東京・新宿の歌舞伎町に、性を売る状況に追い詰められた少女たちを支援する「女性人権センター」を建設する――。
若年女性を支援する一般社団法人「Colabo(コラボ)」が、そんなプロジェクトを始動させた。
実現に必要な概算費用はなんと「10億円」。これを市民からの寄付でまかなう構想だ。
3日に都内で記者会見を開いた仁藤夢乃代表(35)は「差別や暴力にあらがうための揺るがない活動拠点を、市民の力でつくりたい」と訴えた。
なぜ、10億円という巨額の寄付を募るのか。
その背景には、活動が受けてきたさまざまな妨害や誹謗(ひぼう)中傷があるという。プロジェクトの狙いを取材した。
公的支援の機能不全
近年、貧困や性暴力、性売買に苦しむ女性を巡り、行政が支援に乗り出す機運が高まっている。
2022年には公的支援の新たな根拠法となる困難女性支援法が成立。女性に多額の売掛金を負わせて性を売ることを強要する悪質ホストクラブも社会問題になり、規制を強化する改正風営法が今年5月に成立した。
高市早苗首相も11月の衆院予算委で、現行の売春防止法で買う側を処罰する規定がないことを受けて、平口洋法相に買春規制を検討するよう指示した。
しかし仁藤さんは、行政による支援は十分に機能していないと指摘する。
「私たちが支援活動で出会う少女の8割が、貧困や虐待、障害や孤立など何らかの困難を抱えています。しかし児童相談所や警察など行政機関は、性的な搾取を受けたり家出状況にあったりすることを、『被害』ではなく『非行』と捉えて対応するケースがあります。夜間や休日など、少女への暴力が深刻化する時間に相談窓口が開いていないことも問題です」
10億円の寄付を求め
今回始動したプロジェクトは、30年に歌舞伎町に「女性人権センター」を建設することを目指す。
5階建ての施設に、少女たちとつながる活動の拠点や就労支援・相談の場、食事や物品の提供場所、シェルターなどを設置する構想だ。
予算は合計10億円。内訳は、土地購入費6億円▽建設費3億5000万円▽設備備品費4000万円――などとしている。
プロジェクトに賛同する専門家や市民で「1000人委員会」を結成し、寄付や支援を呼びかける。
今月から寄付キャンペーンをスタートさせており、28年まで寄付を集める予定だ。委員会には、すでに170人以上が参加しているという。
仁藤さんは「性的搾取は社会の構造的な問題です。ぜひたくさんの方にこの社会をつくる当事者として、一緒に社会を変える一歩を踏み出してほしいです」と呼びかける。
当初は補助金事業だったが…
なぜ、10億円もの巨額を市民の寄付でまかなうのか。
仁藤さんは記者会見で、この活動拠点を「市民の力でつくること」の重要性を繰り返し訴えた。
その背景には、行政の補助金を受けることで活動妨害や誹謗中傷に悩まされてきたこと、こうした攻撃で活動中止に追い込まれたという経緯がある。
コラボは11年に活動を開始。歌舞伎町を中心に夜間巡回し、少女たちに声をかけてつながる取り組みや、バス車内で少女たちに生活必需品や食事を提供したり、相談を受け付けたりする「バスカフェ」といった支援を続けてきた。
直近の24年度の相談者数は839人に上る。相談内容は、家を追い出された▽虐待▽いじめ▽性被害――など多岐にわたる。
「不正会計」主張退けられ
コラボは18年から「東京都若年被害女性等支援事業」(20年まではモデル事業)の委託を受け、5年間にわたり都の補助金を活用してきた。
しかし、この補助金事業を巡って、活動への妨害行為や誹謗中傷に悩まされるようになった。
22年、補助金事業で「不正会計がある」との主張が交流サイト(SNS)上で拡散。都の委託費の返還を求める住民監査請求が出される事態に発展した。
都の監査委は、不正会計があったとする主張の大半を退ける結果を22年12月に通知した。
監査委は活動の実態が把握できない報告などについては「不適切な点がある」と指摘。高額な食事代があるとして都に再調査を勧告したが、都は食事代などは「必要性が認められる」と結論づけている。
活動休止余儀なくされ
また、コラボは23年4月、活動に関する虚偽動画を発信したとして川崎市の男性市議を提訴。東京地裁が25年11月、男性市議に22万円の賠償命令を下した(コラボ側が控訴)。
支援の現場でも、巡回中に複数の男性に取り囲まれ、「税金泥棒」と罵倒されるといった妨害行為が相次いだ。23年3月には東京地裁がユーチューバーの男性に妨害行為などを禁じる仮処分命令を出した。
この一連の騒動を受け、都はコラボ側に、利用者の安全確保ができない場合は活動の休止や、活動場所を新宿区役所前から変更することを求めた。
コラボは約1カ月間、活動休止を余儀なくされたという。仁藤さんは「女性支援を攻撃する人たちの成功体験になってしまった。多くの支援団体が萎縮しています。少女たちを取り巻く状況はこれまでになく悪化しています」と懸念する。
「妨害に揺るがない拠点必要」
コラボは23年以降、補助金を受けず、寄付で活動を継続している。
「行政が妨害から守ってくれるといいですけど、そういう対応はなかった。補助金を受けて行政と一緒にやると、むしろ危ない、少女たちを守れないのだと、私たちは実感してきました。今の日本社会では、揺るがない、妨害があっても追い出されない、そういう拠点を市民の力で手に入れることが必要です」
記者会見にはコラボ理事の田中優子・元法政大総長も同席し、市民による支援の必要性を訴えた。
「日本の歴史でも、取り締まる法律が作られても、性的搾取はなくなりませんでした。法律があるだけではダメです。現実的に性的搾取をなくすための場所が、女性人権センターなのです」【待鳥航志】