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鶯谷で予想していないことが起こるのは愛に溢れているから、かも

鶯谷では予想していないことが起こる。
そんな確信が芽生えつつある。

鶯谷に初めて行ったのは高校生2年の頃だ。試合会場の高校の最寄駅が鶯谷だった。電車から降りて改札を出た印象は、飲食店がところ狭しと並んでいるというもの。そして少し歩みを進めると、すぐにラブホテルが林立していて、「夜の街」と感じた。

自分たちの高校を含めジャージ姿の集団が、ラブホテル街にうじゃうじゃと歩いている。同級生と目配せをして、なんだか気まずい気持ちを確認し合う。これから試合だというのに、どんな1日の始まりなんだろうと思った。

そして試合が終わった帰り道、街には灯りがともり、大人たちが顔を赤くしている。自分たちには馴染みのない土地なんだなと感じつつ、「なんか変なの」と鼻で笑った。少し面白いと思っていた。

数日が経って、当時流行っていた前略プロフィールの自分宛の掲示板にメッセージが届く。「もしかして〇〇高校のセッターの人ですか?」。そうだという返事をすると、「あなたが上げたトスが止まって見えました!本当に上手ですね」とのこと。嬉しさが込み上げたものの、当時はチームの中で一番経験が浅く、下手だという自覚があったので、嬉しい感情はだんだんと戸惑いに変わっていった。もしかして、荒らされてる?

「ありがとうございます!どんなプレーでしたか?」。精一杯に丁寧に回答をしたはずだが、なぜか返信は来なかった。なんだったのだろう。これも鶯谷が引き寄せた不思議な体験だったのだろうか。

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月日は大きく流れて先月。大好きなバンドのライブが鶯谷のライブハウスであった。大人になってから初めて降り立った鶯谷は、飲み歩いたら楽しそうだなという印象に変わっていた。降り立ってすぐにみた夕日も非常に綺麗だった。

しかし、ライブ中に事件?は起こる。

このバンドのお客さんは、気さくさやマナーの良さで定評があるのだが、私の隣にいた客が急に倒れた。友達何人かできている人たちという印象を持っていたが、その人の近くには友達が一人しかおらず、なんだか放っておかれているような状態だった。

内心慌てつつ、肩に手を回し、どうにか担ぎ上げた。そして階段近くに移動をさせ、「大丈夫ですか?」「水とか持ってきましょうか?」と尋ねると、「いいです」「本当に大丈夫なんで」と突き放された。ライブにきている人たちにはどこか仲間意識を持ってしまう自分としては、仲間に突き放された感じがして結構凹んだ。てか、こいつの周りにいた友達はどこいったんだよ〜。

割とステージに近い位置で聞けていたんだけどな、と悔しさも感じつつ、ドリンクカウンターでビールを注文。ビールを飲むと固形物が前歯に当たった。暗い中でよく目を凝らすと、カップに氷が入っている。ビールは濃い味が好きな私にとって、嫌なサービスだなと思った。

「でもまあ、薄くて冷たいビールが好きな人もいるしなあ」とか呑気に考えるようにした。隣の人が倒れて頼んだ酒も好みじゃなくても、きっとこれも鶯谷だからだよねと少し笑った。

機会を見て再び前の方にいくと、先ほどより少し後ろの位置を確保できた。そして、バンドのボーカルも私の行動を見てか、「水分補給しながらお酒も飲んでくださいね。そして周りに体調悪い人とかいたら助けてあげてほしいし、本人も無理しちゃだめですよ。踊りすぎて周りに激突しまくったりとかもないように、ご協力お願いします!」と丁寧な注意喚起をしてくれた。「あー、だからこのバンドは好きなんだよな」と再確認していた。

曲が始まる。前でリュックを背負った人がどんどん私に迫ってくる。激突。激突。激突。酒がこぼれる。少し後ろによろめいて、後ろの人の足を踏む。平謝りすると、その人がリュックの人に声をかけてくれて、改善される。

リュックの人はきまずくなったのか、なぜか空の酒のカップを床に置いて立ち去った。そして床をよくみると、びしゃびしゃだった。その後知り合い?が戻ってきてカップを回収していった。

ライブは無事に終わり、首を傾げながら駅に向かった。そして私は腹に違和感を覚え、駅のトイレに駆け込んだ。便器に座り込みながら首を傾げた。これが鶯谷の洗礼なのかなと。人生って思い通りにならないんだよね、とふてくされた笑みが浮かんだ。

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これらの出来事は、もしかしたら多くの人にとっては嫌なことかもしれない。ジャージでラブホ街を歩いて、好きなバンドのライブで見知らぬ人を介抱して感謝もされない。しかも自分の体調まで軽く崩す。でも、なんか、「鶯谷ってそういうところじゃん?」って思えば笑えてくる。別に悪意があるんじゃなくて、こういうところなんだよ。

こうやって思えるのは、高校生のころはバレーボール、最近ではライブという大好きな二つに関連したからというところもあるだろう。鶯谷の体育館でやった大会では優勝したし、ライブでは大好きなバンドが大好きな曲を懸命に演奏していた。だから多少運が悪いと思えることだって、笑い話に変えることができたのである。

鶯谷では予想もしていなかったことがたくさん起こる。でも、私の日常は大好きなものたちが周りを固めてくれている。鶯谷は大好きなことを心のそこから楽しめるところでもあるのかもしれない。今度は飲みにでもいってみるかな。


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33歳の不器用なサラリーマン2人(環と太)が心の奥に閉まっていた大切なストーリーを紹介するエッセイメディア「OLi」です。 1日1日を生きるあなたに、人の生きる姿を、音楽とともに紹介します。 毎週金曜日更新。願わくば、僕たちが紹介するストーリーや音楽があなたに寄り添いますように。
鶯谷で予想していないことが起こるのは愛に溢れているから、かも|OLi[生きる姿を、音楽と。]
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