世界中の女子たちに、母になることの他に選択肢があることを教えたマテル社の人形玩具、バービー。そのバービーたちと友人がくらすバービーランドは、さまざまな輝かしいバービーの人生に満ちていた。
しかしその人生を謳歌するバービーのひとりに、ある時から異変が起きる。少しずつ苦痛を感じていくバービーは何が起きているのかを知るため、友人のケンとともに現実世界へ行くが……
有名な人形玩具をモチーフにした2023年の米国映画。女優と脚本でキャリアをつんだグレタ・ガーウィグが監督し、主演のマーゴット・ロビーは製作にも入っている。
女性の社会進出を描いたフェミニズムを導入として、それでもまだ観念が固定されているという限界や、資本主義に組みこまれたフェミニズムは女性差別の枠内でしか許されていないことを見つめる。
『オッペンハイマー』とからめるネットミームの悪ふざけに公式の広報が乗ったことが特に日本で問題視されたが*1、作品自体は評価が高い。日本での興収はのびなやんだが*2、世界的には2023年を代表するヒット作となった。
まず映画が公開されるずっと以前に、宣伝として公開された冒頭の『2001年宇宙の旅』パロディに大笑いした時点で、たとえ本編がどうであれ嫌いになれない作品になった。
本編に入っても、プラスチックのような美術セットと造形物のような背景が楽しい。メイキングを見ると大半は3DCGを活用してセットに合成したVFXのようだが、作り物らしい質感が人形アニメや特撮映画のようだ。
さまざまな空間を超えて現実社会に行く展開は、それもまた構造として『2001年宇宙の旅』のよう。最後に創造主と出会ったバービーが生命として一段階上に行くところも似ているだろうか*3。
中盤のケンの反乱は、あまりケン自身も幸福そうに見えない痛々しさが良かった。その時のケンをあらわすような「有害な男らしさ」という言葉があるが、その有害さは男自身を傷つけ、むしばんでいく。
そしてバービーが象徴してきた女性像のせまさもつきつけられる。枠組みから外れた人形もあるといった反論はあるが、それもあっさり切りすてられる。例外的な立場を作ればアクセントやエクスキューズにはなるが、全体として枠組みがあることを否定できない。これは現実の差別も同じだ。
しかし終盤の創造主とのやりとりは冒頭からのしかけがあるので普通の会話でも良いものの、せっかくミュージカル形式なのだから長台詞は歌にすれば真面目な会話つづきで物語が固くなることを避けられたかもしれない。マテル社の大騒動まではカートゥーンを実写化したような楽しさを維持していたのに、終盤はドラマとしての必要以上に軽さが失われたと感じた。
また、結末の解説を記憶していたので誤解はしなかったし、産婦人科ではなく婦人科と吹替翻訳されていたが、事前情報をもっていなければ妊娠していると誤認した可能性が皆無とはいえないと思った。少しでも誤解をさけるなら、たとえば病院に行くのではなくドラッグストアに行ってナプキンを購入する描写のほうが良かったかもしれない。
*1:『オッペンハイマー』との悪趣味クロスオーバー「#Barbenheimer」へ『バービー』公式広報がのっかったとして、実際の作品を見ずに批判していいのだろうか? - 法華狼の日記
*2:競合玩具のリカちゃん人形が強いため、子供が愛着をもって鑑賞するきっかけが弱いかったり、高年齢の観客のノスタルジーを刺激しない問題はある気がする。
*3:いったんバービーランドに戻ったり、被造物者であるバービーが「進化」したところからすると、『2010年』の要素も入っているかもしれない。