闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
【ヘスティア・ファミリア】
「……ただいま帰りました」
「グレイさん、お帰りなさい」
「ああ、グレイ君!今日はずいぶん長いことダンジョンに潜ってたね?」
おお?てっきり説教がくると思っていたんだが……そうでもなかったか?
「ええ。他の冒険者の方のパーティーに混ぜてもらって、下の階層まで行きました」
「何処まで行ったんですか?」
「24階層まで行ったよ」
「ふーん。……で?君がパーティーを組んだ冒険者は何処の【ファミリア】所属なのかな?」
にっこり、と。満面の笑みでそう問いかけるヘスティアさまだが、何やら黒いオーラのようなものがにじみ出ている。返答次第では雷が落ちるな、これは。
「……【ディオニュソス・ファミリア】です」
まあ、あながち間違いではないな。ベートとレフィーヤ──【ロキ・ファミリア】のメンバーもいたけど、あくまで【ディオニュソス・ファミリア】と協力しているわけだし。
俺の返答を聞くと、ヘスティア様はうんうんと頷く。
「…………なら良いんだよ。ディオニュソスとは天界にいた頃はご近所さんだったからね。けど、間違ってもロキとかフレイヤとかの
「肝に銘じておきます」
ふー、危ない危ない。これはディオニュソス様に感謝しないとな。
一方、【ロキ・ファミリア】
「(なんやこの【スキル】は……)」
主神ロキが羊皮紙を片手に、頭を抱えていた。
彼女の手には先程更新したレフィーヤ・ウィリディスの【ステイタス】が書かれているのだが……
【
・魔法スロットの上限撤廃
・魔法の効果と詠唱文を完全に把握した場合、自動で魔法スロットに追加される
新たに追加された【スキル】。それも、都市でも屈指の大手【ファミリア】の主神である彼女さえも見たことのない名称と効果が書かれていた。
「(間違いなく【レアスキル】やな、これは。しかも魔法スロット撤廃というとんでもスキル。他の魔法使いが聞いたら卒倒もんや。それに2つ目の効果、完全にレフィーヤの覚えとる魔法の上位互換やな)」
レフィーヤ・ウィリディスが使用する魔法【エルフ・リング】。これはエルフの魔法限定で、詠唱と効果を完全把握していれば使用できるという効果を持ち、彼女の2つ名【
「(このスキル発現の切欠はおそらく……
彼女は以前、リヴェリア・リヨス・アールヴから彼の使った魔術について聞いていた。曰く、エルフが古代の魔法──『ソウルの魔術』『奇跡』『呪術』の研究を行っていたが、ある国の手で研究資料を焼き払われてしまったと。
「ホンマに、あいつは
3日後の朝。【ヘスティア・ファミリア】
「初めまして、リリルカ・アーデです」
「きみが噂のサポーター君か。ベル君から話は聞いてるよ」
簡単な自己紹介をして一礼する
昨日、ベルが人を
「それじゃあ、俺とベルはお茶を淹れてきますね」
「うん、お願い」
~暫くお待ち下さい~
「お待たせしましたー」
俺が地下室からテーブルを持ってきて1人と1柱の間に設置し、その上にベルが人数分のカップを置く。
「さて、それじゃあ改めて……」
ヘスティア様がベルの腕を取って自分のもとに引き寄せる。
「初めまして、サポーター君。ボ・ク・の、ベル君が世話になったね」
『ボクの』を強調して宣うヘスティア。その雰囲気はさながら縄張りを守る虎のよう。手を出したら食うぞ、と視線が物語っていた。リリはぎょっとして頬を引きつらせ、俺とベルは何事かと困惑する。
「……」
数秒間の沈黙、そして──
「いえいえこちらこそ。ベル様にはいつもリ・リ・に、お優しくしてもらっていますから」
リリもベルの腕を取って自分のもとに引き寄せる。
「「……」」
ベルを挟んで睨み合い、火花を散らす1人と1柱。
「(助けて下さい……!)」
とうのベルはというと、俺のほうを見て救助を訴えている。
「ひとまずベルから離れて落ち着いて下さい。じゃないと、話が進みませんよ」
俺が手を叩いてそう言うと、それぞれベルの腕を離して座り直す。
「……それで、リリ。これからのことなんだけど、リリは今ホーム……寝泊まりする家がないんだよね?」
「はい。以前からそうでしたが、料金の安い宿を転々としています」
恥ずかしそうに笑う彼女を尻目に、ベルは俺とヘスティア様に目配せをする。俺は無言で頷き、ヘスティア様もしっかりと頷く。ぶすぅっとした表情をしながらだが。
「じゃあさ、もしよかったら……
「……え?」
「というか、【ヘスティア・ファミリア】に入らないかい?まだヘスティア様とベルと俺しかいないが」
リリが【ソーマ・ファミリア】でやっていけないだろうことは、ベルからの話でわかっている。ならいっそ、と思ったのだろう。彼女を独りにさせるくらいなら、自分達の
ヘスティア様から目立った反対はなく、後はリリが頷くだけだ。
「……ヘスティア様、よろしいんですか?ヘスティア様はリリのことを……」
「ふんっ……勘違いしないでおくれよ?いくら嫌な奴でも、身寄りのない子どもを放っておくのは、孤児達の保護者たるボクの存在意義に関わるんだ。再就職先が見つかるまで、少し面倒を見てやろうと思っただけさっ」
頬を染めて顔を背ける主神の素直ではない返答に俺とベルは苦笑する。
リリはその光景にクスリと穏やかな笑みを漏らした後、顔を横に振った。
「皆様、ありがとうございます。そのお気持ちだけで、リリは十分です」
「え……ど、どうして!?」
「これ以上皆様の優しさに溺れることが心苦しいのと……リリはまだ、【ソーマ・ファミリア】の一員ですから」
啞然とするベルにリリは淡く笑いかけながら、肩の上からそっと背中に手を伸ばす。彼女の背中に刻まれている【ステイタス】の存在に、ヘスティア様も眉をひそめた。
「リリはまだ【ソーマ・ファミリア】の構成員ですから、ベル様達の
「ぼ、僕は別にそんなことっ……ぁ」
食い下がろうとするベルだったが、何かを思い出したように止まる。ことは
ベルは沈痛そうに瞼を重くしながら、何かを考え込んでいるヘスティア様の方を見た。
「サポーター君、【ソーマ・ファミリア】脱退の条件は、いや脱退自体禁止されているのかい?君の主神から何か聞いてないかい?」
「ソーマ様はこれと明言しているわけではないのですが……恐らく、大量のお金が必要になってくると思います」
「金……か」
人員に次いで、資金は【ヘスティア・ファミリア】に圧倒的に不足しているものの1つだ。俺とベルのダンジョン進捗状況もあってそれなりに潤沢ではあるが、やはり生半可に過ぎる。せいぜい数十万ヴァリスが支払いの能力の限界だ。それに、もし俺達が脱退金を立て替えることができても、彼女は決して受け取らないだろう。
そもそも、【ファミリア】の脱退自体神達は嫌っている。その最たる例は情報漏えいだ。どんなに放縦な神でも派閥の最低限の管理だけはデリケートに行っているものだ。
「……自分の意思で【ファミリア】に入った人じゃなくても、許してもらえないんですか?」
「貴族の子は貴族、農民の子は農民ってことだよ、ベル」
構成員の間に子供ができれば、その子供が【ファミリア】に入団するのは義務だ。
主神にしてみれば、己の分身を作った時点でそれは当事者間の問題、自分は望んでなかったと子供が騒いだところで関与するところではない。
要するに、神の知ったことではないのだ。
脱退の許可は、結局、主神の度量次第。善良な神に恵まれるか否か。運がなければ、大金を請求されるか、無理難題を課せられてニヤニヤと見守られるかだ。
ベルは複雑そうな顔で、笑っているリリを見つめた。
「ソーマの協力が得られないとなると、『
「そうなりますね……」
「けど、君もこのままでいるつもりはないんだろう?いつか打診にでも行くつもりかい?」
「はい。今はまだ無理だと思いますけど、折を見てソーマ様のもとへと足を運ぼうと思います。良い返事が聞けるかどうかはわかりませんが……」
「じゃあリリ、これからどうするの?また他の宿に、1人で……?」
「実は顔馴染みのお店……まあ、
影もなく明るく答えるリリの言葉に、あてがあるとわかったベルは安心そうな表情になる。
「おいおい、そんな押しかけるような真似して良いのかい?何だったら、ボクのバイト先を紹介してあげようか?」
「いえいえ。リリは
「何故それを知っているッ!?」
「以前、北方面の安い宿を拠点にしていた時に耳にしたのですが。有名ですよ?ロリ神の祟りこと、北通りの天災の噂は」
「うわああああああっ!?ベル君とグレイ君の前でバラすなああああああぁっ!」
「むぐぐぐうっ!?」
ヘスティア様、あなた何やらかしちゃってんですか……。
北西のメインストリート、『冒険者通り』を通り、ギルド本部に来ていた。先程まで話していた【ソーマ・ファミリア】のことについて、報告だけでもエイナさんにするためだ。正午を過ぎた時間帯──多くの冒険者が迷宮探索に繰り出している頃なのもあり、ロビーは空いていた。混み合うほど人もいないため、直ぐにエイナさんを見つけることができた。
「お、いたい……た?」
受付窓口にいるエイナさんには、先客がいた。白い布に包まれた荷物を持って、カウンターを挟んで何事か相談している、1人の冒険者。あの後ろ姿は……。
「あ、ベル君にグレイさん」
2、3歩近づくと、エイナさんが俺たちの存在に気づく。
そして、その反応を追うように。
こちらに背を向けていた人物──アイズ・ヴァレンシュタインがゆっくりと振り返る。
ベルの方に視線をやると、ゆっくりと回れ右をして……ってコラコラ。
「まあ待ちたまえよ、ベル」
「は、離してください!グレイさん!」
逃げようと藻掻くベルを脇に抱え、俺は彼女たちのほうに進んでいく。
「何やってるの、キミは!いきなり走り去ろうとするなんて失礼でしょ!?あとグレイさん、グッジョブです」
「す、すいません、エイナさん……」
「なに、この程度のことは造作もないさ」
目の前で叱りつけてくるエイナさんにベルは反射的に謝り、俺はベルのことを離す。一応、逃げられないように後ろに立っておく。
「そ、それで、こ、これは一体どーいう状況で……!?」
「はぁ……ヴァレンシュタイン氏が、ベル君に用があるそうなの」
「ゑっ!?」
何が何だか理解が追いつかないベルに溜息をつきながら、エイナさんはそれだけを教える。アイズのほうに振り向くと、彼女は手にしていた荷物の布を解く。出てきたのは、
「ダンジョンでこれを拾って、キミに直接返したいって。ヴァレンシュタイン氏は私に相談しに来てくれたんだよ?」
あのプロテクターは3日前ベルが落としてしまったものだ。それを拾った彼女は、そのまま
「……ベル君、後は2人で話をつけるんだよ」
「ふ、2人でっ!?ま、待ってくださいエイナさん!?お願いですからっ、お願いですからまだここにいてくださいっ……!僕、死んじゃいます……っ!?」
「何言ってるの、男の子でしょっ。言わなきゃいけないことが沢山あるんだから、しっかり1人で伝えるの。いい?」
顔をぐっと寄せて何かをベルに言うと、エイナさんは俺に目配せをし、面談用ボックスのほうを指差す。
「……」
「まあ、頑張れ」
今にも泣きそうな顔で俺をじっと見つめるベルをその場に残し、エイナさんの後をついていく。
「そういえば、【ソーマ・ファミリア】のほうは?」
「今、運営自粛を求める告発文書を作成しています。あとは上に提出するだけです」
そう言うエイナさんだが、表情に陰りが見える。
「グレイさん。本当は私……悩んでいるんです。中立を謳うギルドの職員である私が特定の冒険者に肩入れしていいのかなって」
「良いんじゃないかな?自分の良心に従っての行動なら、むしろ胸を張るべきだ。それに、【ファミリア】の環境が変わって、リリのような
まあ、後者に関しては「そうなったらいいな」という願望だがな。
「では、俺はこれからダンジョンに向かう。だから、あなたも暗い顔をしないでくれ。じゃないと、ベルが悲しむぞ?」
「そう……ですよね。よし!じゃあ、グレイさんもお気をつけて」
レフィーヤ魔改造その1。チートスキル発現。