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共同親権で家裁「パンク寸前」か、増員16人に「焼け石に霧」と批判…現場から悲鳴も
家庭裁判所(ペイレスイメージズ 2 / PIXTA)

共同親権で家裁「パンク寸前」か、増員16人に「焼け石に霧」と批判…現場から悲鳴も

民法改正により、来年4月から「共同親権」が導入されるのを前に、最高裁が家庭裁判所調査官10人、家事調停官6人の増員を求める予算要求をおこなっていたことが、11月20日に開かれた参院法務委員会で明らかになった。

共同親権の導入によって家庭裁判所の業務量が増加することは確実視されている。しかし、現場ではすでに深刻な人手不足が指摘されており、初年度の増員が16人にとどまったことについて、離婚問題にくわしい弁護士らからは「焼け石に水どころか、焼け石に霧」と厳しい声が上がっている。

●家事事件で重要な役割を持つ家裁調査官

家裁調査官は、家事事件や少年事件について当事者から事情を聞き取り、裁判官に意見を報告する専門職(裁判所法61条の2)。

家事事件では、子どもの面接などを踏まえ、子どもの利益にかなう解決案を探る役割を担う。少年事件では、非行に至った背景や更生のための支援方法を調査し、裁判官に報告する。

家事調停官も、裁判官と同様の権限を持ち、調停委員とともに調停手続きを進める。いずれも、共同親権導入後は、これらの職種の重要性がさらに増すことが予想されている。

●付帯決議は「家裁人員の増員不可欠」と指摘

参院法務委員会で横山信一議員は、裁判官の定員3020人に対して実員は2753人にとどまり、家裁調査官の今年度の増員も5人にとどまった現状を問題視した。

さらに、婚姻関係事件の審理期間が長期化している点にも言及。1年以上かかる件数は2006年の1484件から2024年には7504件へ約5倍に増加。監護権事件も約6倍に増えており、家庭裁判所の負担は急増しているという。

これに対して、最高裁は、裁判官の効果的な関与や、調停回数の目安設定、ウェブ会議の活用など、運営改善に取り組んでいると説明した。

共同親権の導入後はさらなる負担増が確実で、こうした背景から、衆参法務委員会の付帯決議では「家裁の人員(裁判官・調官)の増員が不可欠」と明記された。

最高裁は「裁判所に期待される役割を果たすためには、改正家族法の趣旨を踏まえた安定的な事件処理が重要であり、そのための体制整備を進めている」と答弁した。

●弁護士からは「すでに限界」との声

一方、家族の問題にくわしい岡村晴美弁護士は、現状について、次のように指摘する。

「家庭裁判所では事件が滞留しており、調停期日が月に1回も入らず、2〜3カ月後に指定されるケースもあります。共同親権導入で事件数がさらに増えると言われる中、たった16人の増員で乗り切れるとは到底思えません」

岡村弁護士は、全国の裁判所職員でつくる「全国司法労働組合」の決議(2025年7月22日付)を引用し、現場の逼迫ぶりを説明する。

「現在でも、家庭裁判所では初回の調停期日が後ろ倒しになり、職員は昼休みも当事者対応をしなければならない状況で事務処理に追われていますが、これに加えて改正民法の施行によって事件数が増加すれば、職場が繁忙になることはもとより、適正迅速な事件処理の面でも大きな支障が生じることが危惧されます」(2025年7月22日付の全司法労働組合第82回定期大会決議)

少年事件は減少傾向とされてきたが、2023年には増加に転じている。岡村弁護士は「デジタル化が進んでも、人的・物的基盤が整っていなければスムーズな運用は困難で、マンパワー不足は解消されないでしょう」と強調する。

●共同親権で争点が複雑化、事件は増加必至

共同親権が導入されると、どのような変化が生じるのか。岡村弁護士は、申し立ての手続きの増加と争点の多様化を予想する。

「離婚調停や婚姻費用(生活費の取り決め)、面会交流など、従来から多かった手続きに加えて、監護者指定(どちらが子どもの生活を中心的にみるのか)や監護の分掌(子育ての役割分担)、居所指定(子どもがどこで生活するか)など、親権の使い方を細かく決めるための手続きが増える見込みです」

同一の父母間で並行する争いが増え、事件処理の複雑化は避けられないという。また、改正法では、DVや虐待のあるケースは単独親権を原則としたため、調停の冒頭からDVや虐待の有無を明らかにする必要が生じるという。

「当事者間の対立が激しくなる可能性が高く、事件1件あたりの処理時間は今まで以上に長くなると思います」

弁護士の間から「焼け石に水どころか焼け石に霧」との声が上がるのも、この見通しに基づく。

●裁判所ひっ迫で起きかねない「重大な影響」

共同親権導入後は「すでに離婚しているケースで、単独親権から共同親権への変更申し立てが起こることも予想されています」(岡村弁護士)。

また、子連れで別居しているケースや、進学先を決めなければならないケースでは「『後から違法と言われるのではないか』と不安に感じた親が、念のために監護者指定や親権の使い方をめぐる申し立てを防衛的に起こす可能性もある」(岡村弁護士)という。

家庭裁判所の判断への懸念もあると岡村弁護士は語る。

「DV事件を扱う弁護士の多くは、家庭裁判所が適切に判断できているとは考えていません。面会交流の場面でも、DVが理由で面会が制限されている実感はあまりありません。

さらに事件が増え、調停の運営が立ちゆかなくなった場合、『説得しやすい方』=主張が通しやすい側を裁判所が優先してしまい、DV被害者の恐怖や訴えが軽視されるのではないでしょうか」という強い懸念も示している。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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