闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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神会(デナトゥス)、始まります。
お気に入りの数がえらいことになってる……毎度のことながら、ありがとうございます(五体投地)


第23話

神会(デナトゥス)。それは、3ヶ月に一度開かれる神々の集会である。ここでは【ランクアップ】した冒険者の二つ名を与えるだけでなく、ギルドと連携して都市(オラリオ)全体での催事に関する話し合いも行われる。そして冒険者達に二つ名を与える命名式では、厳粛な雰囲気のもと、神々がお互いの神意を──

 

「資料は行き渡ってるなー?なら行くでー?栄えあるトップバッターは……セトんとこのセティ・セルティっちゅう冒険者やな」

「た、頼む!どうか、どうかお手柔らかにっ……!?」

『断る』

「ノォォォォォォゥッ!」

 

──ぶつけなかった。

そもそも、神会(デナトゥス)とは暇を持て余した神々が企画した集会であった。やがてその集会は参加する神が増えるにつれて規模が広がり、時代と共に目的を変えていき、今に至る。

今回の司会進行役は、『遠征』で【ファミリア】のほとんどの団員が不在で手持ち無沙汰であった【ロキ・ファミリア】の主神ロキ。そして、今回でた情報は

 

・ソーマがギルドの警告を受けて酒造りを禁止されて無気力状態になった

・軍神アレスが率いるラキア王国がオラリオに攻め込む準備を進めている

・極彩色の奇妙なモンスターの出現

 

以上の3つ。

特に3つ目に関しては【ガネーシャ・ファミリア】の団員も巻き込まれて亡くなったらしく、主神(ガネーシャ)自らがこの件での協力を求めてきた。

そして始まった命名式、なぜセトと呼ばれた神があのような反応を見せるのか。それは……

 

『──決定。冒険者セティ・セルティ、称号は【暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)】』

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ!?」

 

神と下界の者達の感性は、神々が下界の文化を享受していることからわかる通り、ほぼ似たり寄ったりだ。……但し、命名の感覚(センス)は除く。

神々が前衛的すぎるのか、子供達の時代が追いついていないのか。子供達が目を輝かせる二つ名というのは、神々にとって抱腹絶倒するような『痛い名前』なのだ。

そして、上位【ファミリア】を率いる古参の神々は、ここぞとばかりに新人をいじめにかかる。絶叫しては崩れ落ちていく者達と、ゲラゲラと笑い声をあげる者達、両極端なこの光景に、ヘスティアは惨いと顔を背ける。

 

「ほい、次いくでー。タケミカヅチんとこの……おお、めっちゃ可愛いやん、この子。えーと、極東の方の生まれは名前が後やから……ヤマト・(ミコト)ちゃんやな」

「おお……!こいつはレベル高いな」

「やっぱ黒髪はいいなー」

「うーん、流石にこの子にはちょっと……」

「そうだな。こんないたいけな娘に残酷な真似なんて胸が熱く……じゃなかった、良心が痛むな」

「ほ、本当かっ!?」

 

しかし、新参の神々に希望がないわけではない。痛い名前を回避する方法はいくつか存在するのだ。

手っ取り早い方法は、会の始まる前から有力者達に金品を貢ぎまわることだ。だが、これは大抵法外な金額を要求されるため、発展途上かつ財産力の整っていない【ファミリア】には難しい。総じて多いのは、今のように構成員の人物像(キャラクター)が神達に気に入られた場合だ。こちらは比較的、女性の方が見込みは高い。

暗闇に差し込んだ一筋の光明に、頭髪を角髪にした男神、タケミカヅチは慌てて席から立ち上がる。

 

「だがタケミカヅチ、てめーが駄目だ」

「こんの天然ジゴロがぁ……」

「女神だろうが子供達だろうがぞっこんにさせやがって……!」

変態(ロリコン)男神(やろう)め」

「お、お前等は何を言っているんだ!?」

 

他の男神からの嫉妬に満ちた言葉に、タケミカヅチは困惑する。

 

「命ちゃんに引導を渡すのは俺だ!【未来銀河(フォーチュンギャラクシー)】!」

「命ちゃん、君は悪くない。全てタケミカヅチが悪いんだ……【零落少女(ラストヒロイン)】!」

「やめろお前ら!命は、命は俺が手塩にかけて育ててきたんだ!」

「なるほど、【天使(テ・シーオ)】か……ありだな!」

「おいおいおい。それじゃ命ちゃんが可愛そうじゃないか」

 

次々挙げられる二つ名に対し、挙手と同時に物申す男神がいた。

 

「なんだよ、デュオニュソス~」

「じゃあ、何か良い案でもあんの?」

「ああ。とびっきりのがね」

「本当か、デュオニュソス!?」

 

再び見えてきた光明にタケミカヅチは目を輝かせ、祈る。そんなタケミカヅチにデュオニュソスは微笑み──

 

「【絶†影】なんて、どうかな」

『採用』

「おのれデュオニュソスゥゥゥゥゥゥ!」

 

絶望の淵へと突き落とした。

血涙を流し、のたうち回るタケミカヅチ。冷静になって考えればわかることだ。この場で神が言う「とびっきり」とは「とびっきり痛い(・・)」ということを。だが、命を思いやる言葉と笑顔に騙され、希望を抱いてしまった。

 

「ほい、次は……大本命、うちのアイズたんや!」

「【剣姫】キター!!」

「嗚呼、相変わらず姫はお美しい……」

「ていうかもうLv.6かよ……」

「アイズちゃんは無理して変えなくてもいいんじゃない?」

「だな」

「変えるとしたらどうするよ?【剣聖】とか?」

「いやー、アイズたんのイメージとは違うだろ、それ」

「まぁ、最終候補は間違いなく【神々(オレたち)の──」

「なんや?」

『何でもないです、ハイ』

 

恥晒しの称号を回避する手段の1つとして、【ファミリア】の勢力拡大も挙げられる。早い話、「あの【ファミリア】に因縁をつけられたら不味い」と周囲に思わせればいいのだ。報復が待っていると知って自爆する神はいないのだ。

ロキの射殺すような眼光に、調子に乗っていた神達は全員、正座からの敬礼を流れるような動きで行った。

 

「ったく、喧嘩売る相手は選べっちゅうに。まあええ、進むで。……ん、次の子で最後やな」

 

ボクは深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

手元の資料は残すところあと1枚。神会(デナトゥス)が始まる直前、最後の最後に滑り込んだこともあって、その冒険者の関連情報は申し訳程度しか記載されていない。

ついこの間まで完璧に無名であった【ヘスティア・ファミリア】所属。

ベル君だ。

 

「本当にLv.2になったのね、あんたんとこの子は……」

 

確かに【ランクアップ】を認めたというギルドの印影が羊皮紙に施されているのを見て、ヘファイストスが目を細める。

親友(ヘファイストス)の言葉を耳にしながら、ボクは周囲に視線を配る。沢山の笑みがある。フルコースを〆るデザート。スプーン片手にそれを待ちわびるような、意地の悪い下品な笑みだ。

これからも訪れるであろう正念場、その最初がとうとう来たと自分に言い聞かせる。

ベル君にああは言ったけど、碌な策を用意できていない。だが、そこはベル君への愛と勇気で補うと気概を募らせた──その直後。

ロキが静かに席から立ち上がった。

 

「……なんだよ、ロキ」

「二つ名決める前になぁ、ちょいと聞かせろや、ドチビ」

 

周囲の反応を一切無視し、普段にはない棘を滲ませながら、彼女はその細い目をすっと開く。

 

「一ヶ月半でうちらの『恩恵』を昇華させたっちゅうのは、一体どういうことや?」

 

ベル君の資料の上から掌を卓に叩きつけ、ロキはボクを鋭く見据える。

 

「うちのアイズでも最初の【ランクアップ】を迎えるのに1年、1年かかったんやぞ?それをこの少年は一ヶ月半やと?なにアホなこと抜かしてんねん」

 

8年前のことだ。当時8歳の少女(・・・・・・・)が、身の程を弁えない異常な速度でLv.2に登りつめたことは記憶に新しい。しかもそれも、他種族と比べて身体能力や叡智が遥かに劣るヒューマンがだ。

過去のLv.2到達最高速度と同記録であったその偉烈は、オラリオを、世界を大いに騒がせた。

 

「うちらの『恩恵』はこういうもん(・・・・・・)やない。一ヶ月そこそこで子供らが器を昇華させたら、世話ないっちゅう話や。それができんから、どいつもこいつも苦労しとるんやろが」

 

神の恩恵(ファルナ)』とは即席の力にあらず。【ステイタス】はあくまで切っ掛け。その中からその者の可能性──アビリティ、スキル、魔法を掘り起こし、形にすることで明確な能力として発現させる。

故に、促進剤。

 

「おいこら、ドチビ、説明せえ」

「……」

「……だんまりか。ほな、質問変えるで。ドチビ、自分とこの鎧着たあの(あん)ちゃん……グレイやったか、なんであいつの名前がこの資料の中にないんや?」

 

なぜここでグレイ君の名前が出るのか。ボクの頭には疑問符が浮かんだ。

 

「なあロキ、そのグレイっての……誰なんだ?」

「ドチビの眷属の子で、Lv.1や」

「なーんだ、それだっ──」

「但し、只のLv.1やないで」

 

他の神の質問を遮るようにロキはそう言うと。懐から用紙を取り出した。

 

「前もって言うとくで。これから言うのは、うちが見たのとアイズたん達やギルドの職員の娘から聞いた情報を基にしたやつや」

 

そう前置きをしてロキが読み上げたのは、グレイ君のこれまでの活動履歴だった。

 

・ベル・クラネルとパーティーを組み、4階層付近を中心に潜る

怪物祭(モンスターフィリア)の日に現れた極彩色の奇妙なモンスターを3匹撃破

・上記の件以降、単独(ソロ)で12階層に潜り始める

・24階層の食料庫(パントリー)で極彩色の奇妙なモンスター複数匹及び白髪鬼(ヴェンデッタ)オリヴァス・アクトを撃破

・9階層に出現した強化種のミノタウロスを単独(ソロ)で撃破

 

「4階層は同じ【ファミリア】のメンバー同士組んで、怪物祭(モンスターフィリア)の時はアイズたん達が、24階層の食料庫(パントリー)の時はアイズたん達に加えてディオニュソスとヘルメスのとこの眷属()もおったから【経験値(エクセリア)】が分散したかもしれん。けどな……」

 

ロキはそこまで言うと用紙を卓の上に置き──

 

「こんだけのことやってまだ(・・)Lv.1とかふざけとんのか!」

 

怒気に満ちた声をあげ、拳を卓に叩きつけた。

ボクを含む周りの神々はロキの読み上げたグレイ君の活動履歴に困惑し、会場内がざわめき始める。

 

「マジか……!」

「あの白髪鬼(ヴェンデッタ)を……!」

「ドチビ、まさかとは思うけどLv詐称してへんよな?」

「するわけないだろう!?」

「せやったら、何でグレイの名前が資料にないんや。これまでの活動じゃ【ランクアップ】するには足らんとでも言うんか?なんやそれ、他の冒険者に喧嘩売っとんのか?」

 

ロキに言われて始めて、今更ながら彼の異常性を再認識する。ベル君の【スキル】による異常な成長速度のせいで忘れていたが、グレイ君の成長速度は遅かった。能力値の伸びは最大でも10程度、12階層までを単独(ソロ)で潜ればもっと伸びるはずなのに、あの子の能力値はそこまで伸びなかった。

 

「(あの子の成長速度の遅さ……何が原因なんだ?)」

 

ヘスティアは己の記憶を辿り、原因がないかを探る。

 

「おいコラ、何とか──」

「あら、別にいいじゃない」

「……あ"ぁ"?」

 

ロキがヘスティアに噛みつくなか、水を差す一言が響いた。

 

「ヘスティアが不正をしていないというのなら、無理に問いただす必要はないでしょう?それに【ファミリア】の内部事情には不干渉、とりわけ団員の能力(ステイタス)禁制(タブー)なのだから」

 

事実をただ告げるように声の主──フレイヤはロキの言及に歯止めをかけた。

 

「かたや一ヶ月半で【ランクアップ】、かたやこんだけのことやってまだLv.1……これがどういうことか、わかっとんのか?色ボケ女神」

「あらあら、どうしてそこまで強情になってるの?もしかして、嫉妬しているのかしら?自分のお気に入りの子供の記録が、ヘスティアの子に抜かれたから」

「んなわけあるかい」

 

胡散臭げに睨み返すロキだが、フレイヤはどこ吹く風と微笑みを崩さない。

 

「確かに、数字だけで受け取ってしまうと耳を疑ってしまう。でも、この子はLv差を覆し、奇跡的にも(・・・・・)ミノタウロスを倒した。強引にも推理してもいいなら、このミノタウロスが因縁の相手だったなら、獲得した【経験値(エクセリア)】はこの子にとって特別なもの……【ランクアップ】する可能性もある、と私は思うのだけれど?」

 

そこからはフレイヤの独壇場であった。

フレイヤの言う通り、【ベル・クラネル】はミノタウロスと2度に渡り遭遇。うち1度は撃破とある。理にはかなっているフレイヤの見解に周囲の神は同調の意を示す。

ではグレイの件はどうなのか。バベルが完成するまでの間にダンジョンから地上へ進出し、繁殖によって数を増やしたモンスター。野生の獣。野盗などを相手に戦い身につけた『技量』を基にモンスターを討伐したと考えられないか?その過程で既に【ランクアップ】するだけの経験を積んでいるのではないか?と、フレイヤは告げる。

彼女の告げたそれは、ありえない話ではない。例えば、アレスが主神のラキア王国(アレス・ファミリア)。カーリーが主神のテルスキュラ(カーリー・ファミリア)。これらの【ファミリア】の眷属の中には、【ランクアップ】を果たした者が少なからず在籍している。そういった前例がある以上、彼女の考えを否定することは難しい。

それから暫時の空白を置き。

興味は尽きないが、少なくともベル・クラネル及びグレイの実態を無理に暴く必要はないだろう、と派閥間(ファミリア)規則(ルール)にも則った声が上がるようになり、やがて一部を除いたこの場の総意となった。

フレイヤは静かに一笑するとヘスティアに流し目を作り、用意された席から立ち上がる。

 

「あれ?フレイヤ様、もう帰っちゃうの?」

「ええ。今から急用があるから、失礼させてもらうわ」

「せっかくだし、ロリ神の眷属()の二つ名を決めてからにしない?最後の最後なんだし」

「ふふ、悪いけれど、そういうわけにもいかないの。でも、そうね……」

 

ベルの似顔絵が描かれた資料を手に取ってしばし思案し、出席している神の顔を見渡して言う。

 

「どうせなら、可愛い名前を付けてあげてね?」

『は~い♡』

 

美神の今日1番の微笑みに、男神達は清々しい笑みとともに満場一致してみせ、女神達はそんな彼等にゴミでも見るような白けた視線を送る。

フレイヤは最後にもう一度笑みを漏らし、円卓に背を向けた。

 

「よし!ちょっと本気出して二つ名決めようか!」

「応っ!」

「しっかしこのヒューマン、完全にノーマークだったぜ」

「むしろ見越してるほうが凄いぞ。噂も評判も何も入ってきてないから」

 

俄然真面目に、且つ積極的にベルの二つ名について議論を始める神達。

先程までの雰囲気から一変した神会(デナトゥス)を前にしばらく目を白黒させていたが、首を回して周囲を見渡し、隣のヘファイストスを見上げた。どういうことなの、と。彼女は少々うんざりした顔で、わからないわよ、と肩を竦める。

 

「(助かった……のか?)」

 

男神を中心に議論が続いていることから察するに、取り敢えず危機は回避されたのかと、胸を撫で下ろす。

そこに、ふっと影が差した。

 

「……どうしたんだい?ロキ」

 

側で立っていたのは、ロキだった。己の席から離れ、ヘスティアを真っ直ぐ見下ろしている。むすっとしていて、機嫌の悪さを滲ませながら、彼女は呟いた。

 

「……気をつけえよ、ドチビ」

「えっ?」

「自分とこの眷属(こども)達に目を光らせとけ言うとんのや。ドチビにこんな忠告するような真似したないけど……あのアホに好き勝手やられるのは、もっと嫌や」

 

「虚仮にしおって」とロキは顔を上げて忌々しそうに口にする。彼女の視線を追うと、フレイヤがちょうど部屋を後にするところだった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。注意しろって、一体何を──」

「わからんのか?あの女神(オンナ)が、子供(オトコ)を庇ったんやぞ?」

 

思わず聞き返そうとすると、ロキはヘスティアにぐっと顔を近づけた。

しばし思考が追いつかず、ヘスティアはたじろぐことしかできなかった。

ロキは顔を上げ、呆れたかのように鼻を鳴らす。

 

「かっ、本当にわからんのか。幸せなやっちゃな。羨ましいかぎりや」

 

それだけ言うと、ロキは自分の席に戻って行く。

ヘスティアはロキの背中を見つめ、フレイヤの座っていた席に目を向ける。

ロキの言葉を反芻する。

そして美の女神が向けた、あの意味ありげな笑みを思い出す。

 

「(……フレイヤが庇った?……あの子達を?)」

『これだぁー!!』

 

円卓がドッと爆発すると同時に、ヘスティアの頭に1つの可能性が芽生えた。

 

「(彼女(フレイヤ)は、グレイ君が何者なのかを知っているのか?)」




現時点でグレイの正体を知っているのはアルヴィナとシャラゴア、フレイヤの2匹と1柱です。
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