闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの   作:大豆万歳

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怪物祭の前編です。


第5話

神様が出かけられてから3日目の朝。まだ神様は帰ってこない。

がらんとした教会の隠し部屋で、2人で迎える朝食にちょっと寂しい思いをした後、俺たちは今日もダンジョンに潜る準備をする。

神様が不在でも俺たちのやることは変わらない。むしろ帰ってきてくれた時に「こんなに貯まりました!」と言って喜んでもらえるよう、1ヴァリスでも多く稼がねば。

今日は『大竜牙』と『ハベルの大盾』を背負い、両手に『セスタス』を装着する。

 

「あれ?グレイさん、今日は何時もの剣と盾じゃないんですか?」

「ああ、たまには違う装備でダンジョンに潜るのもいいかと思ってね」

 

お互いに準備が済んだことを確認し、誰もいないホームに「「行ってきます」」と言って扉に手をかけた。

 

「今日は何階層まで潜ろうか?」

「そうですね……とりあえず5階層まで行こうかと。というか、グレイさんは僕に合わせないで下に潜ってもいいんですよ?」

「そうは言うがな、ベル。ダンジョンでは何が起こるかわからないんだぞ?それこそ、5階層にまたミノタウロスが現れるなんてことがないとも──」

「おーいっ、待つニャそこの白髪頭と鎧ゴリラー!」

 

お互い白髪頭と鎧ゴリラという単語にぎょっとしてしまい、思わず足を止める。

声のした方向に振り向くと、『豊穣の女主人』の店先で、猫耳と細い尻尾を生やしたキャットピープルの少女が、ぶんぶんと腕を振っていた。

一度周囲を見渡し、自分に指を向けて「「俺(僕)のことか(ですか)?」」と確認すると、頷かれた。

何事だろうとベルと顔を見合わせ、少女のもとに駆け寄った。

 

「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて、悪かったニャ」

「ゴリラ呼ばわりされて少しイラッとしているが……おはよう」

「あ、いえ、おはようございます。それで……僕らに何か?」

 

眼前で頭を下げられ、こちらも頭を下げ返す。

仕事上叩き込まれたであろうお辞儀をした彼女は、早速とばかりに用件を切り出した。

 

「ちょいと面倒ニャこと頼みたいニャ。はい、コレ」

「え?」

「おミャーらはシルのダチニャ。だから、これをあのドジっ娘に渡して欲しいニャ」

 

そう言ってベルに手渡したのは、財布だった。

布袋状で、口金のついた『がま口財布』。さり気なく見慣れないエンブレムが刻まれてあって、どこかの商業系【ファミリア】が制作したことがわかる。

うん。それで、これをどうしろと?ちょっと話が見えてこないんだが……。

 

「アーニャ。それでは説明不足です。お2人も困っています」

 

と、今度はエルフの店員さんが現れた。準備を行っていたカフェテラスの方から歩み出て、彼女は俺達に近寄ってくる。

 

「リューはアホニャー。店番サボって祭りを見に行ったシルに、忘れていった財布を届けて欲しいニャんて、そんニャこと話さずともわかることニャ。ニャア、白髪頭?鎧ゴリラ?」

「と、いうわけです。言葉足らずで申し訳ありませんでした」

「いえいえ、そういうことだったんですね」

 

やれやれだぜという顔をするキャットピープルを綺麗にスルーして、リューと呼ばれた店員さんは謝罪してきた。

一瞬で蚊帳の外に置かれたアーニャと呼ばれた少女は、得意気に揺らしていた尻尾をぐにゃりと垂らし、赤くなった顔を俯けて震えだす。それを見たベルが汗を流した。

 

「彼女は気にしないでください。それで、どうか頼まれてもらえないでしょうか?私やアーニャ、他のスタッフ達も店の準備で手が離せないのです。これからダンジョンに向かう貴方達には悪いとは思うのですが……」

「別に構いませんが……シルさんがお店をサボったというのは本当なんですか?」

「サボる、という言い方には語弊があります。ここに住まわせてもらっている私達とシルとでは、環境が違うので」

 

真面目そうな彼女が怠けているところを想像できなくて尋ねてみると、どうやら休暇扱いらしい。住み込みで働いている目の前の彼女達と違い、シルさんは毎日この酒場で働いているわけではないのだと言う。女将さんであるドワーフのミアさんの許可も得ているそうだ。

要するに、シルさんは自宅通いだから、例外的な非番を認めているってことだ。

それで、シルさんは今回の暇を利用して『お祭り』に行ったらしく……。

 

「「怪物祭り(モンスターフィリア)?」」

「はい。シルは今日開かれるあの催しを見に行きました。……初耳ですか?この都市に身を置く者なら知らないということはない筈ですが」

「実は僕……オラリオに来たのがつい最近で……」

「同じく。良かったら、教えてくれないか?」

「──ニャら、ミャーが教えてやるのニャ!」

 

俺がそう申し出ると、俯いていたアーニャががばっと勢い良く動き、ずいっと俺達の間に割って入った。名誉挽回とでも言うように鼻息荒く話し出す。

 

怪物祭り(モンスターフィリア)は、年に1度開かれる【ガネーシャ・ファミリア】主催のドでかい催しニャ!闘技場を1日中まるまる占領して、ダンジョンから引っ張ってきたモンスターを調教するのニャ!」

「……調教?」

「別にモンスターを手懐(てニャず)けること自体はおかしいことじゃニャい。おミャーらも1度は経験したことがある筈ニャ。ぶっ倒したモンスターがむくりと起き上がり、仲間(ニャかま)になりたそうな眼差しを送ってくるあの瞬間を……」

「いや、1度もないんだが……」

 

むしろ起き上がらないよう堅実かつ確実に殺すものだろう。そこへ、エルフの店員が口を挟む。

 

調教(テイム)という技術自体は確立されています。素質に依るところも大きいようですが、モンスターに自分のことを格上だと認識させ、従順にさせてしまうのです」

 

モンスターを従順に……無名の王が竜を従わせるのと同じようなことをするのか?いや、あれとは違うだろうな。

 

「ダンジョンにいるモンスターはタチが悪くて調教を受け付けにくいから、普通は地上のモンスターを手懐(てニャず)けるもんニャんだけどニャー……【ガネーシャ・ファミリア】の構成員は実力が半端じゃニャいから、迷宮育ちのモンスター相手でも成功させてのけるのニャ」

 

【ガネーシャ・ファミリア】の名前は俺も聞いたことがある。多くの【ファミリア】が存在するこのオラリオの中でも、その実力は折紙付き。抱える構成員の数も凄いらしい。

 

「つまり、モンスターと格闘して大人しくさせるまでの流れを見世物(ショー)にしているということかな?」

「そういうことニャ。ぶっちゃけサーカスみたいなもんニャ」

 

但し凄いハードな、と彼女は付け加えてきた。やっぱり危険は伴うらしい。

 

「ミャー達だって本当は見に行きたいニャ、でも母ちゃんが許してくれねーニャ。シルはお土産を買ってくるとか言って、笑顔で敬礼なんかしていったけど……財布を店に忘れるというこのざまニャ。シルはうっかり娘ニャ」

「アーニャ、貴方が言えたことではないと思いますが」

「はは……」

 

まぁ、大体の事情はわかった。お土産はともかく、お金がないと何も買えなくて苦労するだろう。こちらもシルさんから恩を受けてばかりだから、これくらい引き受けよう。

 

「闘技場に繋がる東のメインストリートは既に混雑している筈ですから、まずはそこに向かってください。人波に付いていけば現地には労せず辿り着けます」

「シルはさっき出かけたばっかだから、今から行けば追いつける筈ニャ」

「「わかりました」」

 

ベルは背負っているバックパックは邪魔だろうということで預かってもらうことになった。

俺は裏にあるというお手洗いを借りて、装備を霧散させてソウルに変換してきた。

ベルがシルさんの財布を受け取り、摩天楼(バベル)のそびえる都市の中心、更にその奥に伸びているだろう東のメインストリートの方角を見つめる。

怪物祭(モンスターフィリア)か……どんな感じなんだ?

暇があったら見てみようと思いつつ、俺達は酒場の前から出発した。

 

 

 

 

とは言ったものの……

 

「この人混みの中から探すのは骨が折れますね……」

「だな」

 

シルさんを探しに来たのはいいが、祭り一色に染まった東のメインストリートは見渡す限り人で溢れかえっていた。とりあえず闘技場に向かおうということにしよう、と思ったとこで──

 

「おーいっ、ベールくーんっ!グーレーイくーんっ!」

「「え?」」

 

耳を叩いた自分の名前に振り向くと、俺達は目を丸くしてしまった。

所在のわからなかった神様が、人混みを掻き分けてこちらに駆け寄って来ていたからだ。

 

「神様!?どうしてここに!?」

「おいおい、馬鹿言うなよ、キミたちに会いたかったからに決まっているじゃないか!」

 

目の前で立ち止まった神様は何故か誇らしげに胸を張ってそんなことをのたまう。

よく見ると、風呂敷に包まれた小包のようなものを背負っているが……中身はなんだろう?

 

「いえ、僕達も会いたかったですけど、そういうことじゃなくて……あの、今日まで一体どちらに……」

「いやぁー、それにしても素晴らしいね!会おうと思ったら本当に出くわしちゃうなんて!やっぱりボク達はただならない絆で結ばれているんじゃないかなー、ふふふっ」

 

……ベルの声が届いてない。

完全に自分の世界へ入ってしまっている神様に、俺達はすっかり置き去りにされてしまう。

 

「えーと……神様?凄いご機嫌みたいですけど、本当に何があったんですか?」

「へへっ……知りたいかい?ボクが舞い上がっている理由を」

「「はい」」

 

先程から相好を崩している神様は、手を風呂敷の結び目に伸ばし、中身を取り出そうとする。

俺達が神様の次の言葉を待っている時だ……。

 

サッ

 

俺の背後を何かが駆け抜ける気配を感じた。バッと振り返ると、そこに白と焦げ茶色(・・・・・・)の物体が一瞬だが目に映った。まさか……。

 

「折角だから3人で見て──おや、どうしたんだい?グレイくん」

「ああ、すいません。急用が出来たので、俺はちょっと別行動をとってもいいですか?」

「え?でも──」

「……お2人で、デートをごゆっくり楽しんでください」

「いいとも!いってらっしゃい!」

 

俺が小さい声で耳打ちすると、神様は満面の笑みでサムズアップをする。

 

「ちょ、ちょっとグレイさん。人探しは──」

「それならボクとデートしながらしようじゃないか。楽しみながら仕事をこなせて一石二鳥だぞ、ベルくん!」

 

ベルの言い分を受け流して手をぐいぐい引っ張る神様。俺は2人が人混みに消えていくのを確認すると、先程の物体が映った場所に向かう。

裏道を通ると、十字路にでた。右に行ったか、左に行ったか。それとも直進したか──

 

ニャーオ

 

左のほうから聞こえた懐かしい鳴き声に俺は驚愕する。……まだオラリオにいたのか。

そこからはまさに追いかけっこだった。

右に曲がり、左に曲がり、ある時はメインストリートに出てを繰り返し……。

 

「はぁ……はぁ……」

 

俺が辿り着いたのは闘技場の西側外周部にある建物。その裏道で不自然に開けた空間だった。

 

「……ここが今のお前たちの寝床か?」

「ええ、中々いい物件でしょう?」

 

俺がそう言うと、目の前に2匹の猫が現れる。

1匹はライオンのような巨体に銀色の毛並みをした金色の瞳の猫。もう1匹は白と焦げ茶色の毛並みに水色の瞳の猫だった。

 

「久しぶりだな、アルヴィナ、シャラゴア」

「えぇ、本当に……本当に久しぶりねぇ、グレイ?」

「色々と積もる話はあるけれど……まずはそこに正座なさい」

 

若干怒気を含んだ声で返してくるアルヴィナとシャラゴア。たらり、と背中に冷や汗をかいた俺は大人しくその場に座る。

 

「グレイ。あなたが最後にダンジョンに潜ったのは……どの位前かしら?」

「……およそ1000年前です」

「あなたが地上に上がって来たのは……何日前かしら?」

「……およそ5日前です」

「5日前に地上に上がって来るまでの間……一体何をしていたのかしら?」

 

目を細めるのに比例して言葉に含まれる怒気がどんどん増していく。今すぐここから逃げ出したい。でも逃げたらもっと酷い目に遭うだろう。……なら、やるべきことは1つ!

 

「ダンジョンの壁に穴開けて寝ておりました!」

「アルヴィナパンチ!」

「たわば!」

 

正直に答えると同時に、アルヴィナの猫パンチが俺の横っ面にクリーンヒット。その衝撃で俺は倒れる。

 

「まったく、何時まで経っても上がって来ないから何があったと訊いてみれば……ダンジョンの壁に穴を開けて寝るなんて、あんたは馬鹿かい!?」

「返す言葉がございません!」

 

俺は正座の状態に戻り、そのまま土下座に移行する。すると、俺の背中にシャラゴアが座る。

 

「あなたがダンジョンで寝ている間に、オラリオでは色々とあったのよ?1000年前に降りてきた神々がバベルを壊したり、【ファミリア】同士の激突があったり……話したらキリがないくらいにね。中には、あなたがいたらどうにかできた案件もあったのよ」

「そ、そうだったのか……」

「……まあ、過ぎたことをあれこれ言っても仕方ないわ。ダンジョンでぐっすり寝ていた分、しっかりなさいね」

 

そう言うと俺の背中からシャラゴアが降りる。俺も体を起こして体に着いた砂埃を払う。

 

「で、これからどうするの?闘技場でモンスターの調教でも見る?それとも、ダンジョンに潜る?」

「ダンジョンに潜る予定だけど、その前に人探しを済ませるさ。あ、でも彼女を見つけた後ベルたちと何処で合流しようか……。それに、肝心の財布はベルが持っているんだよなぁ」

 

どうしようか顎に手をあてて思案していたところだった……。

 

「モ、モンスターだぁああああああっ!?」

 

大通り方面から、大きな悲鳴が聞こえたのは。




次回で怪物祭は終了!の予定なんですが……グレイが逃げたモンスター(シルバーバック以外)と気色悪い新種のモンスター両方を殲滅するか、気色悪い新種のモンスターだけを殲滅するか……。殲滅するにしても何を使うか……。うーむ、悩ましい。
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