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ナウル語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナウル語
Ekaiairũ Naoero
話される国 ナウルの旗 ナウル
地域 ミクロネシア
話者数 8,000人
言語系統
表記体系 ラテン文字
公的地位
公用語 ナウルの旗 ナウル
統制機関 統制なし
言語コード
ISO 639-1 na
ISO 639-2 nau
ISO 639-3 nau
消滅危険度評価
Severely endangered (Moseley 2010)
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ナウル語(ナウルご、dorerin Naoero)は、オーストロネシア語族ミクロネシア語派に属する言語のひとつ。ナウルで話されている。約8000人がこの言語を話し、それはおおむねナウル人口の6割ほどの人口である。ほとんどのナウル語話者は、英語を話すバイリンガルである。ISO 639の言語コードは'na'ないし'nau'である[1][2]

概要

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ナウル語は、オーストロネシア語族に属するとされる言語であるが、分類上は特殊な位置にあり中核ミクロネシア語族との関係が明確に解明されていない。中核ミクロネシア語族は音韻体系や文法構造に共通性があり関係性があると考えられるが、語彙の共有は少なく近縁とされる言語間でも全体の25%未満にとどっている[3]。ナウル語はこの体系から外れるか、もしくは独自の変化を遂げた言語とされ、系統的に孤立的な立ち位置となっている。

研究

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1907年に、フィリップ・デラポルトは、独ナウル・ポケット事典[4]を発行した。この辞書は小さく(10.5×14cm)、65ページで、用語といくつかの句がドイツ語のアルファベット順に並んでいる。およそ1650のドイツ語の単語がナウル語に訳され、しばしば句や同義表現の注釈が添えられている。1300のユニークなナウル語の表現が注釈にあり、派生した句を含み、ダイアクリティカルマークを無視している。アクセント記号は通常と違っている。チルダのみが現在と一致している。

このほかにフランス宣教師アロイス・カイザーが現地に滞在しナウル語の研究を行っていた[5]

文字

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ナウル語で使用するアルファベットは通常のA~Zに加えてÃ, Ñ, Õ, Ũ が使用されている[6]。またナウル語には「A」、「Ã」、「I」、「U」「Ũ」、「E」、「O」、「Õ」の8つの母音字と22つの子音字が用いられる。しかしÃ, Ñ, Õ, Ũ を使わず表記する方法も存在している。

ナウル語で使用されるアルファベットは以下の通りである[7]

文字 名称 発音
カナ IPA
A a a ɑ/a
à ã ã ɛ
B b be b
C c ce k/s
D d de d
E e e e/ẹ/ɛ
F f ef エフ f
G g ge g
H h ha h
I i i i / ɪ / ɨ
J j je ジェ ʤ
K k ka k
L l el エル l
M m em エム m
N n en エン n
Ñ ñ エング ŋ
O o o o/ɔ
Õ õ õ ø
P p pe p
Q q ku q
R r er エル ɾ/r
S s es エス s
T t te t
U u u ʊ/ʉ
Ũ ũ ũ y
V v vau ヴァゥ f/v
W w we ウェ w/ɣ
X x iks イクス ks
Y y way ウェィ j/ʝ
Z z zet ゼッツ z

音韻

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子音

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ナウル語には、16–17個の子音音素がある。ナウル語は軟口蓋化と口蓋化を区別する。軟口蓋化は長後母音の前では顕著ではなく、口蓋化音は前非広母音の前では消滅する。[8]

子音の音素[9][10]
両唇音 歯音 舌背音
口蓋化 軟口蓋化 硬口蓋音 軟口蓋音 唇音化
鼻音 n ŋ (ŋʷ)
破裂音 無声 t k
有声 d ɡ ɡʷ
摩擦音 ʝ (ɣʷ)
接近音 j w
流音 r

摩擦音の/t//d/はそれぞれ[][] に、狭前母音の前で変化する。[11]

「強勢発音」では接近音は摩擦音になる。 Nathan (1974) は⟨j⟩と⟨w⟩と書き起こしたが、高母音の非音節主音的異音と対立していることも指摘している。 /w/[ɣʷ]という摩擦音とも聞こえる。

強勢によって、/r/はじき音ふるえ音になることがある。 //の詳細は不明である。 Nathan (1974)はこれを⟨⟩と記録し、口蓋化子音のような振る舞いを示し部分的に無声化している可能性があると述べている。

母音と語末の//の間には、挿入された[b]が現れる。[8]

母音

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ナウル語には、長母音が6つ、短母音が6つの合計12個の母音音素がある。 下記のNathan (1974)による表に掲載されている異音に加えて、多くの母音が[ə]に弱化する。:[9]

音素 異音 音素 異音
/ii/ [iː] /uu/ [ɨː ~ uː]
/i/ [ɪ ~ ɨ] /u/ [ɨ ~ u]
/ee/ [eː ~ ɛː] /oo/ [oː ~ ʌ(ː) ~ ɔ(ː)]
/e/ [ɛ ~ ʌ] /o/ [ʌ]
/aa/ [æː] /ɑɑ/ [ɑː]
/a/ [æ ~ ɑ] /ɑ/ [ɑ ~ ʌ]

非広母音(/aa/, /a/, /ɑɑ/ /ɑ/を除くすべての母音)は、 /e-oeeoun/[ɛ̃õ̯ɛ̃õ̯ʊn] (「隠す」)のように他の母音に先行すると非音節主音的になる。[12]

強勢

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強勢は末音節が母音で終わるとき、語尾から二番目の音節に置かれる。また末音節が子音で終わる時や、語頭が重複するときには末音節に強勢が置かれることがある。[9]

文法

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名詞

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ナウル語の名詞は複数のカテゴリーに分類されており、それぞれに固有の不定冠詞を持っている。不定冠詞は接頭辞 e接尾辞 n から構成され、名詞の後に置かれる。たとえば、第5カテゴリーの不定冠詞は eon であり、equo eon は「(一つの)カヌー」を意味する[13]

性と数

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名詞には存在せず、性別を示す必要がある場合は、oman(男性)や ean(女性)といった補助語を用いる[14]。また、名詞は格や数による屈折を持たず、これらの文法関係は補助語によって表される。

名詞の数も指示詞を用いて表す。eonin(子ども)に対し、mibune eonin(これらの子どもたち)のように表現する[15]

絶対形と関係形

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名詞には「絶対形」と「関係形」の区別がある。絶対形は独立して用いられる形であり、関係形は所有接尾辞などが付く際に用いられる。関係形では語頭母音 e または i が脱落する(例:emedena「道」→ medenam「君の道」)[16]

名詞化

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動詞や形容詞に接頭辞 e または i を付加することで名詞化を行うことができる。例として、mogur(働く)→ emogur(仕事)、kenanenan(怠け者の)→ ekenanenan(怠惰)がある[17]

形容詞

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比較級は副詞 ekän(少し)によって表される。たとえば、wo jürün(君は弱い)に対して、wo jürün ekän は「君はさらに弱い」となる[18]

二つの名詞または代名詞比較する場合は副詞aa ekänekän aなどを用いる(例:ma jürün a me「君は私より弱い」)[18]

最上級や強調にはkor、okor、aninenin、okor anineninなどの副詞が用いられる(例:o gorda okor aninenin bita am oag「君の家は最も高い」)。

さらに、強意を表す接辞を付加することで意味を強めることができる。たとえば、räeb(広い)→ tararäeb(非常に広い)、mo(良い)→ modanidan(非常に良い)[19]

動詞

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ナウル語の動詞には直説法命令法の2種の法がある[20]。否定を表す場合、一般に否定詞を用いる[21]

時制の明確な区別は存在せず、同一形が現在・過去の両方に用いられる(例:a mogur「私は働く/働いた」)。過去を明示する場合、副詞または助詞 en を用いる(例:ekäow en「彼は去った」)[22]

完了形は補助動詞 og(終える)と助詞 in により形成される(例:A og in mamo「私はそれを直し終えた」)。未来は肯定形で naninannaina が、否定形で eab または が用いられる。例として、wo nan rä「君は来るだろう」、a eab gauweij「私はそれを繰り返さない」、a nan eö gauweij「私は決してそれを繰り返さない」などが挙げられる[22]

代名詞

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人称代名詞

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ナウル語の人称代名詞は3つの形態を持ち、単数・双数・三数・複数の4つの数を区別する。また、「私たち」には包含(話し相手を含む)と除外(話し相手を含まない)の区別がある。例として、「私」は anananaa の3形をとる[23]

重複

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重複の種類は多様で、以下のように分類される。

  1. 完全重複 – 語全体を繰り返す最も基本的な方法。
    • nana 「行く」 → nana-nana 「いつも行く」
    • baka 「爆破する」 → baka-baka 「絶えず爆破する」
  2. 母音挿入型重複 – 語の繰り返しの間に母音が挿入される。
    • gor 「腐る」 → gor-e-gor 「とても早く腐る」
    • rig 「生まれる」 → rig-e-rig 「大勢生まれる」
  3. 不完全重複 – 語の第1音節のみを繰り返す。オセアニア言語に広く見られる形式。
    • goro 「走る」 → go-goro 「車で連れて回る」
    • ara 「伝える」 → ar-ara 「繰り返し伝える」
  4. 語末音節の重複語尾の音節を繰り返す形式。
    • buro 「泡立てる」 → buro-ro 「激しく泡立てる」
    • tiribo 「振動する」 → tiribo-bo 「ゆでる」

ナウル語の重複は、単なる語形の修辞ではなく、文法的・意味的な機能を担う。代表的な機能には以下がある[24]

  • 習慣性の表現: nana-nana 「いつも行く」
  • 動作の継続: baka-baka 「絶えず爆破する」
  • 強調表現: mado-mado 「激しく損傷する」
  • 多数・複数性: rig-e-rig 「大勢生まれる」

エドワード・サピア(Sapir 1921)は、重複の本質を「動作の繰り返しや継続」にあると指摘しており、ナウル語の事例もこの一般的傾向に合致する。また、ナウル語では重複しても意味が変わらない例や、逆に原形と重複形の意味が大きく違う例もある[24]

接頭辞

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ナウル語はミクロネシア語群の中でも特異的な言語でありで、使役を表す接頭辞として õ-ka- の二種類を併用する点に特徴がある。これは、通常一種類の使役接辞しか持たない中核ミクロネシア語族とは異なる性質であり、「正規使役のみ」を持つキリバス語や、「両機能を一つに統合する」マーシャル語とは異なる発展をしている[25]

õ- は典型的な使役接辞で、付加によって語数が増え、統語的には明確に他動詞構造を取る。目的語代名詞接辞や他動詞接尾辞を伴い、「〜させる」という因果関係を文法的に形成するため、「正規の使役」として分類される。

一方でka- は統語的に他動詞化をもたらさず、語数も増やさない。ka-派生語は動詞として用いられるが、特定の目的語を直接取ることができず、疑問化や焦点化にも制約を受ける。そのため、「半他動詞的」派生とされる。

意味的には、ka- は「原因」「性質」「活動への従事」を表す。たとえば roe(悲しい)→ karoe(悲しみを引き起こすもの)、miow(恐れる)→ kamiow(恐怖をもたらすもの)のように、出来事そのものではなく、その背景となる性質や原因を名指しする派生に用いられる。

また、ka-派生語は名詞的形容詞的にも用いられ、文脈により動詞的にも機能する。これにより感情・性質・活動に関する語彙が豊かに形成され、心理的・日常的表現に広く利用されている。

総じて、õ- が「誰が誰に何をさせたか」という明確な因果関係を示すのに対し、ka- は「どのような性質・原因が結果を導いたか」という視点を導入する。この二重構造により、ナウル語は出来事を主体と客体の関係だけでなく、その背後にある原因・性質まで叙述できるという表現的特徴を持つ。

日本とナウル語

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ナウル共和国政府観光局は公式X(旧Twitter)にてナウル語の保存の為にも日本の中高生にナウル語を学べる機会を与えたいということで「ナウル語同好会」の応募フォームを開設した。ナウル語同好会は姫路西高校がメインとなって活動をしている。姫路西高校はナウル共和国のレセプションパーティーに参加し、ラス・クン外務・財務副大臣と会話をした。

ナウル語の単語

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日本語 ナウル語 発音 備考
おはよう Omo yoran モッジョラン Omo joranと書かれることもある。
こんにちは Ekamowir omo エカモウィルモッ 一日を通して使える挨拶。カジュアルな言い方だとomoをつけない。
こんにちは Omo yekwo モッイェクウォ お昼過ぎから夕方まで使われている。
こんばんは Omo yubum モッジュブン Omo juranと書かれることもある。
さようなら Tarawong タラワン
良い Omo モッ
悪い[26] Baka

[注釈 1]

バカ
ありがとう Tubwa kor トゥパコィ カジュアルな場合はkor 書かずに、Tubwa と書かれる。また「トゥブワッ」と発音される
美味しい Ita イタ
可愛い・カッコいい Dabug mem タブッメン
お願します Mangada マンガダ
はい Eh エッ
いいえ Keo ケオ
ナウル Naoero ナオエィロ

外部リンク

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脚注

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  1. ^ Alpha-3 Code Search Result - Codes for the representation of names of languages (Library of Congress)”. www.loc.gov. 2025年9月27日閲覧。
  2. ^ nau | ISO 639-3” (英語). iso639-3.sil.org. 2025年9月27日閲覧。
  3. ^ Micronesian languages | Austronesian, Oceanic, Polynesian | Britannica” (英語). www.britannica.com. 2025年9月25日閲覧。
  4. ^ Delaporte's Nauruan Dictionary”. www.trussel.com. 2025年9月21日閲覧。
  5. ^ Review of Kayser's Nauru Grammar by Bernard Comrie”. www.trussel.com. 2025年9月23日閲覧。
  6. ^ ナウル語で「こんにちは」「ありがとう」は? 〜ナウル語の挨拶・数字・アルファベット〜 | gogacu -ゴガク-”. gogacu.com. 2025年9月21日閲覧。
  7. ^ Nauruan language and alphabet”. omniglot.com. 2025年9月28日閲覧。
  8. ^ a b Nathan (1974:481)
  9. ^ a b c Nathan (1974:483)
  10. ^ Hughes (2020), p. 15
  11. ^ Nathan (1974:481–482)
  12. ^ Nathan (1974:482)
  13. ^ A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). pp. 11-12. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  14. ^ A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). p. 11. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  15. ^ A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). p. 15. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  16. ^ A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). pp. 13-14. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  17. ^ A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). p. 14. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  18. ^ a b A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). p. 16. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  19. ^ A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). p. 17. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  20. ^ A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). pp. 168. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  21. ^ A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). p. 169. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  22. ^ a b A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). p. 167. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727# 
  23. ^ A Nauruan Grammar. Nauru: The Administration. (1937). p. 18. https://nla.gov.au/nla.obj-2836930081/view?partId=nla.obj-2836932727#page/n0/mode/1up 
  24. ^ a b https://izumi-syuppan.co.jp/LLO_PDF/vol_13/13-05.pdf
  25. ^ https://levblumenfeld.com/Blumenfeld_2022_Nauruan_ka_causative_Micronesian.pdf
  26. ^ . p. 101. https://unc.nc/wp-content/uploads/2023/01/INT.-COOL-11-FINAL-WEB.pdf. 
  27. ^ https://izumi-syuppan.co.jp/LLO_PDF/vol_13/13-05.pdf
  1. ^ 「爆破する」という意味もある[27]