Karishma Vaswani, コラムニスト

日本の信頼アップ、東南アジアで中国の言動裏目

  • 日本の信頼度が66.8%に上昇-2025年の東南アジア情勢調査
  • 中国に不信感を抱くとの回答は41.2%-ISEASユソフ・イシャク研究所

アジアの安全保障地図を塗り替えようとしている中国だが、新しい地図は意図した形にはならないもようだ。

  南シナ海での放水銃による威嚇から台湾を巡る強硬な言動といった中国の振る舞いが、かつては想像できなかった安全保障環境を生み出している。アジアの周辺国が歓迎しているのは、地域の安定に寄与する役割を高めつつある日本だ。

  かつて日本による戦時中の行動が東南アジアに深い警戒感を与え、軍事的野心への不信を招いていたことを踏まえれば、状況は一変した。

  中国の経済的影響力が強まってきた地域で、しかも中国が自国の「勢力圏」と見なす国々で、微妙ながらも大きな意味を持つ変化が進んでいる。歴史的なライバルである日中が競い合う新たな舞台になりつつあるのが東南アジアだ。

  中国のネットユーザーやコメンテーターから最近、シンガポールのローレンス・ウォン首相に対し、日本の側に立ったと非難する声がオンライン上に広がった。

  ウォン氏は多くのシンガポール人と同じく中国系だが、同氏を批判する勢力には、香港メディアや上海拠点の極端なナショナリスト系サイトも加わった。人種が混在するシンガポールであっても、地政学的緊張がいかに容易にアイデンティティーの問題に転化し得るかを示す一例だ。

  ウォン氏に対する反発のきっかけは、11月19日の「ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラム」での何の問題もないような発言だった。

  台湾を巡る日中間の緊張について問われたウォン氏は、両国が対立を解消する道を見いだすことを望むとした上で、「歴史は脇に置いた。われわれは前に進んでいる」と述べた。

  同氏の言う歴史とは、1941-45年にかけての旧日本軍による広範な東南アジア占領で、苛烈(かれつ)な残虐行為があった時代だ。

  シンガポール華僑粛清事件での虐殺やフィリピンの「バターン死の行進」、強制労働収容所に送られた数万人の捕虜など、この時代の傷痕は深い。

  中国はしばしば、こうした歴史、そして自国が受けた日本による占領時に暴力で苦しめられた経験を引き合いに出し、日本が軍事力を強める動きに対し警告してきた。

  しかし、ウォン氏の発言は、日本と東南アジアの変化の大きさを映し出している。同氏は安定を担保する存在である日本がより大きな役割を果たすことを、シンガポールを含む東南アジア諸国が支持すべきだと語った。

信頼される大国

  この一件から分かるのは、台湾有事を巡る高市早苗首相の発言への激しい批判といった中国の強硬姿勢は、裏目に出ているということだ。中国とは対照的に、日本政府は冷静を保つよう促し、落ち着いた外交を展開している。

  米国が国内対応や欧州・中東の危機で手一杯となる中、日本は政府安全保障能力強化支援(OSA)を通じて「同志国」を支援する形で自らの役割を強めている。

  2023年には東南アジア諸国連合(ASEAN)と海洋安全保障でより緊密に協力すると約束したが、これは南シナ海の領有権問題を巡り中国との緊張が高まる中での対策だと、広く受け止められている。

  戦争は忘れられたわけではない。だが、人々はウォン氏の言う通り前に進んでいる。

  第2次世界大戦で敗戦国となった日本は、専守防衛を除き武力行使を禁じる平和憲法を採用した。15年の安全保障法制整備で防衛の枠組みが広がり、密接な関係にある国やその国民の安全を守るため日本が支援に動くことが可能になった。

  現在、日本は東南アジアで最も信頼される大国として一貫して上位に位置している。

  シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所がまとめた25年東南アジア情勢調査によると、日本の信頼度は66.8%と、昨年の58.9%から上昇した。回答者は、日本が国際法を尊重することや経済力が評価の背景にあると述べている。

東南アジアでの信頼感

主要国の中では日本が最も信頼されている

Source: ISEASユソフ・イシャク研究所の2025年東南アジア情勢調査

  長年にわたる安定した開発支援と予測可能な外交が奏功し、中国経済台頭のはるか以前から日本は信頼できるパートナーだった。

  10年に日本を抜いて世界2位の経済大国になった中国には、より複雑な感情が向けられている。

  同調査では、中国に不信感を抱くとの回答が41.2%に上った。経済力や軍事力を用いて、回答者が住む国の主権を脅かしかねないとの懸念が多く挙げられた。

ソフトパワー

  中国は東南アジア最大の貿易相手国だが、日本のソフトパワーの方がはるかに強固だ。スタジオジブリハローキティなど、日本のポップカルチャーは大きな魅力となっており、日本を訪れる観光客も記録的に増えている。

  また、日本のインフラ事業は透明性が高く、政治色が薄いと評価される。中国資本によるインドネシア高速鉄道「ウーシュ」は問題続きだ。インドのムンバイ・アーメダバード間の日本支援による新幹線計画と比較すると、その違いが際立つ。

  どちらも計画の遅延はあるが、インドは中国の海外案件にしばしば付きまとう不透明な資金調達や論争には悩まされていない。

  東南アジアの若い世代にとって、第2次大戦はすでに遠い過去だ。彼らの関心は現在だ。中国の南シナ海を巡る野心や急速な軍備拡張、そして自国への「侮辱」と見なした行為に対して経済報復を行う中国の姿勢は、いずれも警戒すべき理由だ。

  より強い日本は、より安全な東南アジアにつながる。日本はすでに南シナ海の係争海域で航行の自由作戦や共同演習に参加しているが、地域各国の海軍との能力構築をさらに深める余地がある。

  フィリピンやインドネシア、マレーシアの沿岸警備隊への巡視船供与のような取り組みを継続し、監視や海上の国境パトロールに関する訓練提供も続けるべきだ。

  東南アジアはこれまで、米中のいずれか、あるいは今であれば日中のいずれかを選ぶことは望まないとしてきた。しかし中国の行動は、日本を単なる選択肢ではなく、必要不可欠な存在にしつつある。

(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)   

原題:Southeast Asia Trusts Japan More Than China: Karishma Vaswani (抜粋)

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