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『 【4巻発売記念SS②】かくして少年は迷宮を駆ける『大渓谷の大王象』/あかのまに』のエピソード「大渓谷の大王象」の下書きプレビュー

【4巻発売記念SS②】かくして少年は迷宮を駆ける『大渓谷の大王象』/あかのまに

大渓谷の大王象

作者
MFブックス
このエピソードの文字数
2,056文字
このエピソードの最終更新日時
2025年12月4日 18:15

 それは、衛星都市国ウーガへと向かう途中、複合迷宮ソラを攻略こうりゃくする途中の出来事だった。


「ここが、最下層か……」


 ウル達は現在、複合迷宮ソラの中間地点、すなわち洞窟どうくつを抜けた渓谷けいこくの最下層に到着していた。

 目の前にはとても浅く、流れの緩い川が拡がっている。

 上を見上げると空はひどせまい。

 巨大な谷にはさまれ太陽の光が遮られて、薄暗かった。


「凄い景色だな……」

「大渓谷の真下ですからね」


 ロックンロール号の天板に乗って、シズクとリーネも感嘆の声をあげる。

確かに凄まじい光景だった。

ここは迷宮の影響下ではないはずだが、現実感のない景観だ。

 

「ジェナ様、大丈夫ですか?」

「ええ、問題ありません。シズク様」

《うわー! かわすっげー!》


 ディズが身体を休めている馬車を操るジェナとアカネも辿り着き、一段落ついたことにウルは安堵(あんど)する。

 そして、そのままロックンロール号の方へと視線を移した。


「さて……エシェル様、大丈夫です?」

「…………う、うるさい」


 ウルは今回の依頼者であるエシェルへと声をかけると、彼女は戦車の中からよろよろと身体をだして、ぐったりとした表情でこっちをにらんだ。

 どうやら彼女はあまり、戦車にゆられての移動は得意ではないらしい。

 まあ、そもそも乗り心地があまり良いものではない上、魔物との戦闘の時などは更に揺れるので仕方ないといえば仕方なかった。


「い、いいか、お前ら、できる限り急いで……?」


 それでも、なんとかこちらへの強気な姿勢を崩すまいとしていたエシェルだったが、不意に彼女の身体が影に隠れた。

 エシェルはまゆひそめて振り返る。

 すると、


『……………………』 

「おわー!!!?」


 突如として背後から現れた“巨大な白い生物”を前に悲鳴をあげた。


「でっかあ……」


 少し距離を置いたウルは、それが“象”であるというのはわかった。

 国と国の移動中、何度かウルはそれらを見たことがあった。

 しかし、それと比べても明らかに大きい。高さだけでも五メートル以上はある。


「な、なななななななんだこいつは!」

「魔物ではありませんよ。ご安心を」


 慌てふためくエシェルを落ち着けるように、シズクは続けた。


「【大王象】、この大渓谷の最下層に住まう霊獣れいじゅうだそうです」

「とてもかしこくて、攻撃性は皆無かいむらしいのよねえ」


 リーネも感心したようにそれを眺める。

 実際、象からは攻撃しようという意図も悪意も全く感じない。というよりも、悪意があるなら、黙って近づくよりも先に、こっちを蹴り飛ばしているだろう。


「び、びっくりさせるんじゃない……!」


 あられもない悲鳴をあげたエシェルがプリプリと怒ると、象は、


『ごめんね?』

「おわー!?」


 彼女に直接謝罪し、それが更なる悲鳴を呼んだ。


しゃべったなあ……」

「本当に頭がよい方々なのですね」


 人語も容易よういに理解しているのは、なかなかに凄い。

 感心するウルとシズクをよそに、驚き疲れたのか更にぐったりとしたエシェルは、深々とため息をついて再び戦車の中に戻ろうとした。


「もう、なんでもいい……それよりも速く先に…………ん?」


 だが、その前に、彼女の身体白い象の鼻が触れた。


「なん、なん、きゃあー!?」


 そしてそのまま、複数の大王象たちの鼻が彼女の身体にまきついて、もみくちゃにする。

 あまりの光景にさすがのウルも心配になった。


「……ヒトは襲わないんだよな?」

「ええ、魔物から人々を護るとか、そういう事態以外で攻撃的になった例は一切ないわよ」

「ただ、心身が弱ってる相手に構い過ぎることは、あるそうです。触られている間、治癒効果も受けられるとか」


 そう説明するシズクにも、何体かの象が鼻を伸ばして、もふもふなでなでとシズクをもみくちゃにし始めていた。

 隣でそっと象の鼻を撫でてみると、まるで高級な布団のように柔らかい。


「んわー!!??」


 ちなみにエシェルの姿は、もう鼻に飲み込まれて見えなくなっていた。悲鳴を聞くに、怪我をさせられたりだとかはないようではあるが……、


『もみくちゃになっとるのう』

「エシェル様、だいぶ気分悪そうにしていらっしゃいましたからねえ」

《いーなー、たのしそー》

「アカネは健康そのものだからなあ……」


 それから長いこと二人はもみくちゃにされた後に解放され、「もう私は外に出ないからな!!」とちょっと泣き面になりながらエシェルは戦車にもってしまった。

 その後、体勢を整えて複合迷宮ソラの後半戦へと向かおうとすると、不意に大王象の一匹がウルの方へと鼻を伸ばし、言った。


『いろいろと、たいへんかもだから、きをつけてあげて』


 あの子、とはエシェルのことだろう。

 もちろん、この時点においてエシェルに必要以上の肩入れをする理由はウルにはない。

 何故に見ず知らずのヒト、もとい象にそんなことを頼まれなばならないのか、と思いもしたが――、


「……ま、やるだけやるさ」

『がんばってね』


 そう言うと、その答えに満足したのか大王象たちは鼻を手のようにふりながら、こちらを見送った。ウルも振り替えし、そのまま先へと進んでいく。

 象たちは、ウル達が洞窟の闇の中へと進んでいく間、ずっと、そうしていた。

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小説情報

小説タイトル
【4巻発売記念SS②】かくして少年は迷宮を駆ける『大渓谷の大王象』/あかのまに
作者
MFブックス
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