闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
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がやがやと喧騒に包まれるギルド本部。
「……」
そんな中、ギルドの職員エイナ・チュールは綺麗な笑顔で固まっていた。
彼女の隣では同僚のミイシャ・フロットが石のように固まり、書類の山を落下させていた。
2人がこうなっているのは、窓口を挟んで嬉しそうな笑顔を向ける少年──ベル・クラネルにある。
「……ベル君、もう1度お願い」
「だから、Lv.2になったんです!」
「誰が?」
「僕が!」
「何時?」
「3日前です!」
「……最後にいいかな。ベル君、冒険者になってどのくらい経った?」
「1ヶ月半です!」
その言葉を最後に、ヒューマンとハーフエルフの間で、無言の笑みが交わされ続ける。
再び窓口で列をなそうとしている冒険者達が、彼女達の様子を見て怪訝そうな顔を浮かべる。
石像となった
エイナは、ぎしっと音を鳴らして椅子から立ち上がり──爆発した。
「1ヶ月半で、Lv.2~~~~~~っ!?」
周囲のざわめきを呑み込む大音声。
本部にいた者全てを振り向かせる叫び声が、雷鳴のように響き渡る。
そしてエイナの前にいたベルは、身を大きく仰け反らせるのだった。
「──なんてことになってるんじゃないですかね」
「……だろうね」
【ヘスティア・ファミリア】
あの騒動から3日が過ぎた。
ミノタウロスとの戦いで心身ともに疲弊していたベルは2日間バベルの治療院で眠り続け、その間は俺が
そして今日、ベルのランクアップを祝うパーティーを【豊穣の女主人】で開くことになっているので、俺はダンジョンに潜らずこうしてのんびりしていた。
「確か、今日って『
「うん。ベル君が【ランクアップ】したから、ボクはあの集会への出席権を得たね」
「そして、『
「そうだね。つまり、ベル君も
「『1ヶ月半で【ランクアップ】』……神々が知ったら大騒ぎするでしょうね。それが【レアスキル】によるものだったら尚更です」
「そう。だから、ベル君の【スキル】はなんとしても隠し通さなきゃならない」
「……大丈夫ですか?」
「……絶対に隠し通してみせるさ。
いつになく真面目な表情で拳を握りしめるヘスティア様を見て、俺はひとまず安心する。
「(
内心でそう呟きながら、ヘスティアはグレイのほうをじっと見る。
ベル君がミノタウロスと激闘を繰り広げていた頃、グレイ君もミノタウロスと戦っていたと聞いた時は目眩がした。その後で【ステイタス】を更新しても、【ステイタス】は伸びてこそいたが、【ランクアップ】までは至らなかった。
「(普通なら【ランクアップ】してもおかしくないはずなのに……君はいったい何者なんだい?)……なぁ、グレイく──」
「神様!グレイさん!ただいま帰りました!」
グレイ君に質問を置こうなおうとしたところで、ベル君が帰ってきた。
……仕方ない、また次の機会を待つことにしよう。
「おかえり、ベル」
「おかえり、ベル君。それで、決まったかい?君の選ぶアビリティは」
「はい。僕、『幸運』のアビリティにします」
「……そっか。じゃあ、早速始めようか。君の【ランクアップ】を」
緊張した面持ちでベルが同意すると、【ステイタス】の更新を始める。
「とうとうベル君もLv.2になったか……と言いたいところだけど、君の場合、感慨を感じる暇もなかったね」
「そ、そうですか?」
「うん。ボクの【ファミリア】に入ってすぐ、君がゴブリンに勝てたって大はしゃぎで帰ってきたことを、昨日のように思い出せるよ。何だか不思議な気分だなぁ……」
「は、はい」
それから少しして──
「……終わったよ」
ヘスティア様の手が動きを止めた。
「……え?今ので、ですか?特に何も変わらないですね」
「……『ち、力が溢れてくる……!』な~んてことが起きると思ってたのかい?」
「え、ええ。多少は」
わなわなと震える演技をした後に笑いかけてくるヘスティア様に、ベルは頷いた。
「まぁ、体の構造が作り変わるわけでもないしね、劇的な変化なんて起こらないさ。でも、【ステイタス】の昇華は本物だよ。君という『器』は高次の段階に移った。
ヘスティア様はおかしそうに笑いながら、いつものように
「(神……か、【ランクアップ】によって人は神に近づく。じゃあ、【ランクアップ】を重ねて神になった時。その先には何が待っているんだろうか?)」
『ダークリング』という、神をも超える力をもたらすと同時に人を不死に変える呪いを宿す身である俺は、そんなことを考えていた。
「(数え切れないほどの『ソウル』を用いて肉体を鍛え、四人の公王・
「うわあぁぁぁぁぁぁっ!」
思考に没頭していた俺の意識を、ベルの絶叫が現実に帰還させた。
視線を戻すと、微笑ましそうに見守るヘスティア様と、両手で耳を塞ぎ背を向けて丸まっているベルがいた。
「……何があったんですか?」
「これを見ればわかるよ」
ヘスティア様からベルの【ステイタス】が書き写された用紙を受け取り、目を通す。どれどれ……
ベル・クラネル
Lv.2
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
幸運:I
《魔法》
【ファイアボルト】
・速攻魔法
《スキル》
【
・
【英雄願望】……確か、『スキル』や『魔法』は【
「(つまり、こういうことか。この年で自分が御伽噺にでてくる英雄に憧れていることを知られて、めちゃくちゃ恥ずかしがっている、と)」
合点がいった俺がベルに視線を移すと、ヘスティア様がベルの肩に手を置いた。振り返ったベルは、涙目になっていた。
「──可愛いね、ベル君」
「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!神様の馬鹿ぁぁぁぁぁっ!?」
「うぅぅ……」
「おいおい、そこまでへこむことないだろう」
部屋の角で膝を抱え込みながら呻くベルに俺は声をかける。
「グレイ君の言う通りだよ。いいじゃないか、英雄に憧れるくらい。今どきこんな
「ヘスティア様、顔が思いっきりにやついてますよ」
「そうかい?」と、ヘスティア様は自分の頬を揉んだり引っ張ったりして元に戻した。
「大丈夫か?ベル」
「……はい、何とか」
【ステイタス】の書き写された用紙を差し出すと、ベルはそれを受け取って目を通す。
ベルは段々眉間に皺を寄せ、首を傾げた。というか、ベルの発現した魔法といい今回のスキルといい、解説が不親切すぎないだろうか。
「神様、このスキルの効果わかりますか……?」
「んー……これと断言することは難しいね。文面から察するに常時発動するタイプではなく、ベル君が意識的に行動したときに何か効果が表れるんじゃないかな?」
「意識的に……それって、攻撃とか自発的な行動ですかね?」
「多分ね。まぁ、無責任な言い方をすると、実戦の中で探ってみるしかないね」
「じゃ、ボクはそろそろ……」と言いかけたところで、ヘスティア様が俺のほうに視線を移した。
「スキルと言えばグレイ君。君のスキル【残り火】……というかそれに書かれていた『王の力』に関して、何かわかったことはないかい?」
「ああ。『こんな効果じゃないか?』っていうのは朧げながら目星はついてきましたけど、それだけですね」
「ふ~ん……で、どんな効果だとグレイ君は思っているんだい?」
「おそらく、【ステイタス】に働きかける類かと」
「……わかったよ。その調子で、少しづつでいいから【スキル】の効果を探っておいてね」
「そうします」
「うん。それじゃあ、ボクは『
「かっ、神様!?それってもしかして、僕もアイズさんみたいな通り名を頂けるんですね!?」
「そうだけど。……偉く乗り気だね?」
「そりゃあそうですよ!神様達が決める称号はどれも洗練されていて、格好良いじゃないですか!【
「(うわぁ……)」
意気揚々と語るベルと、力のない笑みを浮かべるヘスティア様。そして俺はその通り名を聞き、額に手をあてて天井を仰ぐ。
「そうだね。
「……ヘスティア様……」
「……わかってるよ……ベル君」
「はい?」
「ボクは泥水を啜ることになっても、必ず
死戦に臨むようなヘスティア様のその背中を、俺は敬礼で見送った。
次回、神会(デナトゥス)で二つ名決めです。