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元暴力団組員の弁護士が伝える「どん底」、覚醒剤に溺れた過去からの再出発…「失敗してもやり直せる」
暴力団から破門され、猛勉強の末に弁護士になった福島県いわき市出身の諸橋仁智さん(49)(東京)が講演活動を展開している。「失敗してもやり直せる」。かつて覚醒剤に手を染め、「どん底」からはい上がった経験を伝えることで、薬物依存に苦しむ人や挫折した人への励ましになればと考えているという。(薬袋大輝)
講演でこれまでの経験を語る諸橋さん(11月14日、福島県相馬市で)
歯車狂った中学3年
諸橋さんは11月14日、「人生のどん底で助けに来てくれたのは母だった~更生に必要な居場所とは~」と題し、相馬市民会館で行われた県更生保護大会で講演した。
諸橋さんはいわき市の「普通の家庭」で生まれた一人っ子。小さい頃、片付けが苦手で先生によく怒られたといい、小中学生時代の成績は優秀だった。
歯車が狂ったのは中3の時。自分のことをいつも褒めてくれた父が亡くなった。磐城高校では、寂しさから夜遊びをし、2年生の頃から成績が振るわなくなった。大学受験に失敗し、浪人生活で東京へ。夜の仕事を始めると、いつのまにか暴力団組員が周囲にいた。喫煙所で知人に覚醒剤を勧められ「ヤバイ、ドラッグだ」と思ったが、口では「やる」と言った。
薬物で騒動、破門
起床後、すぐ頭の中が覚醒剤のことでいっぱいになった。講演では「薬物を絶って15年たつが、今もやりたい気持ちは消えない。脳に強烈な欲求がインプットされ、一生欲求と闘わないといけないのが怖さ」と語った。
2浪して都内の大学に入学した。授業にはほぼ行かなかった。いわき市の母と電話で大げんかをして絶縁状態になると「表の社会と決別」し、暴力団組員になった。27歳年が離れた兄貴分の組員が自分のことを認めてくれ、父の姿と重なった。「自分を肯定してくれる居場所を探していた。人間関係次第で価値観や生き方は簡単に崩れる」
ヤミ金や覚醒剤の密売で生計を立てた。覚醒剤の使用で、自分を攻撃するような幻聴や幻覚が現れるようになった。東京・渋谷で騒動を起こし、病院に強制入院。組からも破門された。病院から7年ぶりに母に電話をし、助けを求めた。いわき市の病院に移り、母のサポートを受けたことがその後の人生の再スタートにつながった。
1冊の自伝、自分重ね
退院後、覚醒剤取締法違反(使用)容疑で逮捕された。留置所で母が1冊の本を差し入れてくれた。暴力団組長の妻から弁護士になった大平光代さんの自伝「だから、あなたも生きぬいて」。過酷な半生が自身と重なり、何度も読み返した。刑事裁判で裁判官に「人生やり直して、大平さんみたいに司法試験を目指したい」。法廷でそう言うと、裁判官は「君ならできる」と言ってくれた。執行猶予がついた。
母を喜ばせたい一心で必死で勉強した。大平さんを見習い、司法試験の前に宅地建物取引士と司法書士の国家試験を受験し、2006年と09年に合格。13年に司法試験に一発合格し、15年から大阪で弁護士となる。23年には都内で独立した。
諸橋さんはやり直しのコツとして「朝型の生活」「人間関係の整理」「諦めずにしつこくやること」を挙げた。「人間関係が人生を豊かにする」と語り、居を構える東京・浅草の祭りや、我が子が通う小学校のPTA活動に参加する。
「誰にでも人生の落とし穴はある」と諸橋さん。「失敗しても、やり直せます」と聴衆に再び訴えた。
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