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日本経済研究センター Japan Center for Economic Research
的確な予測・責任ある提言

最終更新日:2016年12月6日
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新井淳一の先を読む

2009年7月1日 未来の日本は「専門店国家」


日本は現在のままの比率で人口が減少していけば、3000年にはわずか4万5000人になっている。太平洋に浮かぶ小さな島国・キリバス共和国程度の重要性しかもちえない(ニコラス・クリストフ月刊中央公論98年1月号)


 単純な算術に意味はないから日本がキリバスになるのは、数のお遊びと見てよいが、それでも人口減少国家の仲間入りしたのは間違いないところだ。2006年の1億2778万人のピークから2年連続減。中位推計で30年(1億1522万)、50年(9515万)、80年(6338万)、2100年(4771万)と減っていく見通しだ。夏目漱石が英国に留学した1900年の日本の人口は約4400万人。200年かけてほぼ元へ戻ることになる。

 1億人を超える人口大国から4700万人の人口中位国家への移行。一体、何が変わるのだろう。人口が減ることで、国家としてできることとできないことがはっきりし、これまで可能だったことが不可能になるということかもしれない。

 国家の有り様として軽さは否めないが、デパートと専門店の違いにたとえることができる。人口大国としてこれまでの日本は、製造業から農業、サービス業などあらゆる分野を兼ね備え、国際比較で劣位の部門さえ懐に抱く余裕もあった。それができなくなるのである。すべての分野に力を入れる総花主義では国際市場で個別に撃破される。少なくなった労働力を強い部分に集中投入して生きる以外、手はない。人口中位国家の宿命、国家としての専門性の追求、「専門店国家」とでも名付けようか。

 移民や外国人労働者の活用で問題を解決するやり方もある。しかし、移民などの本格導入には労働力の充足というプラス効果を吹き飛ばすほどの大きなマイナスが出る場合もある。加えて日本の国民がこれから先、米欧並みに移民や外国人労働者を入れてもよいと、考えを変えるとは到底思えない。日本の人口減少は避けられないのである。


政治家がめざましい手腕を発揮するのは尋常でない時代においてである。凡庸な政治家で事足りる世の中は、その時代に生きる人たちにとってしあわせなのだ(陳舜臣 九点煙記 講談社)


 人口大国の「デパート国家」から人口中位国の「専門店国家」へ。これに伴い政治の世界も大胆に変わらないといけない。「凡庸な政治家で事足りる世の中」は終わったからだ。50年先、100年先を見つめた日本のビジョンを作る。専門店として何を売り物にするかを決める。実行プランを作り即座に行動に移す。その際のキーワードは「環境」だろう。日本の持つ優れた技術で日本自身を環境に配慮したやさしい国につくり変える一方、発展するアジアの環境問題解決に協力して、経済発展と地球の保護を両立させる。まさにこれからは陳さんのいう「尋常でない時代」である。政治が心を入れ替えなければならない。

 「いまの政治家にそんなこと願ったって無理だよ」という声が出ることは当然、予想される。私自身もそう思うことはよくある。塩野七生さんの「日本の政治は外科手術が必要。5年間の期限付き大連立で一貫した経済政策の確立」(月刊文芸春秋09年2月)という提案ももっともな気がする。しかし、そこまでいかなくてもできることはある。例えば次のような政策提言。凡庸政治でも、やりようで可能だ。

 オバマ政権の環境政策へ影響を与えた米国のジャーナリスト、トーマス・フリードマン氏は『グリーン革命』(日本経済新聞出版社)の中でこう言っている。「車を買いたいと思っている個人すべてに、買ってはいけないといったら、ライフスタイルが変わる。しかし、一定の重量や排気量を超える車を禁じたり、制限速度を時速90キロに戻したり、ハイブリッドでないタクシーを禁止したりしても、ライフスタイルを根本的に制限することにならない」

 これを「規制の強化だから反対だ」というのは筋違いだろう。規制にも良い規制と悪い規制がある。人口減少を前提に環境力で日本が生きのびるには、ライフスタイルが変わらないなら良いではないか、という開き直りが必要だ。そしてこの程度ならいまの政治でもできないことはない。その積み上げが新しい国づくりにつながる。

 考えてみれば、地球温暖化とは、日本の企業にとって産業革命に匹敵する大きなビジネスチャンスである。消える産業、飛躍する産業、生活も変わり、社会構造も一新する。環境力で世界一の国家になることは、人口中位国の日本としての手ごろな目標であり、場合によってはそれが唯一の選択肢だといえるのである。

 人口中位国の定義を4000万-6000万人とすると、現在ではイタリア(5900万)、スペイン(4500万)、韓国(4800万)などである。ちょっと上限を緩めると、英国(6100万)とフランス(6200万)が入ってくる。これらの国に共通するのは、産業が得意の分野に特化していることだ。決して総花的ではない。英国は金融、フランスとイタリアは航空、自動車など一部の先端産業とデザインや観光。韓国は電子・電気などの輸出産業。そして不得意部門はどの国もけっこう他国に譲っている。将来日本が賢い人口中位国家になるためには、現にいまある人口中位国家から学ぶことも多いはずだ。環境で世界に誇る得意分野を作る一方、不得意分野をアジアの国々との共存で補う必要があるということでもある。

 人口推計は100年先が読める珍しい分野。いまから手を打っても早すぎることはない。分かっていてなぜできない。「もはや時間がない。日本がこの道でいくことを、世界に明確に示すことが何にもまして先決する」。塩野さんは気合が入っている。


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(日本経済研究センター会長)

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