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絶滅寸前の「おバカ系ヒロイン」が逆転の発想で令和に復活『写らナイんです』

皆さんにも「いい漫画」「大好きな漫画」「推し漫画」という概念をはるかに超えた「自分が思いつきたかった漫画」というのはないでしょうか?


僕にはあります。
これ、自分が思いつきたかったわ~!という漫画。



僕にとってはそれが週刊少年サンデーで連載中の「写らナイんです」です。

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コノシマルカ先生の「写らナイんです」。現在4巻発売中


「おバカ系ヒロイン」

という概念があります。

いや、あったと言った方がいいかもしれません。


代表的なのは僕が小学校の頃やってた「きんぎょ注意報!」の主人公・わぴこ

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「魔神英雄伝ワタル」のヒミコ

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など当時のエンタメにはとにかく元気でおバカで明るくつかみ所のないぶっとんだ天然系ヒロインが流行ってたんですね。
平成初期の「明るさ」を反映してたのかもしれません。古くはアラレちゃんとかでしょうか。
「天然系」「アホかわいい系」等、言い方は色々ありましたがここでは便宜上「おバカ系」で統一したいと思います。

現代で言うならオタク系漫画における「アホの子」みたいな概念に近いのかもしれませんが、ちょっと違います。

ヒロインのアホさを「やれやれ・・・」と言いつつ男側目線で愛でる、みたいな物ではなくもっとおバカ系ヒロインには計り知れないスケールがあります。

アホのふりをして本当はこの世の果てまで知ってるんじゃないか?みたいな底知れなさがあります。


ここで急に話が変わりますが、漫画家の僕は20歳で担当がついてから長いこと某メジャー系少年漫画雑誌にいたんですが…僕の漫画家人生はこの「おバカ系ヒロイン」と共にあったと言っても過言ではありません。

僕は昔からこのおバカ系ヒロインが好きでして、それを何とか形にしようとずっと長いこと試行錯誤してきました。22歳でストーリー漫画でデビューしてストーリーギャグ、ギャグ漫画、コメディ漫画と形を変えながらずっとおバカ系ヒロインが出てくる漫画を作り続け、そして編集会議で何十回も没ってきました。


日々おバカ系ヒロインについて考え、歴史を学び、研究して作っては没を繰り返してく内に僕はある真実にたどり着きました。

それはおバカ系ヒロインは現代の漫画と非常に相性が悪いという問題です。



当時の僕は少年誌によくある超ベタな探偵モノやよくある悪霊退治系モノなどの男主人公&おバカ系ヒロインの漫画のネームを作っては没っていました。

で、たまに「すげーいいいヒロインができた!」って時もあったんです。でもそれが2,3話目まで提出する連載ネームとかになると、なんかヒロインが目立たない…。おバカ系ヒロインが全然活きてこないんですよ。

あれ、お前もっとおもろい奴だったはずでは・・・!?っていう。


この原因はですね、おバカ系ヒロインは基本的にストーリーを進める上では役に立たないという事なんです。

進行していくストーリーの中であんまりヒロインがまっすぐ話の役に立ってしまうとおバカらしくならない。変な事をしないとキャラが立たない。

担当からも「これだったらヒロインのおバカって設定いらなくない?」とすぐ言われてしまいます。これ本当に若い頃何回も言われました。

ストーリーは進めなきゃ行けないけど、おバカでもいないといけない。しかしページ数は限られている。となるとヒロインの出番は「毎回何か事件に巻き込まれる」とか、あるいは「話の最初と最後だけ出てくる」とかしかなくなってしまうんですね。おもろいキャラを作ったはずなのに出番が急激に少なくなる。

この問題に気付いたんです。

多分僕と同じような所でつまずき、結局うまく行かず消えていったギャグ・コメディ系の新人は当時沢山いたと思います。
わかるよ、同じ時代を生きた同志達よ。


そして現代、これはおバカ系ヒロインをほとんど見かけなくなった原因でもあるんですが現代の読者はこういう話の足を引っ張るキャラクターを結構嫌う傾向があるんですね。すぐ「こいつ邪魔じゃん」ってなる。

映画の感想でもよくあるじゃないですか。
足を引っ張る味方キャラって邪魔なんですけど?とか。

なので現代の特に少年漫画とかだとほとんどが「賢いヒロイン」「役に立つヒロイン」主流になってると思います。
読者もストレスがないし、話もスムーズに展開させやすい。

そう、実はおバカ系ヒロインってもう絶滅寸前ジャンルだったのです。


そんなこんなで日々もがきながらたまに漫画載ったり載らなかったり、連載出来たりすぐ終わったりしながら特に何の芽が出ることもなく、僕の20代は終わりました。



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ちなみに30歳半ばでやっと自分の中で形になったおバカ系ヒロイン、邦キチ。アホだけど色んな事に詳しい挙句、前澤友作にも詳しい異常系ヒロインに。



で、一気に時は流れ・・・・・2024年始まったのがこの「写らナイんです」。

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始まった時なんかたまたま1話を読んだんですが、僕は衝撃を受けました。

この漫画・・・絶滅寸前と思われていたおバカ系ヒロイン漫画だったのです!

恐竜が生きていた!みたいな感じです。


この漫画のヒロイン・橘は逆に意外と勉強はできるという部分はあるもの構成要素はしっかりとした古典的おバカ系です。

アラレちゃんのように画面の中を縦横無尽に、それでいて無意識に動き回ります。計り知れなさがあります。
おバカ系ヒロインソムリエの僕が言うのだから間違いありません。

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主人公ですら計り知れないスケール(歌声がジャイアンと一緒)

ジャンルは男主人公&おバカ系ヒロインのコメディかつホラー・霊能モノで毎回現れる悪霊を退治していく・・・昔我々新人がよく考えてたようなスタイルとほとんど変わらないのですが、設定が凄い。


この手があったか!!!と衝撃を受けました。



霊感がありすぎて霊が見えまくる主人公・黒桐がオカルト部で出会うのが、霊感があまりになさすぎて逆に除霊ができてしまうヒロイン・橘。


「霊感があまりになさすぎて逆に除霊できる」

なん・・・それ・・・?



しかし、これぞまさにコペルニクス的発想の転回。
安すぎて逆に高いみたいな。

普通に考えたらそんなわけないんだけど、このシンプルながら「よくわからんが、そんなにはっきり言い切られたらそうなのかも・・」と納得せざるを得ない迫力。


つまりこの漫画、ヒロインは霊は全く見えないので見えないままおバカ系ヒロインとして自由に振る舞い、そしてたまたま主人公がピンチになった所にヒロインが現れてたまたま悪霊を除霊できてしまうという驚きの手法を取っているんです。

とにかく、すんごい「ついで感」です。

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前髪を切りすぎてしまった「恥ずかしがり」のついでに悪霊も除霊



我々が何年かけても叶えられなかった
悪霊退治的ストーリーとおバカ系ヒロインを見事に、シンプルに両立させている。

おバカ系のまま「役に立つヒロイン」になっているんです。


そしてこの「どんなピンチでもヒロインが出てきたら何とかなる」という構成でストーリーを圧縮させる事にも成功していて、やってることほぼワンパンマンと一緒です。

そう、令和のおバカ系ヒロインはワンパンマン型だったのです。



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ちなみに写真を撮るだけで除霊できる遠隔攻撃も。凶悪。
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最新話では無意識に飛んでった靴で霊を三枚抜き(除霊)してました。


このように漫画及びエンターテイメントの根幹はやはり、優れたアイディアあってこそなのかもしれません。

とはいえ昔の僕がこんなアイディアを思いついても能力的なあらゆる面でそれを活せる実力はなかったと思いますが。
そう考えると逆に思いつかなくてよかったのかもしれません。

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「配られたカードで勝負するしかない」ってスヌーピーも言ってましたし。

結局は自分にやれることをやるだけです。

あとこの漫画、ほのかなラブコメ感もいいのですがすでに3000文字近くなってしまってるのでその話はまた別の機会に・・・



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