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「冤罪救えない」再審法改正めぐり元裁判官63人が共同声明、法制審に"異例の物言い"相次ぐ
法制審議会が進める再審法改正の議論の問題点を説明する元裁判官ら(2025年12月3日/東京・霞が関の司法記者クラブ/弁護士ドットコム撮影)

「冤罪救えない」再審法改正めぐり元裁判官63人が共同声明、法制審に"異例の物言い"相次ぐ

元裁判官63人が12月3日、えん罪被害者の「真の救済」を可能とする再審制度の実現を求める"異例"の共同声明を出した。

「裁判官は弁明せず」と言われるように、判決以外では自身の考えを公に語ることは少ない。

しかし、これだけ多くの裁判官OB・OGが一斉に声を上げる事態について、再審法を研究する専門家は「空前絶後だ」と評している。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●「これからの裁判官に武器を与えてほしい」

裁判のやり直しに関する「再審法」をめぐっては、現在、法制審議会で改正に向けた議論が進んでいる。

しかし、証拠開示や検察官による不服申し立て禁止などの論点について、委員から慎重な意見が多く、「現状よりさらに後退する」「えん罪被害者を救えない」と批判が高まっている。

こうした状況を受けて、この日、再審請求審を担当した経験のある元裁判官らが東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開き、法制審の議論に対して「再審事件の審理の実情を踏まえることなく、現状を安易に肯定するような意見には到底賛同できない」とうったえた。

共同声明の呼びかけ人の一人で、元大阪高裁判事の井戸謙一弁護士は「私も含めて裁判官は反省すべきだが、冤罪被害者を救うためには武器が必要で、それが証拠開示の制度です。これからの裁判官にぜひ武器を与えていただきたい。抜本的な再審法の改正を望みます」と話した。

また、元名古屋地裁所長の伊藤納(おさむ)弁護士は、裁判官退官後に冤罪被害者から直接話を聞く機会があったと振り返る。

「裁判所はなんて大変なことをしてきたのかと思った。通常審の裁判官や検察官にとって、最後の最後には検証される機会があるということになれば、より慎重に仕事をするようになると思います」(伊藤弁護士)

●法制審の委員は「再審法の論文一本も書いていない」

会見には、再審法を研究している成城大学の指宿信教授も同席した。

60人を超える元裁判官が共同声明を出したことについて、「私が知る限りない。空前絶後ではないか」と述べた。

また、法制審の部会委員について、過去に再審法に関する論文を書いている人が一人もいなかったとして、「なぜ一本の論文も書いていない研究者ばかり集めるのか。これが医療の場だったらどうですか。不適切な人選をするという狙いがあるということだ」と強い懸念を示した。

●法制審の方向性「改悪以外の何ものでもない」

共同声明は、過去の再審無罪事件の多くで「捜査機関の下で眠っていた証拠」が決め手になったことに触れ、現行法に検察官の証拠開示義務がないため、「再審によるえん罪救済が極めて困難で、救済できたとしても長期間を要している」と問題点を示した。

さらに、法制審の委員からこうした現状を問題視しない発言が出ていることについて、「現状よりも明らかに証拠開示の範囲を狭める結果をもたらすもので、改悪以外の何ものでもない」と厳しく批判した。

●検察官抗告禁止への反対は「まったく現状の改善につながらない」

検察官の不服申し立て(抗告)についても、共同声明は次のように指摘する。

「再審開始決定は再審が開始されるだけの中間的な決定であり、検察官は再審公判で有罪の主張・立証ができる上、当事者ではないのに不服申立権を認めることは上訴制度一般と整合しない。

検察官抗告を禁止すべしとの意見は、この不服申し立てによってえん罪救済が長期化し、えん罪被害者に回復し難い苦難を与えているという現状、立法事実に根ざしている。これに反対する意見は、このような現状に目を瞑るものであり、これでは全く現状の改善に繋がらない」

最後に共同声明は、「国会には、その目的に沿って、速やかにこの法案の審議に入ることを求める。(法制審の)部会には、現状を見据えた上でその目的に沿った議論を尽くし、我が国の再審制度が真にえん罪救済のための実効性のあるものとなるような答申をされるよう強く求める」と結んだ。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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