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■補足:邦訳版『シビル・ウォー』リーディングガイド

■Civil War
■Writer:Mark Millar
■Artist:Steve McNiven
■翻訳:クリストファー・ハリソン
■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/2,199円 ■ASIN:B0CJMMDM31


 前回の記事で、その成り立ちを紹介した「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第45号、『シビル・ウォー』について、現在、日本で読める邦訳版の書籍と、その前後の繋がりなどを紹介していこうという記事。

 もはやアシェットの「マーベル グラフィックノベル・コレクション」を紹介するという、このマガジンの趣旨を大幅に逸脱しているが、そんなことは些事だ(確信犯)。


 さて、今回紹介する邦訳版『シビル・ウォー』とそのタイイン作品は、元々ヴィレッジブックスより刊行されていた。

 同社は2011年に『シビル・ウォー』本編を刊行した後、「通販限定」と、販路を限定しつつも『シビル・ウォー:アイアンマン』、『シビル・ウォー:キャプテン・アメリカ』他の、『シビル・ウォー』タイイン・タイトルを順次刊行し(何期かに分けて出していた筈だが失念)、最終的に単行本全22冊(!)で『シビル・ウォー』の物語の全容を訳出するという、邦訳アメコミ史上空前の所業を成し遂げた。

 で、同作は、通販限定ということもあり、後から購入するにはいささかハードルが高かったのだが、その後2016年、ヴィレッジブックスは映画『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』の公開に合わせ、『シビル・ウォー』関連作をすべて一般流通で再版し、それなりの部数が市場に出回ることとなった。

 でで、この再版版も、ヴィレッジブックスが2022年末に出版事業から撤退したことで、再び市場から姿を消していたのだが、やがて2025年9月、小学館集英社プロダクションより電子書籍版限定で23冊一挙に復刊されたことで、現在では容易に読むことができ、このエントリも書くことができた。文化継承。


 こちらは、Amazonの『シビル・ウォー』電子書籍版全23巻をとりまとめたページ。さ、ワンクリックで23冊買おう(微笑み)。


 そんな訳で、以下、全23冊の紹介。


▼ロード・トゥ・シビル・ウォー

 まずはこのマガジンでも幾度か紹介している『シビル・ウォー』前日譚、『ロード・トゥ・シビル・ウォー』。

 収録作は、

・『ファンタスティック・フォー(vol.1)』#536-537(5-6/2006):当時の『ファンタスティック・フォー』誌の方で、「地獄」に追放されていたドクター・ドゥームが現世に帰還し、ネバダ州の砂漠に墜落したソーの魔法のハンマー「ムジョルニア」を手に入れようと画策する話。『シビル・ウォー』前日譚というより、『シビル・ウォー』後に創刊される『ソー』誌へのプレリュード的な話。

・『ニューアベンジャーズ:イルミナティ』#1(5/2006):秘密組織「イルミナティ」(メンバーはアイアンマン、ミスター・ファンタスティック、サブマリナー、ブラックボルト、プロフェッサーX、ドクター・ストレンジ)が、ラスベガスで暴走したハルクへの“対処”を秘密裏に遂行する一方、アイアンマンが推進する「超人登録法」に対しては、各メンバーは慎重な態度を取る……といった具合の、同時期の『ハルク』誌のイベント『プラネット・ハルク』の補足&『シビル・ウォー』の前日譚を兼ねたワンショット(単発の増刊号)。

・『アメイジング・スパイダーマン』#529-531(4-6/2006):「ミスター・パーカー・ゴーズ・トゥ・ワシントン」編。
 いまやアベンジャーズの一員となったスパイダーマン(ピーター・パーカー)が、チームメイトのアイアンマン(トニー・スターク)から「将来の“紛争”に備えて、自分の右腕的な存在になって欲しい」と乞われ、熟慮の末に承諾。その後アイアンマンと共にワシントンD.C.に赴き、超人登録法案に関する公聴会に参加する……的な話。
 「シビル・ウォー」初期にスパイダーマンが着用していた「アイアン・スパイダー・スーツ」の初出エピソードでもある。



▼シビル・ウォー

 『シビル・ウォー』本編。表題作であるリミテッド・シリーズ#1-7を収録。『シビル・ウォー』というイベントの「柱」として機能し、他のタイイン・タイトルは、本作で描かれた状況を膨らませていく形となる。

 例えば、本編中盤のスパイダーマンの心変わりや、転向したスパイダーマンを不意に現れて救ったパニッシャーがあそこで何をしていたのかなどの過程・詳細は、タイインの方で紙幅を取って語られていく。

 で、タイインの方を読み進めてくと、本編中では断絶状態に見えたし、騙し討ちなんかもしてたキャプテン・アメリカとアイアンマンが、実は何度か内密に1対1で会っていた……なんてことも分かって、物語に深みが生まれるのである。


 『ニューアベンジャーズ:シビル・ウォー』。当時のマーベルの筆頭タイトルであり、『シビル・ウォー』の中心人物であるアイアンマンとキャプテン・アメリカが主要メンバーとして登場する『ニューアベンジャーズ』誌のタイインをまとめた単行本。『ニューアベンジャーズ』#21-25(8-12/2006)を収録(当時の『ニューアベンジャーズ』誌の前後のストーリーの流れは『ニューアベンジャーズ:ブレイクアウト』のエントリを参照)。

「ニューアベンジャーズ:ディスアセンブルド」と題した各号は、超人登録法を巡る混乱の中で、キャプテン・アメリカ(#21)、ルーク・ケイジ(#22)、スパイダーウーマン(#23)、セントリー(#24)、アイアンマン(#25)それぞれの去就を描くという、チームもののタイトルとしては変則的な作劇を採る(人気があるので、号数を贅沢に使えるライターならでは)。


▼ウルヴァリン:シビル・ウォー

 『ウルヴァリン(vol. 3)』#42-48の「ヴェンデッタ」編を収録。「シビル・ウォー」事件におけるウルヴァリンは、超人登録法を巡る争い自体は積極的に加担せず(心情的にはキャプテン・アメリカ側)、そもそもの発端となったヴィランのナイトロの追跡に集中する(大きな流れよりも、個人の「落とし前」をつける方に行動するのが彼らしい)。

 ていうかこの時期のウルヴァリンは、2005年の大型クロスオーバー『ハウス・オブ・M』で、長らく喪失していた「過去の記憶」を完全に取り戻した上で、翌2006年にオンゴーイング・シリーズ『ウルヴァリン:オリジン』誌が創刊(6/2006、『シビル・ウォー』開始の1月前)され、その作中で「己の記憶を操作し、人生を歪めた奴らに復讐する」的な感じで単独行動をしてるので、『シビル・ウォー』に積極的にかかずらってるヒマはない。

 『ウルヴァリン:オリジンズ』第1巻。表紙はジョー・カザーダのクールなアートだが、中身は泥臭くてリアルなスティーブ・ディロンなので注意。


 なお、作中に登場するダメージ・コントロール社は、マーベル・ユニバース内に存在する架空の建築会社で、超人らの戦いで生じた損害の修復が主業務。
 ライターのドウェイン・マクダフィーとアーティストのアーニー・コロンが共同で創造し、1988年に情報誌『マーベル・エイジ・アニュアル』#4(6/1988)に掲載された短編で初登場。その後、『マーベル・コミックス・プレゼンツ』#19(5/1989)に短編が掲載された後、リミテッド・シリーズ『ダメージ・コントロール』#1-4(5-8/1989)が刊行され、そこそこ知られるようになる。

 ――あと、1990年1月初頭に刊行された情報誌『マーベル・イヤー・イン・レビュー』#1(1989年度のマーベルのコミックを、ニュース雑誌風の構成で振り返る増刊号。「ニューズウィーク」とかと同じ版型で出された)に“企業広告”が掲載されたりもした。

 まあ、オリジナルはコメディなのだが、『シビル・ウォー』という「超人による市民生活へのダメージ」をテーマとした物語では、ダメージ・コントロールもこんな風な会社として再解釈されるのだなぁ、という感じ。

 『ダメージ・コントロール』は、単行本にまとめられてないのだが、幾度か刊行されたリミテッド・シリーズは、単話版で電子書籍が出てるので、一応、今でもそこそこ手軽に読むことが出来る(驚いたことに、初出誌である『マーベル・エイジ・アニュアル』#4も電子書籍化されてる)。

 余談:本作には、「大爆発に巻き込まれたウルヴァリンが、アダマンチウムの骨格以外蒸発するが、ヒーリング・ファクターで蘇生する」という無茶苦茶な描写があり、本筋とは別のところで物議をかもした。


▼アメイジング・スパイダーマン:シビル・ウォー

 『シビル・ウォー』本編では、当初アイアンマン側に就くも、トニーらの過激なやり口に危機感を感じてキャプテン・アメリカ側に鞍替え、しかし最終決戦でキャプテンが投降したために、家族と共に逃亡者になる……という、『シビル・ウォー』で起きた有為転変の一番の高波を浴びることとなってしまったスパイダーマン。

 こちらは当時3誌(『アメイジング・スパイダーマン』、『センセーショナル・スパイダーマン』、『フレンドリー・ネイバーフッド・スパイダーマン』)が刊行されていた『スパイダーマン』関連誌の内、『アメイジング・スパイダーマン』誌のストーリーをまとめた単行本。

 収録作品は、『アメイジング・スパイダーマン(vol.1)』#532-538。
 『シビル・ウォー:プロローグ』でのワシントンD.C.での公聴会の帰路にスタンフォード事件が起き(#532)、ピーターはトニーの説得を容れ、記者会見でマスクを脱ぐ(#532-533、『シビル・ウォー』#2)。しかしピーターは、キャプテン・アメリカとの遭遇や(#534)、トニーらの過剰なやり口に反感を覚えたことで(#535)、反登録派に転向する(#535-537)。そして最終決戦直後、キングピン(ウィルソン・フィスク)の放った暗殺者がピーターの潜伏先を突き止め(#538)……と、『シビル・ウォー』本編でのピーターの行動を掘り下げつつ、続く『スパイダーマン』関連誌での長編ストーリー、「バック・イン・ブラック」に続く話となっている。

 ちなみに、過去のエントリでもちょっとだけ触れたが、この当時のピーター・パーカー、メリー・ジェーン、メイ叔母さんの3人は、少し前の「スキン・ディープ」編でメイ叔母さんの家が全焼したのを機に、アベンジャーズ・タワーに引っ越していた。

 あと、結構前の「レベレーションズ」編で、メイ叔母さんはピーターがスパイダーマンであることを知り、ピーターと話し合い、それぞれの胸の内を明かした末に事実を受け入れた。


 この辺を踏まえておかないと、本作でピーターがアベンジャーズ・タワーでメイ叔母さん、メリー・ジェーンと共に生活していて、スパイダーマンの正体を明かすべきか3人で話し合うという状況に少々戸惑うかもしれないので念のため。


 本話に続く「バック・イン・ブラック」編は、怒りの象徴であるブラック・コスチュームに身を包んだピーターが、暗殺者を送ったキングピンに迫る話。関連3誌でそれぞれ別個の話が並行して語られていく。

 なお当時のキングピンは、少し前の『デアデビル(vol. 2)』#46-50(6-10/2003)にかけての「ハードコア」編で、ニューヨークの犯罪王に返り咲こうと目論むもデアデビルとの決闘に敗れ、逮捕されていた。本作中でキングピンが刑務所にいるのはそのため。


▼X-MENユニバース:シビル・ウォー

 当時刊行されていた、『X-MEN』関連誌の内、『シビル・ウォー』とタイインした『X-ファクター(vol. 3)』#8-9と、『ケーブル&デッドプール』#30-32を収録。

 掲載誌の『X-ファクター(vol. 3)』誌は、マルチプルマン(ジェイミー・マドロックス)の創設したX-ファクター探偵社が主役のシリーズ(ライターはピーター・デイヴィッド)。オフビートな調子で、複数のキャラクターの行動が描かれていき、十数号かけて伏線にケリがつくような、ピーター・デイヴィッドらしい重厚な作劇が魅力。なおその連載は、2005~2013年まで、約8年間続いた(重厚長大)。
 本編は、色々あって「ハウス・オブ・M」事件の真相を知ったマドロックスらが、X-MENの秘密主義に反発。今話題の超人登録法を利用してX-MENに嫌がらせをする話。クロスオーバーの諸要素を本来構想していた物語に絡め、より面白味を増しているのがベテランのデイヴィッドらしい器用さ。

※本話のゲストのクイックシルバー(ピエトロ・マキシモフ)に関しては、「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第78号『サン・オブ・M』のエントリで語ると思う)。

 続く『ケーブル&デッドプール』誌は2004年創刊。当時人気が微妙だった『ケーブル』誌(当時は『ソルジャーX』と改称して、新展開を模索したがあまりうまくいかず)と『デッドプール』誌(当時は『エージェントX』と改称して新キャラクターを投入したが全然うまくいかず)を合体させて、2誌分の読者を獲得しようと目論んだタイトル。
 ケーブルの育ての親で、デッドプールの生みの親でもあるファビアン・ニシーザがライターになり、オフビートなコメディタッチの話でそこそこの人気を博した(最終的にライターの交代もなく、全50号で円満に完結したので、不人気タイトルのリバンプとしては上出来だろう)。
 本編は、超人登録法のお蔭で政府公認のヒーローハンターとなって調子に乗りまくるデッドプールが、ケーブル(未来人なので、あんま現代のモメごとに関わりたくないため基本中立。でもキャプテン・アメリカは尊敬してる)に冷や水を浴びせかけられる話。
「どうせうちの雑誌は『シビル・ウォー』の本筋には関わらないので、変わらぬノリでお送りするぜ! でもせっかくキャプテン・アメリカをゲストに出せるんで、ケーブルの過去の掘り下げに活用するぜ!」的な、気負わず波に乗る感じがライターのファビアン・ニシーザの妙味。

 個人的には、ピーター・デイヴィッドの『X-ファクター』と、ファビアン・ニシーザの『ケーブル&デッドプール』という2大面白長編コミックの「お試し版」として読んで欲しい1冊。
 割とこう、一方が気に入った方にはもう一方も面白く読めると思う(主観)。

 こちらはデイヴィッドによる『X-ファクター』の連載を網羅した『X-ファクター・バイ・ピーター・デイヴィッド・オムニバス』の第2巻(第1巻は、旧シリーズの『X-ファクター(vol. 1)』で、デイヴィッドが担当していた1991~1993年頃の話をまとめたもの)。今のところ、2024年に出た第3巻が最新刊(次に出る第4巻で終わると思う)。

 『ケーブル&デッドプール』の単行本は、2000年代後半にデッドプール人気が盛り上がって以来、何バージョンも出されている。上は2024年に1巻目が出た(まだ続刊は出てない)、新装版単行本『モダン・エラ・エピック・コレクション』。多分全3巻で完結。

 あと『ケーブル&デッドプール』は、ヴィレッジブックスから邦訳版が3巻ほど出ていたので、こちらを買うのも良い(上は小学館集英社プロダクションから再版された電子書籍版)。


▼キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー

 『シビル・ウォー』の一方の主役である、キャプテン・アメリカ関連のタイインをまとめた単行本。収録作は、『キャプテン・アメリカ(vol. 5)』#22-24と、ワンショット『ザ・ウィンター・ソルジャー:ウィンター・キルズ』#1。
 この当時の『キャプテン・アメリカ(vol. 5)』誌の物語の流れは、過去のエントリも参照。

 このうち#22, 24は、キャプテン・アメリカの恋人でシールドのエージェントのシャロン・カーター、#23はニック・フューリーの依頼でシールドの拠点に潜入したウィンター・ソルジャーが主役で、シビル・ウォーによって、キャプテンと対立するシールドの状況も描かれる。

 続く#25(本巻には未収録)は、表紙に「シビル・ウォー:エピローグ」と書かれ、『シビル・ウォー』最終決戦で投降したキャプテン・アメリカのその後の運命が描かれる。すなわち「デス・オブ・キャプテン・アメリカ」編の開幕である。

 この表紙が見せたくて、旧版の単行本へのリンクを貼ったが、今「デス・オブ・キャプテン・アメリカ」編を今読むなら、ページ数が多くてお得な『デス・オブ・キャプテン・アメリカ:コンプリート・コレクション』を買うのがベターだろう(ただし、『コンプリート・コレクション』は『シビル・ウォー:キャプテン・アメリカ』の収録話が丸々収録されてるのがネック)。

 併録の『ザ・ウィンター・ソルジャー:ウィンター・キルズ』#1は、表題通りウィンター・ソルジャーが主役で(ライターは当時の『キャプテン・アメリカ』誌のエド・ブルベイカー)。フューリーの依頼で行動するウィンター・ソルジャー(バッキー・バーンズ)が、任務を台無しにしかねないヤング・アベンジャーズに対処しようとするが……という話。
 作中でバッキーが訪れている墓は、ジャック・モンロー(ノマッド、洗脳下のウィンター・ソルジャーに殺された)とトロ(トーマス・レイモンド、1940年代に活躍したヒューマントーチのサイドキックでバッキーの友人。近代の『サブマリナー』#14(6/1969)で戦死)のもの。


 ちなみにトロは、この数年後の『アベンジャーズ/インベーダーズ』#1-12(7/2008-8/2009)での時空を巡る冒険の末、バッキーの関与で復活を遂げている。


▼アイアンマン:シビル・ウォー

 こちらは今一人の主役であるアイアンマンサイドのタイインを収録。この当時の『アイアンマン』誌のストーリーの流れは、過去のエントリも参照。

 収録作は、

・『アイアンマン(vol. 4)』#13-14:超人登録法の推進の過程で、トニーの親友ハッピー・ホーガンがスパイマスター(シンクレア・アボット、トニーの排除を目論む勢力に雇われたと思しい)に襲われ、意識不明の重体となる。
 思い余ったトニーは、キャプテン・アメリカを呼び出して「お前ら反登録派はハッピーをあんな目にした奴らに対して何もしないのか」と半ば八つ当たりの詰問をする……という、時系列的にはかなり終盤の頃のタイミング(スパイダーマンが反登録派に転向している)なのに、よくキャプテンはアイアンマンの呼び出しに応じてくれたな、と思わなくもない話。
 なお、ハッピー・ホーガンは本話(#14のラスト)で死亡(明言はされてないが、トニーがエクストリミスによる遠隔操作で生命維持装置を停止させた)。2025年現在も「実は生きていた」的な話がされたりはしていない。

・増刊号『アイアンマン/キャプテン・アメリカ:カジュアリティーズ・オブ・ウォー』#1:シビル・ウォーの後半(中盤の登録派と反登録派の大規模な戦いの後)、アイアンマンはキャプテン・アメリカを旧アベンジャーズ・マンション(『アベンジャーズ:ディスアセンブルド』で崩壊し、放置されている)に呼び出し(またか)、話し合いで内戦を終結させられないかと模索する。
 ちなみに同号は、当時は「アイアンマンがキャプテン・アメリカをノックアウトしている」絵と、「キャプテン・アメリカがアイアンマンをノックアウトしている」絵の、2バージョンの表紙で発売された(劇中にそんなシーンはないが)。

・『シビル・ウォー:ザ・コンフェッション』#1:ブライアン・マイケル・ベンディスが手掛けた増刊号。『シビル・ウォー』の完結後を舞台に、アイアンマン、キャプテン・アメリカがそれぞれの胸の内を吐露する「コンフェッション(告白)」と題された短編を2本収録。

 ……と、シビル・ウォー事件を通じて、キャプテン・アメリカと対峙し、議論するアイアンマンの姿を描いた物語を収録。


 で、『シビル・ウォー』で、超人登録法推進派は勝利をおさめ、トニー・スタークは、諜報組織シールドの長官に就任し、ヒーロー・コミュニティを統括する立場となる。これを受けて、『アイアンマン(vol. 4)』誌は、#15から『アイアンマン:ディレクター・オブ・S.H.I.E.L.D.』と改題されるのだった。

 こちらは『ディレクター・オブ・S.H.I.E.L.D.』のタイトルが冠されていた時期の、『アイアンマン(vol. 4)』#15-32とアニュアル #1をひとまとめにした 「コンプリート・コレクション」版単行本。


▼パニッシャー・ウォージャーナル:シビル・ウォー

 『シビル・ウォー』の始動と同タイミングで創刊された新雑誌『パニッシャー:ウォージャーナル(vol. 2)』の最初のストーリーアークとなる#1-4を収録。それだけだとページ数が足りないので、後に刊行された『ウォージャーナル』#1の白黒版(なぜか当時、そんなものが発売されてた)も収録して水増しをしてる。

 この『パニッシャー:ウォージャーナル(vol. 2)』は、ガース・イニス&スティーブ・ディロンによる『パニッシャー』新シリーズがあまりに成功し過ぎて先鋭化してしまったのを受け、「もうちょっとマーベル・ユニバース寄りで、そんなに殺伐としてないパニッシャーのタイトルを出そうよ」的な要請で創刊されたんじゃないかと思われるシリーズ(※個人の推測です)。

 少々説明しよう(長くなる)。

 イニス&ディロンが2000年に送り出したリミテッド・シリーズ『パニッシャー(vol. 5)』が大ヒットしたのを受け、マーベル・ナイツ編集部は2001年からオンゴーイング・シリーズ『パニッシャー(vol. 6)』を立ち上げ、引き続きイニス&ディロンにシニカル&バイオレンスな話を描かせていった。

 同シリーズは2003年末に全37号で終了するも、続く2004年からは、成人向けの「マックス・レーベル」で、引き続きガース・イニスがライターを務める『パニッシャー(vol. 7)』(通称『パニッシャー:マックス』)が創刊され、イニスのシニカル&バイオレンス路線は継続していく。

 ……が、このマックス版『パニッシャー』は、イニスの路線を突き詰めた結果、生々しくてバイオレンス全開な上に、スーパーヒーロー&スーパーヴィランが一切登場しない(ニック・フューリーはちょっと出る)内容になっていた(無論、連載中に起きた大型クロスオーバーイベントにもタイインなどしない)。

 要するに、「不殺を誓うスパイダーマンと不承不承共闘するパニッシャー」とか「キャプテン・アメリカに敬意を払い、彼には手を出せないパニッシャー」みたいな、マーベル・ユニバースとの関わりによって生じるパニッシャーの個性は、イニスの路線からはバッサリ排除されていた。

 でー、まあ、多分、マーベル編集部が『シビル・ウォー』の企画会議を重ねてく過程で、根っからのアウトローであるパニッシャーと、アウトローになってしまったキャプテン・アメリカとを絡ませたら面白い的な意見が出て、でも今のイニスの『パニッシャー』は、他のヒーローと絡ませられないよね的な指摘なんかも出たので、「じゃ、もっとマーベル・ユニバースよりの『パニッシャー』の新タイトルを、『シビル・ウォー』合わせで創刊して、イニスは自由にさせようぜ」的な話になったんじゃないかと思う(※個人の推測です)。

 実際、『パニッシャー:ウォージャーナル』(ライターは、マット・フラクション)は、マーベル・ユニバースのスーパーヴィランを、常人であるパニッシャーが創意工夫(あと現代兵器)で退治していくという、明快な「ヴィジランテもの」になっており、しかも、創刊号から『シビル・ウォー』ともタイインした上、「元海兵隊員であるパニッシャーは、古参兵であるキャプテン・アメリカに強い敬意を抱いている」という点が、割と物語のキーになっていたりして、イニスが排除したパニッシャーの一側面を、「これはこれで、きちんと料理すればこんなに面白いんだぜ」的に提示する内容となっている。

 で、結果として『ウォージャーナル』はヒット作となったので、こっちの路線もパニッシャーにとっては大事だったのね、という。

 なお、『シビル・ウォー』のタイインで刊行された、キャラクタープロフィール集『シビル・ウォー・ファイルズ』(11/2006)のパニッシャーのエントリには、「パニッシャーはまるで2つの世界を行き来しているようだ」という、当時の『パニッシャー』関連誌の体制についてメタ的に触れた箇所がある(あと、パニッシャーのプロフィールに『パニッシャー:マックス』で言及された設定も紛れ込んでる)。

 閑話休題。

 本巻の内容的には、超人登録法の施行によってヴィランが政府公認で非登録のヒーローを狩るといった構図の逆転が起きる中で、「ヴィランはヴィランだ」と、己の道を邁進するパニッシャーの姿が描かれていく。
 あと、『シビル・ウォー』本編では割と唐突に出てきてアッサリ退場したパニッシャーの前後の行動や、彼の内なるキャプテン・アメリカへの敬意なんかを補完する内容にもなっている。

 ちなみに、『シビル・ウォー』後のパニッシャーは、キャプテン・アメリカが逮捕→暗殺されたことに大層ショックを受け、キャプテン・アメリカ風のコスチュームを身に着け(上にリンクを貼った単行本の表紙を参照)、反愛国主義者のヴィラン、フラグスマッシャーの組織を壊滅させることで、彼なりの弔意を表している。

 てかまあ、マット・フラクションの『パニッシャー:ウォージャーナル』はとても面白いので(語彙力)、『ウォージャーナル:シビル・ウォー』を読んで刺さるものがあった場合、引き続き単行本を揃えていくのも良いだろう。

 この後も、『ウォージャーナル』誌では、『ワールド・ウォー・ハルク』とタイインしたり、「バック・イン・ブラック」なスパイダーマンと再会したり、仇敵ジグソーとやりあったりと、路線変更することなく「マーベル・ユニバースの中のパニッシャー」を描いていく(最終巻では『シークレット・インベージョン』ともタイイン)。

※ちなみに上のリンク先にある『パニッシャー:ウォージャーナル バイ・マット・フラクション:コンプリート・コレクション』は、一瞬、「お、このシリーズを買い進めれば、網羅できるんじゃね?」とか思ってしまうが、今のところ1巻しか出てないので注意。


 余談ながら、『シークレット・インベージョン』後は、リック・リメンダーを新ライターに迎えた『パニッシャー(vol.8)』が新創刊され、創刊号から「ダーク・レイン」イベントとタイインしたり、ノーマン・オズボーン配下のセントリーやフッド率いる悪人軍団とやりあったりと、引き続き「マーベル・ユニバースの中のパニッシャー」路線を継続させていく。こっちも面白いから読め。

 なお、『パニッシャー(vol. 8)』の単行本は、Amazonだと、#10までを収録した全2巻で終わっている(上は第1巻へのリンク)。

 #11以降は、こちらの単行本に収録。あまり予備情報を入れずに読んで、マーベル・ユニバースならではの超展開に驚くといい。


▼ヤング・アベンジャーズ&ランナウェイズ:シビル・ウォー

 若手ヒーローチームであるヤング・アベンジャーズとランナウェイズとが共演するリミテッド・シリーズ。

 そもそもランナウェイズは、ブライアン・K・ヴォーンとエイドリアン・アルフォナが2003年にマーベルの新レーベル「TSUNAMI」の1作品として送り出したシリーズ。両親が邪神を奉じる秘密結社「プライド」に所属してる悪人であることを知った6人の子供たちが家出(ランナウェイ)をし、それぞれ親から受け継いだ超能力を発現させたり、超未来なガジェットを装備したりしつつ、プライドの邪悪な計画を阻止してく話。

 余談ながら「TSUNAMI」は2003年初頭、当時のアメリカン・マンガ(英語圏の作家がマンガ風のアートスタイルで描いたコミック)・ブームにマーベルが臆面もなく乗っかり、マンガに親しんでいる若い読者が好みそうな作品を送り出すことを目指して立ち上げられたレーベル。
 割と玉石混交な内容の作品が何作か刊行されるも、大ヒット作は出せず、2003年12月にレーベルの展開は終了。しかしながら一部充分な人気を博してた作品はもう半年ほど連載が継続した。
 で、『ランナウェイズ』も翌年の#18(11/2004)まで連載が続き、一応、プライドが壊滅して最初のシリーズは終了した。

 『ランナウェイズ』の第1シリーズは、現在では全18話を収録した「コンプリート・コレクション」が刊行されているので、1冊で一気にラストまで読み通せる。


 その後『ランナウェイズ』は、単行本(マンガの単行本に似た、ダイジェスト・サイズ――だいたいDVDのジャケットと同サイズ――の版型で刊行)の売れ行きが好調だったことから、2005年にマーベルの新施策「マーベル・ネクスト」(若い読者を対象に、若いキャラクターが主役を務めるタイトル群。今度はマンガに限定していないが、アメリカン・マンガの古参、アダム・ウォーレンなんかも招いていた。やはり短期で終わる)の一環として、新オンゴーイング・シリーズがスタートした。この『ランナウェイズ』第2シリーズも順調に人気を博し、2005~2008年まで、全30号が刊行された(ヴォーンとアルフォナのコンビは#24まで担当し、#25からは同作のファンだったジョス・ウェドンが後任のライターとなり、シリーズを完結させた)。

 第2シリーズは、「コンプリート・コレクション」の第2、3巻に全話を収録(『ヤング・アベンジャーズ&ランナウェイズ:シビル・ウォー』他の同時期のリミテッド・シリーズも網羅)。


 なお、本リミテッド・シリーズは、『ランナウェイズ』第2シリーズの#21(12/2006)と#22(1/2007)の間に起きた出来事とされる。

 一方の『ヤング・アベンジャーズ』は、前述した「マーベル・ネクスト」から刊行されたシリーズ。ライターのアラン・ハインバーグと、アーティストのジム・チャンによって創造され、2005年初頭に刊行されたオンゴーイング・シリーズ『ヤング・アベンジャーズ』#1(4/2005)でデビューを飾った。

 「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」事件の後、解散したアベンジャーズの不在を埋めるかのように、若手ヒーローによるチーム、人呼んで「ヤング・アベンジャーズ」が活動を開始する。彼らはアベンジャーズの主要メンバーを彷彿とさせる外観・能力を持っていたが、その背景には色々と複雑なものを抱えていた……的な話。
 単なる「若者に古参ヒーローっぽいコスチュームを着せただけ」の安易な次世代ものではなく、独自の個性と意外な背景を持つキャラクターらが繰り広げる物語は開幕当初から好評を博し、ジム・チャンの卓越したアートもあって、同誌は大ヒット作品となった。

 が、おそらくは製作側の都合で、その連載は翌年に刊行された#12(8/2006)で一旦終了する(なお末期の数号は隔月ペースで刊行。多分、ジム・チャンの精緻なアートが月刊ペースでは厳しかった)。


 この最初のシリーズ全12話は、小学館集英社プロダクションから全2巻の邦訳版が出ている。

 シリーズの流れとしては、『ヤング・アベンジャーズ』第1シリーズに続く、ヤング・アベンジャーズの主演作が、本作『ヤング・アベンジャーズ&ランナウェイズ:シビル・ウォー』なので、先にこちらの単行本2冊を読んでおくのもいいだろう(合間にヤング・アベンジャーズがゲスト出演する『ウィンターソルジャー:ウィンター・キルズ』も)。


 なお、本作『ヤング・アベンジャーズ&ランナウェイズ:シビル・ウォー』は、大ヒット作である『ヤング・アベンジャーズ』の続きをアラン・ハインバーグに書いて欲しいけど、諸々忙しくなってきたハインバーグ(DCコミックス社で『ワンダーウーマン』の連載も始めちゃってる)が執筆にかかれるのはもう少し先なので、それまでの「つなぎ」として企画された……という側面もある。

※編集部的にもヒット作を出したクリエイターは尊重したいので、ハインバーグが書けないからと言って、「手の早い作家にバンバンオンゴーイングで書かせろ!」みたいなことはしないのである。

※なので本作の製作にあたっては、脚本を担当したゼブ・ウェルズは、ブライアン・ヴォーンとアラン・ハインバーグに内容を相談した上で執筆している。

 いい加減、長くなってきたのでリミテッド・シリーズ本編の内容については「まあ、読め」ですっ飛ばす(略)。


 本作に登場するノォ・ヴァア(マーベルボーイ)は、元々は2000年にグラント・モリソン(ライター)&J・G・ジョーンズ(アーティスト)が「マーベル・ナイツ」レーベルから送り出したリミテッド・シリーズ、『マーベルボーイ(vol. 2)』#1-6(8-12/2000, 1/2001)にて初登場したキャラクター。
 同シリーズは、並行世界の異星人帝国クリーの軍人(少尉)で、ゴキブリの遺伝子を組み込まれた人造超人のノォ・ヴァアが、色々あってマーベル・ユニバース(アースー616)に漂着し、謎の怪人ドクター・ミダスに遭遇したり、無残に同僚が死んだことからこの世界の人類を根絶することを誓ったり、意識を持つ企業・ヘクサスに対抗したり……とかいう感じで、モリソンらしい荒唐無稽な話が展開されていった(最終的にノォ・ヴァアはシールドの擁する異星人専門刑務所キューブに投獄されるが、逆にキューブをクリー帝国の領土にすることを宣言して終わる)。

『マーベルボーイ』電子書籍版単行本。リミテッド・シリーズ全6話を収録。

 あまりに突飛な話だったせいか、ノォ・ヴァアはリミテッド・シリーズの完結後は、他のコミックにゲスト出演したりもせず、数年ほど放置されていたが、本作にて突如復活し、この後の大型イベント『シークレット・インベージョン』のタイインで印象的な出番をもらえたり、同イベント後の「ダーク・レイン」展開期には、ノーマン・オズボーン率いるダークアベンジャーズに短期間参加したりと、そこそこ露出していった(さらに後には再編成されたヤング・アベンジャーズにも加入)。


 でもって、『シビル・ウォー』の後、ランナウェイズは、彼らのオンゴーイング・シリーズの方で、物語に決着をつける一方、ヤング・アベンジャーズは、まあ、なかなかハインバーグの身体が空かないので、代わりにエド・ブルベイカー、ブライアン・リード、マット・フラクション他の、当時のマーベルの腕利きライター6人を集めた全6号のリミテッド・シリーズ『ヤング・アベンジャーズ・プレゼンツ』#1-6(3-8/2008、6人のライターが1号ずつ脚本を担当)を刊行したり、2008年のマーベルの大型イベント『シークレット・インベージョン』のタイインとして、リミテッド・シリーズ『シークレット・インベージョン:ランナウェイズ/ヤング・アベンジャーズ』#1-3(8, 10-11/2008)が刊行されて、またランナウェイズと共演したりと、更なる「つなぎ」が刊行されていく。


 やがて2010年、ようやく身体が空いたアラン・ハインバーグと、ジム・チャンのオリジナル・コンビによる新作リミテッド・シリーズ『アベンジャーズ:チルドレンズ・クルセイド』#1-9(9, 11/2010, 1, 3, 6, 8, 11/2011, 1, 5/2012、隔月刊で余裕ある執筆体制を取るも、結局後半でスケジュールが破綻し、2年がかりで全9号をリリース)が刊行され、ハインバーグが構想していたヤング・アベンジャーズの物語は大団円を迎えた。

 こちらは小学館集英社プロダクションから刊行された『チルドレンズ・クルセイド』の邦訳版。すなわち、ハインバーグの担当した『ヤング・アベンジャーズ』は全てが訳出されているのである。感謝。


 でー、ハインバーグが満足した後、2013年初頭には、キーロン・ギレンをライターに迎えた新オンゴーイング・シリーズ『ヤング・アベンジャーズ(vol. 2)』#1(3/2013)が創刊され、ヤング・アベンジャーズの物語は新たな時代を迎えていく(後年には、ヤング・アベンジャーズ出身のキャラクターが、クロスオーバーの中心的なキャラクターになったりもして、ユニバース内に確固たる位置も占めていく)。

 『ヤング・アベンジャーズ(vol. 2)』は、かつてヴィレッジブックスから、1巻目が翻訳されていた(表紙はジム・チャンだが、本編は別の作家が書いているので注意)。こちらは小学館集英社プロダクションから2025年10月に、電子書籍限定で再版されたもの。


▼X-MEN:シビル・ウォー

 タイインとして刊行されたリミテッド・シリーズ『シビル・ウォー:X-MEN』#1-4を収録した単行本(多分、『X-MEN』関連誌で進めてるストーリー内に、『シビル・ウォー』とのクロスオーバーをはさむ余地が少ないので、独立したリミテッド・シリーズにしてる)。

「ハウス・オブ・M」事件の結果、地球全体でミュータントの総人口が198人になるという異常な事態が勃発。アメリカ政府は一転してミュータントを保護することとし、X-MENの拠点はミュータントの収容施設となる。
 そんな中で勃発した超人登録法を巡るヒーロー・コミュニティの分裂は、X-MENにとってはまあ他人事で(なにしろ今やミュータントは、収容施設で登録・管理・監視されているので、登録の是非を問うレベルではない)、とりあえず政府側のアイアンマンに「キャプテン・アメリカに味方しないけど、かといって政府の尖兵になるつもりもない」と、中立を表明する。

 が、X-MENというチームの見解は「中立」であっても、個々人では「この機会を利用してもう少し政府に接近しようぜ」的な意見を持つ者や、「それはそうと政府に管理されるのは嫌なので逃げます」的なアウトローも存在しており、このタイインでは、そうした個人の行動に対しX-MENが対処していく姿が描かれる(最終的に、この件を通じてアメリカ政府に対してもいくらかの譲歩を引き出していく)。

 『シビル・ウォー』の本筋に直接的に影響する話ではないが、この時期のミュータント界隈に「シビル・ウォー」事件が、どのような影響を与えたか、という思考実験をうまく物語に昇華した一作。こうしたアプローチが見られるのも、多数のタイインを構えるイベントの醍醐味であると思う。

(「ハウス・オブ・M」事件以降の『X-MEN』関連誌の物語の流れについてはおいおい『ハウス・オブ・M』のエントリにて書く予定なので、本稿では簡単にすます)


▼ファンタスティック・フォー:シビル・ウォー

 J・M・ストラジンスキーによる担当期の末期にあたる『ファンタスティック・フォー』#538-543を収録(ストラジンスキーは#541で降板し、以降はドウェイン・マクダフィーが担当)。

※『シビル・ウォー』前後の時期の『ファンタスティック・フォー』については、過去のエントリでもざっと紹介しているので、そちらも参照。

『シビル・ウォー』本編では、登録派のトニー・スタークの参謀役として、やたらに張り切ってたミスター・ファンタスティック(リード・リチャーズ)が、妻のインビジブルウーマン(スーザン・リチャーズ)からどう見られていたのか、『シビル・ウォー』の初期に、暴徒にリンチにかけられたヒューマントーチ(ジョニー・ストーム)のその後は、そして『シビル・ウォー』本編ではあんまり出番のなかったシング(ベン・グリム)が、いかに無為な争いに憤っていたか……というあたりを掘り下げた内容となっている(なお、ストラジンスキーは、同時期の『アメイジング・スパイダーマン』誌のライターも務めていたため、ピーターがミスター・ファンタスティックにネガティブゾーンの収容所を案内されるシーンが、両タイインで視点を変えつつ描かれている)。

 タイインの最終話は、『ファンタスティック・フォー』45周年記念号でもあり、ファンタスティック・フォーの面々は、自分たちの記録映像を見返すことで、「シビル・ウォー」事件で揺らいだ家族の絆を回復させる(当時は、「スーザンはこんな程度でリードを許しちゃうの?」とかいう意見もあったが)。
 で、ミスター・ファンタスティックとインビジブルウーマンが、関係修復のためにファンタスティック・フォーを離脱。代理としてブラックパンサーとストームの新婚夫婦が参加し、チームは新たな一歩を踏み出す。

 ブラックパンサーが加入して以降の物語は、こちらの『ファンタスティック・フォー:ザ・ニュー・ファンタスティック・フォー』に収録。収録作品は『ファンタスティック・フォー』#544-550。なお本単行本ラストでミスター・ファンタスティックらがチームに正式に復帰し、パンサーとストームはチームを去った(早くね?)。


▼フロントライン:シビル・ウォー

 『シビル・ウォー』合わせで刊行されたリミテッド・シリーズの中でも、全11号と、異例の長さを誇る作品が、この『シビル・ウォー:フロントライン』(なので邦訳も、全2巻に分けて刊行)。

 老舗地方新聞デイリー・ビューグル新聞社の記者ベン・ユーリック(主に登録推進派を取材)と、タブロイド紙「オルタナティブ」の記者サリー・フロイド(主に反登録派を追跡)の、2人のジャーナリストの視点から、超人たちの内戦を概観し、批評していく(一方で、スタンフォード事件に関与していたスピードボールや、ネイモアの統治するアトランティス王国の工作員の活動、ノーマン・オズボーン/グリーンゴブリンの暗躍なんかも描かれていく)。
 
 ライターのポール・ジェンキンスは、しっとりした人物描写や、イギリス人らしいヒーローものコミックへの客観的な視点に定評のある作家で、本作はそうした彼の資質が存分に発揮されている。

 ベン・ユーリックは、ロジャー・マッケンジーがライターを務めていた時期の『デアデビル』#153(7/1978)で初登場した古参ジャーナリスト。長らくデイリー・ビューグルに勤務していたが、本作ラストで辞職し、サリーと共に新たなメディア「フロントライン」を立ち上げる。

 一方のサリー・フロイドは、『ハウス・オブ・M』の完結後に刊行された全5話のアフターストーリー、『ジェネレーションM』#1(1/2006)で初登場&主役を務めた新聞記者(同作のライターもポール・ジェンキンス)。
 『ジェネレーションM』の方では、「ハウス・オブ・M」で能力を喪ったミュータントを取材していく過程で、ミュータント差別者の事件に巻き込まれる役回りで、やがて己の背負った(ミュータント絡みの)過去に向き合うこととなる。

 で、この「大型クロスオーバーイベントが社会に与える影響を、新聞記者の視点で語る」という手法は結構評価され、ジェンキンスは続くイベント『ワールド・ウォー・ハルク』でも、同コンセプトの『ワールド・ウォー・ハルク:フロントライン』#1-6(8-12, 12/2007)を手がけている。
 

 こちらが『ワールド・ウォー・ハルク:フロントライン』の電子書籍版単行本。構成上の都合か、『ワールド・ウォー・ハルク』の序章である『ワールド・ウォー・ハルク・プロローグ:ワールド・ブレイカー』#1を併録している関係で、なんだか勇ましい表紙になっている。

 また後年には、この「大型イベントをベン・ユーリックが取材するリミテッド・シリーズ」の系譜として、『シークレット・インベージョン:フロントライン』#1-5(9/2008-1/2009)と、『シージ:エンベッデド』#1-4(3-6/2010)といったリミテッド・シリーズも刊行されている(ライターは共にブライアン・リード)。


▼マーベル・ユニバース:シビル・ウォー

『シビル・ウォー』のタイインで刊行されたワンショット群と、1話だけタイインしていた『シーハルク』(作:ダン・スロット)をとりあえずまとめた単行本(タイトルに「マーベル・ユニバース」って付ければ大体まとまるモンである)。

 なお、上に貼ったリンクの書誌情報には、本作には、

・『ウィンターソルジャー:ウィンター・キルズ』
・『シビル・ウォー:チョージング・サイズ』
・『シビル・ウォー:ザ・リターン』
・『シーハルク』#8

 の4編が収録されていると書かれているが、一部間違っている。

 正しくは、
・『シビル・ウォー:イニシアティブ』
・『シビル・ウォー:チョージング・サイズ』
・『シビル・ウォー:ザ・リターン』
・『シーハルク』#8
 の4編である(『ウィンター・キルズ』は『シビル・ウォー:キャプテン・アメリカ』に収録)。
 
 ちなみにこの書誌情報は、原書の時点で間違ってたりする(↓リンク先参照。多分、原書の書誌情報をコピペした……?)。

 ちなみにこの単行本の表紙は書誌情報に記載されてない『シビル・ウォー:イニシアティブ』の表紙からの流用(そこでおかしいと気付け)。

 以下、収録作について、一部主観を込めつつ。

・『シビル・ウォー:イニシアティブ』:前半(『ニューアベンジャーズ:コレクティブ』に登場したコレクティブが、カナダの新ヒーローチーム、オメガ・フライトに入れられる話)と後半(スパイダーウーマンとミズ・マーベルの話)をブライアン・マイケル・ベンディス、中盤の新サンダーボルツの話をウォーレン・エリスが担当。アートは全編をトップカウ・プロダクションの社長マーク・シルベストリ(1990年代にマーベルを抜けてイメージ・コミックスを創設した一人。この頃はマーベル、DCで普通に仕事をするようになってる)が担当。
 要は、この後新創刊される『マイティ・アベンジャーズ』と、リミテッド・シリーズ『オメガ・フライト』、そして新制作陣によるテコ入れが行われる『サンダーボルツ』への導入(ちなみにオリジナルのコミックブックでは、巻末に『アイアンマン』『マイティ・アベンジャーズ』『キャプテン・アメリカ』『オメガ・フライト』『アベンジャーズ:イニシアティブ』のプレビューも掲載されており、さらに導入感が強かった)。
 新規タイトルへの露骨な導入でなく、かのマーク・シルベストリに丸々1冊描かせることで、新規タイトルに興味のない層の興味も惹くあたりが上手い。

 こちらはリミテッド・シリーズ『オメガ・フライト』#1-5(6-10/2007)の単行本。
 オメガ・フライトは、元々カナダのヒーローチーム、アルファ・フライトの敵として登場したチーム。何故か今回は、アメリカ・カナダ連合チームの名前に冠されている。
 新チームのメンバーはサスカッチ(元アルファ・フライト)、タリスマン(元アルファ・フライト)、アラクネ(元2代目スパイダーウーマン、アメリカから派遣された登録ヒーロー)、U.S.エージェント(同じくアメリカから派遣)、ガーディアン(元コレクティブ、嫌々アメリカから派遣される)。なお、表紙にもいるベータレイ・ビルは名誉メンバー扱い。


・『シビル・ウォー:チョージング・サイズ』:ヴェノム(マック・ガーガン、この後『サンダーボルツ』に出演)、アントマン(エリック・オグレディ。『シビル・ウォー』のイベント末期にオンゴーイング・シリーズ『イリディーマブル・アントマン』が創刊)、アイアンフィスト(ダニエル・ランド。『シビル・ウォー』最終号と同月に、新オンゴーイング・シリーズ『イモータル・アイアンフィスト』が始動)、U.S.エージェント(この後『オメガ・フライト』に出演)、ハワード・ザ・ダック(この後、2007年秋にリミテッド・シリーズ『ハワード・ザ・ダック』が刊行)……と、タイミング的に『シビル・ウォー』とタイインできなかったタイトルのキャラクターと、この後、編集部が推すタイトルに参加するキャラクターを主役に据えた短編集。一応、各話のライターやアーティストは、それぞれのシリーズの作家がなるべく担当してる感じ。

 なお、オリジナルのコミックブックの巻末には、謎の新ヒーロー、ガイディング・ライトが主役の短編が掲載されていたが、これは『シビル・ウォー』とは無関係な、老舗TVドラマ『ガイディング・ライト』とのコラボコミックであったので、当時、知らずに読んでちょっと混乱した(主観的感想)。

 この中では、エド・ブルベイカー&マット・フラクションが脚本を担当している『イモータル・アイアンフィスト』が好き(超主観)。
 

・『シビル・ウォー:ザ・リターン』:タイトル通り、とあるヒーローが“帰還”する話。当時、表紙のエンブレムをみて、「とあるヒーローが帰って来るのか!」と、筆者は非常に興奮した。
 で、彼の“正体”は、『シークレット・インベージョン』にて明かされるが、筆者的には「もうちょっと、こう、さぁ……」と思った。割といまだにマーベルに対して怒ってる(ザ・主観)。


・『シーハルク』#8:本業が弁護士のジェニファー・ウォルター(シーハルク)が主役のタイトルだけに、スタンフォード事件の関係者の裁判を題材に、1話でソツなくまとめたタイイン。
 掲載誌は、この後『アメイジング・スパイダーマン』を長期連載することとなるライター、ダン・スロットの出世作となったオンゴーイング・シリーズ。
「超人専門の法律家」であるシーハルクが、色々とキテレツな依頼をこなしつつ、ヒーローとして活動し、さらには私生活も満喫する感じのコメディタッチの内容。

※なおこのシリーズでは、ちょいちょい「第4の壁」が破られるが、この芸風は過去にジョン・バーンが『センセーショナル・シーハルク』誌でやってた奴(例えば『センセーショナル・シーハルク』#50では、バーンが死んでしまい、シーハルクが代わりの作家を探す)の継承であり、スロットのオリジナルではない。

 なお、ダン・スロットによる『シーハルク』は、2004年に創刊された『シーハルク(vol. 1)』(全12号)と、2005年末に創刊された『シーハルク(vol. 2)』(全38号でダン・スロットは21号まで担当、『シビル・ウォー』とタイインしてるのはこっち)の2種あるので注意。

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第53号『シー・ハルク:シングル・グリーン・フィメール』及び、小学館集英社プロダクションから刊行されてる『シーハルク:シングル・グリーン・フィメール』&『シーハルク:超人法規』は、いずれも『シーハルク(vol. 1)』からの邦訳である。

 上は小学館集英社プロダクションから刊行されている『シーハルク』全2巻へのリンク(何気にスロットの『シーハルク(vol. 1)』全12号を完訳してる)。

 ちなみに、ダン・スロットの『シーハルク』は、今では「オムニバス」や「コンプリート・コレクション」といった大ボリュームの単行本にまとめられているが、いずれの単行本でも『シーハルク(vol. 1)』と『シーハルク(vol. 2)』はシームレスに収録されてるので、本作を読んでスロットの『シーハルク』を読んでみるぜ、と思い立った方も、素直にvol. 1から読んでくのが良いだろう(vol. 1 なら邦訳版という選択肢もあるし)。


▼ブラックパンサー:シビル・ウォー

 『シビル・ウォー:ブラックパンサー』は、『ブラックパンサー(vol. 4)』#19-25を収録。同時期のブラックパンサーの物語の流れについては、過去のエントリでも語っているので、特に付け加えることはない。

 内容的には、直前の#18で結婚したブラックパンサーとストームが、新婚旅行で世界各国(あと月面)を巡ってく話。後半、アメリカに立ち寄った2人は、「シビル・ウォー」事件に巻き込まれ、アイアンマンと対立。なし崩しにキャプテン・アメリカ側に味方することとなるが(#22-25)……的な感じ。

 なお、前巻の『ブラックパンサー:ザ・ブライド』に収録されているブラックパンサーとストームの結婚式の回(#18)では、ブラックパンサーがキャプテン・アメリカとアイアンマンを結婚式に招き、超人登録法を巡って対立してる2人を仲直りさせようと目論むが、2人とも怒って帰る、というシーンが挿入されている。

 で、『ファンタスティック・フォー:シビル・ウォー』でも触れたが、『ファンタスティック・フォー』#543にて、ブラックパンサーとストームはファンタスティック・フォーのメンバーとなり、以降、『ブラックパンサー』誌に加えて、『ファンタスティック・フォー』誌でも活躍していく。

▼ピーター・パーカー スパイダーマン:シビル・ウォー

 収録作は、『センセーショナル・スパイダーマン』誌の#28-34。
 ……『センセーショナル・スパイダーマン』誌のタイイン話を収録してるのだから、普通に『センセーショナル・スパイダーマン:シビル・ウォー』のタイトルでよくないか?(どうでもいい疑問)

『シビル・ウォー』の作中で、ピーターがスパイダーマンのマスクを脱いだことで、ドクター・オクトパスのようなメジャー級から、ウィル・オ・ウィスプのようなマイナー級、そして「時々脅迫とかされてヴィラン化する」程度のモールトンマンまで、様々なヴィランがスパイダーマンを襲う話。
 単なるバトル展開でなく、ピーターの教え子(当時のピーターは母校ミッドタウン高校で教師をしていた)や、メリー・ジェーン、メイ叔母さん、ブラックキャット(フェリシア・ハーディ)ら、ピーターの周囲の人間が、劇的に変化した現状に思うところを掘り下げてるのが妙味。
 この辺は、『アメイジング』の方でピーターの感情の動きを充分に掘り下げているからできることであり、月3誌出してる『スパイダーマン』の強みと言える。

 ちなみに、『センセーショナル』誌の方では、カメレオン(ドミトリ・スメルダコフ)に脅されて嫌々スパイダーマンを襲っていたモールトンマンは、その後『シビル・ウォー:パニッシャー』の方で、本話と同様スケアクロウ(エベネーザ・ラフトン)と組み、シールドの指揮下でキャプテン・アメリカ一派を襲撃している。
 おそらく『センセーショナル』の一件で逮捕された後、シールドに身柄を引き渡され、恩赦とかと引き換えにキャプテン・アメリカ一派を襲うよう強いられたのだろう(その割には結構ノリノリでパニッシャーを襲っていたが)……などと想像すると、趣が出てくる(あまり書くことがないので、「趣」とかいう曖昧な話題でゴマカす奴)。
 なお、パニッシャーとの戦いで結構な重傷を負ったのか、以降の『シビル・ウォー』タイインにはモールトンマンは登場していない(2年後の『アメイジング』#581(2/2009)でやっと再登場するが、いまだに怪我から立ち直ってなかった)。


▼ヒーローズ・フォー・ハイヤー:シビル・ウォー

 収録している『ヒーローズ・フォー・ハイヤー(vol. 2)』誌は、『シビルウォー』合わせで創刊されたオンゴーイング・シリーズ(全15号。翌年の『ワールド・ウォー・ハルク』とのタイイン話で終了)。
 シリーズを立ち上げたライターのジミー・パルミオッティ&ジャスティン・グレイ(共に#7までで降板。#7を共著したゼブ・ウェルズが残りの話を書く)が少し前に担当していたリミテッド・シリーズ『ドーターズ・オブ・ザ・ドラゴン』#1-6(3-8/2006)からプロットや登場人物が引き継がれている。

『ドーターズ・オブ・ザ・ドラゴン』コリーン・ウィングとミスティ・ナイトのコンビが主役の格闘アクション。この系譜を継いだので、ヒーローズ・フォー・ハイヤーのメンバーも近接格闘を得意とする奴らが多い。


 で、「ヒーローズ・フォー・ハイアー(雇われヒーローたち)」は、その名の通り、ギャランティを貰ってヒーロー活動をするチームで、タイインでは登録法推進派の依頼を受け、未登録のヒーローらを逮捕する仕事に就くという、大体予想通りの話が展開される(ただしミスティらは、アウトロー寄りなアーバンヒーローなので、キャプテン・アメリカ一派にも同情的)。

 なお、収録話の内、『シビル・ウォー』とタイインしているのは#1-3までで、#4-5は通常営業回。後半でチームが直接対決するリカドンナは、『ドーターズ・オブ・ザ・ドラゴン』#1で初登場したヴィランなので、まあ、本作が琴線に触れたら、遡って『ドーターズ・オブ・ザ・ドラゴン』を読むのも良いかもしれない。

 巻末に収録されている『ブレイド(vol. 5)』#4は、実は原書の『シビル・ウォー』の単行本では収録が漏れてた話で(ヒドい)、日本オリジナルで本巻に収録されることとなった。

 内容的には、超人登録法のお蔭で、生ける吸血鬼モービウス(登録済み)は狩れないわ、シールドに逮捕されるわで散々なブレイドが、恩赦と引き換えにウルヴァリンの逮捕を命じられるが、実はブレイドは過去にウルヴァリンに借りがあったので……的な、まあ、「せっかくタイインしてんだから人気キャラクターをゲストに出そうぜ」的な話。
 個人的には、レギュラーアーティストのハワード・チェイキン(最盛期は1980年代なベテラン作家)のアートが、「歳とったなぁ」という感じで、哀しかった(知らぬ)。

 原書では、『ブレイド』#5は、後年、『ブレイド』の単行本第1巻(全2巻・全12号)に収録された。

▼サンダーボルツ:シビル・ウォー

  本単行本に収録された『サンダーボルツ(vol.2)』誌は、元々2004年末(「アベンジャーズ:ディスアセンブルド」の頃)に、『ニューサンダーボルツのタイトルで創刊された雑誌。
 当初は『サンダーボルツ』の生みの親であるカート・ビュシークと、ファビアン・ニシーザのライター2人が脚本を書いていたが、#7をもってビュシークが降板し、#8以降はニシーザが単独でライターを続けていく。

 こちらが『ニューサンダーボルツ』第1巻。旧サンダーボルツのマッハIVの提唱でチームが再結成するけど、旧リーダーのバロン・ジモ(独善が過ぎて他のメンバーに裏切られた)がチームに密かに介入を試み……的な導入。


 その後、『ニューサンダーボルツ』#18(4/2006)が刊行された翌月、マーベル編集部は『サンダーボルツ』関連誌が通巻100号になることを記念して、タイトルを『サンダーボルツ』に戻した上で、号数のナンバリングを#100にする、ということをした。

※この当時のマーベルは、やたら「通巻○号記念で、ナンバリングを大台の数字に変更する」ことをしていた。後からこの頃の話を読もうとすると、タイトルが変わったところで、別の単行本扱いになってしまい、「続きがどの単行本か分からねぇ!」ということになるので面倒くさい。

 上が『ニューサンダーボルツ』#13-18と、続きの『サンダーボルツ』#100(+『テールズ・オブ・マーベル・ユニバース』掲載のサンダーボルツのオリジンを描いた短編)を収録した第3巻、『ライト・オブ・パワー』。
 暗躍してたバロン・ジモがいらんことを積み重ねた結果、ニューサンダーボルツのメンバーのフォトン(ジェニス=ヴェル)が「宇宙を破壊する存在」と化してしまったので、ジモが新たに召集したサンダーボルツニューサンダーボルツと戦う(マッチポンプ)。で、色々あってフォトンを始末することに成功し、「正義のためには非情なこともするのだ」とか嘯くジーモは、なし崩しに2チームが統合した新生サンダーボルツのリーダーに収まるのだった……的な話。
 なお『ニューサンダーボルツ』の単行本はこの第3巻で終わり、続きは『シビル・ウォー』の括りで刊行された『シビル・ウォー:サンダーボルツ』に飛び、さらにその先は『サンダーボルツ』の単行本として出てるので、ちょっと調べただけじゃどの単行本に続いてるか分からない。うぬれ。

 ともあれ、本巻の収録話は『サンダーボルツ』#101-105。ただし『シビル・ウォー』とタイインしているのは#103-105で、前半の#101-102は「これまでのまとめ」と、「『シビル・ウォー』のその先にあるバロン・ジモの真の目標」を提示する話となっていて、まあ、ここだけ読んでも、ワケが分からない感じとなっている(いっそ、#101-102は読み飛ばしてもいいんじゃないかと思う)。

 てか、今までの流れだと、「この本を読んで刺さるものがあったら、『ニューサンダーボルツ』を読もう!」とか言ってるところだが、正直、ニシーザの『ニューサンダーボルツ』は、無条件でお勧めしづらい内容であるので、この項では自粛する。……いや、カート・ビュシークのオリジナルの『サンダーボルツ』が好きで、登場人物のその後が読みたい、とかいう方なら面白く読めるとは思うが(この時点で間口は狭い)。

 一応、本筋であるバロン・ジーモの真の目的は、本巻の続巻『サンダーボルツ:ガーディアン・プロトコルズ』(#106-109の4話しか収録してないので、100ページない)でさっくりケリがつく。
 最終的にジモは目的を達成するものの、味方の裏切りにより時空の彼方に消える。んで、色々あってサンダーボルツの中核メンバーも多くが脱落し、チームはソングバード、ムーンストーン、ソードマン、ラジオアクティブマンの4人だけとなるのだった。

※ちなみに『シビル・ウォー』本編では、タスクマスター、ブルズアイ、ヴェノム、レディ・デスストライクら、ビジュアル的に引きのある奴らがサンダーボルツの中核メンバーとして活躍しているが、ニシーザの『サンダーボルツ』本誌には、奴らは一切出てこない(本当に)。奴ら目当てでニシーザの『サンダーボルツ』を買ってはいけない(本気の目で)。

 ……かくて、バロン・ジモのサンダーボルツの時代は幕を引き、ファビアン・ニシーザはライターを降板。続く『サンダーボルツ』#110から、新ライター、ウォーレン・エリスを迎え、チームは新たな時代を迎える……のだが、その先の話は「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第73号、『サンダーボルツ:フェイス・イン・モンスターズ』にて語る。


▼ウォークライム:シビル・ウォー

 収録作は、

・『シビル・ウォー:ウォー・クライムス』#1:表題作であるワンショット。ライターはフランク・ティエリ。デアデビルに敗れ投獄中のキングピン(ウィルソン・フィスク)が、「シビル・ウォー」事件の混乱に乗じてトニー・スタークに接近。また一方で、暗黒街の競争相手を排除をするための計略も進める……という、策士としてのキングピンにフューチャーした佳作。
 作中ではキングピンの提供した情報により、登録推進派がクローク&ダガーを捕らえたことが語られているが、『シビル・ウォー』#5には、「クローク&ダガーがクイーンズで捕まった」旨のセリフがあるので、本作の時系列は大体この前後であることが分かる。

・『アンダーワールド』#1-5(4-8/2006、なお#4の発売と同月に『シビル・ウォー』#1が刊行):『ウォー・クライムス』に登場する暗殺者「アンダーワールド(ジャック・ディオ)」のオリジンを描いたリミテッド・シリーズ。こっちもライターはフランク・ティエリ。
 超人犯罪者の台頭で苦労を背負い、挙げ句に投獄されてたチンピラが、ひょんなことから超能力を手に入れた結果、諸々のしがらみを断ち切り、超人暗殺者となってしまう話。

 なお、『シビル・ウォー』タイインで箔をつけたアンダーワールドだが、どうもティエリがこの方面のコミックに興味をなくしたっぽく(また、彼をワザワザ拾おうという酔狂な作家もいなかったようで)、2025年現在も、アンダーワールドはコミックに再登場していない。


▼Ms.マーベル:シビル・ウォー

 収録作品は、当時刊行されていたオンゴーイング・シリーズ『ミズ・マーベル(vol. 2)』の#6-10と、増刊号『ミズ・マーベル・スペシャル』#1。

 アイアンマンら登録派ヒーローに全面協力しつつも、『シビル・ウォー』本編では全然出番がなかったミズ・マーベル(キャロル・ダンヴァース)の、「いや、あっちでは描かれてないだけで、普通に未登録ヒーローを捕まえたり、登録したヒーローらを教導していたのですよ」的な活躍を描きつつ、登録法の実際を巡るキャロルの葛藤が掘り下げる感じの話。

 ちなみに『シビル・ウォー』とタイインしているのは、#6-8の3話だけで、後半に収録されている#9-10と『ミズ・マーベル・スペシャル』は、タイインしてない通常営業回(タイイン以外の話も読めてお得、と考えよう)。こちらの話を読んで惹かれるものがあったなら、改めて第1巻から読んでいくのもいいだろう。

 一応、これが第1巻『ベスト・オブ・ザ・ベスト』。


 で、この『ミズ・マーベル(vol. 2)』誌は、2006年早春に創刊されたばかりのオンゴーイング・シリーズで、『シビル・ウォー』(#5-8)、「イニシアティブ」期(#13-17)、『シークレット・インベージョン』(#25-30)、「ダーク・レイン」期(#34-46)と、コンスタントにマーベルのイベントとタイインしつつ、全50号で完結した(ライターは、ブライアン・リードがシリーズを通じて担当)。

 なお、後半の「ダーク・レイン」期のアーティストには、後年にアイズナー賞、ハーベイ賞、ヒューゴー賞を受賞するタケダサナが起用されたことで話題を呼んだ。
 

 タケダサナ担当回は、『ミズ・マーベル』のオリジナルの単行本の第7~9巻(全9巻)に収録。なおタケダはペンシル、インク、カラーリングを一人で担当していたためか、毎号は描けてなかったりする(ザックリ言えば、第7巻の2割程度、第8巻の6割、第9巻の半分くらいのアートを描いてる)。

 なお、ブライアン・リードの『ミズ・マーベル』全50号+αは、現在では単行本『キャプテン・マーベル:キャロル・ダンヴァース ザ・ミズ・マーベル・イヤーズ』全3巻にまとめられている。全話読もうというならこちらを。

 あと、タイインの作中に登場するアラーニャは、元々は「スパイダーマンっぽい新ヒーロー」のコミックを掲載する『アメイジング・ファンタジー(vol. 2)』誌の#1(8/2004)で初登場したヒロイン。
 秘密結社スパイダー・ソサエティと敵対組織との戦いに巻き込まれた少女アーニャ・コラソンが、ソサエティの魔術師によって超能力を与えられ、「アラーニャ(スペイン語のクモ)」を名乗り、ソサエティの選ばれし戦士「ハンター」として活動していく……的な話。

 同誌での連載は、#6(1/2005)で一旦終了するも、2005年から始動した「マーベル・ネクスト」の一環として、彼女が主役の全12話のリミテッド・シリーズ『アラーニャ:ザ・ハート・オブ・スパイダー』#1-12(3/2005-2/2006)が刊行されたり、スパイダーマンと共演するワンショット『スパイダーマン&アラーニャ:ザ・ハンター・リベールド』#1(5/2006)が出るなどして、そこそこの知名度を獲得。そこからの流れで『ミズ・マーベル』誌にも、良い役回りでゲスト出演することとなる。

 あとスゲェどうでもいいが、『シビル・ウォー』真っ盛りの2007年にタイヨーエレックから発売されたパチンコ台「CRマーベルヒーローズ」に、アラーニャは結構目立つ役回り(通常大当たり後のチャンスタイム専用キャラクター)で登場しており、極々一部のマーベルファンに好評を博した。

(ただ、この当時そこそこ推されていた割には、単独のオンゴーイング・シリーズを獲得できるほどにはブレイクできなかった)

※アラーニャは邦訳作品では、『スパイダーバース』とその続編で活躍してるので、気になる方はそちらを(ただし、『スパイダーバース』当時は「スパイダーガール」に改名してる上、コスチュームも変わってるが)。


▼フレンドリー・ネイバーフッド・スパイダーマン:シビル・ウォー

 『シビル・ウォー』開幕当時、ミッドタウン高校の教師だったピーターが、作中で正体を明かしたことで、学内に広がる波紋と影響に焦点を当てた話。
 前半はピーターが正体を明かした直後、後半はピーターが反登録派に鞍替えした後という、それぞれ大きく変化した状況下で、ピーターと学校との関わりが描かれる。

 今回、3代が登場したミステリオについて。

・初代クェンティン・ベック:スタン・リー&スティーブ・ディッコが創造した最古参ヴィランではあるが、いまいち目立たないまま禄を食んできた地味キャラクター。
 1998-1999年にかけて展開された『デアデビル』#1-8(11/1998-6/1999)の「ガーディアン・デビル」編で、デアデビル相手に最後の打ち上げ花火を放った後に自殺。
 その後7年ほど死んだままだったが、本話でなんかオカルティックに復活し、散々意味深なことを呟く。が、この辺の話にフォロー(本当にオカルトで復活したのか、それとも狂言か)が入る前に『スパイダーマン』誌が大規模なリニューアルイベント「ワン・モア・デイ」と「ブランニュー・デイ」に入ってしまったため、ベックの復活の詳細は放置された(今なお、復活の真相は不明)。まあ、少なくとも「生きてる」と明言されて、以降もコミックに登場できてる分、他の二人よりはマシだが。

 小学館集英社プロダクションから刊行されてる『スパイダーマン:ブランニュー・ディ』の電子書籍版。『シビル・ウォー』以降、どん底に落ちたピーターだが、紆余曲折の末になんかすごい魔法で「ピーター・パーカー=スパイダーマンである」という事実は全人類の記憶から消去され、新たな物語が始まる。めでたしめでたし(めでたくない)。

・2代目ダニエル・バークハート:獄中でいつの間にか死んでいた初代ミステリオに代わり、『アメイジング・スパイダーマン』#141(2/1975)にてミステリオとして活動を開始(※)。一時期はジャック・オー・ランタンのコスチュームを着て、マッド・ジャックを名乗り活動していたが、初代ミステリオが自殺したのを受け、2代目ミステリオに復帰した。
 なお、本話以降、バークハートはコミックに再登場しておらず、現在まで消息不明。多分生きてはいると思う。多分。
 ちなみに、エージェント・ヴェノム(フラッシュ・トンプソン)が主役を務める『ヴェノム(vol. 2)』誌でセミレギュラーとして登場したジャック・オー・ランタン(本名不詳)は、作中で「自分は、過去にジャック・オー・ランタンを名乗ってた奴らを皆殺しにした」とかフカしており(本当かどうかは不明)、一部のファンは「なら、バークハートも殺されてんじゃね?」とか考察している。

※この#141の前に初代ミステリオが誌面に登場したのは『アメイジング』#67(12/1968)。それから7年放置された挙げ句、#141で、スパイダーマンのモノローグで死んだことにされた(扱いが悪すぎる)。
 なおその後、ベックは「死を偽装していた」として、シレッと復帰した(扱いが適当すぎる)。
 この件があるせいで、本話での初代ミステリオの復活の経緯が「オカルトじゃなく、また偽装だった」可能性もあるのである(とても面倒くさい)。

・3代目フランシス・クラム:「ガーディアン・デビル」編のライターのケヴィン・スミスがその後手掛けたリミテッド・シリーズ『スパイダーマン/ブラックキャット:ジ・イビル・ザット・メン・ドゥ』#1-6(8-10/2002, 2, 2, 3/2006、スミスが映画『クラークス2』の監督業のために3号で刊行が止まり、4年後に突然復活して完結)で初登場。テレポート、テレパシー、テレキネシスを操るミュータントの麻薬密売人で、特にコスチュームとかは着ずに、私服で活動。
 同作の最終話でスパイダーマンと戦う羽目に陥ったクラムは、逃走の際の事故で顔面に修復不可能な傷を負い、オマケに右足も失う。で、逆恨みで本格的にヴィランになる決意をした彼は、ラストでキングピンからミステリオのコスチュームを買い、新ミステリオを目指すのだった(ミステリオが自殺する話を書いたスミスが、しれっと「僕の考えた新ミステリオ」をお出しするこのラストは、個人的にはなんか嫌い)。
 なおクラムは本話でミステリオとして初登場したものの、以降、特に再登場せず、10年ほど放置された。
 で、2016年秋に刊行されたリミテッド・シリーズ『クローン・コンスピラシー』#1-5(12/2016-4/2017)の作中に登場した「それぞれ何らかの事情で死んでたが、クローン技術により復活を遂げたスパイダーマンのヴィラン軍団」の中に、ミステリオ/フランシス・クラムがいたため、いつのまにかクラムは死んでたことになった(多分、本話ラストのアレで死んだのだろう)。そして同作のラストで再生ヴィラン軍団は十把一絡げで死んだので、多分、クラムもまた死んだと思う(曖昧)。

 こちらは『クローン・コンスピラシー』の邦訳版。イカれたジャッカルのクローン技術で、スパイダーマンの昔のヴィランはおろか、あの人やあの人やあの人までもが復活してしまう……という、非常に突拍子もない話。ライターは『スパイダーバース』のダン・スロット。

 あと本話で意味ありげに登場したミス・アローは、この少し前、『ハウス・オブ・M』の直後の『スパイダーマン』関連誌で展開された「ジ・アザー」編に関連するキャラクターで、この後の「バック・イン・ブラック」編でその正体が明かされる。


 それから本話の後半に登場するデブ・ウィットマンは、『アメイジング・スパイダーマン』#196(9/1979)にて初登場したエンパイア・ステート大学の職員。当時同校の学生だったピーターと、幾度かデートをしている。ピーターが実はスパイダーマンなのでは……という妄想にふけったり、DVを働く夫をかたくなにかばったりと、少々情緒に不安定なところがあった。
 やがて『スペキュタクラー・スパイダーマン』#74(1/1983)で、ピーターによるショック療法(自分がスパイダーマンだと打ち明けた)により、精神の安定を取り戻した彼女は、DV夫との離婚を決意しつつ実家に帰り、誌面から退場した(なお、ピーターがスパイダーマンだというのは「ショック療法の為のお芝居」だと思っていた彼女だが、本話でそうではなかったことを知る)。

 あとフラッシュ・トンプソンは、少し前の『ピーター・パーカー:スパイダーマン』#45(8/2002)で、グリーンゴブリン(ノーマン・オズボーン)が仕組んだ自動車事故で重傷を負い、長らく昏睡状態にあった。
 ピーターらの尽力で意識を取り戻したフラッシュだが、記憶障害により大学以来のピーターとの友情を忘れ去り、本作冒頭では、高校時代の様にピーターを軽く見るようになっていた(が、本作中で大分記憶が戻った上に、「ワン・モア・デイ」後の設定リセットにより、再びピーターの良き友人になる)。

▼アンダーサイド:シビル・ウォー

 収録作は、『ムーンナイト(vol. 5)』#7-12と、『ゴーストライダー(vol. 6)』#8-11。

 邦訳版『シビル・ウォー』タイインでは、一番最後に出た巻。最後の最後に出ただけあって、『シビル・ウォー』本編との関わりが薄い作品をカップリングしている(タイトルの「アンダーサイド」は「下側」「裏面」などを意味する)。

 ムーンナイトの掲載誌である『ムーンナイト(vol. 5)』は、クライムノベル作家のチャーリー・ヒューストンを招いて創刊された、ムーンナイト的には久々のオンゴーイング・シリーズ。
 仇敵ブッシュマンとの文字通りの死闘の末に肉体と精神の双方に深い傷を負って引退したムーンナイト(マーク・スペクター)が、色々あって復帰し、疎遠になってた旧友たちとの絆を回復させたり、彼が殺したブッシュマンの幻影(その正体については、最初のストーリーアークで明かされる)にツッコミを受けつつ、過剰なヴィジランテ活動に邁進していく話。
 ムーンナイトの殺伐とした精神を体現したかのようなデヴィッド・フィンチの荒々しいアートが人気を集めた。

 本編(「ミッドナイト・サン」編)は、マイペースに復活を目指すムーンナイトが、更なる過去の因縁にケリをつける感じの話だが、折々で『シビル・ウォー』関連キャラクター(ムーンナイトの暴力にドン引きのスパイダーマン、「シビル・ウォーには関わるな」と釘を刺しにくるキャプテン・アメリカ、共闘しながら「どっちに就く?」と訊ねるパニッシャー、「登録しろ(諦念)」と声がけするアイアンマン)が登場し、イベントとのタイイン感を醸し出しつつ、カタギのヒーローらとムーンナイトとの距離感を描き出しているのが巧い。

 なお、本作のヴィランのミッドナイト(ジェフリー・ワイルド)は、1つ前のオンゴーイング・シリーズ『マーク・スペクター:ムーンナイト』#4(5/1989)にて初登場。ムーンナイトの旧敵ミッドナイトマンの息子ながら、ムーンナイトのサイドキックに志願した青年だったが、無謀な性格が災いし、『マーク・スペクター:ムーンナイト』#19(10/1990)において、秘密組織シークレット・エンパイアとの戦いで死亡した。

 
 その後、『アメイジング・スパイダーマン』#353-358(11/1991-1/1992、隔週刊)で展開された「ラウンド・ロビン」編で、「実はミッドナイトはシークレット・エンパイアによって、サイボーグに改造されて生き延びていた」ことが判明。ムーンナイトを逆恨みするミッドナイトは、シークレット・エンパイアのサイボーグ部隊を率いてスパイダーマン、ムーンナイト、パニッシャー、ナイトスラッシャー、ダークホーク、ノヴァらと戦うも、最終的に己の境遇に絶望し、シークレット・エンパイアの施設を巻き込み、自爆する……が、やっぱり生きていて、本話にて15年ぶりに再登場する(チャーリー・ヒューストンも良く拾ったものだと思う)。


 こちらは「ラウンド・ロビン」編を含む、『スパイダーマン・エピック・コレクション:ラウンド・ロビン』。
 「ラウンド・ロビン」自体は、まあ、1990年代初頭の「ゲストを沢山呼んで、既存のキャラクターに悲劇的な運命を与えて話を作ろうぜ!」的な空虚なイベント(ミもフタもない)。

 どうでもいいが、長らく単行本化もされていなかった『マーク・スペクター:ムーンナイト』誌だが、2023年、2024年に大判の「オムニバス」全2巻が刊行され、今や手軽に全話が読めるようになった。ありがたい。

『マーク・スペクター:ムーンナイト・オムニバス』第1巻。『マーク・スペクター』誌の前半部他に加え、「ラウンド・ロビン」編も完全収録しているので、ミッドナイトファンも安心だ。

 なお、ヒューストンは#13でライターを降り、以降はマイク・ベンソンが後任となる。上は『ムーンナイト(vol. 5)』の単行本へのリンク(全30号、薄い単行本5冊分)。


 こちらはヒューストン&ベンソンの『ムーンナイト(vol. 5)』に加え、その後継誌の『ヴェンジャンス・オブ・ムーンナイト』#1-10、ワンショット『ムーンナイト:サイレント・ナイト』、リミテッド・シリーズ『シャドウランド:ムーンナイト』#1-3と、2006~2010年にかけて(「シビル・ウォー」~「ヒロイック・エイジ」まで)の『ムーンナイト』関連タイトルをヤケクソ気味に網羅した1160ページ(!)の『ムーンナイト・バイ・ヒューストン, ベンソン&ハーウィッツ・オムニバス』。


 一方、後半収録の『ゴーストライダー(vol. 6)』は、ガース・イニスが脚本を書いたリミテッド・シリーズ『ゴーストライダー(vol. 5)』(単行本化の際に『ロード・トゥ・ダムネーション』のサブタイトルが付く)のヒットを受けて始動したオンゴーイング・シリーズで、ライターは『ウルヴァリン:オリジンズ』も書いてるダニエル・ウェイ。
 内容的には、『ゴーストライダー(vol. 5)』のラストからそのまま続いており、依然、地獄に囚われているゴーストライダー(ジョニー・ブレイズ)が現世に帰還しようと画策するところから物語は始まる。
 でー、#1のラストでゴーストライダーは地獄からの脱出に成功するものの、実は彼と一緒に脱出したザコ悪魔の正体が地獄の王ルシファーだったことが判明。現世でルシファーの魂は666の破片になって世界中に(まあ、主にアメリカ中に)散らばり、死者に憑依して、混乱を撒いていく。
 やがて天の遣いからこの事実を告げられたジョニー・ブレイズは、ルシファーを現世に解き放った責任を取るため、分身を倒すことを決意する。

 なお、面倒なことに、ルシファーの分身が殺されると、残った分身がその分パワーアップするという設定で、ルシファーは自分でも分身を殺すことで、最終的に現世で100%のパワーを取り戻すことを目論んでいる。一方、ゴーストライダーは、とりあえずその辺で悪さをしてるルシファーの分身を始末して回ってるけど、最終段階の100%ルシファーには流石に勝てないので、この先どうしたものかと思ってる……的な状況で物語は進む。

 で、本タイインは、『シビル・ウォー』#5(及び『パニッシャー:ウォージャーナル』#1)でパニッシャーに射殺されたジャック・オー・ランタン(スティーブ・レヴィンス)の遺体にルシファーの魂の欠片が憑依し、田舎町で暴れ回るという、もはや1点でしか『シビル・ウォー』と接してない感じの話。

 ちなみにダニエル・ウェイはその後『ゴーストライダー(vol. 6)』#19(3/2008)をもって同誌を降板した(ルシファーの欠片の件も、この号で決着)。

 上は『ゴーストライダー(vol. 6)』#1-19を集めた単行本、『ゴーストライダー・バイ・ダニエル・ウェイ コンプリート・コレクション』。


 で、続く#20からはジェイソン・アーロンがライターとなり、天界への反抗を目論む大天使ザドキエルが新たなボスとして立ちはだかる。さらにはジョニーの弟であるダン・ケッチ(ゴーストライダー)も再登場したりする。

 こちらは、ジェイソン・アーロンが担当した『ゴーストライダー(vol. 6)』#20-35+αを集めた『ゴーストライダー・バイ・ジェイソン・アーロン オムニバス』。『ゴーストライダー(vol. 6)』は#35+増刊号で完結しているので、ここで挙げた2冊を買えば、全網羅できる。


 以上。満足。


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本業は編集者/ライター。書籍の編集をしたり、サブカル方面の原稿を書いて日銭を稼ぎつつ、趣味でアメコミの単行本(TPB)を読む男。好きなキャプテンはキャプテン・マーベル。
■補足:邦訳版『シビル・ウォー』リーディングガイド|TPB-Man
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