闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
「【
「ああ。リリはどう思う?」
「そうですね……普通」
「だよねえ!リリもそう思うよね!神様は無難だって言っていたけどさぁ……」
「いいんじゃないか?下手に目立つような二つ名をいただくよりはマシだろう」
ベルの【ランクアップ】を祝う祝賀会のために俺、ベル、リリの3人で『豊穣の女主人』に来ていた。俺達がいつも座っているカウンター隅の近くのテーブルに座っている。
『ベル……?』
『【ヘスティア・ファミリア】か?』
賑わっていた店内の一部が、少し趣の違うざわめきに変わった。
『白髪のヒューマン……間違いねえ、アイツだ』
『確か……【
『あんなガキがか』
『
『神連中が騒いでいるだけだろう?1ヶ月はいくらなんでもありえねえ』
『だな』
『でも、ミノタウロスを仕留めたのは
『たかがミノタウロス1匹だろ。騒ぐほどのものじゃねえ』
『ならお前はやれんのか?Lv.1で。しかも
『馬鹿言うな。んな血迷った真似、誰がするかよ』
あちこちからベルに視線が突き刺さり、声をひそめた囁き声が生まれる。
とうの本人はと言うと、体を縮こませている。
「一躍人気者になってしまいましたね、ベル様」
「そ、そうなの?何だか凄く落ち着かないんだけど……ここに来る途中も知らない神様に追いかけ回されたし……」
「名を上げた冒険者の宿命みたいなものです。ベル様に限った話ではありませんし、どうか我慢してください」
笑いかけるリリにベルは情けない顔を浮かべ、首の後ろを軽く掻いた。
「私は好きですよ。【
声のした方に顔を向けると、人数分の料理と飲み物を運んできたシルさんとリューさんがいた。
「ありがとう。えっと……お2人はどこに座るのかな?」
「私はリリルカさんの隣に」
「では、私はクラネルさんの隣に」
そう言うと、2人が席についていく。
「あれ?シルさん達、お店の方は……?」
「そのことなんだが、ミアさんから伝言だ。『シルとリューを貸してやるから、存分に笑って飲め』だとさ」
それをベルがカウンターの方を見ると、ミアさんが不敵に笑いながら手を振っている。ベルもそれで察したのか、苦笑いを浮かべた。
それからすぐ、俺達は乾杯とそれぞれのグラスをぶつけ合った。
シルさんは柑橘系の果実酒、リリはお酒が苦手になったということで
それからは少しばかり会話が弾み、ベルの顔も酒が回ったのかほんのり赤くなっていく。
「ところでクラネルさん、今後どうするのですか?」
「はい?」
「貴方達の動向が、私は些か気になっています」
リリ達との会話の後、エール特有の苦味と格闘しているベルにリューさんから声がかかった。
「えーと。とりあえず明日はリリとグレイさんと僕の3人で装備を揃えに行こうと思ってます。防具とか一杯壊れちゃったので」
「……それが、ベル様」
「なに、リリ?」
「実は下宿先の仕事が急遽立て込んでしまって……明日、リリはご同伴できそうにないのです」
「そうなんだ……」
リリは申し訳なさそうに身を縮める。「お世話になっているならしょうがないし、気にしなくていいよ」とベルは声をかける。
「ではクラネルさん。装備を整えた後は、どうするのですか?」
「ひとまず、11階層で今の体の調子を確かめようと思ってます。もしそこで攻略が簡単に進みそうだったら、12階層まで足を伸ばすつもりです」
パーティーを組んでいるリリと目を合わせると、ベルはそう伝える。
そして、リューさんは2人のことを本気で心配してくれている。
「差し出がましいことを言うようですが……中層へ潜ることはまだ止めておいた方がいい。貴方達の状況を見るに、少なからず私はそう思っています」
「つまり、リュー様は、リリとベル様では中層に太刀打ちできないと、そうお考えなのですか?」
「そこまで言うつもりはありません。ですが、上層と中層はモンスターの強さも数も何もかもが
「今更口にすることではないと思いますが」とリューさんは後に続ける。
「各個人の能力の問題ではなく、
リューさんの言葉を聞き、俺は24階層に向かっていたときのことを思い出す。
彼女の言う通り、中層に出現するモンスターは個体の強さも上層と比べて強かったが、何より1度に出現する数が多かった。あの状況にリリとベルだけで挑むのは……無理だな。
「パーティーか……グレイさん」
「言われなくとも、わかってるさ」
サムズアップで答えると、ベルは「ありがとうございます」と頭を下げる。
「これで3人……いや、リリにかかる負担を考えて、もう1人パーティーに誘わないとな」
「そうですね。明日、ギルドの掲示板で募集している冒険者がいないか、探してみましょう」
とは言ってみたものの、パーティーを組んでくれそうな人はそう簡単に見つからないだろうな。当てがあるなら最初からパーティーを組んでいるだろうし。
リューさんは訳ありのようだから除外、知人……もとい知神のミアハ様のところのナァーザさんはモンスターに
「はっはぁ!パーティーのことでお困りかぁ?【
突然の大声に、ベルは恐る恐る声のした方に顔を向ける。ベルにつられて俺も見ると、別のテーブルについている客の1人が酒を呷りながら声を張り上げていた。
その客──冒険者の男はベルと目が合うと、仲間の2人を引き連れてこちらにやってくる。
「話は聞ぃーた。仲間が欲しいんだってな?なら、俺達をお前のパーティーに入れてくれねえか?」
「えっ!?」
その冒険者はベルの質問に対して、「善意」とか「助け合い」とか言っているが……裏がありそうだな。
「そこで、だ!俺達が中層を案内してやる代わりによぉ……この嬢ちゃん達を貸してくれよ!?こんのえれぇー別嬪のエルフ様達をよっ!」
やっぱり、そう来たか。
真ん中で喋っている冒険者の仲間の2人に目を向けると、リリとシルさんにいやらしい視線を送っていた。その証拠に、リリは嫌悪感丸出しだ。
「(これは断るべきだろうが……さて、どう断ろうか)」
そう考えている俺と、リューさんの目が一瞬合った。
「なるほど……ところで、あなた方のLvは幾つですか?」
先程まで黙っていたリューさんが口を開いた。
「あぁ?」
「あなた方の現在のLvを聞いているのです。答えてください」
「俺達全員Lv.2だぜ!それに、ずっと前から中層に潜ってんだ!」
「そうですか。ですが、Lvはあくまで指標。実際の実力は見てみないとわからない」
あ、嫌な予感がする。
その予感を裏付けるようにリューさんの手が俺に向かって差し出され……
「ですので、お店の外で彼と手合わせを行ってもらえないでしょうか。審判は私が務めます」
「ゑ!?」
何故か俺が彼らと戦うことになった。
「いいぜぇ。俺達の実力、その綺麗な眼に焼き付けてくれや」
冒険者は口の端を釣り上げ、自分達の座っていたテーブルに金貨の詰まった袋を置いて店の外へと行った。
「ちょっとリュー!流石にあれはないんじゃないの?」
シルさんが立ち上がり、一連の流れを非難する。対するリューさんはというと、何時もの表情を崩さない。
「心配には及びませんよ、シル。グレイさんは、あの程度の冒険者に負けるような人ではない」
確信に満ちた声でそう言うと、彼女の視線が俺に移る。
「……しょうがない。そこまで言われたら、やるしかないな」
「グレイさん……」
「すまないが、少しばかり席を外させてもらうよ。なあに、すぐに戻ってくるから安心して待っていたまえ」
俺は立ち上がり、リューさんと共に店の外へと行った。
~暫くお待ち下さい~
「ただいま」
「おかえりなさい、グレイさん」
冒険者との手合わせを終え、ベル達のいるテーブルに俺とリューさんは戻ってきた。
「それで、リューさん。さっきの冒険者さん達は……」
「お断りしてきました。あの言動だけでも度し難いというのに、Lvに胡座をかいているようでは駄目ですね」
「すいません。僕にもう少し度胸があれば……」
「気にしなくていいさ。度胸なんてのは自然と身につくものだ」
「グレイさん。外で何をしてきたんですか?」
とりあえず、俺が外で冒険者3人に発勁を叩き込んだことを話したらリリとシルさんに軽く引かれた。2人とは対照的に、ベルは感嘆の声をもらした。
もしかしてやりすぎちゃったか?相手は死ななかったから問題ないと思うんだが。
「グレイさん、私が言えたことではありませんが。あれはやりすぎです」
あ、やっぱりそうですか。
グレイが飲んでいた「アクアビット」はジャガイモを主原料にした蒸留酒で、祝い事などで飲まれます。
ベルの【ランクアップ】を祝うことと、名前から「これだ!」と思って選びました。