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蝉時雨はもう聞こえない/Novel by ⠀ ⠀ ⠀

蝉時雨はもう聞こえない

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暑い夏の日だった。


旧校舎裏へ続く自販機の影に一人、座り込んでいる。
日差しの向こう、誰かの笑い声が弾ける。
私とは関係のない、普通の高校生共鳴者ではない人たちの声。

——その日の声は、いつもよりも胸に刺さった。

「怖いね……あの子、ほんとに共鳴者なんでしょ?」
「首輪みたいなのつけてるし。ヤバいって」
「朽葉さん、最近また問題起こしたらしいよ」
「電車止まったの、また共鳴者のせいだってさ」
「迷惑なんだよなぁ……」

言葉は全部、意味を持って胸に落ちてくる。
落ちて、刺さって、抜けなくなる。

そのうち、彼らの顔が——

見えなくなった。

ぼやけた。
滲んだ。
線が切れたみたいに、輪郭がふっと途切れた。

まるで、大脳のどこかにある“人の顔を見る機能”が、スパッと断ち切られたような感覚。

相手の顔が、見えない。
黒い墨を塗ったみたいに、のっぺりと歪んでいく。
目も鼻も口もなく、ただ“こちらを見ている気配”だけがある。


そして次に来たのは——音だった。

「ねぇ聞い——」——ジジ……
「化け……」——ジジジジジ……
「近寄——」——ジッ……ジジジジジジ……

何を言っているのかわからなくなる。
意味のない雑音が、うるさく響き始める。
ホワイトノイズに似た音が、脳内で反響し出す。


いや、違う。

蝉の声。

視界の外れから、声が鳴く。

ジジ……ジジ……ジジジジジ……

その日から、世界そのものが耳障りな夏に変わっていく。

私は耳を塞いで、目を閉じて、ただ小さく震えていた。


暑い、夏の日だった。


Comments

  • kapon

    とても素晴らしいです…

    Nov 29th
  • フェンリン

    思わず涙ぐみました…

    Nov 29th
  • フェンリン
    Nov 29th
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