なんか急に寒くなってきたような…秋って何だっけ?
そのせいでコタツに籠ってしまい、小説執筆が進まない…恐るべしコタツの魔力…
私の名前は猫宮 又奈。略して猫又だ。
今、私たちはパエトーンの案内のもとヴィジョンの無人列車を止めるために線路を操作する制御室のある建物に向かって走っている。
理由は簡単、爆破エリアで足止めを受けているニコ達を助ける―ただ、それだけ。
呼吸が白く揺れて消えていくホロウの空気は湿り気に満ち、地面が所々ひび割れて足を踏み出すたびに軋むような音がする。
鄙「大丈夫か猫又?少しペースを落とす方が良いか?」
猫又「ううん、問題ないぞ」
協会のエース調査員―藤木の声は落ち着いているように見えるけど、どこか急かされるような焦りを感じ取れる。その横顔を見るたびに、胸の奥で何かが小さく引っ掛かる。
……あのことを言っておくべきなのか?
いやいや、まずは目の前のことに集中だ。それに後で話しても問題はないだろうし。
今はただ、走るしかない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あれから数十分。
デッドエンドホロウを駆ける鄙一行は順調に歩を進めていた。
鄙「(それにしても似たような景色が続いている…本当にこっちで合っているのか?)」
しかし、どこまで走っても周囲の景色はあまり変わらない。鉄道関連の機材や装置が乱雑に放置され、それらがかつて新旧エリー都の交通輸送の中枢を担っていたであろう名残が、埃を被った残骸の中にぼんやりと浮かんでいた。
ホロウ特有の空気―
どこまで走っても変わらない光景が、鄙の胸の奥にじわりとした不安を募らせる。
それでも彼は、ホロウ案内で右に出る者はいないパエトーンであり親友でもあるリンとアキラの腕を信じ、その足並みを崩さない。
リン『あっ、見えたよ!あれが制御室がある管理棟だよ!』
先頭を走るリンがぴょんと跳ねるように眼前を指さした。
エーテリアスあるいはホロウレイダーがやったのか、至る所に鉄筋部分が露になった破壊跡が生々しく残り、半壊した3階建ての建造物が三人の目に映る。
鄙「えらくボロボロだな…中の機器はちゃんと動作するのか?」
アキラ『中の状態を見てみないことには分からない、かな』
鄙『…期待もあればその逆も然りか』
カリン「ですがボンプの調査員様が仰るように、動く可能性もあります!」
アキラ『その通り。まだダメと決まったわけじゃない』
鄙「…それもそうだな。もし仮に線路の操作が出来なかったとしても、これで線路を吹き飛ばしてルートを変更させるのも一つの手として考慮しておこう」
そう呟く彼の手には、乳白色の長方形の固形物が握られていた。
カリン「藤木様、その箱は何でしょうか?」
鄙「ん?これは爆薬だ」
カリン「ば、爆薬ですか!?」
鄙「しかもただの爆薬じゃない。高濃度エーテル爆薬を含有している軍用の強力な物で、従来物より威力は倍増している。これ1個でH.A.N.Dの装甲車1台は木っ端微塵にできるな」
なんて物騒な物を持ち込んでいるんだと面々が思っている中でも、平然と説明を続ける。
リン『あの…藤木さんあの…藤木さん』
鄙「?あぁ、心配は無用だ。防衛軍やH.A.N.Dでも使われているから威力と信頼は保証付きだ」
リン『そういうことじゃなくて…そんな物どこで手に入れたの?』
鄙「同じ3課に多種多様の爆発物を取り扱う同僚が居てな。少しお願いして数個譲ってもらった」
リン『えぇ…お菓子やお金じゃあるまいし…』
軽い感覚で危険極まりない爆発物を取り扱う鄙やその仲間に対し、リンは少し引き気味に呟く。
一行が建物内部に入ると、窓ガラスはほとんど割れ床に飛散しており、他にも瓦礫やコンクリート片が散乱している。
さらに奥へ進むと薄暗い部屋に到達した。そこは中央に大きな制御盤が設置されており、表面には埃が積もり幾つかの計器が壊れてしまっている。
鄙「動きそうか?」
リン『ちょっと待って……うん、大丈夫そう。電源と基本的な操作機器は問題なく稼働しているから、あとは操作して線路方向を変えるだけ』
鄙「よし」
そう呟いた瞬間、アキラから通信が入る。
アキラ『藤木さん、すぐ近くに外へ通じる裂け目が見つかった。そこからカリンを帰すことができるかもしれない』
鄙「ん、承知した。そこまで彼女を送り届けてくる。すぐに戻る」
リン『分かった。二人とも気をつけてね』
送り出してくれたリンと周囲を警戒する猫又の姿を背に、裂け目のある座標へと少々急ぎ気味に向かう。
幸い距離はさほど遠くなかったので、すぐに着くことができた。
鄙「この裂け目を通れば、外に出ることができます」
カリン「ありがとう御座います藤木さん!短い時間でしたが、お世話になりました」
鄙「いえいえ。保護対象者を最後まで安全に送り届けるのが我々の責務ですから。戦闘救難室所属の調査員として、当然のことをしたまでです」
カリン「それでも藤木さん達は命の恩人です!私、なんとお礼をしたら良いか…」
深々と頭を下げ、精一杯の感謝を伝える。
カリン「あっ、藤木さんはヤヌス区の調査協会支部で働かれていらっしゃるんですよね?もしよければ今度、仕事仲間と一緒にお礼へ伺っても大丈夫でしょうか?」
鄙「お礼ですか?別に構いませんが―」
カリン「では、詳しい日程を後ほど送り致します。改めてありがとう御座いました!」
彼女が名残惜しい笑顔で別れを告げると、裂け目を潜ってホロウを脱出した。
ふと、鄙は考える。
メイドでホロウ内での戦闘も行う家事代行業者…どこかで聞いたような…?
鄙「…これは後で考えるか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鄙「すまない待たせた」
猫又「遅いぞ藤木!列車が通り過ぎないかとヒヤヒヤしたぞ」
鄙「むっ、もう列車が来ていたのか?」
目の前の地面に敷かれている線路の先を目で辿っていくと、乗用車並みのスピードでレール上を疾走するヴィジョンの無人列車の姿を視認する。
アキラ『チャンスは一度きりだ。みんな、気を引き締め取り掛かってくれ』
鄙「あぁ、分かっている」
やがて、列車がトンネルの手前にある減速装置帯に差し掛かると徐々に速度を落としていき、10〜20km/hの遅い速度を維持したままトンネル内へ入っていく。
小陰に潜んでいた三人は飛び出し、列車と並走する。
猫又「よし行くぞプロキシ!いち、にーの…さんっ!!」
掛け声と共にリンを勢いよく投げ飛ばし、ボンプの影は列車の天井裏へと消える。
猫又「ふぅ…ボンプって結構重いんだな…あとはプロキシの成功を待つだけか?」
鄙「あぁ、あの二人ならすぐに終わ―」
ふと視線を横に移した時、通りすがった車両の窓に黒い人影が幾つも映っているのを視認し、思わず目を見開く。
鄙「…!!」
咄嗟に地面を勢いよく蹴り上げると、加速し始めた列車を追いかけ始める。
猫又「えっ、ちょ…!いったいどうしたんだ!?」
反応が遅れながら猫又も後を追いかけるが、突然の出来事に困惑し事態を飲み込めずにいた。
鄙「列車の中に人影を見た。ヴィジョンは無人といっていたはずだが…」
見間違いではなく、明らかにあれは人影であった。一瞬のことだったため姿までは見えなかったが、何か嫌な予感がすると自身の勘がそう直感している。
鄙「予定変更だ。列車にいるリンを救い出す」
猫又「わ、分かった!!」
幸い列車はまだ加速しきっておらず、数秒で追いつくと地面を再び大きく蹴り上げて二人は列車の上面へと静かに降り立つ。そして近くにあったハッチを僅かに開けて中の様子を伺う。
リン『この列車に積まれているのは爆薬だけじゃない…!ニュースではそんなこと言ってなかったのに!』
「あー隊長。上から喋るボンプが落ちてきたのですが、パールマン長官に引き渡しますか?」
そこには、耐侵蝕装備に身を包んだ大勢の治安官の姿があり、困惑するリンに向かって銃を突き付けていた。
猫又「プロキシが囲まれている!?今すぐ助けに行かなきゃ!!」
鄙「待て猫又。慌てる気持ちも分かるが、こういう時こそ冷静に行動するべきだ」
今にも突撃しそうな様子の猫又を宥めつつ、懐から閃光手榴弾を取り出す。色々と気になることは多いが、まずはリンを目の間で起きている危機から救い出すのが先決である。
鄙「これで相手の視界を奪うと同時に突入する。猫又は突入後リンを列車から脱出させ、共にホロウを出てくれ。自分は治安官の対処に回る」
猫又「りょーかい!でも大丈夫なのか?藤木は調査員だから治安官に手を出すのはマズくない?」
鄙「…確かにまずいが、それだけで親友を見捨てる理由にはならない。まぁ後処理はその時に考えれば良い」
短く息を吐き終えると、閃光手榴弾のピンを引き抜く。
鄙「耳は閉じたか?」
猫又「バッチシ」
あらかじめ猫又に忠告し終えるとハッチの隙間から手放すと共に、自身の狐耳を両手で隙間なく塞ぐ。
ガンッ―!!!!
直後、白い閃光と爆音が車内を揺らし、治安官達の悲鳴が混乱と共に響く。
「ぬぁぁぁっ!!!!」
「前が見えない…!!皆どこに居るんだ!?」
「し、侵入!!侵入者だ!!」
奇襲をもろに受けた治安官は視界と聴力をしばらく奪われ、両耳を押さえて鎮座する者、周囲の仲間に何度もぶつかる者など混乱の様子を醸し出している。
だが閃光手榴弾の効き目は数秒とかなり短い。鄙と猫又は素早く車内へ滑り込み、近くに倒れていたリンの元へ駆け寄る。
リン『うぅ…猫又に、藤木さん…?どうしてここに?』
藤木「話はあとだ。ひとまずリンを列車から脱出させる」
そう告げると刀の柄を使い、窓ガラスを粉々に叩き割る。
パリィィィン!!!!
猫又「少し乱暴だけど、しっかり掴まって!」
リン『え、ちょ、ちょっとぉ猫又ぁぁぁ!?』
猫又に抱えられてリンは無事脱出。…本人の断末魔が聞こえたが、たぶん大丈夫だろう。
鄙「…さてと、こっちの仕事を終わらせるとしよう」
振り返りながら流れるように刀を抜き、下段の構えで相手方と対峙する。
「何者だ!!おとなしく武器を捨てろ!!」
態勢を立て直した治安官は、威勢ある声で警告を発する。
鄙「あいにく正体を明かすほどお人好しじゃない。人助けのため、君達には倒れてもらう」
勝負の宣誓を告げた後、丁度バッテリーの切れかかっていた蛍光灯が消え、一部暗くなった空間に鄙の赤い瞳が狐火のように揺らめく。
その光景に直面している治安官達は、エーテリアスや人間ではない何か未知の生命体と対峙している感覚を受け、恐怖とパニックが脳内を循環する。
「た、隊長!?撃ちますか!?」
「隊長、指示を!!」
「狼狽えるな!剣ごときが銃に勝てる訳ない!総員、撃てぇっ!!」
直後、治安官達の銃が火を吹く。
無数の銃口から雨あられと放たれた銃弾。それは弾速を緩めず真っ直ぐ突き進んでくる。狭い車内の中で鉛の雨から逃れる術は無いに等しい。
鄙「撃っていいのは…斬られる覚悟のある者だけだ」
だがしかし、鄙は半分人間を辞めている。
その驚異的な動体視力をもって、音速で飛来する直径数ミリの銃弾一発一発を捕捉し、自身の身体に届き行くまでに斬り落とす。
キンッという非常に短く鋭い衝撃音が、キツツキの木をつつく間隔で狭い車内を伝達する。
そして数秒後、鄙の足元には真っ二つに切断された数百発の弾丸が埋め尽くすように転がっていた。
「う、嘘だろ…銃弾を全て斬ったのか…!?」
「マジか…化け物じゃねえか…」
レベルの違う相手の実力を直に受け、思わず向けていた銃口を下げてしまうほど愕然とする。この時点で治安官達の戦意は雲散した。
鄙「闘志満々。たとえ戦意が無くとも容赦はしない」
次の刹那、鄙の刀は先頭に立っていた治安官の首元を捉えていた。
「早っ―ガハぁッ…」
一ミリの躊躇もなく刀身を振り落とすと、治安官は意識を失い床に力なく倒れ込んだ。
「距離を取れ!!相手の領域に入り込むな!!」
後方に控えている隊長とおぼしき人物は、近距離戦で刀使い相手は絶対的に不利だと感じ取り、柔軟な対応を見せる。
「各自タイミングをズラして射撃しろ!剣を構える隙を与え―」
だが、既に勝負は決していた。
鄙は治安官達の背後に立っており、攻撃を終えた後だった。そして車内には知らぬ間に、肌に刺さる感触を覚える冷たい氷粒のような霧が立ち込めている。
鄙「スゥー……曙流六式2派、幻氷乱舞」
カチンッ
骸狩りを鞘に納めたと同時に霧が放物線状へ散霧、治安官達は強い眠気に襲われたようにふらつき始め、やがて続々と倒れる。
この技は自らが生み出した派生物。刀を振る度に濃い氷霧を発生させ、その隠れ蓑を活用して妖かしの如く気づかれずに鋭利な斬撃を放ち仕留めるそれは、暗殺術に近い。
鄙「安心しろ。命まで刈り取ることはしない」
今回はあくまでも列車の停止が目的のため、殺生はせず刀背打ちをし気絶で済ませている。
鄙「よし、他には居ないようだな。ひとまず列車を止めてリン達との合流を目指そう」
休息する間もなく車内を走り始める。
前方車両に移ると事前情報の通り、頑丈な容器に積められたエーテル爆薬がギチギチに満載されている。
この爆薬の量…街一帯を吹き飛ばす気か…?
鄙「(だが、なぜ治安官がヴィジョンの無人であるはずの列車に?治安局は工事への人員派遣を断っているはずだが…)」
それは工事を監督するパールマンの口からも直接告げられている。にも関わらず大勢の治安官が爆薬と共に乗車していた事実。加えて相手の言動がホロウレイダーや傭兵のそれに近かった。
違和感と不安が、胸の奥で重く渦を巻く。
鄙「…この件、厄介なことになりそうだ」
to be Continued…
儀鷹F22さん、Pwmdt’さんから☆10
Erlösungさんから☆9
古明地さんから☆5を頂きました!!皆さん評価ありがとう御座います!!
そしてUAが60.000を突破し、お気に入り登録が557件に達しました!応援して下さる皆さんには頭がとても下がりません…!
著者のモチベーションにも繋がりますのでお気に入り登録、感想、そして評価をお待ちしております。もし誤字や脱字、文書の抜け等がありましたら報告をお願い致します!
また、本作主人公である星見 鄙の剣技の案について募集を行っておりますので、良案があれば活動報告の募集箱に投稿をお願い致します。
それではグッバイ
鄙と雅を再開させるなら、どの章?
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2章 白祇重工編
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2章 間章 治安局編
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3章 ヴィクトリア家政編
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4章 カリュドーンの子編
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5章 対ホロウ6課編