混沌より這い寄る透き通った青春   作:過負荷の後輩

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第八話『我ら覆面水着団! (ただし初回水着不着用)』

 

 陸八魔アル。『便利屋68』の社長兼、球磨川禊率いる『裸エプロン同盟』の一員である。

 今現在彼女たちは窮地に立たされていた。そもそもあのカイザーの依頼を受けてカタカタヘルメット団の殲滅に向かい、あの不吉な男と出会ったのが運の尽き。ツキが無いのはこのことで、それから流れるまま彼と専属契約を結び、裸エプロンを強要され、助けを求められたから出向けば、気づけばカイザーと縁を切って、現在無職にして無一文の同年代の男と共に一夜を過ごす羽目となった。

 

「どうしてこうなったのよお~~~っ!」

 

「まあ、あの時社長が大見え切ってカイザーとの契約無断で切っちゃったからじゃないの?」

 

「だ、だって! あのままアビドスとやり合うのはその……良くない事だし。そもそもあいつらとやるって事は、球磨川禊! ご主人様とやり合うって事でしょ! これ以上ハルカを苦しめてどうするのよ」

 

「だけどまさか、ご主人様も無一文だとは思わなかったけどね。くふふっ」

 

「もって何よもって! 少ーしだけなら私にだってあるわよ!」

 

「わ、わわ、私のせいです。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ」

 

 三者三様、否、四者四様にそれぞれの行く末を案じていたその時。

 アナウンスが掛かった。

 

「お待たせしました。陸八魔アル様。四番窓口にお越しください」

 

「やあっと来たわね! 六時間も待たせてくれちゃって!」

 

 如何にもご立腹ですよと言わんばかりに眉を潜め、アルはスーツを翻し窓口の方へと進む。

 無一文に近いアル達は状況を打破する為に銀行の融資を受けようとしていた。

 しかしアルの銀行は先日の風紀委員会とのいざこざで凍結されており、それ故にブラックマーケットの闇銀行を利用する他無かった。

 

 案内された四番窓口には見慣れた機械人間が立っていた。

 そうして告げられるのは融資の拒否。

 便利屋68には目立った功績が無く、ペーパー企業として見なされていたからだ。闇といっても銀行を冠する企業、返済能力のない者に融資をするほど甘くはない。

 

 であればどうすれば良いのだろうか──アルの中で思い浮かんだのは銀行強盗だ。

 いやしかし、それこそ戯言だとアルはすぐさま否定する。

 それは決して、何も自分たちの実力では成し遂げられない事だからという訳では無い。むしろ警備の質と自分たちの力量を比べ見れば可能性としては十分にあるというのが彼女の見立てだ。

 しかしそれで行動を起こすのは三流。突発的な行動こそ自分の首を絞めかねない愚行だ。

 

 アルが恐れていたのは無論、報復の二文字。一日一悪、アウトローを極める事に邁進しているアルだが、流石にブラックマーケット全てを敵に回す余裕は今のところ無かった。

 

 そう、今の所は。

 

(いつか絶対ここを襲ってやるわ~~~っ)

 

 悔しさと六時間も待たされてくたびれた精神に鞭を打ち、アルは踵を返して銀行から出ようとする。正にその時だった。

 照明が落され、視界いっぱいが暗闇と化す。ただの停電ではない──予備電源すら落されている。

 全員に緊張が走り、アルはすぐさま身を低くし周囲を見渡した。部下達は自分で護衛できるので心配はいらないだろう。困惑と喧騒が織り成す世界で、姿勢を低くし辺りを伺うアルの心境は真逆だった。

 

(嘘──ここがどういう場所か知っているの!? 一体どれ程の自信と実力があって──)

 

 複数人の足音──随分と足音の間隔が狭い。混沌と化したこの空間で、確なる意志さえ伝わるその足音はただの一般人ではない。それと先ほどから()()()()()()と何かが飛来し、()()()()と何かしらの回転物が壁に突き刺さる音が聞こえる。とても銃声では無い。これは銃弾よりも重く大きく、尚且つ壁に突き刺さるものが、無数に飛び交っている音だ。

 

 上手い手口だとアルは褒めたたえる。この犯行はとても素人ではない。

 銃声や発火炎(マズルフラッシュ)などを用いれば直ぐにこの惨劇が銀行強盗によるものだろうという当たりを付けることが出来、またそれへの対処が出来てしまう。ここはブラックマーケットでも最大の銀行。強盗による対処など十分に訓練されているだろう。

 

 だがしかし、この場合は違う。

 

 暗闇に紛れ敵を無力化する。銃等に頼らないそのやり方は、普段銃器の扱いになれている者達だからこそ欺けるというもの。事実、残るマーケットガードの部隊も何が起こっているか分からずに混乱を隠しきれていない状態だった。そして背後に回った強盗犯の一人に無力化される。

 

 いる──この手口を考え付いた軍師が。

 いや軍師というにはあまりにも荒々しく力便りなことも多い。

 知略的といかずとも、しかしこの作戦を思いついた人は相当に人でなしだろう。

 四六時中、如何に相手の虚を突き相手を欺くか、数日前に便利屋68を一人で相手取り、剰え情けまで掛けて貰ったあの過負荷(マイナス)並みの思考の持ち主しか不可能だ。

 

 外界と内部を繋ぐ唯一の出入り口に人が殺到する。それらを導くマーケットガードは既にいない。

 

大嘘憑き(オールフィクション)

『電源の破損を』

『無かったことにした』

 

 小さくそう呟かれた。その声にどこか聞き覚えがあると気づいたのと同時に、パッと照明が点灯する。まるで先ほどの停電が嘘だったかのように、何も問題は無いと言わんばかりに明々とする電灯の真下に──現実が可視性を持って惨憺たる事実をアル達の網膜に捻じ込んだ。

 

 ホールを囲う無数の柱や白い壁に、マーケットガードの部隊の全てが磔にされていた。

 

 杭などといった器具ではなく、しかし決して人間には貫いて、否、捻じ込んではならないもので。

 その正体は螺子。物体を留める磔にするという意味ではこれ以上最適なものは無いだろう。しかしそれが人間に対して行われている。その猟奇性が、照明が付き現状を把握した一般客の思考を搔き乱す。混乱よりも先に襲う恐怖。膝を突き中には腰が抜けたのかそのまま床にへばりつく者もいた。身体の神経が硬直し、呼吸の一つすら許されないという圧倒的な状況の中、視線は自然にそのホールの中央に唯一立っている五人の人物に吸い寄せられた。

 

 "1"と書かれたピンク色の覆面。

 "2"と書かれた青色の覆面。

 "3"と書かれた緑色の覆面。

 "4"と書かれた赤色の覆面。

 

 そして──"5"と書かれた紙袋を頭から被っている、この場にはそぐわない少女。

 

「全員その場に武器を捨てて今すぐ伏せて。逆らえば撃つ!」

 

 青色の覆面を被った強盗が、そう言いながら天井に向けて銃声を轟かせた。

 これ以上脅してどうするのか。既にこの場にいる全員は、あの見えない攻撃と屈強なブラックマーケットを無残にも貫き磔にしている螺子だけで降伏しているというのに。

 

「皆さん、逆らおうなんて思わないでくださいね〜? きっと怪我しちゃいますから☆」

 

 緑色の覆面を被った強盗が、その華奢な身体に似合わぬ物騒なマシンガンをちらつかせた。

 

「ああ、そういえばなんだけど、ここの緊急通報システムはもう私たちが完全に掌握してるから動かないよ〜、無駄なことはしないでね〜」

 

 ピンク色の覆面を被った強盗が、状況にそぐわないふわふわとした声色でそう言った。

 そのちぐはぐさが、逆に場の混沌さを如実に表していた。

 この行為がまるで普通であるかのような、日常であるかの様な事が伺える。

 

「そこっ、逃げようとしないで!! 一歩でも動いたらあの世行きだよ!!」

 

 赤色の覆面を被った4番の強盗が唾を飛ばして叫んだ。恐らくまだ場慣れしていないのだろう。しかしここでのその行為は、僅かばかりの反抗心を見せた者へ効いた。引き金の軽い人物は何をするか分からない。銀行側としては強盗を許した挙句、客に被害をいけばそれこそ信用は失墜する。銀行側は犯人の要求を受け入れざるを得なかった。

 

『そうそう何もしない方が良いよ?』

『君たちのその身体に銃弾の穴が開きたくは無かったらね』

『あ、それとも──』

この螺子の方が好みかな? きっとよく似合うよ

 

 その声は中央からでは無く、外側から聞こえた。

 柱の影から出でたその少年は、どこぞの制服なのか黒一色であしらわれたものだった。

 黒色の覆面には6と書かれている。

 滲み出る気配でさえ気持ち悪く、悍ましい程の気迫がその細身から出ている。

 ご丁寧にもあの惨状は僕が引き起こしましたと言わんばかりに、両手には柄が長い螺子が二つあった。

 

 彼がリーダーなのだろうか。

 

『幻の六人目(シックスメン)──この場では』

メフィストと名乗らせてもらおうかな』

『それじゃあリーダーのファウストさん』

『何か一言、どうぞ』

 

 リーダーと、その少年──メフィストは言った。それが指す意味はつまるところ、彼はリーダーでは無く、あの如何にも普通そうで無害そうな紙袋を被った少女が、この惨劇を引き起こし、メンバーを統率するリーダーということ。

 

 ファウストと呼ばれたその少女は、たった一言、その言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動かないでくださいね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、そうか。そういうことか。

 あれはカモフラージュだったのだ。

 如何にも無害そうで普通そうという認識を相手に植え付けていたのだ。

 真の正体が──可愛らしい姿の内側に潜む『異常(アブノーマル)』が、彼女の本質だと言わざるを得ない程に、今の一言には威圧が籠っていた。

 

 この一言で完全に、周囲は黙り込んでしまい、涙さえも流す事を禁ずるかの様なあの一言によって、銀行側は犯人の要求を全て呑み込まざるを得なくなった。

 

「うんうん、ファウストさんは怒るととっても怖いんですからね☆皆さん分かっていただけたようで嬉しいです!」

 

「私達『覆面水着団』にかかれば、ざっとこんなもんだよね〜。さ、ブルーちゃん、早いとこ済ませちゃって」

 

「ん、了解」

 

 ブルーと呼ばれた青色の覆面を被った少女が、窓口の方へと歩みを進める。

 しかし要求はなんと集金目録だけの様だった。

 そう、たったそれだけの為に、ここまでの事を平然としたのである。

 

(な、な、な……!)

 

 アルは内なるその感情の嵐を抑えることに精一杯だった。

 

(何よそれ──っ!! これまでの事全部、たったそれだけのためだって言うの!? マーケット全てを敵に回してまで、そんなものの為に!? そんなの格好良すぎじゃない! 完璧なアウトローじゃない!!)

 

 アルは中央に携える二人の悪党を見据える。

 この場を惨劇に仕立て上げた少年と、その少年を従える如何にも普通そうで異常な少女。

 

(メフィストとファウスト──ふふっ、なんて恰好良いのかしら。後でこの事をご主人様に言ってやらないと)

 

 そのご主人様がまさか目の前の少年だという事にアルは気づかない。

 

「いやあんだけご親切に螺子を携えているのに……気づかないんだ」

 

「くふふっアルちゃんってば鈍感~」

 

「え? あ、あれがご主人様ですか……っ?」

 

 アルがさながら流星の如くキラキラとした両目で見惚れているのを、暗闇に乗じて近くまで接近していたカヨコが呆れ半分の様子で、ムツキが楽しそうに微笑み、ハルカが混乱していた。

 

 やがて書類が集め終わったのかぱんぱんに膨らんだ鞄を持ったブルーが仲間たちの元へと駆け寄る。そうして静かなる嵐の如く突入していった『覆面水着団』は、去っていった。そしてそれを見計らってか、今までマーケットガードを磔にしていた螺子が消失し、マーケットガードの連中はみな不思議そうな顔をして刺されていたであろう箇所を手に触れる。そこには身体が貫通した痕なんてものは無く、血の一滴すら零れていなかった。

 

誰一人として傷つけることなく、目的を達成させ颯爽と退去する。

それはアルが目標にしている『大悪党(アウトロー)』そのもので。

 

「絶対に正体を暴いて、そしてあの人達からアウトローの何たるかを教えて貰うわ!!」

 

「……はぁ」

 

誰が彼女に事実を教えるのか、カヨコは今日何度目かのため息を吐いた。

 

 




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