
「グレイさん!?」
「それはいいです!グレイ様はどうするのですか!?」
「俺はゴライアスを引きつける!」
俺は立ち止まり、ひび割れ続ける壁を睨み付ける。
「ふざけんな!旦那置いて安全地帯に行くなんてまねできるか!」
「俺達に今できる最善の策はそれぐらいだ!」
「だからって──」
ベルが抗議の声をあげようとすると同時に、大壁からそれは姿を現した。
太すぎる輪郭。太い首、肩、腕、そして脚。総身7Mにも届こうかという、巨人。薄闇の中で捉えた体皮は、灰褐色だった。
後頭部からはごわごわした黒い髪が、首元を過ぎる位置まで大量に伸びている。
これが──階層主。
これが──『
『オオオオオオッッ!!』
「早く!」
「……『街』に着いたら応援を呼んできます!グレイさんも、隙を見て逃げてきてください!」
「ああ!」
ベル達が洞窟へ再び駆け出したのを確認し、俺は『頭蓋の指輪』を嵌めてゴライアスを見上げる。
(この感覚……そうか、
ベル達に背を向け、俺のほうを向くゴライアスは、地響きを鳴らしながら近づいてくる。
俺は『ストームルーラー』を取り出し、構えを取る。すると、刀身が風を纏い始める。
ゴライアスが巨大な拳を振り下ろせば、脚による踏み付けを地面に叩きつければそれを回避。その度に再び構えを取る。
刀身が纏う風は時間と共に強風になり、やがて嵐に変わっていった。嵐に変わったところで、俺は大剣を大上段に構える。
『ッ!?』
すると、ゴライアスの動きが止まる。
『グッ……ガアアアアアアッッ!!』
巨人はそれをさせまいと拳を振り下ろそうとする。
──だが、俺のほうが早かった。
振り下ろされた大剣は、纏っていた嵐を放ち、巨人の右腕と右脚を一刀両断にした。
『ギャアアアアアアッッ!!』
ゴライアスは悲鳴を上げると共に、地に倒れ伏す。しかし、痛みにのたうち回っているだけで灰にならないあたり、まだ死んではいないようだ。
「意外と頑丈なんだな」
軽口を叩きながら、再び風を刀身に纏わせる。それは再び強風となり、そして嵐へと変わる。
「……だが、これで終わりだ」
2度目の嵐、今度は巨人を上半身と下半身に分断する。
『アァァァァァァ……』
巨人は断末魔をあげ、灰へと還っていった。降り積もる灰には魔石と
「ソウル錬成は……後にしよう。今はベル達と合流するのが優先だ」
本作での巨人の強さですが、上から順に
ヨーム>鷹の目ゴー>巨人の王≧最後の巨人>巨人鍛冶屋>黒いゴライアス>ゴライアス
となっています。巨人近衛兵なども含めると長くなるので省きました。
次回、ソウル錬成とリヴェリアさんからの質問攻め(予定)です。