闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
祝賀会から一夜明けて。
「パーティーを募集している冒険者。いなかったですね」
「ここでの買い物が終わったら、もう1度ギルドの本部に行ってみるか?」
「ですね。それでも駄目だったら、エイナさんにもそれらしい冒険者がいないか聞いてみましょう」
俺とベルは【ヘファイストス・ファミリア】バベル支店に来ていた。
「それで、ベル。手持ちの予算はどのくらいある?」
「10万ヴァリス以上あります。これまで貯めてきたのと、先日換金したミノタウロスの魔石が5万ヴァリスしたので」
「それはよかった」
そうこうしているうちに、8階に到着した。通りかかるテナントの前で一々足を止めながら、視界に入る値札を確認していく。
「……21000、35000、64000……うん、これならなんとかなるだろうな」
「とりあえず、一通り見て回ってから決めます。あと……できたらでいいんですけど、グレイさんからも助言をお願いします」
それから俺達は店内をくまなく歩いた。堅実そうなものから絢爛なもの、店の隅のボックスに積まれているものに目を通していく。
「……駄目ですね。やっぱり、あの
「『ヴェルフ・クロッゾ』か」
「はい」
収穫はゼロ。消化不良を起こしているような顔のベルは、頭を掻く。
『ヴェルフ・クロッゾ』。ベルがエイナさんとバベルに来た時に購入した
「一応、聞いてみようか?」
「そうですね」
俺とベルは店のカウンターに進路を変える。
『何でっ……あんなっ……!』
「「?」」
少し進むと、既に見えているカウンターから怒鳴り声が聞こえた。
2つあるカウンターの1つ。そこで【ヘファイストス・ファミリア】の店員と、客と思しき男性が言い争っていた。
「何で毎度毎度っ……あんな端っこに……!俺に恨みでも……!」
目前まで来て、声がはっきり聞こえた。弱り果てた店員の前にいるのは男性のヒューマンだ。身につけているのは黒の着流し。炎を思わせる真っ赤な髪の、中肉中背の青年。
「こちとら命懸けでやってんだぞ!もうちょいマシな扱いをだな!」
「ですが上の決定ですし……せめて売れるようになっていただかないと……」
「おまっ、それを引き合いに出すか!?だったら尚更──」
カウンターの上には軽装のパーツが積まれたボックスがあった。購入した防具に欠陥でもあったのだろうか。
隣のカウンターの店員も傍迷惑そうな目をしていたけれど、そこで俺達の存在に気づいたようだ。「いらっしゃいませ」と笑顔で応対してきた。
「何かご用ですか?」
「はい。ヴェルフ・クロッゾさんの作品を探しているんですけど……今は売ってないんですか……?」
──ぴたり、と声が止んだ。
正面の店員が唖然としたかと思うと、隣でやりあっていた2人も呆然となり、ベルの方を向く。
え?何事?
ベルも三方向から凝視され、たじろいてしまっている。
「……あ、あのぅ、ヴェルフ・クロッゾ氏の作品を、お求めですか……?」
「は、はい。ヴェルフ・クロッゾさんの防具を、使いたいんです……」
そして次に反応したのは、目の前の店員ではなく、先程まで抗議していた青年だった。
「ふ……ふはははははははっ!?ざまぁーみろ!俺にだってなぁ、顧客の1人くらい付いてんだよ!」
高らかに笑い始めたと思うと、その人はさっきまで食ってかかった店員のほうに向き直り、カウンターの上を叩く。
店員は何も言い返せないようで、居心地悪そうに視線を左右させるだけだ。
「それで?ヴェルフ・クロッゾの防具が欲しいってのはどっちだ?」
「ぼ、僕です」
「そうか。これが、ヴェルフ・クロッゾの防具だ」
おずおずとベルが手を挙げると、その青年はボックスをこちらに差し出す。
中身は白い光沢に溢れた鉄色のライトアーマー。
細部はちょっと違うが、間違いない。ベルがこの前まで使っていた防具ととても良く似ている。
「どうだ?使ってくれるか?」
「え?こ、これ、貴方のものじゃないんですか……?」
ベルの質問をどう捉えたのか、彼は瞳を瞬かせた後、くっと子供のような笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ。……俺の打った作品だ」
「……え?」
「どうせだから、名乗ってくぜ、
「じゃあ、お前が噂の【
「こ、声が大きいですよっ……それに、
ベルは戸惑いつつ、対面のヴェルフ・クロッゾに声を抑えるように言う。
8階に設けられた小さな休息所。
あの後、「少し話をしないか」と俺達はこの場所に誘われた。
何でも、彼の作品は過去2度しか売れたことがないらしく、そのうちの1つを買い尚且また自分の防具を探していたベルに、興味を持ったらしい。
これまでの苦労話……経営陣にはしっかり評価されていたが店頭では粗末な扱いを受けたり、1度は購入してもらった作品を返品されてしまったり、【ファミリア】の同僚は陰険な人間ばかりだったり……まぁ、色々聞かされた。
「本当に俺より年下だったんだな。いや、冒険者に年齢なんてあってないようなもんか?」
彼はそう言って、俺とベルを交互に見た。
「えっと……クロッゾさんの年は……?」
「今年で17だ。あと、そのクロッゾさんっていうのは止めてくれ。家名、嫌いなんだ」
「えーと、ヴェルフさん?それで、僕に用事って……?」
「おいおい、さん付けか?……まぁ、今はいいか。じゃあちょっと話を聞いてくれ」
備え付けてあった椅子から立ち上がり、ベルとの距離を1歩詰める。
彼の足元には新作の鎧が入った例のボックス。「俺が打ったんだ、どうしようが俺の勝手だろ?」と店から勝手に持ち出してきたのだ。
「単刀直入に言うとな、俺はお前さんを離したくなかったんだ」
「?」
「俺の作品は
「……」
……因みに、ベルが今まで使っていた
「だが、そこにお前が現れた。俺の防具の価値を認めてくれた、冒険者がな」
「えっと、それで……」
「お前は2度も俺の作品を買いに来てくれた。俺の顧客、本物だ。そうだろ?」
実際、そうなんだろう。ベルは彼の打った防具を気に入り、店に置いてないか気になっていたわけだし。
「結局な、俺達下っ端の
客の奪い合い……つまり客になってもらえるか否かってことか。
昔は「そんなもん知ったことか」だったな。事実、俺が持っている武具の大半は殺して奪うか、そこらを転がっている死体から剥ぎ取るかして手にしたものだ。あとはソウル錬成か、友好の証や誓約の報酬でいただくか、宝箱を開けて手に入れるかしたもので。きちんと店で買ったものなんて数える程だ。
かと言って
「──わかりました。ヴェルフさんと、契約を結ばせてもらいます」
「よし、決まりだ!断られたらどうしようかと思ったぞ!」
おっと、昔のことを思い出すのは一旦中断しよう。
目の前ではヴェルフの差し出す手をベルが取って立ち上がっていた。
「よろしくな、ベル」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「おう。さて、正式な契約書とかはまた今度に回すとして……」
ヴェルフは口を動かしながら、繋がっているベルの手を掲げてブラブラと揺らす。
自分が勝ち取ったことを周囲に見せつける。そして、その光景を目にした
顔を巡らし同業者が去っていったのを粗方確認すると、ヴェルフはベルの手を離し、申し訳なさそうに首をかく。
「で、早速なんだが……俺の我儘ってやつを聞いてくれないか?勿論、見返りはするぞ。お前さんの装備、
「ええっ!?」
「だから驚くなって。
まさか、作品の無料譲渡を約束されるとは思わなんだ。ベルもそうなのか、ぼけっと馬鹿みたいな顔を晒している。
「本題だ、言うぞ?」
「「……」」
固唾を呑んで、俺とベルは次の言葉を待った。
「俺を、お前らのパーティーに入れてくれ」
次回、4人でダンジョンです