東アジア各地(日本、沖縄、台湾、中国、香港)及び米国のアクティビストによって発せられた声明をご紹介します。名前が公開されていないのは、困難な政治状況のゆえだそうです。この間、私が目にした文章の中で最も共感し、賛同できるものです。ぜひご一読、ご拡散をお願いします。
============
【声明】高市発言撤回! 戦争も搾取も差別も気候危機もない東アジアをつくろう
2025年11月7日の日本の首相、高市早苗の国会での答弁をめぐる各国支配階級の対立が、東アジア大衆の平和と団結を揺るがしています。
高市氏は答弁で、中国が台湾を武力攻撃するために海峡を封鎖し、米軍が封鎖を突破しようとして武力紛争になった場合、安保法制の想定する「存続危機事態」となり、米軍とともに集団的自衛権を行使して、中国に対して武力攻撃が可能だという見解を示しました。
これに対して中華人民共和国はかつての中国や台湾に対する日本の侵略を非難しつつ、「台湾は中国の一部であり、日本政府の内政干渉を許さない」という政府あげての猛烈な批判を展開し、日本への旅行や日本からの水産物輸入の制限など、経済的な対抗措置にも乗り出しました。
米国は米中貿易戦争の「一時停戦」の局面にあり、今後ヘビーな交渉を控えることから、今回の高市発言に対する態度を明らかにせず、「台湾海峡の平和と安定の維持に関与し、一方的な現状変更に反対する」という従来通りの立場を維持しています。
中華民国(台湾)政府の与党・民進党は中国の外交包囲網を突破する一つとして高市氏の発言を支持し、野党・国民党は中国政府と歩調を合わせるかのように高市氏への批判を行っています。
第二次大戦の敗戦国である日本は、戦後の憲法で、武力を保持せず、武力で国際紛争を解決しないことを誓いました。戦後の支配政党である自由民主党は、この憲法の改定をずっと目指してきました。米国は中国革命や朝鮮戦争を受けて日本の再武装を容認しましたが、日本、沖縄そしてアジア民衆の反戦平和の闘いが、自衛隊の海外派兵や集団的自衛権の行使を押しとどめてきました。
しかし国際情勢の変化を受けて、日米政府は1997年、2015年に「防衛協力のための指針」の範囲などを拡大する形で見直してきました。「尖閣」をめぐり大きな対立となった2010年、民主党政権時代に策定された「防衛大綱」で沖縄の離島への自衛隊配備が打ち出され、2012年末からの自民党・安倍政権においてそれが本格化し、2016年の与那国島、2019年の宮古島や奄美大島(鹿児島県)、2023年の石垣島に自衛隊駐屯地が開設して、台湾海峡をにらんだミサイル部隊が配備されました。
2022年8月のアメリカのペロシ下院議長の台湾訪問に対する中国人民解放軍の過剰な軍事演習は、今日までに常態化しています。
2013年からの中国の一帯一路に対抗するかのように、生前の安倍晋三は「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱しました。昨年9月には戦後初めて海上自衛隊の護衛艦が台湾海峡を通過して米、豪、フィリピン、ニュージーランドとの共同軍事訓練に参加、今年4月にもフィリピンと米国が主宰する多国間共同軍事演習バリカタン25に初めて150名の陸海空の実装部隊と護衛艦を伴って参加しています。
従来の首相答弁を超えた「台湾有事が集団的自衛権の範疇に含まれる可能性がある」という今回の高市発言は、こうした実際の動きのうえにおこなわれたものであり、それは東アジア情勢をさらに緊迫させることとになりました。この「集団的自衛権」の「集団」とは、日本や東アジアの民衆の集団の利益ではなく、日米支配集団の軍事同盟を指すものです。民衆の視点に立とうとするのであれば、緊迫した情勢を緩和することが最優先にされなければなりません。
中国政府と日米同盟は、超大国と二大強国の同盟であり、緊張緩和に最大の責任があります。しかし、いずれの側も同じ誤りを犯しています。アメリカのトランプ政権は二度にわたり、中国に対する貿易戦争の先制攻撃を仕掛け、中米関係の緊張を高めました。また日本国憲法の平和条項を顧みず、日本に軍拡を迫り続けてきた点においても、情勢の悪化に責任があります。
一方、中国政府が長年にわたり堅持してきた「中華民族」という考えは、全体主義的な専制的民族観であり、「人々の自発的かつ民主的な結合によって国家が形成される」という近代的価値に反しています。武力統一の恫喝は、民主的な自己決定権に反するだけでなく、中国本土の民衆が自由に議論して承認を与えたものでもありません。
各国の大国の支配層は、対立的雰囲気を軍備拡張の梃として利用するだけでなく、排外的な世論を煽り、自らの支持基盤を固めようとしています。敵対する各国はまるで呼応し合うかのように対立を煽りながら軍拡競争や軍事演習を進めており、まるで共謀しているかのようにも見えます。
現在各国が陥っている競争による負のスパイラルは軍拡に限ったものではなく、「純粋な国民」あるいは「良い移民」を他のマイノリティの権利剥奪によって特権化することによって、越境しあるいは辺境に置かれた人々の声を無力化するものでもあります。 移民や難民に対して打ち出されつつある各国政府の敵対的政策は、各地の権利状況の悪化を導き出すものであるとともに、既に多様な移民が生きる各国社会の健全な議論の土台を脅かすものです。
一般的に、出身国からも移住国からも脅かされる状態の移住者が独立した政治的意見を表明することは容易ではありません。移民への敵対政策と、これと対になる国家によるオンライン空間での発言の監視や越境弾圧。すべての国家がこの傾向を増しつつあります。
排除と管理、これらもまた世界規模の言論封殺に加担する国家間の共犯関係を強化するものです。私たち市民は、すべての場所から、人間が越境し、生存し、自由に発言することに関するすべての権利のために立ち向かい続ける必要があるでしょう。
小さな台湾は、大国や強国同盟のはざまで困難な状況に置かれ、支援を必要としています。日米軍事同盟は客観的には、台湾に息継ぎ的猶予をもたらす手助けになっているものの、根本的には信頼できる同盟者ではありえません。台湾は自らの尊厳を守らなければなりませんが、そうであるがゆえに、高市氏の違憲的答弁をそのまま支持することは適切でなく、またその必要もないでしょう。高市発言への支持は、平和を支持する日本国内の世論を獲得するうえで不利に働くだけだからです。
+ + + + +
100年近く前に、日本軍国主義が中国への全面戦争の準備を画策し始めたとき、『蟹工船』などの著作で著名な文学者・小林多喜二(1903-1933)が日本軍国主義による拷問で犠牲になりました。そのとき中国の文豪・魯迅が送った追悼文「同志小林の死を聞いて」では次のように述べています。「日本と中国との大衆はもとよりきょうだいである。資産階級は大衆をだまして其の血で境界線を描いている」(大意)。今日の東アジアの支配階級もまさに、軍拡競争という共謀を大衆の血で描きつつあると言えます。
日米の軍事的包囲網は巨大な経済成長をベースにした中国の軍事大国化を抑え込むことが目的ですが、支配階級の共謀は軍事的なものにはとどまりません。
アメリカ、日本、台湾の支配層は、中国の改革開放以降、大量の資本を中国に投下し、中国の官僚支配体制と結びつきながら、農民工(出稼ぎ労働者)をはじめとする中国の労働者民衆と自然資源を過酷に搾取してきました。改革開放のなかで現れた官僚の汚職に対する労働者民衆の抗議の声と民主的改革への期待を1989年6月に天安門広場で押しつぶした中国共産党は、その後も労働者民衆の声を徹底して抑え込むことで、今日の金権・紅二代(官僚クローニー)資本主義の台頭につながりました。もし官僚腐敗への抗議や民主化が実現していれば、今日ほどの腐敗ぶりはなかったのではないでしょうか。「中国の台頭」は、中国の官僚体制と、アメリカ、日本、台湾の大資本との30年に及ぶ共謀の結果なのです。
中国では、グローバル資本主義への合流を梃にした破壊的な民営化によるリストラが進められ、無権利の農民工の使い捨てや搾取が今日の中国の発展を実現しました。中国経済が大きく飛躍することになった2001年のWTO加盟以降、汚染産業を含む工場など生産拠点の中国への移動によって、中国の温室効果ガス排出量は世界最大になりましたが、これもまた日米中台の支配階級による共謀の一例と言えます。
日米両政府は「力による現状変更は認めない」と言って中国による台湾への武力侵攻に釘を刺し、中国政府は「抗日戦争と世界反ファシズム戦争の勝利の成果を断固守り、戦後国際秩序を断固維持すべき」として高市発言を批判しています。
しかし、彼らの言う「現状」や「戦後国際秩序」とは何でしょうか。それは人間や自然をモノのように搾取する自由、より公正で民主的な社会を求める民衆を弾圧して維持されてきた秩序ではなかったでしょうか。沖縄では今でも米軍基地拡張が続いており、米兵による性暴力事件が続く現状があるのです。
そのような反民衆的な「現状」や「国際秩序」を、民衆の連帯によって打破しようとしてきたのは、台湾の民主化運動であり、沖縄の反戦平和運動であり、中国や香港の様々な抵抗運動であり、日本やアメリカや世界中の様々な社会運動だったのではないでしょうか。そのすべての地域において今こそ、新しい公正な国際秩序を打ち立てることが重要です。そのためには、資本と独裁が支配する現状を打破し、大国や家父長制が主導する秩序を打破する必要があります。そしてそのために、民衆の自己決定権をベースにした国境を越えた民衆の連帯が必要なのです。
私たちは以下のことを求めます。
• 日本政府、高市早苗首相は集団的自衛権の発言を撤回し、沖縄における日米軍事基地の拡大を中止すること。
• 日米両政府及び中国政府は大量破壊兵器や核兵器、軍備を率先して削減すること。
• 中国政府は台湾民衆の自決権を無視した武力恫喝をやめ、台湾および他の少数民族の自決権を承認すること。
• 香港政府はすべての政治犯を釈放し、真の普通選挙を実施し、大火災の真相を究明すること。そして市民の自発的な真相究明活動を妨害しないこと。今日における香港最大の敵は外国勢力などではなく、中国・香港の専制と搾取体制にあります。
• 台湾政府には冷静な態度を保持し、台湾の民主的自決権を守るととともに、巨額の軍備予算を再考し、外交的な発言には慎重さと、国内政策においては民主的多元主義を守ることを求めます。
• 各国/各地の政府は移民に対する排他的国内政策と近年の管理強化を撤廃し、人権と民主主義に立脚した多文化共生社会への本格的転換を行うこと。
戦争も搾取も差別も気候危機もない世界のために、東アジアの民衆は連帯しよう。
以上の声明は、戦争も搾取も差別も気候危機もない世界を目指す東アジア各地(日本、沖縄、台湾、中国、香港)及び米国のアクティビストによって発せられました。
2025年11月30日