闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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今回はかなり短いので、早めの投稿になりました。


第10話

「うぐぅ~……っ!」

「……何があったんだ、ベル」

 

ソファーにうつ伏せた体勢で、両手で掴んだクッションを頭に押し付けている。文字通り頭隠して尻隠さずというやつだ。昨夜、アイズ・ヴァレンシュタイン氏にベルの護衛を任せてからホームに帰って寝て。夜明け頃にベルが帰ってきたと思ったらコレだ。

 

「アレかい、おねしょでもしちゃったとか?」

「違いますよぉ~」

 

情けない声で否定するベル。いつもなら食ってかかるはずなんだが……。

 

「……本当に、何があったんだ?」

「情けない自分を思いっきり殴り倒してやりたいです……」

「……はぁ。何があったか詮索はしないけど、君はほんとに多感な子だよなぁ……」

 

のろのろと起き上がったベルは耳の辺りをまだ赤らめたまま、何とか朝食を取った。

 

「そうだ。ベル君、昨日のあの本を見せてくれよ。今日は昼まで暇なんだ」

「あ、はい。──どうぞ」

 

ヘスティア様は今日のバイトのシフトが午後からあるらしい。【ヘファイストス・ファミリア】の方も加え露店のバイトも続けているみたいだけど……体、大丈夫なのか?

 

「ふんふん、見れば見るほど変わった本だ、な……ぁ?」

 

表紙をじろじろと見て、何ページか無造作に目を通していたヘスティア様は、不意に動きを止めた。

かと思うと、目尻をひくひくと痙攣させ始める。まるで自分の与り知らない借金の請求書を見せつけられたかのように。

 

「コレは……魔導書(グリモア)だよ」

「「魔導書(グリモア)?」」

 

耳にしたこともない単語を聞き返す。

それと同時に、嫌な予感が汗という形で俺とベルの顔に表れる。

 

「な、何ですか、ソレ……?」

「簡単に言っちゃうと、魔法の強制発現書(・・・・・・・・・)……」

 

体中の汗腺が開いたような気がした。

 

「『発展アビリティ』なんて言ってもわからないと思うけど、とにかく『魔導』と『神秘』っていう希少なスキルみたいなものを極めた者にしか作成できない、著述書なんだ……」

 

察したのか、ベルは薄笑いを浮かべて石になった。

 

「君の魔法発現はこれが理由か……。ときにベル君、君の知り合いはこの魔導書(グリモア)についてなんと?」

「だ、誰かの落とし物と言ってました……」

「……」

「ね、値段は……」

「【ヘファイストス・ファミリア】の一級品装備と同等、あるいはそれ以上だ……」

 

ビキリッ、と。ベルの体に罅割れが走るような幻聴が聞こえた。

 

「ちなみに、1回読んだら効果は消失する。使い終わった後はただ重いだけの奇天烈書(ガラクタ)さ……」

 

重苦しい沈黙がホームに落ちる。

魔法を外部からの干渉で発現させるという貴重な書物。それをネコババした挙句、使い捨てた。ン千万ヴァリスする代物を、ベルがいただいてしまった……。

ちらり、とベルに視線を送ると、ショックのあまりソファーに座り込み呆然としていた。口から魂のようなものが抜け出ている。

ヘスティア様は、感情を殺した能面のような顔を俯きがちに、やがてベルの正面に足を運ぶと両手を肩に置き、語りかけた。

 

「いいかいベル君?君は本の持ち主に偶然(・・)会った。そして本を読む前に(・・・・・・)その持ち主に直接返した。だから本は手元にない。間違っても使用済みの魔導書(グリモア)なんて最初からなかった……そういうことにするんだ」

「「黒いですよヘスティア様(神様)!?」」

 

誤魔化す気満々じゃないですか!

 

「2人共、下界は綺麗事じゃ通らないことが沢山あるんだ。ボクはそれをこの目で見てきた。住む場所を追い出されたり、ジャガ丸くんを買えないほどひもじい思いをしたり、廃墟の地下室に閉じ込められたり……とんでもない額の負債を背負わされたり。世界は理不尽で出来ているんだ」

「それはひとえに神様のせいですっ!?」

「というか、何ですか最後の不吉極まりない言葉は!?」

 

俺達に何を隠しているんですか、ヘスティア様!?

 

「と、とにかくっ、この本を貸してくれちゃった人に、僕、事情を話してきます!」

「おお、行ってこい!」

 

ベルはヘスティア様の手から魔導書(グリモア)をひったくると扉に向かい、俺はヘスティア様を脇に抱えて動けないようにする。

 

「離せグレイ君!止すんだベル君!世界は、神よりも気まぐれなんだぞ!」

「「こんな時に名言を生まないでください!」」

 

ベルは本を片手にホームの扉を蹴破り、俺はヘスティア様を脇に抱えたままそれを見送った。

 

 

 

 

「……行ったな。さて、ヘスティア様。俺から1つ質問があります」

「……質問?」

 

俺はベルがホームを出たのを確認すると、ヘスティア様を下ろす。

 

「昨夜、ベルが魔法を発現させた時、何か言っていましたが心当たりでもあってんですか?例えば……【ステイタス】に消したような跡があるスキルとか」

「……ヒュー、ヒュー」

 

俺の質問にヘスティア様は顔を反らすと、わざとらしく口笛を吹き始める。

 

「……ヘスティア様~?」

 

俺は両手でヘスティア様の顔を固定し、目線を無理やりこちらに向ける。ヘスティア様のほうは目を合わせまいと必死で抵抗する。

 

「言ったほうが身のためですよ~?」

「君は主神であるボクを脅すのかい!?」

 

無表情で顔をじわじわ近づけながら言う俺にヘスティア様は尚も抵抗を続ける。

 

「……わかった、言うよ。言うから手と顔を離してくれ」

 

俺の額とヘスティア様の額がくっつくくらいの距離になったところでヘスティア様は白旗を揚げた。

 

「ベル君のスキルの名前は【憧憬一途《リアリス・フレーゼ》】。効力は『早熟する』、『懸想(おもい)が続く限り効果持続』、『懸想(おもい)の丈により効果向上』の3つだよ」

「……どうりで成長速度が早いと思ったら、そういうことだったか。それで、なぜ隠していたんですか?」

「理由は2つ。まず1つ、これはおそらくレアスキルだ。このスキルの存在が他の神々に知られたら、ベル君は神の玩具にされかねないからね」

 

なるほど、と俺は納得する。下界にいる神というのは往々にして娯楽を求めて天界から降りてきている。つまり、未知なるものを見ると子供みたいにはしゃぐのだ。そんな神々にベルの持つレアスキルの存在が知られたら、目を輝かせて飛びついてくることだろう。最悪ベルを……というか、ベルの保有するレアスキルを手に入れるためにありとあらゆる手段を使うだろう。

さすがヘスティア様、眷属(こども)のことをよく考えて──

 

「2つ目は……このスキルの発現した原因がヴァレン某だからだ」

「……はい?」

 

俺のなかで感動が音を立てて崩れた。

 

「ベル君がこのスキルを発現させたのは、5階層でミノタウロスに襲われたところをヴァレン某に助けられたあの日なんだよ。だから、あの件がこのスキル発現の切欠だと僕は考えている」

「良いじゃないですか。明確な目標をもって強くなっているんですから」

「良くないっ!ボクへの懸想(おもい)で強くなるならまだしも、ヴァレン某(他の女)への懸想(おもい)で強くなるなんて許してたまるかっ!」

 

だんっ!とヘスティア様は地面を強く踏む。

 

「だいたい、何なんだいベル君は!ハーフエルフのアドバイザー君といい、ヴァレン某といい、雇ったサポーター君といい、ボクという女神()がいながら他の娘にうつつを抜かしてさぁ!」

 

ヘスティア様は怒りをぶちまけるかの如く激しい地団駄を踏み始める。あ、これは怒りで我を忘れているな。

 

「ボクの何が不満なのさ!僕に何が足りないのさ!ベルく~ん!」

 

最後に、ホームの天井に向けてヘスティア様は大きな声で叫んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

「えっと……落ち着きましたか?」

「……ハッ!?」

 

溜まっているものを発散してスッキリしたのか、我に返ってくれた。

 

「と、とにかく。このことはベル君は勿論の事、他の者に話しては駄目だ、いいね?」

「わかりました」

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