「ウィンドウズって何ですか?」

息子が回復するまでそばにいた井後さんは、ある日、パソコン一台で収入を得ているという主婦のニュースを目にし、釘付けになった。

「もし、パソコンを使って自宅で仕事ができるようになったら、息子が病気になってもそばにいてあげることができる」

そう思った井後さんは、まだパソコンというものが何なのかもよくわからないまま、パソコン一台で稼ぐことを決意。息子が登校できるようになると、吉野家の店長に退職願を出しに行った。

吉野家の店長は、辞めたいという井後さんの事情と、パソコン一台で稼ぐという決意を聞き、辞職を受け入れた。しかしその後、井後さんが「ウィンドウズって何ですか?」と口にすると、大笑いしながら言った。

「そんなことも知らんのにパソコンを買うって? 無理は言わんからやめておけ」

実は店長は、パソコンを自作するほどパソコンに精通していた。それを知っていた井後さんは、店長にパソコンの先生になってもらえるよう頼み込み、熱意に押された店長は、自分の自作パソコンを格安で譲ってくれた上、数人でパソコンを設置しに来てくれた。

当時はアナログ回線の時代。ダイヤルアップ接続のため、電話とインターネットを同時に使うことはできなかった。また、通話料がかかる上、繋がるのも時間がかかるため、井後さんは1日1時間だけパソコンを使いこなすために悪戦苦闘した。。

やがて井後さんは、「インターネットで稼ぐ」というキーワードが入った「メールマガジン」を多数登録。むさぼるように読み、「もっと知識を得なければ稼げない」と焦り出すと、「インターネットを使って稼ぐ方法を教えます」というセミナーに通いまくるようになっていった。

ビジネスは甘くない

まずは、息子が学校に行っている間に開催している少額セミナーに通った井後さんだったが、全く活かすことができない。「自分の得意なことや好きなことを、インターネットを使って売ってみましょう」と言われても、何を売ればいいのかわからなかった。

仕事、子育てとフル回転(写真提供=井後史子さん)
仕事、子育てとフル回転(写真提供=井後史子さん)

やがて、「少額セミナーを受けるだけでは稼げるようにはなれない」と考えた井後さんは、数十万円する高額な起業塾に入塾することを決意。もちろん、生活保護受給中だったため、一括払いできるお金はなく、分割払いで通い始めた。

「起業塾は、『独立しよう! 会社を設立しよう!』というスパルタ的な塾だったので、私は周囲の反対を押し切って起業し、塾で教えられた通りに行動しました。その結果、気付けば借金ばかりが増えていったのです」

ネット販売するための商品を仕入れる費用や、アフィリエイト登録の仕方、メルマガやブログの書き方などを学ぶために必要な費用は、不足するとなんとか工面して補った。

もともと余裕がなかった生活はさらにカツカツになったが、「来月切り詰めれば大丈夫だから」と自分に言い聞かせる。毎日のように焦る気持ちにせき立てられ、心身ともに疲弊していった。。