マシュマロでも食べる?   作:コサメ

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今回妄想多目
容認できる人のみ、この門を潜って下さい
あ、1話目も妄想多かったわ
ただし、今回他作品ネタが多い……申し訳ありません
たとえば、「私でないと見逃してたね」とかかなぁ

なので、苦手だと思う方は、ブラウザバック推奨




アキナのお誕生日……

 誕生日。それは一年に一度ある自分だけの祝日。実際に学校が休みになることはないが、休んでも「べつにいっか」と自分を許してしまいそうになる、特別な日。

 家族から、友人から、恋人から、自分の生まれた日を祝われ、自分との出会いを感謝され、自分の存在を肯定してもらう日。それが世間一般の認識であり、私達も享受されるべき記念日。

 

 と、前世の親が言っていた。

 

 誕生日の起源は諸説あるが、確かなことはない。解っているのは、遊牧民族では誕生日を祝う文化がなく、農耕民族では祝われる文化が多い、ということ。当然日付が大事だと判る。暦の概念。

 日本でも古代から誕生日祝いが行われてきた。そういった文献がある。ただし、皇族とか貴族とかの話で、一般人の記録はない。中国では儒教的な考え方から祝われない、とかなんとか。随筆集であり古典の『菜根譚』に「子生まれて母危うし」とある。子が生まれる時は、母の命が危うくなった日、と捉えるらしい。宗教や文化、国によって考え方が違う。

 日本で一般的に誕生日が祝われるようになったのは、西欧文化との接触が関係するのだろう。やはり創世記とかイエス・キリスト生誕祭(クリスマス)とかが関係しているのだろうか? どこでも宗教が関係している。大事なのだ。人々にとって、生まれた日というのは、きっと、特別な日なのだ。そこから哲学・宗教・文化・文明にとって大事な日になっているのだ。

 

 しかぁし、私は誕生日が嫌いである。大っ嫌いである。

 

 アニメや漫画、小説だと、主人公はヒロイン達に囲まれて、誕生日を迎える。あるいは一言でも声を掛けてもらい、自分の存在を認識してもらっていると実感する。妹から姉から幼馴染から、ロリ母からツンデレ後輩からミステリアス先輩に至るまで、色々な属性の人から祝われる。まるで救世主を斎うように、誕生日ケーキが焼かれる。それが主人公。

 私? そんなもんありゃしませんでしたよ。暗くも明るくもない中途半端とでも言える誕生日。幸福は日常になれば感じないし、不幸と言えるほどの不幸はそもそも訪れない。良く言えば「平穏」、悪く言えば「退屈」。だいたいの一般人なら一度は抱く不満、とは私の場合、ちょっと違うが。

 

 まず、『祝い』と『呪い』は字が近い。部首の違いだけ。また、手元の辞書では、『礻』は「神様へ生贄を捧げる台」の象形とある。『口』に関しては、「神様へ祈りを捧げる文を入れた器の形」と白川静博士は言っている。つまり、〝神様に捧げる〟という部分は一致する訳だ。それが「生贄」⇔「祈りの文」か、「台」⇔「器」かの違い。近いのだ。

 そう近いのだ。誰がなんと言おうと近いのだ。飛躍が過ぎるとか、そもそも学会で認められていないとか知らない。『祝い』と『呪い』は同じなんだ。

 

 私は誕生日に両親以外から声を掛けられたことなんて一度もなかった。主人公みたいに? 可愛い子に話し掛けられたり、クラスメイトから祝われたり、部活動の先輩後輩といちゃいちゃしたり、そんなのはなかった。両親を除く誰一人として今までに祝いの言葉はなかった。

 え? そんなこと現実的に考えてあり得ないって? 幼稚園とかではお誕生日会が開かれるって? 誰一人、というのはあり得ないだろうって? …………普通ならそう考えるだろう。

 

 今までの前世30年+今世15年=45回分ある誕生日全てで風邪を引かなければのお話。

 

 私の不幸はこれに尽きる。どんな確率だよ、と思われるかもしれない。これ自体がそもそもあり得ないだろう、と。私も実際に思う。他人が言っていたら、「嘘だろwww草生えるwww」と草に草生やしてた。けれど、事実は変わらないものだ。記憶にない1歳の頃も風邪を引いたらしい。親から聞いた。母子手帳にも書かれている。お薬手帳を見ると、毎年誕生日に薬もらっている。これが証拠です。

 不幸と言ったが、不幸という不幸でもない。もっと酷い人生の人はいるだろう。家庭内不和とか友達が不良とか希望大学に受からないとか、そもそも誕生日を祝う文化がないとかが挙げられるだろう。誕生日くらいで泣き言を言うな、と。そう自分の心が叫ぶ。もっと不幸な人間がいるのだ。誕生日ごときで嘆くのは申し訳ない。誰に聞かれて誰を傷つけるとも知れないのだから、愚痴も言えない。

 

 待て待て待て、と。当日祝われなかったとしても後日とか前日に祝われるものではないのか? それで満足じゃないのか? と世の全てのリア充どもは思うだろう。しかし、私の場合は、なかった。そもそも誕生日というのを覚えられた試しがない。

 可愛い子にもクラスメイトにも、友達と言える……友達だったよな? 友達で合っているよな? にも覚えてもらえなかった。言ったのに、前日に勇気出して言ったのに、「それで?」「よかったね」で終わった。やっぱあいつは友達じゃねーわ。知ってる。アニメや漫画で見た。友情・努力・勇気だ。え? アニメや漫画は空想の産物だって? ケッ、やってられっかよ! ヤツは友達じゃない。これは結論だ。たぶんQEDだ!

 

 しかし、今世は違う。私は転生した。ブルアカの世界にいる。きっと誰かが祝ってくれるはず。サプライズパーティーのような架空の催しじゃなくてもいいが、祝ってくれるはず。それが好きな子なら、尚良し。という訳で、私は教室のドアを潜った。

 

「ナツぅ~! おはよう~!! 愛しい愛しい我が最愛の人~!!!」

 

 教室にいた全員が呆れた顔をした。それを気にせず、少女に声を掛けた。桃色の髪を右サイドテールにし、トリニティ総合学園の制服を着こなす少女。黒ニーソとスカートの間の絶対領域が机の下に隠れ、それがまたたんまらない。

 柚鳥ナツ。私の愛する人だ。

 ん? と振り向くナツ。サイドテールが揺れ、軽く弧を描く。赤い虹彩に白い瞳孔。眠そうな目。ぷくりとした唇。ああ、かわいい。

 

「おはよう、アキナ。今日も元気だね」

「ん゛ん゛っ゛! 今゛日゛も゛推゛し゛が゛可゛愛゛い゛!!」

「…………毎日言っているよね、それ」

 

 呆れ顔。それがまたよい。たまらない。箱牛乳を片手にストローで中身をちゅうちゅう吸っている。ああ、ストローになりたい。

 

 ハッと気が付く。ナツがこちらに身体を向けている。当然、脚もこちら側にあり、ちょうど椅子に座っている。何を言うかというと、あの絶対領域が、見えそうで、見えない!?

 

「アキナ、座らないの?」

「……」

「アキナ?」

「……このまま眺めてみるのもいいか」

「…………どこ見て言ってるの?」

 

 おっと近付き過ぎていた。ナツがすごいジト目である。さっと目を逸らす。まったく怪しからん。顔が熱い。

 私はナツのこと好きだが、そういう目で見ている訳ではない。純粋にナツが好きなんだ! だから、この欲望よ! 滅せよ! 滅せよ!

 

 クラスメイト達から、「またやってる」とか「急に頭叩き出した、こわ」とか聴こえるが気にしない。私は自分の欲望を滅せないといけないのだから! カメラに撮りたいとか思ってしまった自分は汚らわしい!?

 

「…………まぁまぁ、落ち着いて、アキナ」

「な、ナツ?」

 

 ナツが両肩をぽんぽんと叩く。そこで覚醒。わ、私は一体何を? 目の前にナツがいた。かわいい。

 

「とりあえず、席座ろ?」

「はい!」

 

 私はナツと一緒に座る。同じ席に。

 

「…………アキナ、アキナの席はここじゃないよ?」

「知ってる。ナツの後ろの席だって知ってる。だけど、ナツの席がいい」

「……しかたないなぁ。それじゃ、アキナの席に私が座るとするよ」

「それじゃ意味ないでしょうが!?」

「どうしろと?」

 

 ナツを持ち上げて膝の上に。後ろから抱き締める。ああ、至福のとき。柔らかい太腿裏が心地良い。肩に顔を埋める。すりすりする。おうおう、とナツが頭を撫でてくれる。至福。

 

「ナツぅ~」

「ん? なに?」

「明日は、何の日、でしょうか?」

「……」

 

 ナツが少し黙った。私は幸せの中、わくわくとした顔でナツの横顔を見る。すでに放課後スイーツ部に入部する時、自己紹介で言ってある。まぁ、私は警戒度MAXで吠えていただけだけど、たぶん大丈夫だろう。覚えられている、きっと

 

「明日は……」

「明日は?」

 

 それでも心配になるのはなるもので、やはり前世というのが面倒臭い記憶としてこびり付いている。それを早く払拭したかった。

 ナツの台詞を待つ。

 

 ごくり

 

「明日は…………みんなで『カフェ・ミルフィーユ』に行く予定だね」

「え!? ナツが部活の予定を覚えている、だとっ!?」

「…………アキナは私のこと、なんだと思ってるの?」

「い、いやぁ~、だって、ナツ、待ち合わせに遅れたりサボったりするでしょ? だから、私が毎回お迎えに行ってるじゃん」

「…………さて、なんのことかな?」

「って、そうじゃない!? 明日は確かにみんなで『カフェ・ミルフィーユ』に行くけど、それ以外だよ!」

「…………それ以外」

 

 ナツが考えるように天井を見上げる。トリニティの古めかしい、しかし荘厳な教室の風景。

 

 ごくり

 

「…………そう言えば、『カフェ・ミルフィーユ』で新作ケーキが」

「カフェから離れて!?」

「む? むむむむっ」

 

 腕を組んで考えてくれる。完全に忘れている。私の誕生日を。

 

 …………まぁ、前世でもそれくらい日常茶飯事だった。ここでもそうなんだろうか、ってくらいだ。少し寂しいが、覚えていないものを思い出せってのは無理な話。ここは私から言うしかない。

 

「…………しかたないなぁ。正解を言うと」

「それより、アキナ。明日は一緒に行くよね?」

「…………うん、当然。いつも通りでしょ? 今訊くこと? それより」

「明日の新作ケーキ、食べるの楽しみだね」

「…………そうだね。で、正解なんだけど」

「あ、この牛乳、美味しい」

「明日は、私の、誕生日だぁああああああ!?」

 

 教室で叫ぶ私。ナツは耳を抑える。流石に耳元で叫ぶのは悪手だったか。しかし、伝えたいものは伝えたい。私はナツの小さな耳に囁く。

 

「ナツ、明日は、私の誕生日だよ。私の誕生日だよ。私の誕生日、誕生日、誕生日――――」

「あ、あ、う、うん…………………………………………………………………………………………それで?」

 

 なるほど、それで? か…………………………………………………………………………ん? それで? それで? …………それで!? それで!! 嘘だろうオイ!? ウソダ……ウソダドンドコドーン

 その台詞、前世の頃から親しい言葉。友達もどきが言っていた! もしかしてこれが友情間での誕生日祝いなのだろうか!? 知らなかったよ……。ごめんね、前世の友達っぽいなにか……もしかしたら私達、友達だったのかもね…………

 

「って、いやいやいやいや! 誕生日だよ!? 何かあるでしょ!? お祝いの言葉とか! プレゼントとか!?」

「なるほど…………それじゃ、僭越ながら、……おめでとう、アキナ」

 

 ナツの笑顔。いつも「にひっ」とした時にする笑顔。あっ(尊死)

 

 私は死んだ。今日は第二の命日として、記念日にしよう、そうしよう。手帳を開く。両親以外から初めて「おめでとう」と言われた日、として記録しようとする。あ、すでに『私の誕生日』とデカデカと書かれていた。邪魔だなぁ、私の誕生日。

 もっと大きな、そう分厚い日記のようなものが欲しい。一日数頁使えるような。ナツへの愛をそこに綴るんだ。

 

「そ、そうだ。プレゼントとして、これを進呈しよう」

 

 そう言ってナツが取り出したのは、箱牛乳。新品のやつ。それをたぷんと私の机に置く。

 

「それ…………くれるの?」

「…………うん。そうだよ」

「ナツ…………」

「…………なに」

 

 私は目に涙を溜める。鼻水が出る。湿っぽい音が鳴ってしまう。私は後ろからナツの両手を握った。ナツの手はしっとりと汗で濡れていた。

 

「ありがとう! ナツ! 一生大事にするね!!」

「いや、飲んでよ」

 

 美味しくいただきました。

 

 

 

 放課後、学生は各々の部活動へ向かい、私とナツも教室を出る。廊下に出ると、ヨシミがいた。

 ウェーブの掛かった金髪ツインテール。黄土色の瞳。トリニティの制服上から赤いジャージを着ている。小柄な少女。うさぎのぬいぐるみのキーフォルダー。可愛らしい。ナツほどではないが。

 

「おーい! ヨシミ! ヨシミちゃんは今日もちいさ――――ぐふっ」

「あんた、それ以上言うと殴るわよ!?」

「殴る前に言って欲しかった……」

 

 私は、ひっひっふー、と痛みを耐える。ナツとヨシミが先に歩き出して行く。これくらいキヴォトスでは常識の範囲内。私だけ当たりが強いのは気のせいだ。おそらく

 それよりもヨシミに訊くことがある。ちょうど学舎の回廊を進む。まるでオープニング風景の如く。ティザーPV久しぶりに見たいかも。

 見とれている場合じゃない! 軽く追い付き、咳払い。

 

「ヨ・シ・ミ☆」

「な、何よ。気色悪いわね」

「ひどっ!?」

「どうせまた、ナツで変なこと考えてたんでしょ?」

「今は違うよ!」

「いつもは私で変なこと考えてるんだ…………」

 

 ナツがドン引きしたみたいな顔になる。私は慌てる。変なことって、ナニってこと? いやいやいや! そうじゃなくって、えっと、話題を修正しなければ!?

 

「えっと、その、ヨシミ! 明日は、何の日、でしょうか?」

「…………明日?」

「うん!」

 

 ヨシミがナツを見た。ナツは頷いた。ヨシミが思案顔で言う。

 

「明日は…………学校が休みの日ね」

「そうだけど! そうじゃなくて!?」

「何が目的かは知らないけど、早く部室に行きましょ」

 

 ヨシミ~、と思う。もはや取り合ってくれない。ここは威勢よく言った方がいいのか?

 

「まぁ、落ち着き給え。明日は何と言っても────」

「そう言えば、ナツ。ナツは何にしたの?」

「私? …………それは当日のお楽しみ」

「って、無視するなよ!? ヨシミ!?」

 

 はいはいはい、とヨシミが適当に返す。私はヨシミの前に回り込む。ヨシミはすっと脇に逸れる。私は回り込む。ヨシミがさっと逸れる。

 

「ちょっと待てぇい! なんで避けるんだよ!?」

「いやだって、気色悪いし」

「明日が何の日か、言いたかっただけなのに……」

「ゔ………………わかったわよ。聞くだけ聞くわ」

「わーい。ヨシミ好き~。ナツの次に好き~」

「アキナ。それは浮気と受け取ってもいいのかい?」

「ち、違うよ!? ナツは嫁として好き❤ ヨシミは友達として好き☆」

「言い訳ね」

「言い訳だね」

「な、ナツだって、別腹って言うじゃん!?」

「言い訳ね」

「言い訳だね」

「そ、それより、ヨシミ聞いて! 明日は、私の、誕生日、なんだ!?」

「…………そう、よかったわね」

「それだけ!?」

 

 前世の友達と同じ反応。私でなければ見逃してたね。

 ナツといい、ヨシミといい、どうしてそんな反応になるのだろうか? それが普通の女子高校生というものなのだろうか? もしくはこの世界の住人は誕生日を祝わないのだろうか? そういった文化がない? そんなことある?

 前世ではあったはず。少なくとも小説や漫画ではプレゼントを貰い、誕生日パーティーをしてもらい、ケーキを囲んで食べていた。奢ってもらっていた。

 他人の誕生日を祝ったこともあった。招待されたのは3回だけだが、そのどれもで「おめでとう」とプレゼントをもらっていた。

 自分は祝われたことなかったが…………

 

 私はブルアカガチ勢ではなく、柚鳥ナツガチ恋勢だったため、わからないことが多い。それと前世から10年以上も経つ。忘れていることも多いだろう。ブルアカ設定とかで、誕生日が祝われないとか書かれていたっけ? って、あれがあったじゃん!? 誕生日ボイス!? ナツの分しか覚えてないけど、あれは確かに先生から祝われ、先生を祝っていた。そんな内容。「すっっっごいの期待しているよ?」「仕方ない。今日は私が奢ってあげよう!」。つまり、この世界の住人が誕生日を祝わないということはないはずなのである。

 生徒同士だと祝わないとか?? そんな変則的なルールがあるだろうか? 10年以上キヴォトスで暮らしているが、知らないぞ?? その9割がボッチだったが、それでも流石にわかるよね? 自信なくなってきた……

 いやいやいや、この間、カズサとヨシミの誕生日を祝ったばかりじゃないか!? 夏休みの時、集まって、みんなで。まぁまだ私は警戒態勢だったが。それはそれとして、つまり、生徒同士だと祝わないということはない。カズサとヨシミだけ例外だったとか? そんな訳あるめーよ! やはり私だけハブられている??

 もしだ。もしも、この世界の住人にとって、誕生日祝いが普通のことなら、ナツとヨシミの反応は一体何を意味するのか? 簡単だ。私の誕生日を祝いたくないのだ。祝いたくない理由があるのだ。ナツなんて仕方なく祝った感じだし、プレゼントもいつも持ち歩いているものだし。

 

 ナツがヨシミに耳打ちしている。ヨシミはうんうんと頷いて、私に近付く。

 

「アキナ、お誕生日おめでとう」

「!?」

「これ、私からのプレゼントよ」

 

 そうして受け取ったのは、新品のノート。そこらで売っているような、目新しくもない、大学ノート。申し訳程度にデフォルメうさぎが描かれている。まるで「ノート忘れたから、売店で買った」とでも言いたげなノート。それが今私の手元にある。

 

「ヨシミ……」

「な、なによ?」

 

 私は涙目でヨシミの両肩を掴んだ。ヨシミは背筋を伸ばして、目を瞑った。

 

「ありがとう! 一生大事に保存しておくね!」

「いや、使いなさいよ」

 

 日記にしよう、と誓った。最初の頁は今日からだ。

 

 

 

 いつの間にか部室に着いていた。私はルンルン気分で扉を開けた。ヨシミは顔を覆っている。ナツは難しい顔をしている。いつも通りだ。

 

「おはっようー!」

「あはよう、アキナちゃん」

「おはようってか、こんにちは、じゃない?」

 

 アイリとカズサがいた。私は荷物を置いて、テーブルに着く。ナツとヨシミも座る。

 

「? なんでナツとヨシミは具合悪そうなのよ?」

「それは……これからわかるわよ」

 

 どういう、とカズサの疑問に被せて私が質問する。

 

「カズサ、アイリ……明日は、何の日、でしょうか?」

「「……」」

 

 顔をそらす二人。ゲッソリとしているヨシミ。ナツは、むむむっ、とした顔。今度こそは、流石に知っているだろう。カズサはこう見えて相手を大事にするし、アイリは周りがよく見えている。カズサはワンチャン覚えていなくても、アイリなら覚えていてくれるだろう。

 

「あ、明日? ……えっと、何の日だったかしら?」

「えっと、……明日は……『カフェ・ミルフィーユ』に行く日だよね」

「そうそう、新作のケーキを食べに行くのよね?」

「うん。予約しておいたから、当日は安心して食べられるよ♪」

 

 ちらりと、私を見る二人。私はちょっと不機嫌になった。

 なぜ、誰も覚えていないのだろうか? みんな私よりカフェでケーキ食べることの方が大事なのだろうか?

 いやいやいや、と首を振る。メンヘラになるな、ヤンデレになるな。たかが誕生日だ。前世でもそうだったじゃないか。期待しすぎたのが悪い。

 

「明日はね……私の誕生日だよ!?」

「え、えっと……」

「そ、そう。よかったわね」

 

 え

 

「何かないの? お祝いの言葉とか、プレゼントとか」

「あ、ああ、そうね。お誕生日おめでとう。アキナ」

「おめでとう、アキナちゃん」

「ありがとう!」

 

 ほっとする。流石に祝われないということはない、と判った。いや、本当にそうか? 二人とも微妙な顔をしている。反応も悪い。もしかして、本当の本当に、私の仮説『みんなは私の誕生日を祝いたくない』が正しいのだろうか?

 ナツがカズサとアイリに耳打ちする。二人は頷く。

 

「ごめんね、アキナちゃん。こんなものしか用意できなくて」

 

 そう言ってアイリが冷蔵庫から取り出したのは、チョコミントのアイスバー。

 

「こ、これ、くれるの?」

「……う、うん」

「私も、これ」

 

 そう言って、カズサが渡してくれたのは、マカロン。

 どちらも、「今日のおやつでした」とでも言わんばかりに、箱から取り出されている。私は涙を目に溜める。二人が冷や汗を垂らし始めた。

 

「二人とも……」

「な、なに?」

「……」

「ありがとう! 一生大事にするね!」

「いや食べてね!?」「食べなさいよ!?」

 

 美味しくいただきました。

 

 

 

 知っている。誕生日を覚えられない。それは私の呪いだ。だから、祝ってもらえない。

 私は死んでも、このままなのだ。

 でも、それを訳もなく喚き散らすほど、子供でもない。ここはみんなに合わせて、場をやり過ごすしかない。苦しい。キツイ。帰りたい。

 

 お菓子を食べ終わる。マカロンと牛乳は相性抜群だが、チョコミントアイスと牛乳は微妙だった。みんなと少し駄弁って、馬鹿なこと言った。ナツのASMRを聞きたいとか、それいつも言ってるでしょとか。

 そして、一段落して、私は席を立つ。荷物を持つ。

 

「? あれ? アキナ、どうしたの?」

「ああ、えっと、……具合が悪くなって、今日は帰るね」

「そう……お大事に」

「大丈夫? アキナちゃん、送っていこっか?」

「大丈夫大丈夫。……いつもの持病だから」

「あんた、持病あったっけ……?」

「とりあえず、帰る」

 

 私は廊下を歩く。

 

「あ、アキナちゃん!?」

 

 アイリが叫ぶ。私は止まる。

 

「明日は12時に『カフェ・ミルフィーユ』前で待ち合わせね! いつも通り、ナツちゃん、連れてきてね!」

「…………………………………………………………………………………………………………わかった」

 

 私は走り去った。途中で、正義実現委員会の人に注意され、小走りになった。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 私は前世で30年の時を過ごした。その間ずっと誕生日に熱を出して、誕生日を覚えられない年を繰り返した。

 それでも良いと思えるようになったのは、ゲームのナツに出会ってからだ。

 

「先生のお誕生日……仕方ない、今日は私が奢ってあげよう!」

 

 そう言ってもらえたのは、初めてだった。両親は祝うのが当たり前みたいな顔をしていた。「奢る」という言葉がなかった。それゆえ、「奢ってあげよう」というのが新鮮に聴こえた。友達のような、恋人のような関係をナツに見出した。画面からとはいえ、それでも嬉しかった。

 友達っぽい何かからは、何もなかった。お祝いの言葉もなかった。「それで?」「よかったね」とだけしかなかった。恋人もいなかったし、クラスメイトも冷たかった。それが当たり前だと思っていた。

 社会人になって、会社の人には期待しなかった。だから、誕生日を伝えることもなくて、定時で毎回帰った。有給も全て使った。時間は有り余っていて、誰かと一緒に時を過ごすことはなかった。

 

 だから、私は歓喜した。誕生日ボイスで祝われた気分になった。ビール片手にナツと誕生日を過ごした。もちろんナツは実際に存在しない。それでも、ナツが祝ってくれる。それだけで救われた気分になった。

 私がプレイヤーたる「先生」である限り、「生徒」である大好きな人・ナツに誕生日を祝ってもらえる。

 

 そう、"先生"である限り。

 

 

 

 私は死んだ。死んで生まれ変わった。"生徒"として。

 先生はすでに着任している。もう何度か会った。放課後スイーツ部のメンバーとして何度も、関わった。先生は"先生"で、私は「先生」と呼ばれる筋合いがなくて、独りの前世持ちなだけの"生徒"。

 もちろん、先生は特別な人間ではない。銃で撃たれたら死ぬし、強靭な身体能力もないし、聖人のような振る舞いをいつもする訳でもない。どちらかというと、弱いし、変態。

 それでも、先生は"先生"として、"生徒"を見守ってくれていた。"生徒"はそれに安心して、行動でき、助けを求めたら、先生が助けに来てくれる。そんな先生。

 

 私ではない。私ができるものではない。私が成れるものでもない。"先生"は先生以外に考えられない。近くで見たから、そう思った。私は"先生"ではない。だから、誕生日ボイスを生で聞くことはない。本当の意味で祝われることは永久に来なくなった。

 

 

 

 私は次の日、風邪を引いた。いつも通り。喉は痰が絡み、怠さがある。関節痛。本当にいつも通りだった。予定調和とも言う。

 

『え! だ、大丈夫なの? アキナちゃん?』

「んんっ……う゛ん……ちょっとキツイだけ。で゛も゛。えほえほごほ……安静にしておきたいから、今日は、そっち゛に行けない。……ごめんね」

『そ、そんな…………』

 

 心底残念そうな声。ありがたい。けど、それが演技だと誰が見破れる。私なんてすぐに騙されるような質だ。きっとアイリの笑顔が添えられていれば、まぁいっか、となるのだろう。

 期待すればするほど、裏切られた時が辛い。それなら期待しなければいい。そうすべき。だから、放課後スイーツ部に入った時、ナツ以外には威嚇していた訳だ。ナツは別。ナツは最愛の人だから、期待とかそんな次元にない。こちらから愛を振りまく対象だ。

 でも、放課後スイーツ部は違う。愛を振りまく対象ではない。でもでも、信じてしまった。仲間と思ってしまった。友達だと思ってしまった。期待してしまった。だから、これからは距離を離した方がいいかもしれない。期待は毒なんだ。

 

 咳を一つする。

 

「風邪移すとあれだし゛、お゛見舞いはNGで」

『え!? ちょっと、アキナちゃん?』

「だ、だから、………………()()()()()()()()()()()。……じゃあ」

『あ、アキナty』

 

 私は電話を切った。12時のことだった。

 

 

 

 寮部屋の布団で寝る。誕生日に風邪を引くのは慣れている。昔は両親が傍にいたが、社会人になって、独りになって、それで慣れた。

 しかし、今日は苦しかった。咳をする。少しずつ咳をしていく。いつもより風邪が酷い気がした。秋は昼でも冷えるものなのだ。保湿のためマスクをした。白いマスク。

 

 時計の針が刻々と時間を告げる。部屋の窓はカーテンで締め切られている。ちょっと暗い。昼時というのに、太陽が出ていないみたいだ。カーテンの隙間から覗く。曇りだった。やっぱりか、と思う。外を眺めていると、雨が降り出した。みんな濡れないと良いけど、カフェを出る時に上がっているといいな、と思った。かなり雨が酷くなっていく。私はカーテンを閉じた。より暗くなった。

 咳をする。痰が絡む。そして、独り。なんだったか、俳句であった気がする。「咳をしても一人」。

 

 実を言うと、こうなると思っていた。誕生日に熱を出すのも、祝われないのも。だから、前日にスポドリとかレトルト食品とか買い溜めしておいたのだ。…………前日に祝ってもらいたかった。

 しかし、祝われなかった。「おめでとう」とは言われた。それで満足するべきだ。しかし、ナツがどうもみんなに耳打ちしているようで、みんなナツの差し金で祝った振りをしていたのだろう。おかげで祝われる気分というのがどういうのか解った。虚しい。

 この世界に転生してからも、私の個性とでも言う「誕生日に熱を出す」という現象は治らなかった。それで、幼稚園・小学校・中学校で祝われることはなかった。ナツと出会ったのも中学校の後半で、11月。10月の私の誕生日は当然祝われない。ナツの誕生日はタイミングが合わず祝えていない。悲しいね

 この世界で誕生日を祝うのもカズサが始めてだった。次にヨシミ。しかし、ナツのついでとして私は参加しただけで、心から祝っていなかった。申し訳ない。その罰が下ったかのかも知れない。みんなその時の私の態度が気に食わなかったのかもしれない。いやいや、彼女達はそんな性格じゃないのは知っている。だから私の妄想。

 

 まぁ、何にしても、この世界でも、主人公みたいな、誕生日を祝われるような人生ではないようだ。

 もちろん、ナツの「おめでとう」は純粋に嬉しかった。すごく嬉しかった。でも、ゲーム時代との差を感じてしまい、先生でないことを悟り、ナツに心から祝われていないのではないのか? と疑ってしまうようになってしまった。面倒臭い男である。いや、今は女か。

 これだから、ナツに恋人認定されない訳だ。友人としてもダメダメなのに、恋人なんて、もっと無理だ。

 

 お腹が鳴った。そういえば朝ご飯を食べていない。起きるのが遅かったのだ。そろそろご飯でも食べよう。すでに昼ご飯になってしまったが、誤差だろう。お腹が空いたから、きっとネガティブな考えになってしまうのだろう。明日になれば、いつも通りの放課後スイーツ部に復帰できる。きっと

 私さえ、我慢できれば、いつも通りに振る舞えば、きっと。私が殻に閉じこもっていればいいのだ。ベッドから立ち上がる。

 

 最近のレトルト食品は、電子レンジでチンして、料理が完成する。私もそれを買っていて、電子レンジにカレーのレトルトを投げ込む。時間は3分。ボタンを押した。壁に背中を預けた。咳をする。

 

 じりじりじり、と電子レンジが回る。1周2周と回転する。電子レンジのターンテーブルは電源周波数によって決まった回転数を持つ。ここでは50Hzなので毎分5回転。私はそれを眺めていた。ただいたずらに、時間が流れる。

 電子レンジが5回転した。

 電話が鳴った。ベッドの上。怠い身体を振るって、手に取る。発信先を見る。アイリからだった。

 どうしようか迷う。何だか、出る気になれなかった。気分がまだまとまっていない。どういうテンションでアイリと再び会話すべきか判らない。

 無視しよう。寝ていると勘違いしてくれるはずだ。アイリなら。優しい子だから、良いように考えてくれる。そう考える自分が嫌いであった。

 電子レンジが10回転した。

 また電話が鳴った。スマホを見る。ナツからだった。普段なら何も考えずに取るのだが、どうしようか迷ってしまった。やはりナツともどう話していいか判らなかった。

 そう言えば、ナツは私が迎えに来るのを待っているのかもしれない。アイリから連絡が来ていない可能性もあった。それなら電話に出て、行けなくなった旨を話さなければならない。私は電話に出た。

 

「…………も゛、んんっ……もしもし」

『アキナ、風邪引いたってね?』

「うん……それ゛、んんっ、……それで?」

『今からお見舞いに行ってもいいかなって思って』

「風邪……移すと悪、んんっ……からダメ」

『そう…………病院には行った?』

「行ってない、けど、行く予定はない。そんなに酷くない」

『そう、……もし酷くなったら行くんだよ?』

「………………………………………………………………………………それじゃ、ん、また、明後日」

『わかった。……じゃあね』

 

 15回転が終わった。電子レンジが鳴った。電話を切った。扉が叩かれた。

 

 誰だろう、と思い、扉へ向かう。そして、開ける。

 

 そこには、放課後スイーツ部の全員がいた。

 

「「「「パッピーバースデー! アキナ!」」」ちゃん!」

 

 え

 

 クラッカーの鳴り響く音で、呆気にとられる。リボンが宙を舞い、私に降りかかる。

 

「何よ? そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して?」

 

 ヨシミがゲラゲラ笑う。

 

「おめでとうね、アキナちゃん! ケーキ用意したから一緒に食べよ? これが『カフェ・ミルフィーユ』の新作ケーキだよ~」

「本当は、カフェで祝うつもりだったけど、まぁ風邪なら仕方ないわね。マスターもおめでとう、だって」

 

 アイリがいつも通り言い、カズサが珍しく優しく言う。

 

「それと、アキナちゃん、これ、誕生日プレゼント! 来る時、雨で少し濡れたけど、中身は大丈夫だと思うよ」

 

 よく見ると、みんなずぶ濡れだ。雨の中走って来たのだろう。アイリの手の中には可愛らしいラッピングのされた袋。カズサはリボンのついた大きめの箱。ヨシミは包装された分厚い正方形。ナツは、可愛らしい紙封筒。

 

「サプライズパーティー。……ロマンがあっていいじゃないか」

 

 ナツが顎に手を置いて、ドヤ顔である。

 

「え」

 

 喉の痛みも忘れて声が出る。

 

「え、って何よ?」

「いや……だって、ヨシミ……誕生日、覚えてないって」

「覚えてないとは一言も言ってないでしょ?」

「ナツだって、んんっ、知らないって」

「知らないとは言った記憶がないなぁ」

「アイリとカズサだって、はぐらかそうとしてた」

「だって、あれは、サプライズパーティーを計画していたから」

「そうそう、発案のナツちゃんから口止めされていたんだ」

「アイリ、それは言わない約束でしょ?」

 

 みんなニコニコしている。私は乾いた口を開く。

 

「さぷらいずぱーてぃーis何?」

「「「「………………え」」」」

 

 絶句する四人。私は慌てる。

 

「いや、意味は知ってんんっ、知ってるけど、……誕生日を驚かせて祝うやつでしょ?」

「そ、そうね。それで合ってるわ」

「それって……その……架空のものじゃ、なかったの? ファンタジー」

「はぁ? サプライズパーティーしたこともされたこともないの?」

「そもそも誕生日、祝われたことないから、よくわかんない」

 

 今度こそ唖然とする四人。咳が出る。腕で口元を覆う。喉が痛い。しかし、驚きの方が大きい。咳が止む。

 

「でも、そっか……嫌われてなかったんだ」

「嫌う? 誰を? 何を? アキナを?」

「誕生日誤魔化して、ナツなんて、私が誕生日だって、言っても『それで?』って」

 

 カズサとヨシミがナツを睨む。ナツが焦る。

 

「あんたねぇ~」

「よくよく考えてみたまえ、あそこでサプライズがバレる恐れがあったのだよ。諸君、それは避けるべきじゃないかい?」

「でも、アキナは誕生日祝われたことないって、言ってんのよ!? 不安になってもしょうがないでしょ!」

「そ、それは、私も知らなかったから……って、ヨシミ。ヨシミもアキナに対して『よかったね』の一言で済まそうとしてたじゃない」

「うぐっ」

「ヨシミちゃん?」

 

 ヨシミが責められている。カズサもバツが悪そうに、そっぽを向く。それよりも私は首を振る。

 

「ありがとう、みんな……でも、みんなに風邪を移す訳にもいかないから」

「何、水臭いこと言ってんのよ? こっちは祝いたくて来ただけよ。移されても自己責任でしょ」

「それはヨシミに賛成。アキナは気にしなくていいわ」

 

 カズサの普段見せない優しさに心がグッと来る。

 

「そ、それに、あんたがいてくれるから、部活も馬鹿みたいに明るくなるんでしょうが」

「そ、そうなの、かな?」

「とりあえず、部屋入るよ~」

 

 ナツを先頭にぞろぞろと入ってくる放課後スイーツ部面々。私は嬉しいような困ったような、顔になる。

 

「で、でも」

「あ、無理にとは言わないよ? 体調が悪くなるようだったら、すぐに帰るよ? けど、アキナちゃんの誕生日、一緒に祝いたくって……ダメだったかな?」

「!? う、ううん。あ、ありがと゛う゛」

 

 腕で目元を覆う。ちょっと本気で涙が流れた。

 

「折角だし、ナツ。あんた、アキナにあ~んでもしてあげなさいよ」

「え」

「ほほぅ、いいかもしれないね。ケーキを開け給え」

「え」

「はぁ……フォーク借りるわよ」

「え」

 

 前々から準備されていたホールケーキが出された。苺のショートケーキっぽいが見たことないようなジェル状のコーティングがされている。キラキラ光っている。

 シュガープレートに私の名前とハッピーバースデーの文字。ケーキを包丁で切り分け、一番大きいのを私の前に。そして、ナツがそれを更にフォークで切り分けて、突き出す。にひっ、と笑って、言う。

 

「はい、あ~ん」

「あ、あ~ん」

 

 マスクを外してナツから食べさせてもらう。流されてしてしまったが、これって凄く恥ずかしいのでは!? 顔が熱い。

 

「顔赤いわね? もしかして熱上がった?」

「う~ん。やっぱり、無理に来たのが悪かったかしら?」

「それじゃ、早いけど、撤収する? 後日改めて誕生日パーティー開こ?」

 

 アイリの言葉にみんながバラバラに首肯する。私は少し残念に思う。しかし、風邪を移しても、悪い。

 

「…………撤収する前に、プレゼントを開けて欲しいな」

 

 ナツが言う。

 

「風邪もどこかに飛んでいくくらいロマンが詰まっているから」

「ロマンってナツ……」

「あははは、確かに、プレゼント公開って、ドキドキするよね」

「まぁ、私がアキナの反応を見たいだけなんだがね」

「それはアキナの体調によるでしょ。アキナ、大丈夫?」

 

 カズサの確認に私は頷く。

 

「それじゃ、先に私の開けなさいよ!」

「う、うん」

 

 ヨシミのプレゼント。包装紙を丁寧に破る。中から本が出てきた。分厚い本。表紙には金字で、『Akina's Diary』と書かれていた。日記だ。

 

「あんた、前々から、大きめの日記が欲しいって言ってたでしょ? ほら、ナツのこと書きたいって」

「う、うん。これならナツへの愛を、語っても1週間は保つね」

「……もっと、保たせなさいよ」

「次、私の開けて♪ アキナちゃん」

 

 アイリのプレゼント。リボンを解き、大きい袋を開ける。中から録音機器が出てきた。それも見たことがあるやつ。

 

「これって、バンドの時に買った録音機器」

「うん。本当はみんなで買ったものだけど、みんな使わないって言ってたでしょ? で、アキナちゃんだけ、ナツちゃんの声を録音したいって欲しがってたから、私が買い取る形でプレゼントしたんだ」

 

 そう。バンドで使ってから、もう誰も使いそうになかったから、欲しかったのだ。しかし、出し合ったとはいえ、一部部費で払ったものだから、そのまま貰うのは窃盗罪や横領罪になるとかならないとかで、手が出せなかった。それを部長のアイリが手続きを済ませて買ったらしい。ありがたい。

 

「それじゃ、次はカズサのだね。私は最後がいい」

「まぁ、アキナ的にもそっちの方がいいでしょ」

「じゃ、じゃあ、カズサのから」

 

 カズサのプレゼント。箱の包装紙を取り除くと、新品の一眼レフカメラ。いや、高かったんじゃないの!?

 

「そんなに高くなかったわよ。セールで売っていたやつだから」

「しかし、カメラ……。なぜわかった?」

「どうせナツが撮りたいんでしょ? あんたの思考はわかりやすいから」

「そうです。その通りです。流石です」

 

 全部ナツ関係でなんだか申し訳ない。しかし、嗜好/思考というか以心伝心な感じがして嬉しい。

 

「では、最後のプレゼントぉ~。さて、アキナはどう反応してくれるのかな?」

「う、うん。なんだか緊張する」

 

 ナツのプレゼント。紙封筒を開ける。何枚かチケットが入っていた。

 

 一枚目。『ロマン追求券』。

 

「どういうこと?」

「ナツ! アキナ相手だからって、テキトーにしてんじゃないわよ!?」

「別にテキトーじゃないよ? これは私なりの愛情だよ?」

「どこがよ!?」

 

 語ってもいいの? とナツの脅しのような言葉に、遠慮するわ、とヨシミが下がる。あ、逃げやがったな。

 

「まぁ、冗談はそのへんにして、他のも見てよ」

「え? …………あ、」

 

 色々とあった。一日デート券。嬉しい。一日疑似恋人券。嬉しい! 一日抱き締め券。いつもしてる! けど嬉しい!!

 

「って、ナツ! あんたね、一人だけテキトーなのを!?」

「まぁまぁ、落ち着いてヨシミ。次のはとっておきだから」

「えっと、リゾート使用券?」

「そう! くじ引きで当てたんだ。ロスト・パラダイス・リゾートっていうリゾート地。無人島らしい。夕日沈む水平線。誰もいない島々。アキナ、一緒にロマンの旅に出よう!」

「ナツに一生ついて行くよ!!」

「ロスト・パラダイス・リゾート? どこかで聞いたよな?」

「そして、最後を見て欲しい」

「ん? …………これは!?」

 

 高級スイーツ食べ放題招待券。老舗の洋菓子店が開いている食べ放題の催しで、料金は別途かかるが、招待券がないと入れないというレア物。その招待券がここにある。

 

「手に入れるの、大変だったよ」

「よく手に入れたわね、ナツ。……あれ? これ全員分あるんじゃない?」

「そう。伝手を辿って、どうにか手に入れた。崇め奉れ」

「え? 私達もいいの?」

「もちろん。みんないないと寂しいでしょ? 催しは1週間後。それまでに風邪、治すんだよ。アキナ」

 

 私は頷いた。ナツが、にひっ、と笑う。そして、言い切った。

 

「その時は、私が全て奢ってあげよう!」

 

 




閲覧、お気に入り登録、評価付与、しおり登録、誤字報告、ありがとうございます

今回痛感したのが、ナツのエミュレート難! ということです
もうね、本作妄想レベルですよ
まぁ、二次創作なんで、そんなもんかな、と諦観気味
本当はもっと詰めたかったけど、なんかできなかったのです(言い訳)
次こそは、エミュしてみせる!

もっとナツ愛を爆発したいが、どうもその表現が難しい
小説家の皆様は本当に偉大です

それと、
今回は、アキナメイン過ぎる回です。ナツへの愛というより、アキナの過去、というのがテーマになるのかな?
ナツ愛を期待していた方、申し訳ありません

それとそれと、ついでに、アキナの誕生日は今日です。これはどうでも良いですね

次回はナツの誕生日に投稿しようと思います。できたら!

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