闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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中層攻略、始めます。


第28話

「ここが中層……」

「話には聞いていたが、今までの階層より薄暗いな」

「魔法で灯りを点けようか?」

「いいえ、最初のルームに到達するのを優先しましょう。ヴェルフ様、この通路は一本道なので、道なりにがんがん進んじゃってください」

「わかった」

 

ヴェルフを戦闘に、俺達は適度な間隔を空けて進んでいく。

 

「……それにしても、やっぱ派手だな、コレ」

「『サラマンダー・ウール』のことですか?」

「ああ。着心地は文句ないんだがな」

 

ベルとヴェルフなら防具の下のインナー、リリは服の上から全身を覆い隠すローブ、俺は鎧の上から羽織っているマント。きらきらとした光の粒を表面に散らしている護布は、鮮やかな赤もあって派手と言えるかもしれない。

俺達が身につけているそれは、精霊が己の加護を編み込んで作成した一品──『精霊の護布』だ。火精霊(サラマンダー)が関わったこの『サラマンダー・ウール』は、火炎や熱への耐性と防寒の属性も備えているらしい。

 

「ですが、正直ありがたいです。これで全滅の可能性がぐっと低くなりました」

「……『ヘルハウンド』だね?」

 

俺が口にしたのは、とあるモンスターの名前。『放火魔(バスカヴィル)』の異名を持つヘルハウンドは、犬型のモンスター。中層のモンスターだけに身体能力も高いが、真に恐るべきは口から放射される火炎攻撃だ。

犬か……まずい、最下層で野犬の群れに生きたまま食われた過去がフラッシュバックして腹に痛みが……。

 

「……来たか」

 

ヴェルフの呟きを聞き、俺は意識を切り替える。

薄い燐光に照らされる影は2つ。通路の奥から完全に現れ、モンスターの姿があらわになる。

ごつごつとした体皮は黒一色。両目は爛々と真っ赤に輝き、モンスターの不気味さを引き立てる。

 

「なぁ、この距離はどうなんだ?詰めたほうがいいのか?」

「ヘルハウンドの射程距離は甘く見ない方がいい、って担当官(アドバイザー)の人には言われたけど……」

「なら──叩くぞ!」

 

戦闘開始の合図を自ら上げ、ヴェルフは大刀を担ぎ駆け出した。ベルもすぐその右後方に付く。

ヴェルフに向かって1体のヘルハウンドが飛びかかると、ベルが両者の間に滑り込んで盾を掲げる。ヴェルフが準備した中衛用の小型盾(バックラー)をヘルハウンドに噛ませると、ベルはその場に踏みとどまる。そして、ベルの横から現れたヴェルフがヘルハウンドを体の中心から一刀両断した。

 

『ァガッ!?』

 

盾に食らいついている口から赤黒い血液を流出させながら、上半身と下半身に分かれたモンスターは地面に落下した。

 

『ゥゥゥゥッ!』

 

残っているヘルハウンドは俺達から距離を残した場所で、下半身を高く、上半身を伏せるような体勢を取る。その姿勢が炎を溜めていることはすぐに気づいた。

 

「遅いな」

『ギャンッ!?』

 

ヘルハウンドが炎を放つ直前、俺はヘルハウンドの右目を『シールドクロス』の金属矢で射抜く。

動きを阻止されたヘルハウンドの懐にヴェルフが難なく飛び込み、叩き斬る。

額を真っ赤に染めながら、ヘルハウンドは呻き声とともに崩れ落ちた。

 

「……よし、幸先は良さそうだな?」

「俄仕込みの連携だが、形になってもらわないと困るからな」

「でも、いい感じだったよ」

「ともかく、開けた場所に急ぎましょう。こんな閉所でモンスターに囲まれたら──」

『キュゥッ!』

 

道の奥から現れた声の主は二足歩行を身に着けた3匹の(ベル)──もとい、アルミラージだった。

 

「あれは……ベル様!?」

「違うよっ!?」

「ベルが相手か……冗談きついぜ」

「いやいや、完璧に冗談だから!?」

「おや、ベル。お友達ができたのかい?おめでとう」

「グレイさんまで!?」

 

俺達3人と、いじり倒されるベルを前にするアルミラージの群れは手近にあった大岩を砕き、その中から新しい天然武器(ネイチャーウェポン)を取り出した。

片手でも扱える小型の石斧(トマホーク)。この通路にある岩の多くは『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』なのか。

 

「4対3だな」

「言っておきますが、あくまで4対1を3つ繰り返すんですよ?各自で相手取るなんて、愚の骨頂です。リリはもとより、ヴェルフ様も一歩間違えれば足元をすくわれます」

 

アルミラージの戦闘能力は中層の中でも低い。シルバーバックを上回る敏捷性に注意すれば、Lv.1上位の能力(ステイタス)を持つ冒険者でもかろうじて戦える。

それでもあの兎の脅威評価がLv.2にカテゴライズされる理由は……集団での戦闘が滅法強いからだ。

やがてアルミラージたちは甲高い鳴き声とともに一斉に突進してきた。

 

「まずは右からやりましょう!」

「ああ!」

「うん!」

「おう!」

『キャウッ!』

『キィ、キィイ!』

 

 

 

 

アルミラージの鳴き声が広いルーム内に響く。

次々と襲い来るモンスターの群れに、予断を許さない状況が続く。

 

「息つく暇もない、ってな!」

「無駄口を叩く暇もないぞ!」

 

汗を滴らせるヴェルフは大刀を振り回し、俺とリリは後方より頻りに矢を放つ。

ルームに入って数分経ち、俺達は周囲を囲まれかけている。

 

「っ、ヴェルフ!伏せろ!」

「おうっ!」

 

2匹のアルミラージに集られようとしていたヴェルフに大声を張り、俺は右手の装備を『シールドクロス』から『アヴェリン』に変え、ボルトを装填する。

屈んだ彼に今まさに飛びかかろうとした2匹のアルミラージの心臓を射抜くと、灰と魔石がヴェルフの頭に降りかかる。

 

「ありがとよ、旦那!」

「すいません、グレイさん!」

「気にするな!」

 

少し危なかったと、俺の胸中がざわめき始める。

ヴェルフへの支援が万が一遅れた瞬間が頭を過り、休憩(レスト)の必要性を感じ取っていた。

 

「……む?」

 

ヴェルフとベルがアルミラージの群れを斬り伏せているのを尻目に、俺はある光景を捉えた。

6人で編成されたパーティー。他【ファミリア】の冒険者が見る見る内に近づいてくる。

通常、ダンジョンにおいて各パーティーは面倒事を避けるために必要以上の接近はしない。こちらの後方にあるルームの通路口を目指すのであれば話は別だが、どうも直線的すぎる。

まるで、俺達を目標にしているような……。

 

「(……そういうことか!)」

 

あの動きには覚えがある。昔のことだ。闇霊に侵入された時に『巨人の木の実の種』を齧ってモンスターの群れに飛び込む。そして闇霊とモンスターが戦っているところからできる限り離れ、残っている方を始末することで俺は生き延びてきた。

そして彼等がすぐ横を通り抜けていく瞬間、髪を結わえた黒髪の少女と目があった。俺の頭に過った考えを肯定するように、少女の青紫の瞳は今にも涙を零しそうだった。

 

「ベル!ヴェルフ!リリ!退却するぞ!」

「え……?」

「どういうことだ!?」

「ッ!怪物進呈(パス・パレード)です!リリ達は囮にされました!」

 

次の瞬間、今交戦している倍の数ほどのアルミラージにヘルハウンドがルームに姿を現す。

背後に目をやると、冒険者達は既に通路の奥へ消えていた。

 

「ヴェルフ様!右手の通路へ、早くっ!」

「おいおいおいっ、冗談だろ!?」

 

混乱に陥りかけながら俺達は動く。

ヴェルフは肩に担いだ大刀で手前のアルミラージを弾き飛ばし、人1人が通れる通路に体をねじこむ。急いでベルとリリ、俺の順に後を追う。

 

「『漂う火球』!」

 

俺は左手に『呪術の火』を灯し、通路を駆けながら『漂う火球』を4つ通路に設置する。

追いかけてくるモンスターが近づくと、火球が大爆発を起こす。爆発の勢いでモンスターは吹き飛び、壁の1部が崩れ落ちて通路を狭める。

 

「っ!?グレイ様!?」

「旦那!?」

「グレイさん!?」

「3人共、先に行ってくれ!」

 

判断は一瞬だった。俺はすぐさま反転し、押し寄せるモンスターの波と向かい合う。

右手の装備を『アヴェリン』から『宮廷魔術師の杖』に、左手の『呪術の火』を消して『賢者の燭台』を握り、『賢者の指輪』を嵌めて詠唱する。

 

「『ソウルの奔流』!」

 

通路に向かって、『魔法』を放つ。

青白い光は1本道を埋め尽くし、瓦礫もろともモンスター達を呑み込む。

 

「助かった……?」

 

ベルがそう口にした瞬間、前後からモンスターの群れの声が響いた。

いやはや、おかわりまで用意しているとは。ダンジョンは随分親切だな、クソッタレめ。

 

「皆さん、回復薬(ポーション)です。グレイ様は精神力回復薬(マジックポーション)も必要ですか?」

「ありがとよ」

「ありがとう」

「念の為にいただこう」

 

リリがバックパックから取り出した回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジックポーション)を受け取り、飲み干す。

体力と精神力は回復したが、集中力の低下だけはどうにもならない。

 

「皆さん、この状況ですが、リリは逃走を提案します。一度息をついて、態勢を立て直さなければ。このまま、まともに戦ってはきりがありません」

「反対はしないが、この状況はどうする?」

「片方を強引に突破……?」

「ええ、それが最良かと」

「なら、行こうか」

 

声を潜めての相談を終えて構えたところで──ビキリ、と。天井から音が響いた。

 

「……まさか!」

 

俺が天井を仰ぐと、それに倣うようにベル達も顔を振り上げ、そして息を呑む。

蜘蛛の巣状に刻まれた罅。俺達が足を止める通路一帯の天井にその裂け目は及んでいた。

亀裂の走る音が断続的に響き、次第に隙間なく積み重なっていくと……

 

『キィァァァァァァ────!!』

 

夥しい数の『バッドバット』が天井から産まれた。

そして、モンスターが産まれたことで穴だらけになった天井は安定を失い──崩落した。

俺達は眼球が飛び出さん勢いで目を見開き、なりふり構わず地を蹴った。

降り注ぐ大岩と土砂の雨、俺は武器を全てしまい『ハベルの大盾』を両手で頭上に掲げて耐える。

 

「ぐっ、ぬん……!」

 

落石の雨が収まった頃。

通路全体を土煙が漂う中で俺は耳を澄ます。

右後方からベルが肩で息をする声が、近くからヴェルフの呻き声が、遠くからリリの荒い呼吸音が聞こえてくる。

 

『ゥゥ……』

 

土煙が薄れていく中、俺達をさらなる絶望が襲ってきた。

岩が積もった通路の奥で、いくつもの黒い影が形を作っている。

ヘルハウンドの群れだ。

 

『ガァ……』

 

地に伏せている全てのヘルハウンドの鋭い牙の間からは白い煙が漏れ、火気が迸っている。

俺は背後を向き、ベルにリリのもとに行くよう兜越しに目で指示を出す。ベルも察したのか、リリのもとへ向かう。

俺はヴェルフの片足を潰している大岩をどかし、ヴェルフに肩を貸して支える。

 

「ッ!グレイさん!あっちにもヘルハウンドの群れが!」

 

ベルの声に振り向くと俺達が進もうとしていた方向にも、ヘルハウンドの群れがいた。

 

「(……仕方ない……!)ベル!そっちのヘルハウンドの群れを強行突破して、縦穴を探すぞ!」

「はっ、はい!」

「どけぇ!」

 

ベルはヘルハウンドを回し蹴りで壁に叩きつけ、俺は『ハベルの大盾』でヘルハウンドの頭部を叩き潰し、突破する。

 

『……ァァァァッ!』

 

それと同時に背後から爆発が起き、俺達は大爆炎に包まれた。




次回。月の光が、絶望の淵に立つ彼等を18階層へ導く。
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