闇の王がファミリアに入ってもいいじゃない、『元』人間だもの 作:大豆万歳
ここは迷宮都市オラリオ──『ダンジョン』と通称される壮大な地下迷宮を保有する都市。未知という名の興奮、輝かしい栄誉、そして可愛い女の子とのロマンス。人の夢、欲望が息を潜めるこの場所を彼ベル・クラネルは走っていた──
ダダダダダダ……
──全身をどす黒い血色に染めて。
なぜこうなったのか、時は少し遡る……。
『フゥー、フゥーッ……!』
「あ、あわわわわわ……」
臀部を床に落とした体勢で惨めに後ずさりする僕と、立ちはだかる牛頭人体のモンスター『ミノタウロス』。Lv.1の僕の攻撃ではダメージを与えられそうにない化物に、喰い殺されようとしている。
ドンッと背中が壁にぶつかる。行き止まりだ。
(あぁ、死んでしまった……)
目の前のモンスターを相手に、僕はただただ震えることしかできない。
ここで死ぬ──と思った瞬間、その怪物の胴体に一線が走った。
「え?」
『ヴぉ?』
僕とミノタウロスの間抜けな声。
走り抜けた線は胴体だけにとどまらず、厚い胸板、蹄を振りかぶった上腕、大腿部、下肢、肩口、そして首と連続して刻み込まれる。
銀の光が最後に見えた。
やがて、僕では傷1つ付けられなかったモンスターがただの肉塊に変わる。
『グブゥ!?ヴゥ、ヴゥモオオオオオオォォ──!?』
断末魔が響き渡る。
刻まれた線に沿ってミノタウロスの体のパーツがずれ落ちていき、血飛沫を噴出して一気に崩れ落ちた。
大量の血のシャワーを全身に浴びて、僕は呆然として時を止める。
「……大丈夫ですか?」
牛の怪物に代わって現れたのは、金髪金眼の少女だった。
細身の体は蒼色の軽装に包まれ、エンブレム入りの銀の胸当て、同じ色の紋章の手甲、サーベル。地に向けられた剣先からは血が滴っている。
Lv.1で駆け出しの冒険者である僕でも、目の前の人物が誰かわかってしまった。
【ロキ・ファミリア】に所属する第1級冒険者。
ヒューマン、いや異種族間の女性の中でも最強の一角と謳われるLv.5。
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだと。
「あの……大丈夫、ですか?」
大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃない。
今にも爆発四散してしまいそうな僕の心臓が大丈夫なわけがない。
──結論。
ダッ
僕はそこから脱兎の如く逃げ出した。
少年、ベル・クラネルが脱兎の如く逃げ出し、地上に出た頃。
ダンジョン3階層。
ビキッ ビキバキッ
壁にヒビが入り。
バゴォオンッ
「ふー、やっと出られた」
中から1人の男性が現れた──つるはしを持ちながら。
身長およそ2Mほど。鋼の鎧に青のサーコートを身にまとい、背中には大剣と盾、腰には鍔の大きく曲がった短剣を下げている。
「いやはや、『寝床がないなら作ればいい』と思って壁に穴を開けて寝ている間に埋まってしまうとは。一生の……」
不覚、と言いかけて口を閉ざす。何が『一生』だ。そんなもの、とうの昔に失っただろう。
「……とりあえず、地上に出よう。っと、その前に『静かに眠る竜印の指輪』と『霧の指輪』を装備して……」
男はつるはしを霧散させると、何処からともなく指輪を取り出し、中指と薬指にはめる。次の瞬間、男の姿は半透明になった。
「これでよし」
他者に姿も見えず、音も聞こえぬ状態になった男はそのまま地上へと歩みを進める。
「(しかし、俺はどの位寝ていたんだ?寝すぎたからか、時間の流れがわからん……っと、そろそろ出口だな)」
そう思い、足を踏み出した瞬間。男の目の前に見慣れぬ光景が広がる。
「(……何だこれ!?いつの間にこんな空間ができたんだ!?)」
途轍もなく広い円形の空間は多くの人がひしめいている。神殿めいた造りは高貴な感じに溢れ、神に供物を捧げるための祭壇と言ってもいい。広間そのものは青と白を基調にしており、周囲には漆黒の石碑が点在している。長く太く伸びる柱は等間隔に設置され、ちょっと数え切れない。首を上に向ければ天井1面を埋め尽くす蒼穹が広がる。とても精緻な空の絵画だ。
「(あのお嬢さんの絵に比べたら見劣りするが……いや、そもそも比較できるものじゃないな。まずは地上に出るか)」
人にぶつからないように壁際を歩き、地上を目指した。
「(やっと着いた。さて、何時ぶりの地上だろうな……)」
「(寝すぎってレベルじゃねえぞ俺の馬鹿!)」
オラリオの中心地、そこで俺は自分を思いっきり殴りたい気持ちでいっぱいだった。
「(【ファミリア】……神とその眷属の集まり。俺が
俺は目線を上げ、白亜の巨塔を見る。
「(あのバカでかい建造物も初めて見る。ってことはだ、アレが建造されて【ファミリア】なるものが組織されてる間、俺はダンジョンで呑気に寝ていたんだな)」
はぁ、と溜息を1つ。
「(とにかく、今後もダンジョンに潜ることを考えるとその【ファミリア】ってやつには入っておいたほうがいいな。万が一の後ろ盾にできるだろう。でも、どの【ファミリア】に入れば──)」
「あのー……」
「ん?」
不意に声をかけられ、俺は声のしたほうを見る。そこには白髪に真紅の眼をした少年がいた。
「どうかしたんですか?」
「あ、ああ。実はオラリオに来たのはいいが、どの【ファミリア】に入ればいいのか悩んでいたところでね」
まあ、
「ということは、冒険者になりたいんですか?」
「うん」
「……それじゃあ、僕の所属している【ファミリア】に入りませんか?できたばかりの【ファミリア】ですけど、主神の方がとっても良い神様なんですよ!よかったら、ホームまで案内しましょうか?」
「では、お言葉に甘えて。っと、自己紹介がまだだったね」
俺は兜を取り外し、小脇に抱える。
「俺の名前はグレイ。グレイ・モナークだ」
「はじめまして、グレイさん。僕はベル・クラネルといいます」
~男×2移動中~
「ここが僕の所属する【ヘスティア・ファミリア】のホームです」
「ここが……」
目の前にあるのは古い教会。人気のない路地裏深く、神を崇めるために築かれたその2階建ての建物は崩れかけていると言っていい。所々石材が砕かれ剥がれ落ちた外見からは気が遠くなるような年月と、人々の記憶から忘れ去られた哀愁が漂っていた。
「よっ、と」
少年──ベル・クラネルが玄関口をくぐると、俺も後に続いて教会の中に入る。
屋内は外見に負けず劣らずの半壊模様。割れた床のタイルからは雑草が繁茂し、天井は大部分が崩れ落ちている。屋根に開いた大穴から降り注ぐ日差しが、かろうじて原型を留めている祭壇を照らしていた。
祭壇の先には薄暗い小部屋。そこには書物の収まっていない本棚が連なっており、1番奥の棚の裏には……地下へと伸びる階段。
そこまで深さのない階段を下りきると、小窓から光の漏れる目の前のドアを彼は開け放った。
「神様、帰ってきました!ただいまー!」
「おっかえりー、ベルくん!……おや、そちらの人は誰だい?」
彼が部屋に足を踏み入れると、ソファーの上に寝転がっていた少女がとびついた。ふと、俺と少女の目が合う。
「この人はグレイ・モナークさん。ここに来る途中で会ったんです。どの【ファミリア】に入るか悩んでいるとおっしゃっていたので、勧誘したんです」
「なんだってぇ!?」
少女は彼の言葉に驚くと、こちらの頭から爪先までをじっと見る。
「えっと……ホームを見て察したかもしれないけど、うちは零細ファミリアだよ?他にも大手の【ファミリア】はあるけど、それでもうちの【ファミリア】に入るかい?」
「ええ。俺でよければ、あなた方のお力になります」
俺はそう答え、彼女に手を差し出す。
「ありがとう!そして、よくやったぞ、ベルくん!」
彼女──ヘスティアは俺の手を握ってブンブン振った後、ベルくんの手を握って同様に振った。
「よぉし、それじゃあ早速【ファミリア】入団の儀式を始めよう!グレイくん、上を脱いでそこのベッドにうつ伏せになってくれ」
「はい」
俺は彼女の指示に従ってうつ伏せになる。彼女が俺の背に跨ると、背中に何かが滴り落ちる感触が広がる。
「これで入団の儀式は完了だよ。今からスキルとステイタスを書き写す──って、何じゃこりゃあ!?」
「どうかしましたか?」
「どうしたも何も、グレイくん、キミのこのステイタスとスキルはどういうことだい?」
「?」
言わんとしていることがわからない俺は、頭に疑問符を浮かべるしかない。
「……はい。これがキミのステイタスとスキルだよ」
俺は彼女から用紙を受け取り、目を通していく。どれどれ──
グレイ・モナーク Lv.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【魔術】【奇跡】【呪術】
《スキル》
【
・この印を持つ者は呪われた不死となる
【ソウルの秘術】
・物質をソウルに変換し、体内に収納可能になる
【残り火】
・解放することで王の力を使用可能になる
・篝火を何処にでも設置できる。但し、設置できるのは1箇所のみで、他の場所に新しく設置する場合は1度篝火を消さなければならない
・篝火にあたることでダメージ、
グレイの基本装備
防具:上級騎士シリーズ
右手武器:バスタードソード
左手武器1:竜紋章の盾
左手武器2:パリングダガー
グレイの外見:黒髪黒目、短髪、筋肉モリモリマッチョマンの変態
次回、スキルに関する簡単な説明とダンジョンでの戦闘(の予定)です。